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<概要>
 緊急時環境線量情報予測システムSPEEDI)は、原子力発電所等の原子力施設において大気中への放射性物質の放出が予想される事故が万が一発生した場合に、施設周辺地域への影響を計算機により迅速に予測計算し、避難対策の策定・実施に役立つ情報をいち早く提供することを目的としている。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)を中心に昭和60年までに開発を終了し、現在(財)原子力安全技術センターにより各地方自治体を通信ネットワークで結んだ実用システムが運営されている。
<更新年月>
2003年03月   

<本文>
1.開発の経緯
 SPEEDI(スピーディ)は、緊急時環境線量情報予測システム(System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)の略称である。1979年の米国スリーマイル原子力発電所原子炉事故を契機として、万が一の原子炉事故時に対応するための諸技術の必要性が再認識され、原子力安全委員会は翌年6月「原子力発電所などの周辺の防災対策について」の報告書をまとめた。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 報告書では、原子炉事故時の緊急措置として、環境中の放射線測定および計算による被ばく線量の推定を行うことにより、防災対策の効果的な実施に資するように勧告している。これを受けて、昭和55年度よりSPEEDIの開発が日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)により開始され、一部気象研究所の協力を得て、昭和60年度に基本開発を終了した。SPEEDIの実用化のための調査・整備が昭和59年度後半より開始され、実用化事業は昭和60年後半に(財)原子力安全技術センターに引き継がれた。現在、全国15原子力サイトを対象に原子力発電所の立地する14道府県と通信回線で結んだネットワークシステムが完成し、万が一の原子炉事故に備えた体制で運用が行われている。また、チェルノブイリ事故(1986年4月)の際の経験を踏まえて、海外で発生した原子力関連事故により大気環境中に放出された放射性物質の広域拡散、地表面沈着および被ばく線量をリアルタイムで計算し、日本への影響を予測することを目的にSPEEDIの世界版WSPEEDI(Worldwide version of SPEEDI)の開発が行われている(図1参照)。
2.計算システムの概要
 SPEEDIの目的は、大気中に放出された放射性物質の拡散挙動を計算し、大気中の放射能濃度および被ばく線量を予測することにより、防災対策および緊急時モニタリングに必要な情報を迅速かつ正確に提供することにある。計算は、事故発生サイト、放射能の放出開始時刻などのデータを入力した後、気象予測・風速場計算、拡散計算、被ばく線量計算の順で行われる。データの入力、計算実行命令などのシステム操作は、コンピュータ端末装置との会話形式で行われる。計算結果(風速場、大気中濃度、地表面沈着量、空気吸収線量率、外部被ばく線量、内部被ばく線量)は、グラフィック・ディスプレイやプリンターに出力表示される(図2)。計算の実行や計算結果の表示を支援するために、原子力サイトデータ、原子炉内の種組成データ、原子力サイト周辺の地形データ、各核種のガンマ線エネルギーなどの核データに関するデータ・ベースが整備されている。WSPEEDIでは、世界中の任意の地点からの放射能の大気中放出を対象として、1,000km四方から半球の範囲内での空気中濃度分布、沈着量および線量分布の6時間先の予測計算を迅速に行う機能を持つ。
3.計算モデルの概要
 SPEEDIでは、日本の原子力施設の大部分が沿岸複雑地形上に立地していることを考慮して、地形を考慮した3次元計算モデルを用いている。すなわち、風速場計算モデルでは、サイト周辺の風観測データを最大限に活用して、山や谷などの地形効果を考慮した風を計算する。また拡散計算モデルでは、放射能を多数の粒子で模擬してモンテカルロ法で複雑地形上の放射性物質の拡散を計算する。さらに線量計算モデルでは、放出源情報、気象情報などを基にして放射性プルームの移動拡散の情報を計算し、希ガスからの外部被ばくによる線量、ヨウ素吸入による甲状腺線量などをコンピュータの画面上に図示する(図3)。
 風速場計算、拡散計算の妥当性は、野外拡散実験や風洞実験の結果と照らし合わせることで検証されている。
4.緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)で開発されたシステムをベースに、気象データ収集機能、計算結果配布機能などを追加し、実用的に運用するために整備されたものが緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(略してSPEEDIネットワークシステム)である。このネットワークは、(財)原子力安全技術センター(SPEEDIセンター)を核とし、文部科学省、原子力施設の立地する道、県および隣接する自治体、(財)日本気象協会、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)をNTTの高速データ通信回線で結ぶものである(図4)。平常時には、各地方自治体および日本気象協会から気象観測データなどが、常時SPEEDIセンターに送られている(表1)。SPEEDIセンターではこのデータを処理し、万が一の事故発生に備えている。原子炉事故が発生した場合には、文部科学省の指示によりSPEEDIセンターでSPEEDIの一連の計算が実行される。計算結果は、文部科学省および各地方自治体の表示端末に送信・表示され、緊急時における第1段階のモニタリング情報として防災対策の実施のための資料となる(表2)。計算対象範囲は、サイト周辺25km四方、100km四方の2種類が準備されている。平成15年(2003年)3月現在で、全国17原子力サイト、19道府県がこのネットワークでカバーされている(図5図6)。WSPEEDIが開発されてからは、国際情報交換ネットワークの整備として、チェルノブイリ事故のような国境を越える大規模事故による地球規模汚染発生時に、同種のシステム間で予測情報を迅速に交換し、予測結果を総合評価するとともに、関係機関やこの種のシステムを持たない国々への情報提供を行うことを目的としている(図1参照)。
<図/表>
表1 SPEEDIネットワークシステムの計算用各種入力データの一覧
表1  SPEEDIネットワークシステムの計算用各種入力データの一覧
表2 SPEEDIネットワークシステム出力図形の種類と内容
表2  SPEEDIネットワークシステム出力図形の種類と内容
図1 WSPEEDIにおけるデータの流れ図
図1  WSPEEDIにおけるデータの流れ図
図2 SPEEDIによる計算の流れ
図2  SPEEDIによる計算の流れ
図3 外部被ばく線量分布の図形表示例
図3  外部被ばく線量分布の図形表示例
図4 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDIネットワークシステム)の構成
図4  緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDIネットワークシステム)の構成
図5 SPEEDIネットワークシステム
図5  SPEEDIネットワークシステム
図6 SPEEDIネットワークシステムの構成
図6  SPEEDIネットワークシステムの構成

<関連タイトル>
放射性気体廃棄物 (09-01-02-02)
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米国TMI事故の健康への影響 (09-03-01-04)
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気象観測 (09-04-08-05)

<参考文献>
(1)茅野政道、石川裕彦、甲斐倫明ほか:SPEEDI:緊急時環境線量情報予測システム、JAERI-M 84-050、日本原子力研究所(1984年3月)
(2)K.Imai,M.Chino,H.Ishikawa,et al. : SPEEDI: A Computer Code System for the Real-time Prediction of Radiation Dose to the Public due to an AccidentalRelease,JAERI 1297,Japan Atomic Energy Research Institute (1985 October)
(3) 日本原子力学会誌、第27巻、9号、p839-850(1985)
(4) 科学技術庁:「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム、SPEEDI」(財団法人原子力安全技術センター作成パンフレット)(平成8年3月)
(5) 山澤弘実ほか:緊急時環境線量情報予測システム(世界版)WSPEEDIの開発と検証、日本原子力学会誌、39(10)、881-892(1997)
(6) 原子力安全技術センター(編):原子力防災実務者講座テキスト、1999年6月,p72-75
(7) 原子力安全技術センターSPEEDI:
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