<本文>
1.個人
モニタリング記録の保存管理の目的
放射線施設や原子炉施設で働く放射線作業者は職業上の放射線被ばくを伴う。事業者や施設の管理者は、外部被ばく線量の測定や内部被ばく線量を推定するための検査などを実施する。この測定結果は個人モニタリングの記録といわれ、作業者一人ひとりについて作成し、職業上の放射線被ばくの経歴として保存管理される。
個人モニタリング記録を作成し保存管理する目的は次のような点にある。(1)個々の放射線作業者の線量が、
線量限度を越えていないことを確認する、(2)事業者や施設の設置者が、記録の作成、保存に関する法令上の義務を果たしていることを証明する、(3)放射線作業者の労働災害補償の認定、あるいは訴訟問題などに対する立証資料とする、(4)その他放射線誘発がんなどの疫学調査、研究のための情報とする。
2.個人モニタリング記録の対象者
個人モニタリング記録の対象者は、放射線防護関係法令(
放射線障害防止法、
労働安全衛生法、
原子炉等規制法、医療法等)において、
管理区域に立ち入って放射線や放射性物質を取り扱う業務に従事する
放射線業務従事者(放射線診療従事者を含む)と、
放射線業務とは関係なく見学や営繕などの目的で一時的に立ち入る者に区分している。
これらの記録の管理は、作業者を雇用する事業者や施設の設置者の義務とされている。事業者は定期的に行政当局に放射線業務従事者の被ばく統計を報告し、また記録は健康診断と同様に永久保存しなければならない。一方、一時立入者の記録については、統一的な解釈がないので、一時立入者に対するモニタリングの実施基準として法令に規定されている0.1mSvを超えた者の記録を管理対象とする事業者が多い。
3.個人モニタリング記録の分類
個人モニタリングの記録は、放射線作業者を雇用している事業所毎に管理されるので、一般に入社前の被ばく経歴と入社後の被ばく記録に分けて管理される。入社前の被ばく経歴は会社等に入社する以前の全ての職業上の被ばく経歴で、入社後の被ばく記録は入社した会社等に所属した期間の被ばく記録である。入社後の記録は、さらに測定記録と算定記録に大別して記録される。
図1に記録の分類を示した。
4.測定記録
測定記録は、被ばくの形態によって体外放射線による外部被ばくの測定記録、体内に沈着した放射性物質による内部被ばくの測定記録及び身体表面の皮膚汚染による被ばく記録に分けて記録する。この記録方法について放射線障害防止法を例にとれば、外部被ばくの測定記録は、放射線測定用具などによる測定結果を、4月1日を始期とする3月間毎(妊娠可能な女子は毎月1日を始期とする1月間毎)及び1年間について記録し、内部被ばくの測定記録は、放射性物質を摂取するおそれのある場所に立ち入る者に対して、測定の都度記録するなどと規定している。
表1に測定記録項目を示した。
5.算定記録
算定記録は、線量限度など放射線防護上の基準と比較するために、前述の測定記録に基づいて算定した実効線量と等価線量である。実効線量は、外部被ばくによる実効線量と内部被ばくによる
預託実効線量の和として算定する。皮膚汚染の測定結果は、汚染の状況によって外部被ばくあるいは内部被ばくの線量として評価する。算定記録について放射線障害防止法では、4月1日を始期とする3月間毎(妊娠可能な女子は1月間毎)及び1年間について集計し記録すると規定している。同法規定の算定記録項目を
表1に、また外部被ばく及び内部被ばくの実効線量等の算定方法を
表2に示した。
6.個人被ばく線量の通知と報告
算定された実効線量と等価線量は、測定記録と共に放射線作業者の雇用主を通じて本人に通知される通知の頻度は関係法令によって異なり、放射線障害防止法では記録の都度、すなわち3月間毎(妊娠可能な女子は1月間毎)に交付し、労働安全衛生法は遅滞なく通知すること、さらに原子炉等規制法では、放射線業務従事者が業務を離れる時に交付するなどと規定している。このほかに放射線業務従事者の
集団線量や平均線量などの統計データは、関係官庁に報告され定期的に刊行されている。
7.個人被ばく線量の表示
個人被ばく線量は一般に、例えば1.2mSv(5X)などと表示される。1.2mSvは有意に検出された被ばく線量である。5Xは有意に検出されなかった評価回数、すなわち5回の測定結果が個人線量計の検出下限値未満であったことを表している。
