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<概要>
 放射線源が人間の身体内部に存在することに起因する被ばく内部被ばくと呼ぶ。これは、放射性物質を含む空気、水、食物などを摂取することにより放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。放射性物質が体内に取り込まれるときの経路には、(a)経口摂取、(b)吸入摂取、(c)経皮吸収の3通りがある。日常の生活の中で受けている内部被ばくの大部分は自然放射線源によるものである。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
1.内部被ばくとは
 私たちは、放射線や放射性物質を取り扱うことを仕事としていなくても、日常の生活の中でいろいろな種類の放射線の発生源(放射線源)からの放射線を浴びている。私たちの身体がこのような放射線源からの放射線によって被ばくする場合、その放射線源が私たちの身体の内部にあるのか、あるいは外部にあるのかという点に着目して、被ばくの形式を二つに分けて取り扱うことにしている。すなわち、放射線源が身体内部に存在することに起因する被ばくを内部被ばく(internal exposure)と呼び、身体外部に放射線源があることに起因する外部被ばくと区別している。内部被ばくは体内被ばくあるいは体内照射と呼ばれる場合もある。
2.内部被ばくが起こるのは
 内部被ばくは放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。日常の生活の中で内部被ばくが起こるのは、例えば、土の中に含まれる天然の放射性物質や核実験による放射性降下物(フォールアウト)が空気や水や食べ物に混ざり、私たちがそれらを摂取することによって放射性物質を体内に取り込んだ場合である。
 放射性物質が体内に取り込まれるときの経路は次の3通りに整理されている。
(a)経口摂取:放射性物質が含まれる水や食物などを飲み込むことによりその放射性物質が体内に取り込まれる場合。
(b)吸入摂取:放射性物質が含まれる空気を吸い込むことによりその放射性物質が体内に取り込まれる場合。
(c)経皮吸収:皮膚を通して放射性物質が体内に取り込まれる場合。ただし、皮膚はほとんどの放射性物質(トリチウムを除く)に対してその侵入を防ぐことができるので、傷口がある場合を除いてこの経路による放射性物質の体内への取り込みは問題とならない。ただし、水または水蒸気状のトリチウムは皮膚を通して体内に吸収される。
 これらの経路を通じて体内に取り込まれた放射性物質は血液またはリンパ液とともに体内を移動する。体内の臓器や組織はそれぞれ特定の種類の放射性物質を沈着させやすい性質を持っている。そのため、血液やリンパ液中の放射性物質のあるものは各々特定の臓器や組織に集まる。例えば、ヨウ素131I)は甲状腺に、ストロンチウム(90Sr)は骨に集まることが知られている(表1)。
 放射性物質からの放射線は沈着臓器・組織とその周辺の臓器・組織を照射し、内部被ばくが発生する。放射性物質のうち、特定の臓器・組織に沈着するものは身体の一部に被ばくをもたらすが(部分被ばく)、トリチウム、カリウム(40K)、セシウム(137Cs)などは身体全体に分布するので全身が放射線の照射を受ける(全身均等被ばく)。また、内部被ばくではα線やβ線のように透過性の小さい放射線も含め全ての放射線が臓器・組織の照射に寄与する点で、透過性の大きいX線、γ線あるいは中性子線のみが照射に寄与する外部被ばくと様子が異なっている。特に、体内に取り込まれた放射性物質から放出された透過性の小さい放射線(α線と大部分のβ線)は、身体内を通過する間に、持っているエネルギーの大部分を周りの臓器・組織に与えるので、内部被ばく上重要になる。
 身体内の放射性物質の量は、その放射性物質の放射性崩壊による固有の半減期(物理学的半減期)と身体の代謝による半減期(生物学的半減期)とで決まる割合(実効半減期)で減少していく。例えば、137Csの物理的半減期は30.07年であるが、生物学的半減期は144日である。これはCsが比較的代謝の早い元素であることに起因する。
 各臓器・組織への放射性物質の沈着量、臓器・組織に放射線が与えるエネルギーの量、沈着している期間の長さなどに基づいて内部被ばくの大きさ、すなわち内部被ばく線量(等価線量、実効線量)が計算される。
3.生活の中の内部被ばく
 一般の人々が日常の生活の中で受けている内部被ばくは、大部分が自然放射線源によるものであり、そのうち、土の中に含まれる放射性物質に起因するものの寄与がそのほとんどを占めている。
