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<概要>
 原子力発電、医療、工業、農業等多くの分野で、放射性物質を利用する事業所が増え、これに伴って車両、航空機、船舶等による放射性物質の運搬(輸送)が増加している。放射性物質を収納した輸送容器管理区域から搬出又は搬入する際に、放射性輸送物が運搬基準に適合しているかどうか、輸送中或いは搬入時に、異常がなかったかどうかの確認のため、線量率、放射能表面密度モニタリングが行われる。
 この搬出入時モニタリングを行うことによって、放射性物質の格納不備等による放射性汚染の拡大を防止でき、汚染による作業者や一般公衆の被ばくを未然に防止できる。また、輸送物表面等の線量率を確認することにより運転者、作業者及び一般公衆が外部被ばくに係わる線量限度を超えないように管理することができる。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
(1)放射性物質〔放射性同位元素(以下RIという)及び核燃料物質を含む〕は、医療、農業、工業等多くの分野で利用されるようになり、これに伴って輸送も頻繁に行われるようになった。RIの場合は、海外や国内の試験研究炉で製造されて、日本アイトトープ協会又は医薬品会社を経由して、それぞれの病院、大学、研究所等の事業所へ輸送される。核燃料物質の場合は、海外から原子力発電用濃縮ウラン燃料が海上輸送等され、国内の燃料加工工場で成型加工され、新燃料集合体として原子力発電所へ輸送される。その後、原子力発電所から使用済み燃料集合体として再処理のため、海外又は国内の再処理工場へ海上輸送される。
(2)このように、放射性物質は、陸上の他に海上、航空を利用して国際的に輸送されるため、国際原子力機関(IAEA)は、国際的な輸送基準を制定した。我が国はこの「IAEA輸送基準」に準拠して、それぞれの法令に輸送基準を定めている。
(3)法令の輸送基準には、放射性輸送物は、輸送容器に収納する放射性物質の量、輸送物表面の線量率等の少ない順にL、A、B型等に区分されており、現在輸送されている放射性輸送物の中では、トレーサや診断に使われる微量なRI等のL型輸送物が最も多く、僅かではあるが、使用済み燃料等がB型輸送物で運搬されている。
(4)これらの放射性輸送物を管理区域から搬出する際には、先ず、搬出モニタリングとして輸送物の表面及び1mの線量当量率、表面密度の測定が行われ、輸送物車両に積込み後、車両表面、1mの線量当量率及び車両の表面密度並びに運搬に従事する者が通常乗車する場所の線量率の測定が行われる。これらの測定結果が表1に示すような運搬基準等を満足しているかどうかが確認される。
(5)放射性輸送物を、降ろした後は、その車両の表面密度及び線量率の測定が行われ、表1に示す運搬基準に適合しているかどうかが確認される。その他、使用済み燃料輸送等の長距離輸送においては、通常、輸送途中及び輸送物搬入時に、運搬物の表面線量率及び表面密度の測定を実施し、輸送物の異常の有無の確認が行われている。図1に使用済み燃料輸送時の搬出モニタリング例を示す。
(6)前述した、運搬物の搬出、搬入のモニタリングの内、線量率の測定には、通常、γ線用サーベイメータ(GM型、電離箱型等)が使用されているが、特に、使用済み燃料や中性子線源(252Cf)を輸送する場合は、中性子線用サーベイメータ(レムカウンタ等)を用いて中性子線量当量率の測定も併せて行われる。
(7)表面密度の測定には、放射性輸送物からの放射線の影響があるため、輸送容器の表面密度をサーベイメータを用いて直接測定することが出来ないので、直接測定法に代わってスミアろ紙を用いた拭き取り法(スミア法)による間接測定法が用いられる。スミア試料の測定には、表面汚染検査計や放射能測定装置(GM、ガスフローカウンタ等)を使用しており、輸送容器に収納されている放射性物質が放出する放射線の種類〔β(γ)或いはα〕に応じた専用の測定器を用いている。
<図/表>
表1 事業所外における運搬物及び車両の運搬基準(抜粋)
表1  事業所外における運搬物及び車両の運搬基準(抜粋)
図1 使用済み燃料輸送時の搬出モニタリング例
図1  使用済み燃料輸送時の搬出モニタリング例

<関連タイトル>
原子炉施設からの放射線(能) (09-01-02-04)
再処理施設からの放射線(能) (09-01-02-06)
放射性同位元素等取扱施設からの放射線(能) (09-01-02-07)
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表面汚染モニタリング (09-04-06-04)
固体廃棄物の搬出モニタリング (09-04-06-06)
表面汚染検査計 (09-04-03-08)
サーベイメータ(α線、β線、γ線、中性子等) (09-04-03-04)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会:改定版主任者のための放射線管理の実際、丸善(1994)
(2)日本アイソトープ協会:改定5版ラジオアイソトープ密封線源とその取り扱い
(3)日本アイソトープ協会:改定3版アイソトープの安全取扱入門−教育訓練テキスト
(4)放射線取扱者教育研究会編:放射性同位元素等取扱者必携
(5)飯田博美:放射線管理技術、日本放射線技師会編放射線双書
(6)浅田忠一(監修):新版原子力ハンドブック
(7)日本原子力産業会議:原子力年鑑
(8)青木 成文:放射性物質輸送のすべて
(9)IAEA安全シリーズ No.6,放射性物質安全輸送規則 1985年版:情報センター出版会
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