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<概要>
 原子力開発利用基本計画は、原子力開発利用を計画的かつ効率的に推進させることを目的として毎年策定される計画であり、原子力委員会が平成6年6月24日に決定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下、「新長期計画」という。)において示された基本方針を具体化するための現実に即した実施計画といえる。本計画は内閣総理大臣が基本計画案をとりまとめ、これを原子力委員会及び原子力安全委員会に付議し、それぞれの議決を経た後、平成7年3月に決定したものである。
<更新年月>
1996年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 以下、要約を示す。
1.総論
 我が国においては、総発電電力量の約3割を49基の原子炉により賄い、エネルギ−需要の伸びとして、1991年度の試算では二十年後少なくとも約1.2倍になるとの予想している一方、約6割を石油に依存する脆弱なエネルギ−供給構造を抱えている。そのなかで安定したエネルギ−供給源である原子力は、技術面、経済面に優れ、有効な地球温暖化防止政策として、今後一層が開発利用を推進していくことが重要である。
こうした状況を踏まえ、原子力委員会は平成6年6月24日に「原子力の研究、開発用及び利用に関する長期計画(以下「新長期計画」という。)を決定した。この「新長期計画」の4つの基本方針に従って、次の具体策を展開する。
 原子力平和利用国家としての原子力政策の展開については、原子力基本法に則り、平和目的に限り原子力エネルギ−を進めるとともに、国際的核不拡散体制の確立に貢献していく。このため、核不拡散についての国際的信頼の確保、平和利用を指向した技術開発、平和利用先進国にふさわしい国際対応、情報の公開・提供に取り組む必要がある。
 また、原子力発電の長期化を睨み、安全性・信頼性を確保し、立地地域と原子力施設が共生出来るような積極的施策を展開する必要がある。このため、整合性のある軽水炉原子力発電体系の確立として、特に、放射性廃棄物処理処分対策と原子力施設廃止措置(以下、バックエンド対策」という。)を適切に実施するための方策を確立することが重要である。
 我が国の脆弱なエネルギ−体制を鑑みると、将来のエネルギ−セキュリテイ確保と資源及び環境の保全の認識、放射性廃棄物処理処分の適切な対応等の観点から、核燃料リサイクルの実用化を目指して着実に研究を進める必要がある。
 さらに、21世紀の原子力技術体系の構築を目的とし、多様化、高度化する原子力ニ−ズに対応しながら、国民の福祉の向上と国際的貢献図るため、核融合、高温ガス炉による熱供給、舶用動力炉、放射線利用など広範囲な研究開発を推進するとともに、計算科学技術や原子力用材料技術等の既存の原子力技術に新たなブレ−クスル−を引き起こす基盤技術開発を促進する。
 一方、国際的には、近隣アジア地域との間で、放射線利用、研究炉利用、安全確保対策、放射性廃棄物の処理処分、PA(パブリック・アクセプタンス)等共同課題の解決に貢献するよう努力するほか、旧ソ連及び中東欧諸国の原子力安全支援として、原子力発電所の運転員、技術者等の質的向上、技術改善等に協力する。

2.各論
(1)核不拡散対応の強化
 原子力平和利用の確保及び核不拡散対応への取り組み強化として、種々の施策を積極的に進める。特に、NPTに基づく国際的責務の誠実な履行と独自の自発的努力を払って推進する。
 具体的には、平成4年4月にNPT会議での無期限延長支持表明、核軍縮の促進と六ヶ所村再処理施設に対する保障措置の実施やNPTに基づく国際的責務の厳格な履行とともに、保障措置分析所の詳細設計、核不拡散に関する先端技術や透明性向上に関する調査研究、核不拡散を考慮したアクチニドリサイクル技術研究開発等を行うなどNPT及びIAEA保障措置 体制の維持・強化等を図る。旧ソ連核兵器解体に伴う核物質に関しては、貯蔵・管理、平和利用等の検討・協力を行い、発生国の非核化への支援活動及び技術支援など自発的核不拡散に向けて努力する。また、北朝鮮に関してはKEDO(朝鮮半島エネルギ−開発機構)を支援し、平和利用と安全確保を目指す軽水炉転換に協力する。
(2)安全確保対策の総合強化
 原子力の開発利用あたっては、従来より厳重な規制と管理を実施しているが、定期安全レビュ−等の高経年化対策及びシビアアクシデント対策等の総合的な予防保全対策等を推進して、安全性の一層の向上を目指す。また、原子力防災研修、緊急時への対応など防災対策を充実させるとともに、科学技術的蓄積、各種安全審査指針・基準の整備と充実、原子力施設等の安全性の向上、環境放射能及び放射性廃棄物の安全研究推進等を図るほか、平成8年度より施行される新安全研究年次計画の策定作業を行う。
 特に、平成6年に完成した燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)における再処理施設の臨界安全等に関する研究開発や兵庫県南部地震を踏まえた原子力安全検討会の設置及び耐震設計に関する関連指針類の妥当性についての確認検討等を行い、国民の不安を一掃するよう努力する。
 また、バックエンド対策は安全研究に重点をおいて進める。
(3)国内外の理解の増進と透明性の向上等を図るための情報公開
