<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 1979年3月28日にスリーマイルアイランド(TMI)原子力発電所の2号機で炉心の溶融事故が発生した。
 今回の事故で実際に被曝した線量は、事故時にプラント周辺に居たと仮定した場合の最大値で1mSv以下、5マイル以内に住んでいた人の平均予測線量は0.09mSvと推定された。この事故による健康影響はなかった。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
[1]事故の経緯
 1979年3月28日にスリーマイルアイランド(TMI)-2号機で炉心の溶融事故が発生した。事故の原因は2次系の主給水ポンプが故障して蒸気発生器への給水がストップ、補助ポンプは出口弁が閉じていたため役に立たず、このため一次冷却材の温度と圧力が上昇した。この結果原子炉は緊急停止(スクラム)したが、逃がし弁が開いたままで閉じずECCS非常用炉心冷却装置)が働いた。しかし運転員が誤ってECCSを停止したため、一次冷却材の水量が減少し、炉心が水蒸気中に露出した。そのため燃料は温度が上昇し、一部は溶融した。更に逃がし弁が開いたままだったために放射性物質を含んだ水が原子炉格納容器から流出し、補助建屋に移行した。これらの放射性物質の一部はさらに空気中に移行し、環境に放出される結果となった。
[2]放射線量と被曝線量
 事故時の放出放射性物質の主なものは放射性希ガス約370PBq、131I約0.56TBqである。そのうち液体の形でサスケハナ川に放出された放射性物質は、131Iが8.5GBq、131Iおよびトリチウム以外の核種137Csなど)が8.9GBqであった。
 事故直後原子炉が停止したためにトリチウムの発生はなくなり、トリチウムの放出量は通常時に比べて1000分の1程度になった。133Xe、85Krなどの希ガスについては、事故発生の1日半以内に260PBq、次の2日間に74PBq、次の2日間に37PBqで、以後急速に減少したが、少なくとも370PBqの放出があった。
 これら放出放射性物質による周辺公衆の外部全身被曝線量については、TLDの測定結果に基づく評価と、放出放射性物質の量を基に環境における拡散モデルを用いた計算による評価とが行われた。その結果、1979年3月28日〜4月15日の期間における半径50マイル以内の住民約216万人の集団線量の評価値として28人・Sv(TLD測定値による評価値の上限66人・Sv、下限10人・Sv)及び5人・Sv(拡散モデル計算による評価値の上限50人・Sv、下限0.5人・Sv)の値(いずれも屋外に連続していた場合)が得られた( 図1 及び 図2 参照)。
 これらの結果から集団線量の最大値は50人・Svを超えることはありそうになく、家屋の遮蔽効果などを考慮した値は、約20人・Sv(個人平均約0.01mSv)と推定されている。Dr.Tokuhata(ペンシルバニア州公衆衛生局長)によると、事故時にプラント周辺にいたと仮定した場合の被曝線量は、1mSv以下であり、また5マイル以内に住んでいた人の平均仮定線量は0.09mSvと推定された。
[3]人体への影響
 (1) ガンのリスク
 事故に起因する周辺住民の放射線被曝によるガンの発生数の増加は、全生涯を通じて、0〜2人、致死的でない癌を含めてもその発生数の増加は0〜5人と推定される( 表1 )。また、作業従事者についても識別し得るような健康への影響はないと考えられる。
 (2) 胎児の発生異常のリスク
 TMI事故での最大個人被曝線量推定値は、胎児の発生異常の閾値(約0.1Sv)以下であるので、妊婦が被曝することがあったとしても、「胚−胎児」に閾値を越える被曝があったとは考えられない(閾値以下での被曝では胎児の異常発生は起こらないとされている)。
 (3) 遺伝的障害のリスク
 極端な最悪ケースとして、夫婦のそれぞれが生殖腺に1mSv被曝し、その後に子供が生まれることを想定する。この子どもに発現する可能性のある遺伝的障害のリスクの増加は、0.00001〜0.0008%で、自然発生リスク10.7%(BEIR 3)に比して無視できる(表1)。
 (4) 甲状腺機能
 1980年、81年になると、周辺諸郡での甲状腺機能異常を持つ新生児の多発、隣接諸州での乳幼児死亡率の上昇などが見られたとする調査もあるが、その後の疫学調査では正常にみられる発生頻度の幅にある。
[4]行動学的・心理学的研究
 調査結果は若い方が、教育のある方が、既婚の方が、女性の方が、心痛があったようである。重い心痛があった人の数は事故後間もなく減ったが、TMI近くに住んでいる人々は、事故後9カ月もそれが続いたという。周辺住民の一部の人では事故後の2週間の間、以前よりもアルコール、タバコ、睡眠剤、鎮静剤などを沢山使用したが、その使用は長くは続かなかった。
<図/表>
表1 TMI事故によって、50マイル以内の施設外住民が受けると予想される、潜在的な健康への影響
表1  TMI事故によって、50マイル以内の施設外住民が受けると予想される、潜在的な健康への影響
図1 スリーマイル島原発周辺の町
図1  スリーマイル島原発周辺の町
図2 種々のTLD測定値を4通りに選択した場合に推定される集団線量
図2  種々のTLD測定値を4通りに選択した場合に推定される集団線量

<関連タイトル>
放射線の晩発性影響 (09-02-03-02)

<参考文献>
(1)「米国原子力発電所事故調査報告書」、1979年、原子力安全委員会、米国原子力発電所事故調査特別委員会
(2)「TMI事故の影響分析と今後の検討課題」、1979年 日本原子力情報センター
(3)Tokuhata氏講演会(原子力産業会議)、1989年1月26日
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