 例えば、土の中に含まれている自然放射性物質である40K(天然のKの中に0.012%含まれる)は、米や野菜に取り込まれるが、Kは人体の必須元素であるので、非放射性のKとともに日常の食事によって経口摂取され、内部被ばくをもたらしている。成人男子では、体重1kg当り約2gのKが含まれる。40Kの同位体比は0.012%であるから、60Bq/kgに相当する。組織別吸収線量では赤色骨髄が最も多く(270μGy/年)、年間実効線量は180μSvと推定される。同じく土の中に含まれているウラン238U)から発生するポロニウム(210Po)や鉛(210Pb)は、海水に移行した後、魚や貝に蓄積し、それらを食べる際に経口摂取されて内部被ばくを引き起こす。また、土の中のウランやトリウムから発生する放射性の気体であるラドン222Rn)は、大地からしみ出して外気や室内の空気に混じり、吸入摂取による内部被ばくの原因となっている。
 222Rnに起因する内部被ばくは、世界平均では、自然放射線源による被ばく全体(約2.4mSv/年)の約5割以上(約1.3mSv/年)を占めている(表2参照)。日本では、それは約0.4mSv/年で、自然放射線源全体(図1のA,B,C,Dの合計約1.5mSv/年)の約3割である。
 ラドンは無味無臭の気体で、不活性ガスの仲間に入る。ウランやトリウムが崩壊してラジウム226Ra)に変わり、226Raがさらに崩壊することで222Rnが生れる。ラドン自身も崩壊して210Poや210Pbなどの放射性同位体を娘核種として生み出す。内部被ばくへの寄与は、ラドン自体によるものよりもこれらの娘核種によるもののほうが大きい。私たちが吸入したラドンとその娘核種は、気管・気管支と肺に内部被ばくをもたらす。
 ラドンは地球上のあらゆる地域で大地からしみ出しているが、その外気中での濃度は、土地、季節・時刻、地表からの高さ、気象条件などに依存して大きく変動することが知られている。一方、ラドンとその娘核種による私たちの被ばくの大部分は、室内の空気中のラドンに起因するものなので、室内空気中のラドン濃度について、さまざまな測定や推定が行われた。ラドンは建物の下や周辺の土からしみ出て室内に入ってくる。また、花崗岩や石膏などの建材に含まれるラジウムからも発生する。建物の換気が悪く、気密性が高いほど室内ラドン濃度が高くなり、大きな内部被ばくをもたらすことがわかっている。
 こうした自然放射線源による内部被ばくは、その線量の大きさは私たちの住んでいる場所やひとりひとりの生活様式によってそれぞれ異なるが、地球上に住んでいるかぎり避けることのできないものである。
 自然放射線源による被ばく(内部および外部被ばく)の世界における平均値を表2に示す。日本人の自然放射線源からの平均的な被ばく線量とその内訳を表3に示す。また、日本人に対して、自然放射線源の他に人工放射線源を含めた被ばく線量の平均値を図1に示す。
<図/表>
表1 核種と体内の集積部位およびその影響
表1  核種と体内の集積部位およびその影響
表2 自然放射線源による被ばくの年間実効線量(世界平均)
表2  自然放射線源による被ばくの年間実効線量(世界平均)
表3 自然放射線源からの日本人の1人あたりの年間実効線量(mSv/年)
表3  自然放射線源からの日本人の1人あたりの年間実効線量(mSv/年)
図1 日本国民の環境放射線被ばく線量
図1  日本国民の環境放射線被ばく線量

<関連タイトル>
ラドン(自然環境中の放射線源) (08-01-03-12)
放射性核種の体内移行と代謝 (09-01-04-01)
食品中の放射能 (09-01-04-03)
日常の食生活を通じて摂取される放射性核種の量 (09-01-04-05)
放射線による外部被ばく (09-01-05-01)
自然放射線による被ばく (09-01-05-04)
世界における自然放射線による放射線被ばく (09-01-05-05)
人工放射線による被ばく (09-01-05-06)
世界における人工放射線による放射線被ばく (09-01-05-07)
内部被ばくの評価 (09-04-04-04)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」報告書 1993年、実業公報社(1995)
(2)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
(3)原子力安全研究協会(編):生活環境放射線、原子力安全研究協会(1992), p.140-143
(4)渡利一夫、稲葉次郎(編):放射能と人体、研成社(1999年6月)
(5)日本アイソトープ協会:放射線取扱の基礎 3版(2001年6月)、p.224
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