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事故的な被ばくを排除するため、総ての放射線作業場は施設面、設備面及びソフト面から十分に安全対策を検討し、被ばくの潜在的危険性の低減化に注意が払われている。しかし、安全に対して十分な配慮がなされていても事故的被ばくが完全に無視できるということではなく、ある状況のもとでは重大な被ばくをする可能性がある。このような可能性に係わる代表例を以下に示す。
(a)大量の放射性物質を遮蔽セル内または遮蔽セル間の移送中に、誤操作や装置の故障が起こる可能性。
(b)高線量率を与える能力を有する
X線装置、
加速器、数十TBq(テラベクレル)程度以上の
照射装置、あるいはホットセルで、
インターロックの失敗が起こる可能性。
(c)ラジオグラフィの目的で使用する放射
線源が不注意に
遮へいなしのままにおかれる可能性。
(d)大量の
核分裂性物質の取扱いで
臨界事故が起こる可能性。
(e)原子炉または原子炉燃料再処理プラントで装置の故障または誤操作が起こる可能性。
1)事故時被ばく線量低減化のためのモニタリング
事故的な被ばくを低減化するために、線源を使用中であることを自動的に表示する装置やインターロックが整備されている施設もあるが、有効なモニタリング機器として個人警報線量(率)計がある。いずれの場合でも、遠隔操作装置・照射室のインターロック・警報設備・非常脱出装置の保守管理、放射線モニタの作動点検が重要である。しかし、個人警報線量計を用いることにより(a)から(c)の場合における重大な被ばくを防止できるとともに(d)、(e)の場合に受ける被ばくの低減化にも役立つものと考えられている。
(d)の臨界事故発生の可能性のある区域には、動作の信頼性が高い臨界警報装置(criticality alarm equipment)を施設に設置し、臨界発生区域から迅速な退避を警告することが重要である。退避により被ばく線量の低減化と
再臨界による被ばくを防止することができる。
2)事故時用個人線量計と線量評価手法
事故による外部被ばくがあったときは、個人線量計とエリアモニタの結果あるいは携行するサーベイメータなどの読みから評価する。個人線量計にはフィルムバッジ(FB)、熱ルミネセンス線量計(
TLD)、ガラス線量計(GD)があり、いずれかを着用するとともに、補助測定器として直読式ポケット線量計(PD)やアラームメータを併用する。異常時の被ばくは、一般的に短時間に比較的大きな線量を特定の方向から、全身または局限された部位に照射されて生じることが多い。このような被ばくの態様に対し1個のFBBやTLDでは、体軸に平行な方向からの放射線や背面からの放射線に対し反応し難く、方向依存性も大きい。いずれにしても着用した身体の一部の部位で測定した1センチメートル線量値から、異常時の被ばくの
実効線量や体内各器官・組織の組織線量値を推定するには充分慎重にしなければならない。エリアモニタは、固定されているので視野が限られており、注意する必要がある。サーベイメータは、手軽に使用できて活用範囲が広い。一般には、広範囲表示の電離箱式や
GM計数管 式が、事故時の被ばく検出・測定用に有用である。
臨界事故が発生すると、その区域で働く作業者は、高い線量を被ばくするので、少なくとも10Gyまでの
γ線による
吸収線量を測定できる性能を有する個人線量計、又は、これらの線量計をベルトに取り付け、線量計が人体の前面と背面に位置するよう工夫し、放射線の発生源と作業者の向きに関する情報が得られるようにした特殊な個人線量計(中性子の測定も含む)を装着して作業する必要がある。このような個人線量計の総称を事故時用個人線量計と呼ぶ。
なお、上記の個人線量計には、被ばく時の人体入射中性子スペクトルが求められるように硫黄、金箔、インジウム箔、又は、核分裂性の箔を
放射化検出器として挿入し、これらの放射能から被ばくの方向性を推定して個人の中性子吸収線量を算定する。
インジウム箔の放射化は、中性子に対して高感度であり、作業者の中性子被ばくの選別に有効である。また、これと同様な目的で人体中のナトリウムや塩素の放射化(
24Na,
36Cl)から中性子被ばくの有無を選別する手法も有効である。その他として、身につけていた金属類の放射化、あるいは体毛、頭髪又は羊毛の衣服などに含まれる硫黄の放射化による
32Pの測定から中性子吸収線量を算定できる。
以上に加え、事故時線量評価の重要な測定手法として染色体異常分析法がある。これは上記のような放射化測定法が適用できないX線やγ線の被ばく線量の算定にとくに有効であり、0.1Gyを超える被ばく線量の測定に使用できる。
3)臨界警報装置によるモニタリング
装置はその性質上、検出機能、判別機能、警報発生機能を有し、極めて高い信頼性を持つものでなければならない。検出機能は中性子線と
ガンマ線の放出量として、〜10
−14rad/核分裂を最小検出感度としている。また、装置は検出すべき臨界事故の場合のみ確実に動作し、臨界事故でないのに警報を発生したり、事故であるのに警報を発生しないということが最小でなければならない。そのために、3台の論理回路のうち2台以上の同時性監視結果に基づき臨界信号が発生し、それにより警報音発生装置からの信号を受け警報を発生するようになっている。また、各々の回路には各々3台の電源から独立に供給するように設計されている。2 out of 3方式に基づく臨界警報システムのブロック図の例を
図1 に示す。
<図/表>
<関連タイトル>
JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要 (04-10-02-03)
放射線と染色体異常 (09-02-06-01)
臨界事故による放射線被ばく (09-03-02-05)
個人線量計 (09-04-03-03)
サーベイメータ(α線、β線、γ線、中性子等) (09-04-03-04)
エリアモニタ (09-04-03-05)
個人モニタリング (09-04-07-01)
<参考文献>
(1) ICRP Publication 35:作業者の放射線防護のためのモニタリングの一般原則、日本アイソトープ協会(1984)
(2) 日本アイソトープ協会(編):主任者のための放射線管理の実際、改訂2版、丸善(1994)
(3) 核燃料サイクル開発機構:臨界警報装置の更新高レベル放射性物質研究施設、TN8410 91-042