<本文>
序章
(長期計画策定に当たっての配慮事項)
今回の長期計画は、前述の長期計画の目的や改定の背景を十分踏まえて策定しましたが、この長期計画の枠組みと特に配慮した点は、次のとおりです。
(1) 長期計画の見通し期間
本長期計画は、21世紀を見据えて我が国が採るべき原子力開発利用の基本方針と具体的推進方策を明らかにするものです。
個々の具体的な施策によって見通すべき期間には差があり、その点は柔軟に検討しましたが、本長期計画全体としては、おおむね2030年までの原子力開発利用の展開を念頭に置きつつ、2010年頃までの我が国の原子力開発利用について主に検討しました。
(2) 長期計画の狙い
1) 国民に理解される長期計画
今や、原子力は国民の生活や経済にも深く関わるようになっており、昨今の原子力に対する国民の関心の高まりなどに鑑みると、原子力開発利用は、国民の理解と協力なくしてその円滑な推進を図ることはできません。このため、長期計画は何よりもまず国民にその内容が理解されるものでなければならず、この長期計画においては、原子力開発利用に関する明確な理念と計画を国民に提示するよう努めました。
2) 国際的に理解される長期計画
原子力開発利用は、国際性に富むものであり、我が国がその開発に
着手した頃から国際情勢を踏まえた対応が絶えず要求されてきましたが、最近の原子力開発利用をめぐる環境変化等の中で、我が国が原子力開発利用を展開する上で諸外国の理解を得ることがますます重要になってきている一方、我が国の国際的影響力の高まりや原子力開発利用の進展を背景として、諸外国においても我が国の原子力開発利用に対する関心が高まっています。このため、今回の長期計画は、我が国の原子力開発利用に関する基本的立場を諸外国の人々に適確に伝えるものとなるよう努めました。
3) 原子力関係者の具体的指針となる長期計画
長期計画の目的に鑑みれば、長期計画は、原子力開発利用に携わる人々の活動の指針となることが要求されることは当然であり、本長期計画においてもこれまで同様、柔軟性に配慮しつつも現実的かつできるだけ具体的な計画を示すよう努めました。
なお、我が国の原子力開発利用は、その緒に就いた頃から官民を挙げて取り組むべきものとして推進されてきており、国の果たすべき役割には今後とも大きなものがありますが、開発利用の進展に伴い民間の担うべき役割が重要になってきているということを踏まえて、本長期計画は、民間活動の指針としての役割にも配慮しつつ策定しました。
(3) 原子力開発利用を進める上での基本的な考え方の明示
長期計画には、個々の具体的施策の推進計画を定めることが求められていることは言うまでもありませんが、本長期計画では、我が国の原子力開発利用に対する内外の関心の高まりに鑑み、
・地球社会にとって、また我が国にとって原子力開発利用はどのような意味を持つのか・我が国は何故核燃料リサイクル政策を採るのか
・核兵器の不拡散と原子力の平和利用についてどのように考えるのか
・どのような点に配慮しながら、プルトニウム利用などの原子力平和利用を進めていくのか
など、我が国の原子力開発利用の基本理念を明らかにすることに力点を置きました。
(4) 国民の声の反映
本長期計画は、長期計画専門部会における審議結果を基に
原子力委員会が決定したものですが、長期計画専門部会においては分野毎に5つの分科会、5つのワーキンググループを設けて専門家を中心に審議したほか、原子力以外の分野の有識者からなる長期計画懇談会を設けて幅広い視点から議論しました。
さらに、国民各界各層から広く意見を聴くため、長期計画改定に関する意見募集を実施し、また「ご意見をきく会」を開催しましたが、これらを通じて表明された意見は、本長期計画の審議の貴重な参考となりました。
また、海外の原子力関係者からの意見を聴く機会も設けて本長期計画策定の参考としました。
なお、本長期計画は、各分科会において入念な審議を経てとりまとめられた分科会報告を十分踏まえて策定したものですが、それら分科会報告もまた、国民各界各層の貴重な意見を参考にしてとりまとめられています。
21世紀の扉の前に立つ今、振り返ってみれば、米国シカゴ大学でエンリコ・フェルミらが世界最初の原子の火を灯してから約50年、原子力平和利用の道を開いたアイゼンハワー大統領によるアトムズ・フォア・ピース演説から約40年、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉によって我が国が初めて
原子力発電に成功してから約30年の歳月が流れました。
一方、原子力の誕生以来、その歴史の半面を占めてきたのは軍事利用であり、また、それを背景に維持されてきた戦後の世界秩序が東西の冷戦構造でした。
今、その冷戦構造は終焉を迎え、核兵器の大幅な削減が具体化しつつあります。国際政治、国際経済などあらゆる面から新たな世界秩序が模索されている中で、原子力の位置付けや意義のみが従来のままで何らの変化もないというわけにはいきません。原子力は、もはや狭い意味での原子力の世界だけに閉じ込もって議論されるべきものではなく、政治、経済、文化・文明、環境など広範な視点からこれを受けとめ、取り組む必要があります。我々は21世紀に対して期待感と不安感を併せ抱きながらその扉の前に立っていますが、扉の向こうに全人類が幸福に暮らせる地球社会を形成するために、原子力平和利用に与えられた役割は決して小さくはないと認識しています。
将来に対する不透明感が払拭されない状況下にありますが、それだけに地球社会や我が国の将来をしっかり見据えつつ、長期的な視点、国際的な視点、国民とともにある原子力という視点に立って、来るべき21世紀に向けて我が国の原子力開発利用の果たすべき役割とその推進方策を明らかにすることが求められています。
<関連タイトル>
原子力委員会と長期計画(平成6年原子力委員会) (10-01-01-01)
長期計画改定の背景(平成6年原子力委員会) (10-01-01-02)
<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1750号(1994年7月14日)