<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線源
<タイトル>
放射性同位元素 (08-01-03-03)

<概要>
 放射性同位元素(RI)は広く、かつ、種々の分野で利用され、人類社会に大きな恩恵を与えている。RIの利用形態を大別すれば、密封容器に封入して用いる場合(密封線源という)と非密封の状態で用いる場合とがある。小型で放射能が強い線源は「がん」の治療、数100TBqの強い線源は医療用具の滅菌処理などに利用されている。非密封状態の放射性同位元素の利用は、その行方を追及するトレーサー利用が中心である。この方面では、分子生物学や遺伝子工学の研究分野などで利用されている。また、身体に害を及ぼさない程度の極微弱な密封線源には、放射性日用品として一般家庭で使われているものもある。放射線には、α線、β線、γ線中性子線など多くの種類があり、そのエネルギーも広範囲にわたる。RIにはそれぞれ固有の寿命があり、放射線の放出形式もまた、固有である。自然界に存在するRIも利用できるが、多くは、原子炉加速器などで人工的に製造され、それぞれの利用目的に適うように加工して利用される。市販品も容易に入手できる。しかしその利用や取扱いの際は、公衆及び作業者の安全を確保するために、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律を遵守しなくてはならない。たとえ、RIの放射能濃度線量が法に定める技術基準以下であり、それが管理区域外にあったとしても、取扱い方法のいかんにより、それらが変化して技術基準を上回る恐れがある場合には、放射線障害を防止するための適切な措置を、新たに講じなければならない。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
1.はじめに
 電離放射線(以下、放射線と略す)を放出する放射性同位元素は、放射性同位体、ラジオアイソトープ(略称:RI)、もしくは便宜上単にアイソトープと記すこともあるように、種々の同義語が用いられている。また、放射性核種(略称:核種)と呼ばれることもある。その利用形態を大別すれば、密封容器に封入して用いる場合(密封線源という)と非密封の状態で用いる場合とがある。RIの用途は広く、種々の分野で利用され、人類社会に大きな恩恵を与えている。
 一般に、放射線のエネルギーは物質の化学結合エネルギーと比べると格段に高く、かつその種類や放出率ならびに寿命が、原子核の種類(核種)により定まっている。密封線源を利用する際には、このような物理的特長が生かされる。一方、RIは元素の同位体であるから、その化学的挙動はほぼ元素のそれに準ずる。非密封RIのトレーサー利用では、その化学的特長が生かされる。
 放射能や放射線は自然界にも存在し、日常我々はその環境で生活している。しかし、それらの濃度、強度があるレベル以上になると、生体に害を及ぼす。そのような害を日常の我々の生活に影響を及ぼさない程度に止めるために、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下、障害防止法と略す)が定められている。RIの利用及びその取扱いでは、障害防止法の遵守が最も重要なことである。
 一般に、放射線は物質への透過能が強い。従って、RIを安全に取扱うために遮へい体が用いられる。遮へい体は重量、容積ともに大きいため、密封線源は放射線や自然災害に対する安全対策を講じた固定施設で使用されることが多いが、目的によっては移動使用のケースもある。密封線源用のRIは、通常、金属やセラミックスの容器に(またはカプセルともいう)密封されている。密封線源の利用では電源も安定化装置も不要である。取扱い施設も小型で、安定した放射線が利用できるため、照射コストは低廉である。そこで、RIを用いた密封線源が、工業計測、非破壊検査をはじめ、がんの治療、医療用具の滅菌など各方面で広く利用されている。
 非密封RIは特定の元素の物理、化学、生物的な移動現象を追跡する追跡子(トレーサー)として絶好の材料である。放射能の検出感度は極めて高く、個々の放射線を測定できる域に達しているものがある。そのため、地表のさまざまな物質の移動や動植物のような生体内における特定の元素の移動現象の調査に大いに活用されている。
2.密封線源利用の概況
2.1 放射線利用統計
