<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 被ばく管理上重要な線量限度は、実効線量および等価線量(いわゆる防護量)で定められている。しかし、この実効線量は直接測定できない量である。そこで、外部被ばくに係わる測定量として、作業環境モニタリングのために周辺線量と方向性線量が、個人被ばくモニタリングのためには個人線量が、国際放射線単位測定委員会(ICRU)によって定められ、実用量とも呼ばれている。日本の法令では1センチメートル線量当量(通例、1cm線量当量)、及び70マイクロメートル線量当量(通例、70μm線量当量)という名称でこれらの線量の考え方が導入されている。これらの量以外に、従来から用いられてきた照射線量吸収線量、空気吸収線量(空気カーマ)も測定器の校正などのために使用される。
<更新年月>
2010年08月   

<本文>
1.外部被ばく管理のための実用的な測定量
 被ばく管理上重要な線量限度は実効線量および等価線量で定められている。この実効線量は、人体の各臓器・組織の等価線量(臓器または組織の平均吸収線量を放射線荷重係数で重みづけたもの)の組織荷重係数による加重和で定義されているため、実効線量を直接測定して被ばく管理を行うためには、身体中の多数の臓器、組織の平均線量を毎回測定しなければならない。このような測定を行なうことは不可能である。そこで、サーベイメータや個人被ばく線量計により実際に測定でき、かつ、実効線量を下回ることなく常に安全側に評価できる量が必要である。
 このようなことから、放射線測定に関して国際的な勧告を行なう機関である国際放射線単位測定委員会(ICRU)は、一般の被ばく条件では常に実効線量より大きな値を示し、安全側に評価できる放射線防護のための2種類の実用的な外部被ばく測定に係わる量を導入した。その一つは、作業環境モニタリングのための周辺線量(H*(d))および方向性線量(H'(d,Ω))で、サーベイメータ、放射線モニターで測定され、場のモニタリングに用いる量とも呼ばれている。他の一つは、個人モニタリングに用いる量で、個人線量Hp(d)と呼ばれ、熱ルミネセンス線量計、蛍光ガラス線量計など個人線量計で測定される。(以前は、透過性個人線量(Hp(d))と表層部個人線量(Hs(d))に分かれていたが、ICRU Report 47、1992年で個人線量に統一された)
 これらの実用量の定義には、放射線防護の立場で実際の放射線場を解釈する考え方が導入されている。それが「拡張場」と「整列場」という考え方である。拡張場とは、放射線場の物理的状態が着目する体積全体にわたって基準点と同じと考える場である。これは、通常のモニタリングにおいて空間の一点を代表点として測定し、その値で体積を持つ人体の被ばく線量を評価する、すなわち、代表点の状態が人体全体でも同じとみなす考え方を表現したものである。次に、整列場とは、実際の放射線場の状態にかかわらず、その放射線の方向がすべて一方向から来ると考える場である。これは、強透過性放射線の作業環境モニタリングでは、方向依存性の良好な測定器を用いているため、測定器をいろいろな方向に向け、その指示値が最大となる方向から全ての放射線が来ると解釈していることを表現したものである。整列・拡張場といった場合は、両者を同時に考えていることを意味する。
 また、個人モニタリングでは人体そのものが放射線場にあると考えるが、作業環境モニタリングでは人体そのものではなく、人体と等価な物質でできた直径30cmの球(これをICRU球と呼ぶ)を考える。
 これらの考え方を用いて、周辺線量(H*(d))、方向性線量(H'(d,Ω))および、個人線量(Hp(d))はおのおの次のように定義されている。
a) 周辺線量(H*(d))
 放射線場のある一点における周辺線量は、まずその点において整列・拡張場を考え、ICRU球を置いた場合(すなわち、方向以外はすべて実際の状態と同じ放射線が、ICRU球全体に一様にかつ一方向から入射した場合)、整列場の方向に対向する半径上の深さdにおいて生ずる線量である。周辺線量は強透過性放射線に対して用いられ、推奨されているdの値は10mm(1cm)であり、このときH*(10)と書く。(図1参照)
 この周辺線量は、γ線のように透過力の強い放射線に対して用いられる。
b)方向性線量(H'(d,Ω))
 方向性線量の場合は、放射線の入射方向は、実際の場と同じにとり、拡張場だけを考える。この拡張場にICRU球を置き、この球に対する方向0によって決まる半径上の深さdの点における線量を方向性線量H'(d,Ω)という。深さdについては、弱透過性放射線に対しては、皮膚に対して深さ0.07mm、眼の水晶体に対して深さ0.07mm が用いられるが、強透過性放射線に対しては眼の水晶体には10mmの深さが用いられる。
 場のモニタリングのための実用量として、周辺線量だけでなく方向性線量も必要なのは、弱透過性の放射線(低エネルギーX線、β線など)を測定するには、薄い窓をもつ検出器が用いられるため、最大でも立体角で2πの測定しかできないことに起因している。これらの方向依存性の大きな測定器を用いた場の測定では、すべての方向から来る放射線を測定できないので、指示値が最大となる方向を見つけて被ばく管理のための測定を行うことになる。この放射線管理測定における測定器の方向依存性を表現したものが方向性線量である。
 方向性線量の定義に用いている方向のパラメータΩは任意の方向を表しているが、測定器の方向依存性の試験等では、その方向の基準を明らかにする必要がある。このため、測定器の校正のため面平行ビームで照射する場合は、図2の左図に示すように、入射方向を0°として入射角度αを定めた量:H'(d,α)を用いる。この場合、H'(d,0°)は周辺線量H*(d)と等しい。
c)個人線量Hp(d)
 個人線量とは、人体のある指定された点における適切な深さdにおける軟組織の線量である。
 この定義は、ICRU Report 47(1992)で導入されたもので、それ以前は「透過性個人線量」と「表層部個人線量」という2つの量に分かれていた。
 深さdについては、強透過性放射線に対して眼の水晶体には10mmが、弱透過性放射線に対しては、皮膚に対して深さ0.07mm、眼の水晶体に対して深さ0.07mmが採用される。個人線量は、実際の放射線場における人体組織そのものの中の線量である。個人モニタリングにおいては、個人線量計を着用する場所が、放射線の入射方向や作業形態に応じて変わる。このことに対応するため、個人線量では、周辺線量や方向性線量のように線量評価のための対象物(レセプタ)が指定されていない。個人線量計を校正する場合には、統一された基準線量を算出する必要があるため、ICRUは、レセプタとしてICRU組織等価物質でできた30cm×30cm×15cmのスラブファントムを定めた。個人線量計はファントムに付けて校正されるため、角度依存性がある。これを表すために、面平行ビームがこのスラブファントムに垂直に入射する場合を0°として入射角度αを定めた量が使用される(図2の右図)。
2.日本の関係法令における外部被ばく測定量
 日本では、ICRP 1990年勧告の取入れによる放射線障害防止法関係法令改正(平成12年10月告示、平成13年4月1日施行)においても、前回のICRP 1977年勧告の取入れの際の同法令改正(昭和63年10月告示)における上記の外部被ばく測定量の考え方に基づいた以下の名称が継承された。すなわち、「3ミリメートル線量当量」は削除され「1センチメートル線量当量」および「70マイクロメートル線量当量」(通例、1cm線量当量、70μm線量当量と記される。またこれら2つをまとめて「1cm線量当量等」と略す)の名称はそのまま使用されている。
 しかし、1cm線量当量等の名称は、場のモニタリングに用いる量と個人モニタリングに用いる量のどちらにも用いられる。例えば、周辺線量当量H*(10)と個人線量当量Hp(10)のどちらも法令上は「1cm線量当量」と呼ばれる。これは、測定結果の記録などで、サーベイメータによる測定値でも、個人線量計による測定値であっても、実効線量の評価を目的としたものであれば、両者とも「1cm線量当量」という名称で記録できる。しかし、1cm線量当量等を空気カーマ(照射線量)や粒子フルエンスから求める場合には、場のモニタリング量(周辺線量、方向性線量)と個人モニタリング量(個人線量)を区別する必要がある。関連する換算係数は、マニュアルによって示されている。
 なお、実効線量(前方−後方照射条件)を空気カーマまたは粒子フルエンスから計算によって求める必要がある場合には、線量換算係数をそれぞれ用いる。空気カーマが1グレイである場合のX線又はγ線エネルギー(MeV)に対する実効線量(Sv)を表1に示す。また、中性子フルエンスが1cm2あたり1012である場合の中性子エネルギーに対する実効線量を表2に示す。
3.従来から用いられている線量
 上記の外部被ばく測定量は、すべて放射線の生物的影響が考慮された放射線防護のための量である。これらの外部被ばく測定量が導入される以前は、空気をどのぐらい電離する能力があるか、人体と同じ物質にどのぐらいエネルギーを与えるかなど、物理的に決定される量を外部被ばく測定量とし、これらの値から被ばく線量を評価するという方法が取られていた。この方法で用いられていたのが、X、γ線による全身被ばく線量測定に対して照射線量(空気をどのぐらい電離する能力があるかを表す)、β線による皮膚の被ばく線量測定に対して軟組織の吸収線量(人体と同じ物質にどのぐらいエネルギーを与えるかを表す)である。また、照射線量と類似の量で空気にどのぐらいエネルギーを与えるかを表す空気吸収線量(空気カーマ)も用いられる。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 自由空気中の空気カーマが1グレイである場合の実効線量
表1  自由空気中の空気カーマが1グレイである場合の実効線量
表2 自由空気中の中性子フルエンスが1平方センチメートル当り10
表2  自由空気中の中性子フルエンスが1平方センチメートル当り10
図1 周辺線量の説明図
図1  周辺線量の説明図
図2 H'(d,α) 及び Hp(d,α)に対する角度αの定義
図2  H'(d,α) 及び Hp(d,α)に対する角度αの定義

