<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 前回の長期計画が策定された1987年以降の原子力開発利用をめぐる情勢変化について、その主要なものを挙げると次のとおりである。
・冷戦構造の崩壊に伴う国際情勢の激変、流動化
・地球環境問題に対する意識の向上
・世界のエネルギー需要の増大
核燃料サイクル事業を始めとする我が国の原子力開発利用の進展
プルトニウム利用をめぐる内外の関心の高まり
・原子力に対する夢や期待感の薄れと原子力施設の新規立地の停滞
 本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
序章
(長期計画改定の背景)
 前回の長期計画が策定された1987年以降の原子力開発利用をめぐる内外の情勢変化について、その主要なものを挙げると次のとおりです。
(1) 冷戦構造の崩壊に伴う国際情勢の激変、流動化
 第二次世界大戦後の国際秩序を規定していた東西の冷戦構造が崩壊し、政治、経済、社会など様々な分野で新たな動きが起こっていますが、これは原子力の分野にも及んでいます。
 例えば、核兵器の大幅な削減が現実味を帯びるなど歓迎すべき状況が生まれつつある一方、これに伴い生じるプルトニウム等の核物質の取扱いが重要な課題になってきています。また北朝鮮、イラクの核開発疑惑を背景に、国際的な核兵器の拡散に対する懸念は一層高まりつつある状況です。加えて、旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物の日本海への海洋投棄が国民の不安を招いています。
 また、旧ソ連、中・東欧の原子力発電所の実態が一層明らかになり、その安全性に対する懸念が以前にも増して高まっています。
 このような情勢の中で、我が国が国際社会の中でどのような役割を担っていくことが望ましいのかということについて考えていく必要があります。
(2) 地球環境問題に対する意識の向上
 地球温暖化、酸性雨等の地球環境問題が近年急速に国際的な関心事となってきており、一昨年には「環境と開発に関する国連会議」が開かれ「アジェンダ21」がとりまとめられるなど、国際的に地球環境問題への取組の機運が高まっています。地球環境問題の背景には、大量の資源・エネルギー消費によって支えられている先進国の経済社会活動と開発途上国における人口増加等がともに環境を悪化させているという世界的な構造問題がありますが、環境と調和した人類の持続的発展が重要な課題になっている中、今後の原子力開発利用も地球環境問題の解決という観点を十分考慮することが必要になっています。
(3) 世界のエネルギー需要の増大
 熱心な省エネルギー努力にもかかわらず我が国のエネルギー需要は、引き続き増加していくことが予想され、また、世界に目を向ければ、開発途上国を中心に急速にエネルギー需要が増大していくことが予想されます。そのような状況の中で我が国として、世界全体のエネルギー需給を考慮しつつ、自国のエネルギーの長期的な安定供給をいかに確保していくかが重要な課題になってきています。
(4) 核燃料サイクル事業を始めとする我が国の原子力開発利用の進展
 我が国は、当初よりウラン資源の確保から放射性廃棄物の処分に至る核燃料サイクルの確立を原子力政策の基本としており、今や、青森県六ケ所村において、ウラン濃縮と低レベル放射性廃棄物埋設の民間事業化が現実のものとなり、民間使用済燃料再処理工場も建設段階を迎えるに至っています。また、現行の日米原子力協定下において初のプルトニウムの国際輸送が実施され、高速増殖原型炉「もんじゅ」が臨界を達成するなど我が国の原子力開発利用は、おおむね着実に進展しており、このような状況を踏まえ、今後の政策展開を示すべき時期にきています。
(5) プルトニウム利用をめぐる内外の関心の高まり
 冷戦構造の崩壊に伴い新たな国際秩序が模索される中で、平和利用のプルトニウムも含め、プルトニウムの存在やその取扱いが、核兵器の拡散につながるとの懸念から国際的に大きな関心を呼ぶようになっています。また近年、欧米諸国にあっては、諸般の事情により原子力開発利用が概して停滞傾向にあるのに対し、我が国は比較的着実に核燃料リサイクル政策を展開してきています。このようなことを背景として、核兵器の拡散に対する懸念、プルトニウムの安全性への不安、プルトニウム利用の経済性への疑問などから、先のフランスからのプルトニウム輸送を契機として、国の内外から我が国のプルトニウム利用についての関心が過去に例を見ないほどに高まっています。このような状況については、これを正面から受け止めて、今後の我が国の原子力開発利用の在り方を示すことが重要です。
(6) 原子力に対する夢や期待感の薄れと原子力施設の新規立地の停滞
 原子力は、その開発利用に着手した当初は、大きな期待を持って迎えられ、科学技術の最先端を行く分野として大きな夢を抱かれていました。多くの人々の積年の努力により、原子力の利用は現実のものとなり、国民生活に不可欠なものとなりましたが、その故か一般の国民が抱く原子力のイメージは大きく様変わりしつつあり、当初の先端的イメージが薄らいできています。
  また、このような状況の中、チェルノブイル原子力発電所の事故以降急速に内外に広がった安全性に対する不安感とあいまって、我が国の原子力施設の新規立地も困難になっています。
  このため、原子力が社会的に果たしている役割の重要性や科学としての原子力が本来持っている魅力を国民に伝えるとともに、原子力人材の確保、原子力の新しい方向を切り拓く先端的研究の強化、地域との共生を目指した立地などの対応が必要となっています。
<関連タイトル>
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画策定に当たっての配慮事項(平成6年原子力委員会) (10-01-01-03)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1750号(1994年7月14日)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