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<概要>
 高速増殖炉の安全性に関する研究においては、これまでに蓄積された研究成果の総合化、体系化、及び高速実験炉「常陽」、高速増殖原型炉「もんじゅ]、その他試験研究施設から得られる各種知見の反映等を通じて、高速増殖炉の特徴を考慮した固有の安全技術体系の整備を図ることが重要である。
 平成7年(1995年)12月8日の動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)の高速増殖原型炉「もんじゅ」での二次系ナトリウム漏えい事故は、地元の住民をはじめ多くの国民の不安及び不信を招く結果となった。原子力安全委員会は、今回の事故が高速増殖炉にとって重要なナトリウムに係るものであること等から、これを重視し、「高速増殖原型炉もんじゆナトリウム漏えいワーキンググループ」を設置して、独自の立場から、今回の事故の原因究明及び再発防止対策等のため調査審議を行っている。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 高速増殖炉安全研究について長期的視点から取り組み「もんじゅ」二次系ナトリウム漏えい事故の原因究明等がなされた時点で、得られた教訓を今後の安全研究に的確に反映させるため、必要な研究課題の追加、見直しを行う。
1.安全設計・評価方針の決定に関する研究
 これまでの安全研究の成果を体系的に分析し、高速増殖炉の特質をより良く活かした安全技術体系を構築し、安全技術に係る基準をより適切なものとするに当たっての判断資料を整備すること、さらに、設計段階のみならず建設、運転段階も含め、全体として高度の安全性を確保するための目標や方策と各段階の役割分担を明確化する。
(a) 適切な安全設計・評価方針の決定に関する研究
 「常陽」、「もんじゅ」等の高速炉プラントの運転の経験、異常状態の経験を分析し、信頼性確保の観点から系統・機器が備えるべき設計上、運転上の要求条件を検討する。また、安全評価における単一故障の考え方や事故想定における多重故障の考え方について検討する。さらに、受動的炉停止や自然循環による崩壊熱除去に関する信頼性評価を行う。 安全評価事象の想定と評価条件に関しては、PSA(確率論的安全評価)研究を含めた広範な高速増殖炉安全研究の成果を分析・集約し、炉心局所事故、ナトリウムの使用に係る事象、炉心損傷事象等の高速増殖炉特有の主要な安全評価事象に関する系統的、定量的考察を行い、これらを基に安全評価事象の評価条件、判断基準等の安全評価の考え方を整理する。
2.事故防止及び緩和に関する研究
 高速増殖炉の安全確保に当たっては、炉物理、燃料材料、被ばく低減、構造強度、異常検出、構造健全性、受動的安全特性、炉内安全性等について、高速増殖炉の安全上の特質に関する研究を行う必要がある。なお、本研究については、今後「もんじゅ」での二次系ナトリウム漏えい事故の調査結果を踏まえ、再検討を行う必要がある。
(a) 炉物理に関する研究 
 MOX燃料 大型炉心におけるドップラ反応度(ドップラ係数)、ナトリウムボイド反応度(ナトリウムボイド係数)等の炉心反応度の予測精度向上のため、精度評価コードシステムを整備する。また、最新の核データライブラリに対する断面積誤差データを評価するとともに、JUPITER(Japan-United States Program of Integral Tests and Experimental Researches)試験、FCA(高速臨界実験装置)試験、「常陽」等のデータ解析を行い、誤差について評価する。大型炉で反応度予測精度の向上方策についても検討する。
 その他、FCAを用いて高燃焼MOX燃料高速炉のアクチニド(プルトニウム及びマイナーアクチニド)の生成量、消滅量の予測精度の向上やアクチニド燃焼炉心の安全性評価、従来の酸化物燃料とは異なる新型燃料(例えば窒化物燃料)を用いた新型炉概念の安全評価を行う。
(b) 燃料材料に関する研究
 多様な燃料要素の定常照射試験を「常陽」にて実施し、破損限界に関するデータを得、照射済燃料要素の被覆管の強度試験を実施し、燃料要素及び集合体の破損限界や寿命限界とその支配因子を総合的に評価し、安全評価指針、基準類の整備に資する。
(c) 被ばく低滅に関する研究
 被ばく低減化を図るに当たっては、プラント内の線源挙動を精度良く評価することが重要である。CP(放射性腐食生成物)、トリチウム、燃料破損時のFP(核分裂生成物)等について挙動評価し、これらの評価を基に線源の低減や移行過程における捕集等の要素技術の開発を行い、CP、トリチウム及びFPの抑制技術の高度化を図る。
(d) 構造健全性に関する研究
 機器・配管の寿命予測評価法の研究として、高速増殖炉の機器・配管及び蒸気発生器用の各種候補材について、材料の経年劣化、寿命予測の観点から、材料データの整備・拡充を行う。さらに、定常運転条件下で、炉容器や冷却材配管系の接合部材に生ずるクリープ損傷をミクロ的な観点から定量化し、材質劣化を記述する計算モデルを開発する。
 LBB(破断前漏洩)については、亀裂評価コード等を活用することにより、亀裂挙動解析、亀裂開口面積及び不安定破壊に関する評価を行い、漏洩検出器に対する要求条件を含めてより適切なLBB概念の適用方法を明確にする。
(e) 受動的安全特性に関する研究
 「常陽」を活用して、炉心の核熱・機械的挙動、プラントの熱流動挙動に係る特性データ(ドップラ係数、燃料・構造材・冷却材等の温度係数、炉心、の膨張・変形等のフィードバック係数等)を取得し、プラント動特性解析コードの検証等に役立てるとともに、固有安全性の検証を行う。
(f) 炉内安全性試験課題の検討
 実用化時代に相応しい安全論理を構築するため、実用炉燃料の健全性確保、燃料集合体における局所異常の拡大防止と冷却性能の確保、炉心損傷における再臨界の排除等にかかわる実験データベース、評価手法、判断基準等に関する安全研究課題を整理し、長期的な試験計画を作成する。
3.事故評価に関する研究
 異常時の燃料挙動、炉心局所事故、崩壊熱除去、配管からのナトリウムの漏洩・燃焼、蒸気発生器におけるナトリウムー水反応等に関する研究を進めるとともに、今後「もんじゅ」での二次系ナトリウム漏えい事故の調査結果を考慮して、再検討を行う。
(a) 異常時の燃料挙動に関する研究
