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<概要>
 原子力船に関する関係法規として主なものは、「核原料物質核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」および関係法令、「船舶安全法」および関係法令(原子力船特殊規則を含む)、国際海事機関原子力船安全基準(IMO原子力船安全基準)、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)、日本海事協会鋼規則(原子力船の船級登録のための暫定指針を含む)等がある。わが国の主な原子力船関係法規を「むつ」を例として説明する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力船とは推進機関に原子炉を搭載している船舶をいうのであるが、わが国でも原子炉施設としての規制の適用、船舶としての規制の適用を受ける。その他に母港における核燃料、放射性廃棄物等を保管・処理する付帯陸上施設も原子炉施設関連としての規制を受ける。
 原子炉関係法規の代表的なものは「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」(以下「原子炉等規制法」という)および関連法令である。船舶関係法規の代表的なものは「船舶安全法」である。国際的には国際海事機関(IMO)によって原子力船の設計、建造、運航、保守、点検等に関する「IMO原子力安全基準」が作成され、1981年に採択されているが、「むつ」は採択以前に建造されていることからこの基準は適用されていない。「海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)」に基づく原子力船に関する規則はわが国の「船舶安全法」に反映されている。
 ここでは、「むつ」を原子力船の例としてかかげ、わが国の原子力船に関する法規について説明する( 図1 参照)。

(1)原子炉関係法規の法体系
 「原子炉等規制法」の規定により、主務大臣から、原子炉施設の設置(あるいは変更)許可を受けた原子炉設置者は、続いて原子炉施設の設計および工事の方法の認可を受け、その後、原子炉施設の工事に着手する。続いて原子炉施設の性能について使用前検査を受け「使用前検査合格証書」を受領した後、原子炉施設の使用を開始する。「むつ」の場合、出力上昇試験が使用前検査であり、使用前検査合格証書の交付を平成3年(1991年)2月14日に受けた。燃料装荷前には、保安規定の認可を受け、また原子炉主任技術者を選任して届け出る。「むつ」では、実験航海まで保安規定が昭和47年以来施設の変更・管理の変更等のため25回改訂され、原子炉主任技術者は10代目である。使用前検査合格後は年1回定期検査を受ける。解役(運転廃止あるいは解体)届は運転廃止あるいは解体の30日前にそれぞれ届け出ることになっている。
 いずれの法規の手続き、内容等については商用原子力発電所と同様であるが、「むつ」は原子動力実験船なので、法規の手続き等は主務大臣(内閣総理大臣、ただし原子炉設置許可を除いては科学技術庁(現文部科学省)長官が主務大臣になりうる)ばかりでなく、運輸大臣にも必要である。実用原子力船となると主務大臣は運輸大臣となる。「むつ」の安全審査に際しては、発電用軽水型原子炉発電所(以下「発電炉」という)用の安全設計、安全評価等の指針類が準用あるいは参考にされた。発電炉立地指針に相当するものとして「原子力船運航指針」が適用された。
 原子炉運転計画(運航計画)も発電炉同様、3年間の計画を届け出ることになっているので、原子力船は科学技術長官と運輸大臣の双方に運航計画を届け出る(運航計画の変更は変更の日から30日以内)。入港届は入港する60日前に届け出ることになっており、同じ港に2回目以降入港する場合は20日前である。

(2)船舶関係法規の法体系
 船舶に関する適用法規としては、「原子炉等規制法」に相当する「船舶安全法」があり、船体、機関、排水設備等、設計から工事に至るまで運輸大臣の検査を受ける。原子力船のような特殊な構造および設備を有する船舶には、「船舶安全法」に基づく「原子力船特殊規則」が規定されている。この規則には、原子力船は、座礁時・衝突時でも原子炉区画を保護できる船体構造(耐座礁構造、耐衝突構造)を有していること、二区画可浸性(隣接する二区画室に浸水しても浮力・復元性を保証すること)、沈船時で科学技術庁(現文部科学省)も原子炉格納容器の圧壊を防ぐ装置を有すること(「むつ」では圧力平衡弁)、独立に運転ができる2基以上の原子炉を有しない原子力船は別に非常用動力源を設けること(「むつ」では補助ボイラ−)等、原子力船の船体、操舵設備・航海用具・救命器具、原子炉施設・原子炉設備、非常電源装置、非常推進動力源装置などについて規定されている。
 原子力船は、一般船と異なり管海官庁は運輸大臣であるので、運輸省(現国土交通省)本省で検査等の法行為を受ける。船体としての建造許可は、一般船と同様に、「臨時船舶建造調整法」により造船業者が許可申請を行なう。「むつ」は昭和42年(1967年)に建造許可を受けている。第一回の定期検査は船舶所有者(「むつ」では原研(現日本原子力研究開発機構))が運輸省本省に船舶検査を申請し、最終的には原子炉の出力上昇試験に相当する海上試運転(海上公試運転ともいう)を行ない、検査を受け合格すことによって船舶として認知される。「むつ」は平成3年2月に「船舶検査証書」を受領し、原子力船として実験航海に出られることになった。また、船舶所有者は、原子力船に対する原子炉施設の操作および安全の確保が記述されている「操作手引書」および原子炉施設の安全性を説明する「安全説明書」を作成し、運輸大臣に承認を得ることになっている。「むつ」のものは平成3年2月に承認された。
 国際航海に従事する船舶はSOLASに基づく「原子力旅客船安全証書」および国際喫水線条約に基づく「国際喫水線証書」の交付を受けることになっている。「むつ」は平成3年2月に交付を受けた。さらに「原子力船の船級登録のための暫定指針」に基づき、(財)日本海事協会への船級登録があり、「むつ」は所定の検査を受け、平成3年2月に原子力船としての「船級証書」を得ている。
<図/表>
図1 原子力船に関する主な法体系:原子炉等規制法・船舶安全法と「むつ」への適用
図1  原子力船に関する主な法体系:原子炉等規制法・船舶安全法と「むつ」への適用

<関連タイトル>
原子力船「むつ」の概要 (07-04-01-02)
原子力船「むつ」の安全性 (07-04-02-01)
原子力施設に対する国の安全規制の枠組 (11-01-01-01)

<参考文献>
(1)伊勢武治、長村正昭(編):原子力船「むつ」の軌跡−研究開発の現状と今後の展開−、原子力工業、Vol.38,No.4(1992)
(2)科学技術庁原子力安全局(監修):原子力規制関係法令集1995年版、大成出版(1994年10月)
(3)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版原子力安全委員会安 全審査指針集、大成出版(1994年10月)
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