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確率論的安全評価(PSA:Probabilistic Safety Assessment)は、原子炉施設を例にとれば、システム信頼性評価及び炉心損傷発生率の評価までを行う「レベル1
PSA」、格納容器破損発生率の評価及び
FP(
核分裂生成物)の環境への放出量(
ソースターム)の評価までを行う「レベル2PSA」、環境影響評価までを行う「レベル3PSA」の3段階に分けられる。我が国では、平成4年(1992年)5月、原子力発電施設における
アクシデントマネージメントの整備を奨励するとした原子力安全委員会決定が示され、これに基づいて、国の指導の下に、各電気事業者は内的事象に関するレベル2PSAを実施し、PSAから得られた炉心損傷及び格納容器破損の発生率への寄与度の大きい事故シーケンスに関する情報を参考にアクシデントマネージメントの方針を策定した
1.確率論的安全評価に関する研究
1.1 確率論的安全評価手法及びデータの整備
軽水炉については、地震PSA及びソースターム評価の分野について手法の改良を行い、評価の精度を高めるとともに、PSAの適用範囲を拡大するため、炉容器等の健全性(損傷確率)ヘの経年変化の影響を評価する確率論的破壊力学手法の整備及び地震以外の外的事象を対象とした評価手法の整備を行う。また、これまでに開発してきたGO-FLOW手法の機能拡充を図り、事故進展段階でのシステムの状態変化を取り扱えるようにする。このほか、不確実さ評価について、PSAの各分野を通じて一貫性のある評価手法を整備する。さらに、新型転換炉原型炉「
ふげん」の運転を通じて得られる運転・保守の経験データについて分析・評価を行い、軽水炉等の信頼性評価のためのデータ拡充と手法整備に資する。
高速増殖炉については、高速増殖原型炉「もんじゆ]、高速実験炉「常陽]及びナトリウム関連試験施設の機器の信頼性データの収集・整備を継続する。また、得られるデータと国内外の文献情報に基づいて故障率、経年変化、共通原因故障、関連施設特有の人的過誤率等の分析・評価を行い、信頼性評価手法を改良する。さらに、地震PSAの精度を向上させるための手法改良を行う。再処理施設及びMOX加工施設等の
核燃料施設については、信頼性評価手法の開発及びデータの収集・整備を継続するとともに、関連する人的過誤率データの調査・収集と入間の信頼性評価手法の整備を行う。
放射性廃棄物処分施設については、
高レベル廃棄物の地層処分施設を対象に長期的安全性を評価するため、確率的事象に起因する影響を評価する手法を研究するとともに、長期的評価に付随する不確実さを客観的に評価するための研究を行う。
1.2 確率論的安全評価の適用
軽水炉については、モデルプラントを対象とした内的事象のレベル3PSAを実施することによりレベル3PSAの実施手順を確立するとともに、
リスク支配因子の理解を深める。さらに、これまでは対象としなかった炉心損傷に至らない事故や過渡事象についても発生頻度と影響を評価し、軽水炉のリスクプロファイルのより統合的な把握に努める。そしてこれらの結果を国内外のPSA結果とともに安全上の課題の検討や安全研究の課題検討に役立てるように整理する。また、地震PSAの手法を適用して、設計用想定地震の設定方法や第四紀層立地の安全性について確率論的な観点から検討し、従来の
決定論的評価を捕完する情報を得る。
高速増殖炉については、大型の高速増殖炉を対象に、炉心損傷発生率の評価、ソースタームの評価、地震による炉心損傷発生率の評価等を含むPSAを実施し、その結果を基に高速増殖炉のリスクプロファイルの把握及び主要なリスク因子の分析・整理等を行い、安全基準や指針等の整備に資する。
再処理施設及びMOX加工施設等の核燃料施設については、モデルプラントの主要な設備を対象として事故シーケンス発生率の評価、ソースタームの評価等を含むPSAを実施し、これを基にリスクの分析を行い、核燃料施設の安全性の確保向上策の検討や指針等の整備に資する。
2.ヒューマンファクタに関する研究
人間の認知行動特性の研究については、認知行動を支配する基本的法則性に関する検討を進めるとともに、長期的適応過程の特性の解明に重点をおいた実験的研究を実施する。その成果を基に認知行動の詳細なモデルを開発し、ヒューマンファクタ研究の基礎的知見の整備に資する。マンマシンシステムの評価に関する研究については、評価の方法論の開発と計算機を用いた評価ツールの開発を引き続き行う。評価の方法論の開発は、実験的方法と解析的方法を統合するフレームワークを基に、その体系化及び詳細化を進めるとともに、モデルシステムを対象とした評価を実施し、評価の方法論の確立を図る。人間・機械系動特性シミュレーションシステムの開発は、これを具体的な評価に適用し、必要に応じて人間系モデルの高度化を進め、運転手順等の評価手法を確立し、評価ツールとして整備する。人間信頼性評価手法に関する研究については、これまでに開発した時間的制約等の効果を考慮できる機能を持った解析支援ツール原型版について、人間の認知行動の特性に関する研究の成果を反映した改良を進め、PSA実施時の人間信頼性評価に役立てる。
3.その他の研究
3.1 デジタルシステムの信頼性向上に関する研究
安全上重要なデジタルシステムを中心に、その信頼性を評価するためのモデルの構築法など、特にソフトウエアの信頼性を評価する手法を確立するとともに、これに基づく試験ツールを開発する。
3.2 緊急時対応策に関する研究
緊急時対応に関わるプラント内外の諸因子、すなわち、ソースターム、環境影響、防護対策実施状況等の情報を集約するとともに、これらと最適化手法を結合して、緊急時対策最適化システムを開発し、これを用いてケーススタディを行って、防災計画検討等に役立つ情報を得る。
3.3 原子力安全データベースに関する研究
原子力施設等の安全解析や安全解析コードの検証作業等のより的確かつ効率的な遂行の促進に資するため、安全研究の成果、安全解析コード及び実験結果、原子力安全に関わる情報(国内外の
原子力発電所の主要諸元、安全規制等に関する情報等)のデータベースを整備する。
当面実施すべき研究課題については
表1-1 、
表1-2 、
表1-3 、
表1-4 、
表1-5 、
表1-6 および
表1-7 に示す。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)水炉の安全性に関する研究 (10-03-01-06)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)核燃料施設の安全性に関する研究 (10-03-01-07)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)放射性物質輸送の安全性に関する研究 (10-03-01-08)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)原子力施設の耐震等の安全性に関する研究 (10-03-01-09)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)高速増殖炉の安全性に関する研究 (10-03-01-17)
<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局:原子力安全委員会月報 通巻第210号、大蔵省印刷局(1996)