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<概要>
 前年次計画における水炉の安全性に関する研究は、軽水炉(LWR)と新型転換炉(ATR)について、通常運転及び設計基準事象に関する研究とシビアアクシデントに関する研究に大別して進められてきた。前年次までに体系的に実施され、所期の目的をほぼ達成したと考えられる。また、シビアアクシデントに関する研究成果が蓄積されてきている。
 本年次計画では、以上の結果を基に、軽水炉等について、水炉の高度化に関する研究、水炉の高経年化に関する研究、水炉のシビアアクシデントに関する研究、及び水炉の事故・故障等の分析・評価に関する研究の4研究分野に分けて、研究を推進することとした。なお、水炉の高度化に関しては、水炉燃料の高度化に関する研究を進めることとし、重点研究分野としたデジタル系の信頼性に関する研究は原子力施設等安全研究の確率論的安全評価等に関する研究に含めることとした。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.軽水炉燃料の高度化に関する研究
 軽水炉の高度化に対応する研究は、軽水炉時代の長期化による燃料の高度利用、すなわち燃料の高燃焼度化及び混合酸化物(MOX)燃料の利用に対応して実施していく必要がある。したがって、これらの研究は、以下の2つに分類し、高燃焼度燃料及びMOX燃料について、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時における健全性を確認するための研究、並びに反応度事故及び冷却材喪失事故(LOCA)条件下の安全性の評価のためのデータを取得することを進めることとした。
1.1 燃料の高燃焼度化に関する研究
 高燃焼度燃料について、JMTR(材料試験炉)にて行う負荷追従時の照射試験、照射後試験により得られるデータ及びハルデン計画より入手するデータを用い、通常運転、運転時の異常な過渡変化及びLOCA時における高燃焼度燃料の挙動を明らかにするとともに、高燃焼時の燃料挙勤を解析するコードを開発・整備する。また、NSRR(原子炉安全性研究炉)にて行う照射試験により、異常な過渡変化時における高燃焼度燃料の健全性に関する実験データを蓄積し、異常な過渡変化を経た燃料の再使用に関するデータを取得する。さらに、異常な過渡変化時の燃料挙動を解析するコードの整備を行う。
 NSRRを用いてパルス出力での照射試験を行ない、高燃焼度燃料の反応度事故条件下における破損挙勤を明らかにするとともに、その挙動を解析するコードの開発・検証を進める。
1.2 MOX燃料の利用に関する研究
 ハルデン炉での照射試験により、MOX燃料の照射挙動に関する詳細なデータを高燃焼度までの範囲で取得し、得られるデータに基づいて、MOX燃料の照射挙動を高燃焼度まで解析できるコードを開発する。また、高燃焼度MOX燃料の反応度事故条件下での破損挙動をNSRRで試験するための準備を進める。
2.軽水炉の高経年化に関する研究
 軽水炉の高経年化に関する研究は、軽水炉時代の長期化により原子炉機器の高経年化が進むため重要であり、年次計画における重点研究とした。したがって、軽水炉機器及び構造物の経年変化を精度よく予測し、経年変化した機器・構造物の健全性・信頼性を評価するとともに、経年変化の検査や緩和法を高度化することにより、安全性の向上を図り、プラント寿命管理の基盤形成に資するための研究を進めることとした。
 経年軽水炉の構造機器の健全性に関する研究として、炉容器、炉内構造物、コンクリート構造物、電線・ケーブル等について、経年変化の予測に必要な試験を実施し、経年変化を考慮した健全性・信頼性評価手法の高度化を行うとともに、今後の利用が期待される高機能材を含め、経年変化の検査・評価予測法の開発・改良を行う。軽水炉用構造材料の高経年化損傷評価の高度化に関する研究として、溶接部を含む構造材料を対象に材質劣化特性評価を行うとともに、材質と応力腐食割れや疲労などとの関係を調べ、材質劣化現象を具体的な物理量として捉える手法を検討する。
3.軽水炉のシビアアクシデントに関する研究
 軽水炉がシビアアクシデントに対して持つ安全裕度を明らかにするとともに、軽水炉の持つリスクを低減し安全性の一層の向上を図るため、シビアアクシデント及びアクシデントマネージメントに関する研究を進める必要があり、シビアアクシデントに関する研究を引続き重点研究とした。前年次計画におけるシビアアクシデントの影響評価に関する研究の進展及びその成果と影響緩和に関する研究の重要性を踏まえ、本年次計画は、以下の2つに整理し、研究を進めることとした。
3.1 シビアアクシデントの発生防止に関する研究
 BWRについて、TPTF(定常二相流実験装置)等を用いて、−熱結合不安定事象、地震時反応度変動事象等並びに多重故障事故及びアクシデントマネージメントに関する核熱水カ実験を行うとともに、高度計測手法を用いた過渡二相流実験を行う。また、得られた実験データに基づき、解析コードの開発・改良・整備を実施する。
 PWRについて、LSTF(大型非定常試験装置)等を用いて、アクシデントマネージメントの有効性評価及び次世代型炉の安全性に関する熱水力実験を行うとともに、得られたデータに基づき、解析コードの開発・整備を実施する。また、原子炉格納容器について、次世代型炉に採用可能な要素技術についての研究を行なう。
3.2 シビアアクシデントの影響評価・影響緩和に関する研究
