<本文>
序章
(原子力委員会と長期計画)
我が国は、1950年代半ばに、原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力開発利用」といいます。)に
着手しました。その際、我が国の原子力開発利用の基本理念を構築するものとして、
原子力基本法が定められました。この法律は、我が国の原子力開発利用を平和の目的に限定して行うことを第一に定めるとともに、この精神を具現化し、「原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的な運営を図るため」、原子力委員会を置くとしています。原子力基本法に定められた我が国の原子力の平和利用を担保することは、原子力委員会の重要な任務です。また、原子力基本法は「原子力委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する事項について企画し、審議し、及び決定する」と原子力委員会の任務を定めています。
このように、原子力委員会の最も重要な任務は、我が国の原子力開発利用が平和の目的に限って計画的に遂行されるよう、必要な企画、審議、決定を行うことにあります。
原子力委員会は、1956年に設置されると直ちに原子力の開発利用に関する長期的な計画を策定するための検討に入り、同年中に「原子力開発利用長期基本計画」を定めました。
以来、おおむね5年毎に数次にわたる改定を続けてきましたが、この度、1987年6月に策定した「
原子力開発利用長期計画」を改定し、ここに新しい長期計画を明らかにしました。
原子力基本法が制定され、原子力委員会が発足した1956年から今日までの我が国の原子力開発利用の道のりを振り返ってみますと、必ずしも平坦なものではなかったものの、総じて言えば順調に進展してきたと考えています。
現在、我が国の
原子力発電は総発電電力量の約3割を供給しており、放射線及び放射性同位元素(RI)の利用(以下「
放射線利用」といいます。)は、医療、農業、工業、環境保全、基礎研究など広範な分野に普及しているなど、原子力利用は我々の身の回りの生活に深く浸透しています。このような成果は、原子力開発利用に携わってきた数多くの民間、大学、政府関係研究開発機関、原子力施設立地自治体、国の関係者の継続的な努力、さらには、地域住民の理解と協力のたまものです。もちろん、これは何よりもまず国民の理解と協力に支えられてきており、その意味では、今後の原子力開発利用の進展もひとえに国民一人一人にかかっていると言えます。
原子力開発利用の推進に当たっては、原子力技術の多くが巨大科学技術システムとして具体化されるという特徴を持ち、その研究開発の成果の発現までに長い年月、多額の資金さらには多数の人材を必要とすること、原子力は重要なエネルギー供給源としての役割を担うことからエネルギー政策上の必要性に見合った長期的安定的な発展を確保する必要があること、原子力開発利用は広範、多岐な分野にわたって展開されているということ、さらには、安全の確保や
核不拡散の観点からの厳格な規制など国内的にも国際的にも配慮すべき点が多い分野でもあることなどから、国民の理解の下、原子力関係者が一定のコンセンサスの下に活動し、国全体として、効率性にも配慮しつつ、長期的、計画的にこれを進めていくことがとりわけ重要です。
長期計画はまさにそのための指針であり、その目的は、原子力開発利用に関して、長期的視点に基づき基本的かつ総合的な指針と基本的施策の推進方策を明らかにし、我が国の原子力の平和利用を計画的かつ効果的に進めていくことにあります。
<関連タイトル>
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
長期計画策定に当たっての配慮事項(平成6年原子力委員会) (10-01-01-03)
<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1750号(1994年7月14日)