 異常な過渡変化時及び過出力事故時の燃料挙動に関する研究は、引き続き仏国のCABRI計画、米国のEBR-2計画に参画するとともに、国内では、照射済燃料要素の披覆管を用いた炉外急速加熱破損試験を実施して燃料の破損しきい値に関するデータベースの拡充を図る。
 また、従来型酸化物燃料以外の新型燃料についても、CABRI炉を用いて過渡燃料挙動に関するデータを適宜取得し、NSRR炉における試験を開始する。
 こうした試験を通じて解折コードの改良を図り、大型炉の安全評価方針を決める。
(b) 炉心局所事故に関する研究
 被覆管破損に伴う急速な燃料ピン破損伝播については、引き続きSCARABEE炉の利用及び炉外ナトリウム試験を実施し、これらの試験結果を活用して、燃料設計、炉心設計の高度化に併せた大型炉の局所事故に対する安全評価の考え方を整備するとともに、事故の検出性及び終息性に関する解析・評価手法の整備を図る。
(c) 熱流動に関する研究
 崩壊熱除去に関して、実証炉においては直接炉心冷却系を用いることから、大型の熱流動試験を行い、これに基づく評価モデルの検証を進める。実用化段階の大型炉に対しては、自然循環による崩壊熱除去を設計に取り込むことによる利点、留意点を分析・整理して安全評価方針等の整備に資する。また、熱流体構造物間の相互作用を考慮して伝熱流動現象を評価する手法を開発・整備し、炉内構造物や冷却材バウンダリに対する過渡事象評価における安全裕度の適正化を図る。
(d) ナトリウム燃焼及びナトリウムー水反応に関する研究
 ナトリウムの漏洩・燃焼の影響を緩和・抑制するための構造にかかわる解析モデルの開発や燃焼による酸欠効果に関するモデルの最適化試験を行うとともに、解析モデルの総合的な検証を行う。ナトリウム−水反応については、高温ラプチャ試験等の大型ナトリウム−水反応試験によりモデル化と検証を行い、評価手法を整備する。また、2次ナトリウム系削除型システムにおけるナトリウム−水反応に係わる安全評価技術を確立する。
(e) 炉内安全性試験施設の整備に関する研究
 主要課題として、炉心損傷時の再臨界の排除に関する安全論理の確立、高性能燃料の健全性確保、高性能燃料集合体における局所異常の拡大防止と冷却性の確保が挙げられる。これに必要な炉内試験を開始し、データの蓄積を図る必要から、安全性試験施設の成立条件、施設概念の検討、これを支える要素技術の研究開発を進める。
4.シビアアクシデントに関する研究
 炉外試験及び解析コードの開発、改良、検証を国内において進めるとともに、炉内試験については、国際共同研究を活用していく。
(a) 炉心損傷の評価に関する研究
 ATWS(異常な過渡変化時スクラム失敗)を含む炉心損傷事象を未然に防止するために、起因過程及び炉心崩壊過程評価に関する解析コードの改良、検証、並びにCABRI炉、SCARABEE炉を用いた炉内試験によるデータベースの拡充を進める。炉内融体挙動の研究においては、溶融炉心物質プールの沸騰挙動及び炉心部からの溶融炉心物質流出挙動に関する炉外試験により、解析モデルの開発・検証をする。
(b) 格納施設の安全裕度とソースタームに関する研究
 ソースタームについては、炉心損傷事象時の炉容器内部及び格納施設内部での放射性物質移行挙動にかかわる試験を行い、炉内ソースターム挙動解析コードの開発・検証を行う。また、構造材料への沈着挙動及び化学反応挙動等にかかわる試験を行う。格納施設の完全裕度評価については、格納施設内事象解析コードのモデル改良、検証を行う。
5.運転管理及び施設管理に関する研究 
 高速増殖炉の安全確保のためには、プラントの運転や施設の管理を適切に行うことが必要である。特に、燃料破損発生時の適切な対処手順として破損燃料を短時間に精度良く同定するための破損燃料検出法を確立するとともに、その後の破損燃料の取り出し、貯蔵までの運転手法を検討し、プラントの安全性、信頼性の観点から最適化を図るための研究を行う。
 当面実施すべき研究課題については 表1-1表1-2表1-3表1-4表1-5表1-6表1-7 および 表1-8 に示す。
<図/表>
表1-1 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-1  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-2 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-2  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-3 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-3  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-4 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-4  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-5 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-5  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-6 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-6  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-7 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-7  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-8 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究
表1-8  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)2.高速増殖炉の安全性に関する研究

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局:原子力安全委員会月報 通巻第210号、大蔵省印刷局(1996)
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