 シビアアクシデントの影響評価に関する研究として、核分裂生成物FP)の燃料からの放出及び1次系や原子炉格納容器内での挙動を実験により調べるとともに、ソースターム評価解析を実施する。また、炉容器や原子炉格納容器の安全裕度を実験及び解析により明らかにする。さらに高温域におけるコリウム(炉心溶融物)の物性値の測定を行い、溶融炉心の挙動の評価に資する。
 シビアアクシデントの影響緩和に関する研究として、実験及び解析によりアクシデントマネージメントの有効性を評価し、その具体化や改善に資する。また、原子炉格納容器への負荷に対して原子炉格納容器の健全性を維持する手法やFP保持能力を向上する手法を検討する。さらに、次世代型炉に関し、リスクをより低減する有効な機器・方策を検討する。
 なお、近い将来において、受動安全性やシビアアクシデント対策を特徴とする次世代型軽水炉の安全性の評価が必要になると考え、次世代型軽水炉の安全性の評価及びシビアアクシデントに関する研究もここでの研究分類として実施する。
4.軽水炉の事故・故障等の分析・評価に関する研究
 軽水炉時代の長期化により、原子炉の長期かつ継続的な運転安全のため、国内外の原子炉で発生した事故・故障事象の情報を分析・評価し、その結果を安全確保に反映させる研究を引続き実施する。
 国内外の軽水炉等で発生した事故・故障事象の情報を分析・評価し、安全規制や安全研究にとって有用な情報にまとめる。また、確率論的安全評価手法等に基づき、事例の重要度を評価する手法の開発・整備を行うとともに、事故解析手法の高度化・整備を行なう。
5.その他の研究
 水冷却型研究炉について、出力異常時の燃料破損挙動のデータベースを整備し、安全性の評価精度を向上するための研究を実施する。また、反応度事故時等の出力異常時における破損挙動をNSRRを用いた照射実験により解明するとともに、燃料の過渡挙動解析コードの開発・整備を行う。
 当面実施すべき研究課題については 表1-1表1-2表1-3表1-4表1-5表1-6表1-7 および 表1-8 に示す。
<図/表>
表1-1 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-1  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-2 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-2  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-3 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-3  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-4 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-4  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-5 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-5  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-6 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-6  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-7 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-7  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-8 原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究
表1-8  原子力施設安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)1.水炉の安全性に関する研究

<関連タイトル>
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)核燃料施設の安全性に関する研究 (10-03-01-07)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)放射性物質輸送の安全性に関する研究 (10-03-01-08)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)原子力施設の耐震等の安全性に関する研究 (10-03-01-09)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)原子力施設等の確率論的安全評価等に関する研究 (10-03-01-10)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)高速増殖炉の安全性に関する研究 (10-03-01-17)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局:原子力安全委員会月報 通巻第210号、大蔵省印刷局(1996)
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