個人線量計の検出下限値は、個人線量計が
自然放射線にも感度を示すので、一般に測定器の使用期間が長くなる程高くなる。通常個人線量計の使用期間は、1月間または3月間を採っている事業所が多く、2月間の場合の検出下限値は0.1mSv、3月間の場合は0.2mSv程度に設定されている。この(平常の)自然放射線からの被ばくについて国際放射線防護委員会(ICRP)では、職業上の被ばくに含まれないとしている。
8.記録レベル
ICRPは個人モニタリングの記録レベル、つまり個人モニタリング結果を記録として保管することに合理的な意味を持つレベルを述べている。それによれば、記録レベルは、年線量限度または年線量限度の1/10に測定期間の1年に対する割合をかけた値より低い値が適当としている。さらに記録レベルに達しない被ばく線量データは、被ばく管理上合理的な意味が少なく、大量のデータの評価も困難であるから、記録レベル以下として記録し、線量の算定にはゼロとして扱ってよいとした。
わが国では法令上記録レベルを規定していないので、個人線量計の検出下限値を外部被ばくの記録レベルとしている場合が多い。内部被ばくの場合は、
核種の種類と測定方法によって検出下限値が大きく異なるので、これを記録レベルとすることができない。そこで実務上内部被ばくの記録レベルを、一回の測定または3月間当りの預託実効線量で2mSv、預託組織線量で20mSvとしている。
9.個人モニタリング記録の保存
個人モニタリング記録の保存に関してICRPは、放射線誘発がんなどの疾病は潜伏期間が長いので、将来、訴訟または他の法医学的な理由で被ばくの記録が使われるかもしれないから、その保存期間は少なくとも30年は必要としている。
わが国の法令は、記録の保存を事業者や施設の設置者に義務付けていて、関係法令によって保存期間が異なっている。労働安全衛生法では、保存期間を5年間と規定して厚生労働省通達で永久保存することが望ましいと指示し、放射線障害防止法と原子炉等規制法は、その記録を保存して5年を経過した後、または記録の対象者がその施設の従業者でなくなった場合に、記録の引渡し機関として指定した(財)放射線影響協会に引渡してもよいと規定した。引渡さない場合には事業者等において永久保存しなければならない。
10.被ばく線量登録管理制度
被ばく記録の保存管理を一元化するために、放射線障害防止法と原子炉等規制法の適用を受ける事業者等は、国の指導のもとに被ばく線量登録管理制度を運用している。この制度には、設立母体となった参加事業者の適用法令によって、放射線障害防止法関連の制度と、原子炉等規制法関連の制度がある。
両制度の機能は、前者に
放射線管理手帳に関する登録機能がないことを除けば、ほぼ同じで、原子炉施設の設置者等から引渡される法定記録の保存管理を中心機能として、種々の被ばく管理データ、つまり従事者の氏名、生年月日(個人識別登録)をはじめ、放射線作業開始日や終了日(指定、指定解除登録)、個人毎の年間の線量(定期線量登録)などのデータを、(財)放射線影響協会放射線従事者中央登録センターに登録する。登録データはプライバシーの保護に留意しながら事業者などからの照会に応じ、放射線管理の充実に活用される。
図2に原子炉等規制法関連の制度の構成を示した。
<図/表>
<関連タイトル>
限度とレベル (09-04-02-12)
個人モニタリング (09-04-07-01)
外部被ばくモニタリング (09-04-07-02)
内部被ばくモニタリング (09-04-07-05)
放射線管理手帳 (09-04-07-06)
<参考文献>
(1)(財)原子力安全技術センター:「外部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル」(1988)
(2)(財)原子力安全技術センター:「内部被ばくにおける線量当量の測定・評価マニュアル」(1988)
(3)放射線障害防止中央協議会:「記帳・記録の手引」(1988)
(4)草間朋子、別所遊子、太田勝正、甲斐倫明(著):「放射線防護の考え方」、日刊工業新聞社 (1990)
(5)(社)日本アイソトープ協会:「作業者の放射線防護のためのモニタリングの一般原則」、ICRP Publ. 35