 原子力開発利用を円滑に進めるため、情報公開資料室の整備等積極的な情報公開施策に取り組み「草の根」的広報や体験型の広報を行うとともに、「参加型」意見交換を通じて、国内外の理解を得る施策を展開する。特に、核燃料リサイクル計画、プルトニウム利用計画、核不拡散努力等に透明性の向上を目指して、幅広く国内外の理解を促進する。
(4)原子力施設の立地の促進
 電源三法等の活用による地域振興方策を充実・推進するとともに、環境放射能監視体制の整備、従事者等の追跡健康調査、防災対策、安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力施設等の立地の円滑化を図る。また、積極的な広報を進めるほか、中長期的な観点からの新立地方式の研究、立地技術の高度化を図る。
(5)軽水炉体系による原子力発電の推進
 軽水炉の信頼性及び稼働率の向上、作業員の被ばくの低減化等を図る研究開発を推進する。
 また、海外ウラン探鉱活動の推進、新素材高性能遠心分離機の実用規模カスケ−ド試験、民間ウラン濃縮商業プラントの円滑操業及びレ−ザ−法ウラン濃縮技術開発を推進するなどウラン濃縮国産化対策を推進するほか、再濃縮等回収ウランの利用を検討する。
(6)核燃料リサイクルの技術開発の着実な展開
 核燃料リサイクル計画の具体化及び将来の体系化の確立に備えて、青森県六ヶ所村再処理工場建設の推進や軽水炉等でのMOX燃料利用計画の促進及びプルトニウム燃料加工技術の開発推進等を図る。また、平成6年4月に臨界を達成した高速増殖炉「もんじゅ」の本格運転開始のための準備、平成7年1月に着工したリサイクル機器試験施設(RETF)の再処理技術開発、環境への負荷低減、核不拡散抵抗性の向上等を図る先進的核燃料リサイクル技術の研究開発、燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)を活用した臨界安全性、放射性廃棄物に関する研究等行う。
(7)バックエンド対策の推進
 バックエンド対策については、国民の理解と協力の下で、安全確保を大前提に推進することが重要である。
 特に、多種多様な放射性廃棄物の特性を踏まえた処理分対策は、高レベル放射性廃棄物の処分対策として、ガラス固化技術の実証及び、核種分離、長寿命核種の消滅処理等の研究開発等を推進するほか、深部地質環境や全国規模の地質環境調査及び地層処分システム等の技術研究開発を実施する。
 また、実用発電用原子炉の廃止時期に備えて、原子炉の解体技術を推進し、高度化させるとともに解体後の放射性廃棄物の除去に係る安全性実証試験を引き続き実施する。
(8)原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化
 基盤技術開発については、「新長期計画」に基づき、放射線生物影響分野、ビ−ム利用分野、原子力用材料技術分野、ソフト系科学技術分野及び計算科学分野の5領域の研究課題と、特に、重要課題として研究開発を推進するクロスオ−バ−研究を設定し、国際交流を含む産・学・官の連携の下で研究を推進する。また、計算科学技術については、並列処理技術及びバ−チャルエンジニアリング等の研究開発を推進する。先端基礎研究として、大型放射光施設(SPring-8)の直線加速器の完成を契機に光量子研究を総合的に推進するが、内外の研究者の共同利用を目指して準備を進める。
 高温工学試験研究については、平成10年臨界達成を目指す高温工学試験研究炉(HTTR)の建設を進めるほか、水素エネルギ−製造等核エネンルギ−利用システムの検討、IAEA協力研究を積極的に展開する。
 原子力船「むつ」に関しては、解役作業を続行するとともに、将来の舶用炉への改良研究及びむつでの海洋環境研究を実施する。
 放射線利用の分野においては、重粒子線がん治療装置(HIMAC)の臨床試行が進めるほか、特に、遺伝子や生体系に適用した放射線医学の先導的グル−プ研究に着手する。
 核融合研究については、プラズマ及び中心イオン温度の世界記録を更新している臨界プラズマ試験装置(JT-60)の研究ポテンシャルの向上させるとともに、国際的には、ITER 計画の工学設計活動の積極的推進を図る。
(9)国際協力の推進
 原子力分野の我が国の国際貢献への要請に応え、核不拡散との両立を図りながら、安全確保のため積極的な国際貢献を推進する。
 特に、近隣諸国及び旧ソ連・中東欧諸国の原子力安全確保のためIAEAの活動を通じて支援など、主体的・能動的な国際貢献を果たしていく。
(10)人材の養成と確保
 これからの原子力の研究利用開発を推進する上で、大学等による原子力研究者や技術者の育成、民間協力による原子力発電所等の技術者や技能者の育成、政府関係研究開発機関における人材の育成等を計画的に推進することが望まれる。このため、原子力情報提供機関を窓口に青少年の学習機会の増進や、原子力従事者等の研修の強化、さらに、国際的な人材の養成に努める。
<関連タイトル>
平成6年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-04)
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
長期計画策定に当たっての配慮事項(平成6年原子力委員会) (10-01-01-03)
平成6年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-04)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第463号(第40巻第3号)大蔵省印刷局(1995年6月)
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