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<概要>
 気象観測は、施設周辺環境モニタリングにおけるモニタリング計画の策定及びモニタリング結果の解釈と評価並びに大気中における放射性物質の拡散状態の推定等のために、重要である。
 観測は当該地域の気象特性を代表する地点を選定し、通常観測および特別観測のそれぞれの区分に応じた項目について行う。観測結果は統計処理をし、大気中放射性物質相対濃度、相対線量等の算出に使用する。
<更新年月>
2004年03月   

<本文>
(1)目的
 気象観測の主目的は、下記の3項目に集約される。
 a.風向頻度等の気象特性を把握し、適切なモニタリング地点・頻度等を決める環境モニタリング計画の策定に役立たせるため。
 b.環境モニタリング結果の解釈と評価に資する。
 c.原子炉施設等の安全解析に用いたり、平常運転時及び事故時における線量評価に際し、大気中における放射性物質の拡散状態を推定する。
(2)観測地点と観測項目
 環境モニタリング計画の策定及び環境モニタリング結果の解釈と評価にあたって、風向、風速、大気安定度等は重要な気象情報である。気象観測を行う地点の選定にあたっては、当該地域の気象特性を代表する地点及び社会環境等の条件から決定された気象特性上局地性の強い地点等を考慮することが大切である。その地点の気象特性を把握するために、露場、観測塔及びモニタリングステーション等で連続気象観測を行う。これらの気象データの収集・記録は、原子力発電所等では環境集中監視システムを用いて行っている。環境モニタリングと密接に関連している気象観測項目は、次のとおりであり、これらは、「環境放射線モニタリング指針」に定められている。
 a.風向、風速(敷地を代表する地上風の測定(10m高さ)及び排気筒を代表する高さの風の測定)
 b.日射量、放射収支量(地上約1.5m高の風速値と合わせ、大気安定度の分類に用いられる。)
 c.気温
 d.降水量
 e.積雪量
 f.感雨、感雷
(3)気象観測の区分及び観測項目
 気象観測は、通常観測と特別観測に区分して行う。通常観測は、施設設置前及び運転開始後において線量評価に直接関連する気象資料を得るために行うものであり、風向、風速、日射量、放射収支量、気温差を連続観測する。特別観測は、施設設置前の安全解析に際し、敷地及びその周辺の地域的気象特性を把握するため、通常観測の実施地点以外の地点で必要に応じて地上風を少なくとも1年間連続観測し、また、上空の気象状態を把握するためこの期間内の適切な時期に上層風及び気温差を観測する。なお、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」、「試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則」で定められているのは、風向及び風速、降雨量、大気温度の連続観測であるが、相対湿度、積雪量、海面水温等の観測をも行うことが望ましいとされている。通常観測及び特別観測に使用する気象測器の種類、測定単位、設置する高さ等を表1表2に示し、気象測器の具体例を表3に示す。
(4)気象観測法
 気象測器は、原子炉施設等の施設内の適切な場所に設けられた露場又は敷地もしくはその周辺の適切な場所に設けられた観測塔等に設置する。理想的な測器の配置例を図1に示す。観測値の欠測率は、連続した12カ月において、原則として10%以下とされており、さらに、欠測が一時期に集中することは好ましくないので、連続した30日間においては、この欠測率が30%以下になるように努めなければならないとされている。
(5)観測値の統計処理方法と使用例
 通常観測の場合には、「地上気象観測法」に従って、1時間ごとに気象資料を整理し、正時前10分間の平均値をもって当該時刻の観測値としている。大気安定度、風向及び風速のいずれかの気象要素に欠測があれば、当該時刻は欠測扱いとしており、風向別大気安定度別風速逆数の総和、風向別大気安定度別風速逆数の平均、風向別風速逆数の平均、風向出現頻度、静穏時大気安定度出現回数、月別欠測回数等の統計処理が行われる。
 このような1年間の統計資料及び毎時の気象資料は、大気拡散の基本式を用いて、平常運転時における年間平均濃度及び年間平均線量率並びに想定事故時の相対濃度(単位放出率当たりの方位別の着目地点の放射性物質の地表空気中濃度。)、相対線量(単位放出率当たりの風下線量率を表す。相対濃度と同様な考え方で、放射性雲からの線量率を算定する。)を計算するときに使用される。また、原子力防災対策上必要とされる気象資料は、施設及び周辺測定点における風向、風速及び大気安定度の季節別及び日変化等である。緊急時環境モニタリングの実施に当たって必要とされる早期の気象情報は、異常状態発生施設付近の放出地上高における風向、風速及び大気安定度の時々刻々の値である。特別観測の場合には、a)敷地内付近の地上及び上空の風の状態、b)敷地上空の気温の鉛直分布が明らかとなるような統計処理を行う。
(6)気象業務法による気象庁の検定
 気象観測器の測定精度を保持するために、気象業務法及び「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針」では、気象観測に用いる観測器は気象庁の検定対象となっているものについては検定に合格したものを使用することを義務づけている。気象業務法では、気象庁長官が検定を行う気象測器は、以下の10種類である。
  検定対象測器:1)温度計
         2)気圧計
         3)湿度計
         4)風速計
         5)日射計
         6)比重計
         7)海水ビュレット
         8)海水ピペット
         9)雨量計
         10)雪量計
<図/表>
表1 通常観測
表1  通常観測
表2 特別観測
表2  特別観測
表3 気象測器例
表3  気象測器例
図1 理想的な測器の配置例
図1  理想的な測器の配置例

<関連タイトル>
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
緊急時環境放射線モニタリング (09-04-08-04)
環境集中監視システム (09-04-03-15)
施設からの放射性物質放出による公衆の被ばく経路と評価法 (09-04-04-01)
緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI) (09-03-03-01)

<参考文献>
(1)内閣総理大臣官房原子力安全室(監修):原子力安全委員会安全指針集、改訂10版、大成出版社(2000)
(2)原子力安全委員会:原子力発電所等周辺の防災対策について(平成元年3月)
(3)気象庁:地上気象観測法(1971年1月)
(4)気象庁:気象測器検定検査指針(1977年1月)
(5)気象業務法:昭和27年法律第百六十五号
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