<本文>
以下、要約を示す。
1.総論
我が国の原子力利用は、平和利用の堅持と安全確保を大前提に着実に進展し、国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギ−源となっているが、エネルギ−供給構造の脆弱性等の問題を抱え、エネルギ−需要の増大を抑制するとともに、石油依存度の低減及び石油代替エネルギ−の開発・導入を進めることが必要であり、特にエネルギ−供給の安定性、経済性の面に優れた原子力を機軸に、その開発利用を推進することが重要である。
ところで、プルトニウムの返還輸送を契機に、我が国のプルトニウム利用に対し国内及び国外の理解を得て、核燃料リサイクルに取り組むことが益々重要となってきた。
一方、旧ソ連の核兵器解体後の核物質管理、イラクの
IAEAへの未申告核物質の保有、北朝鮮の核兵器開発疑惑と核不拡散条約脱退宣言等の問題を抱えているなか、平成7年の核不拡散条約延長会議を控え、核不拡散体制の強化が一層重要視されている。さらに、旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物の
海洋投棄に関しては国民の関心が高く適当な措置をとる必要に迫られている。
こうした原子力をめぐる内外の情勢を踏まえて、原子力開発利用長期計画の調査審議が引き続き行われている。
以上の状況を勘案しながら、次に示す各分野の具体策を講じ、原子力開発利用の総合的かつ計画的推進を図る。
まず、安全確保対策の総合的強化として、従来の安全確保対策の充実に加え、核燃料サイクル施設に対する規制の充実等を図るほか、旧ソ連・ロシアの海上投棄に絡み、日本周辺海域の海洋環境放射能調査の充実等環境放射能調査の充実と強化を図る。
原子力発電の推進については、高転換炉の技術開発の公開など、安全性・信頼性を向上させるとともに、技術の高度化を図る。
自主的核燃料サイクルの早期確立を目指す核燃料サイクルについては、特に、青森県六ヶ所村に建設中である核燃料サイクル施設の支援、放射性廃棄物対策の推進、核燃料物質等輸送対策等を推進する。
さらに、我が国のエネルギ−資源として不可欠であるプルトニウムに関しては、安全確保に万全を期すとともに、透明な核燃料サイクル計画の推進への配慮により、国内外の理解を得るための施策を行う必要がある。
先導的プロジェクトについては、核融合研究を積極的に推進するほか、平成6年度よりがん治療法の臨床試行を実施する重粒子線プロジェクト研究の開始や高温工学試験研究炉を利用する先端的基礎研究予備試験の着手など放射線利用の一層の促進を図る。
基盤技術開発等の推進に当たっては、技術の高度化と技術革新を目的として、新たに3技術領域を定めて研究開発を進める。
また、原子力分野における国際的貢献への要請に応じて、積極的な
IAEA保障措置の整備・強化等への参与など、世界の核不拡散体制の一層の強化に貢献していくとともに、円滑に原子力の開発利用を進めるため、国民全般の理解と協力が極めて重要である。
2.各論
(1)安全確保対策の総合的強化
従来の厳重な安全規制の実施に加え、原子力開発利用の進展に対応した安全確保対策を、さらに充実・強化し、安全性の向上を図るため、核燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)を完成し、原子力安全規制行政の一層の充実を図る。また、放射性物質の輸送の増大、多様化に対処し、高レベル放射性廃棄物の輸送の安全確保対策の充実等を図る。さらに、緊急時情報システムの整備を図るなどで防災対策の強化を図るとともに、安全確保に係る国際協力を積極的に行う。環境放射能調査の充実・強化に関しては、従来の
モニタリングに加え、極東海域における旧ソ連・ロシアの多年にわたる放射性物質を海上投棄してきた問題に対処し、日本周辺海域の海洋環境放射能調査の充実を図ることとする。
(2)原子力発電の推進
軽水炉の信頼性の一層の向上及び稼働率の向上を図るとともに、核燃料利用効率の高い高転換炉の技術開発を公開するほか、将来的軽水炉の調査等を行う。また、実用発電用
原子炉の廃止時期に備えて、原子炉の解体技術開発を推進する。
(3)核燃料サイクルの確立
我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、再処理技術の実証と確立、放射性廃棄物の処理処分対策の推進、核燃料物質等輸送対策の推進等を行う。
特に、ウラン濃縮国産化対策として、新素材高性能遠心分離機の実用規模カスケ−ド試験装置による試験を進めるとともに、遠心分離機の高度化及び先導的研究開発を推進し、民間によるウラン濃縮商業プラントの円滑な操業を推進するほか、ウラン濃縮新技術として、分子レ−ザ−法のブレ−クスル−研究を行う。