<関連タイトル>
1センチメートル線量当量 (09-04-02-06)
実効線量のための測定 (09-04-03-17)
国際放射線単位測定委員会(ICRU) (13-01-03-11)
線量に関する単位 (18-04-02-02)
照射線量に関する単位 (18-04-02-03)
吸収線量に関する単位 (18-04-02-04)

<参考文献>
(1) 国際放射線単位測定委員会レポート、ICRU REPORT 39、Determination of Dose Equivalents Resulting from External Radiation Sources,Maryland USA(1985)
(2) 国際放射線単位測定委員会レポート、ICRU REPORT 43、Determination of Dose Equivalents from External Radiation Sources − Part2,Maryland USA(1988)
(3) 国際放射線単位測定委員会レポート、ICRU REPORT 47、Measurement of Dose Equivalents from External Photon and Electron Radiations,Maryland USA(1992)
(4) 国際放射線単位測定委員会レポート、ICRU REPORT 57、Conversion Coefficients for Use in Radiological Protection Against External Radiation,Maryland USA(1998)
(5) 国際放射線防護委員会:ICRP Publication 74、Conversion Coefficients for Use in Radiological Protection against External Radiation.(1997)
(6) (社)日本アイソトープ協会(翻訳・発行):外部放射線に対する放射線防護に用いるための換算係数、丸善(1998)
(7) (社)日本アイソトープ協会;アイソトープ法令集(I)2002年版、丸善(2003)
(8) (財)原子力安全技術センター(編):被ばく線量の測定・評価マニュアル、(2000年110月)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