高速増殖炉の
使用済燃料の再処理技術の確立のため、工学規模の試験装置リサイクル機器試験施設(RETF)の建設を開始し、
回収ウランに関してはUF-6転換の実用化試験の実施及び
再濃縮に関する研究を進める。また、放射性廃棄物輸送容器等の安全性実証試験を行うほか、高レベル放射性廃棄物の研究開発については、ガラス固化技術開発施設の試験運転を実施し、幌延町における貯蔵工学センタ−計画に対しては広報活動の積極的に展開する。
(4)新型動力炉の開発及びプルトニウムの利用
高速増殖炉実験炉「常陽」の高度化改造を進展するほか、同原型炉「もんじゅ」の
臨界を達成及び性能試験等を進め、機器システム、燃料、材料、安全性等の研究開発を進める。また、原子炉上部からの冷却材流出入方式(トップエントリ方式)の特性を調べるため、原子炉冷却系総合試験の準備として、既存施設の撤去を行う。
新型転換炉実証炉は、平成15年度運転開始を目途に用地取得等を進める一方、燃料製造技術開発施設の設備製作を実施する。
さらに、プルトニウム利用についての国内外の理解を得るための施策を推進する。
(5)先導的プロジェクト等の推進
核融合研究については、臨界プラズマ試験装置(JT-60)による重水素を用いた高性能化実験を実施するなど、国立試験研究機関による研究等を推進する。また、国際熱核融合実験炉(ITER)計画については、工学設計活動に関する協定に基づき、共同中央チ−ム等において設計作業を積極的に実施するほか、工学設計活動に必要な工学及び物理研究開発を着実に進める。また、トカマク装置の多国間研究協力等を推進し、
トリチウムの安全研究等実燃料に即した研究を進める。
放射線利用については、平成6年より難治性がん治療を可能とする
重粒子線がん治療装置を用いた臨床試行の円滑な実施を推進するため、重粒子プロジェクト研究を開始するとともに重粒子線がん治療施設の建設を進める。また、国内外の研究者が利用できる上、原子力分野の広範な基礎研究に役立つ大型放射光施設(SPring-8)の建設を推進する。
原子力船「むつ」に関しては、解役を進めるとともに、実験航海により得られた知見及びデ−タ等の解析・整備を進め、引き続き将来の舶用炉の開発のための研究を進める。
高温工学試験研究については、高温工学試験研究炉(HTTR)の建設を進めるほか、HTTRを利用する先端的基礎研究の予備試験に着手する。
(6)基盤技術開発等の推進
当面、原子力用材料、原子力用人工知能、原子力用レ−ザ−及び放射線リスク評価・低減化の4つの技術領域に加え、放射線ビ−ム利用先端計測、分析技術、計算科学技術及び人間の知的活動支援技術の3技術領域において研究開発を進める。また、燃料・材料の照射試験研究等の基礎研究の推進を図る。
また、原子力関係科学技術者の養成訓練を行うとともに、
原子力発電所等の運転員の資質向上を図る。
(7)主体的・能動的な国際貢献
近隣諸国及び旧ソ連・東欧諸国の原子力関係者に対する原子力安全確保の研修制度の拡充、旧ソ連・中東欧諸国の原子力発電所の運転安全対策、事故等の防止のための応急的な技術改良等により安全性向上に努める。国際科学技術センタ−に対しては、研究プロジェクトを提案とともに、関連資金を提供する。また、六ヶ所再処理施設保障措置体制の整備及び核物質防護等の充実・強化により、核不拡散体制維持強化を図る。さらに、高速炉リサイクル国際特別研究員制度を発足し、高速炉燃料リサイクル研究に関する国際交流を図る。
(8)国民の理解と協力
原子力の研究利用開発を円滑に進めていくためには、
原子力施設立地地域住民を始めとする国民全般の理解と協力が極めて重要である。このため、原子力施設の安全運転の実績を積み重ね、国民の信頼感を得るとともに、原子力についての正確な知識及び情報を国民に伝えるための施設を推進する必要がある。
広報活動等の推進に際しては、一般国民各層を対象とした適時的確で懇切丁寧な広報活動を展開する。
また、電源三法等の活用し、福祉対策に対する支援の拡充、地域と発電所との共生の推進等、地域振興方策を充実・推進するとともに、環境放射能監視体制の整備、従事者等の追跡健康調査、防災対策、安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力施設等の立地の円滑化を図る。
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
平成5年度原子力開発利用基本計画 (10-02-01-03)
<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第415号(39巻第3号)大蔵省印刷局(1994年6月)