 わが国では、障害防止法に基づく放射線源の使用の許可及び届出のデータを整理した「放射線利用統計」(参考文献1)が、毎年、日本アイソトープ協会から発行されている。放射線利用統計2013によれば、日本での届出事業所数は6,703であり、そのうちの放射線発生装置のみの事業所538を除くと、3,800弱の事業所がRIを使用している。なお、大部分の事業所が密封RIの使用者であり、非密封RIのみを使用している事業所は352程度である。
 利用の形態で見ると、放射線応用計測などの、いわば小線源を用いた装備機器類の数量が最も多く、総数約12,870台ある。その大部分は、特定の分析装置(ガスクロマトグラフ)を除いて、民間産業界の工場現場等(附属研究所以外)で工業計測器(厚さ計、レベル計、密度計、水分計など)及び非破壊検査装置として使用されている。ガスクロマトグラフ装置も、試験室用の機器として特異な高感度分析機能を有するため、広い分野に普及していて総数では4,055台にも達している。
 次いで多いのが医療機関での「がん治療線源」で、比較的強い線源を用いる遠隔照射治療装置と針状の刺入用小線源とを合わせて900か所を超える病院において使用されている。
2.2 線源として用いられるRIと密封線源の構造
1)α線源
 α線源として利用可能な主なRI(核種)を表1に示す。かつては、天然のウラン壊変系列核種である226Raなど、また、半減期は短いが原子炉での製造が容易な210Poが多く用いられた。最近は、原子炉で製造された超ウラン元素の核種が市販され、普及している。いずれにしても、α線の物質透過力は非常に弱いので、線源表面を厚い被膜で覆うことができない。
2)β線源
 主なβ核種を表2に、また、そのうちの典型的な応用計測用線源を図1(a)(b)(c)に示す。β線エネルギーが低いほど物質透過力が小さいので、同図中の147Pm線源の表面被覆は銀3μm+パラジウム2μmの金属箔、85Kr線源は25〜50μmのチタン窓、90Sr/90Y線源は25μmのステンレス鋼被覆窓となっている。
3)陽電子(β)線源
 陽電子線源として利用可能な核種を表3に示す。最も多く使用されているのは22Naで、白金円盤上に22Naを含む塩を固着し、5μm厚みのチタン窓を二重に持つカプセルに溶接密封した線源が市販されている。例えば、陽電子放出型コンピュータ断層撮影のための装置(PET)の較正用線源として68Ge線源が使われている。
4)γ線、X線
 電磁波(光子ともいう)放射線源となる主な核種を表4に示す。その多くがγ線だけでなくX線をかなりの比率で放出しており、しばしば、それらX線も有効に利用できる。100keV前後より低エネルギーのγ、X線放出核種55Fe、57Coなどは、いずれもβ線や高エネルギーγ線を伴わない特徴を有す。例えば、単光子放出型コンピュータ断層撮影のための装置(SPECT)の較正用線源として57Co線源が使われている。
 一方、300〜500keVのエネルギーを放出する192Irは、半減期が74日と短いにもかかわらず、そのγ線透過特性が優れているため、工場や建設現場における溶接部などの非破壊検査に最も多く使用されている。また、75Seや169Ybも非破壊検査用線源として、国内外で使用されている。
 照射利用のための強力なγ線源としては、γ線のエネルギー及び放出率が高いことと、その生産が比較的容易なことから、もっぱら60Coが用いられている。
 図2(a)(b)に、典型的なγ線、X線の密封小線源の例を示す。一般に、ステンレスのような健全性の高いカプセルが用いられているが、(a)の場合は、低エネルギーのNp-LX線が利用できるように、ベリリウム窓が取付けられている。
5)中性子源
 RI中性子源としては、表5に示すとおり、252Cfの自発核分裂によるものと、ベリリウムにα線、γ線を照射して中性子生成核反応を利用するものの3種がある。単位放射能あたりの中性子放出数では、252Cfが圧倒的に大きく、(α,n)反応の代表例である241Am/Beに比し約2,000倍もある。(α,n)型中性子源の特徴は、半減期が長いこと、中性子のエネルギーが高いこと、また、(γ,n)反応による124Sb/Be中性子源は、γ線線量率が高いが、低エネルギーの単色中性子を放出することと、原子炉により比較的容易に中性子を発生できる利点をもつこと、などである。図3に市場で入手容易な252Cfと241Am/Beの構造等を比較して示す。前者はいかに中性子発生効率が高く、小体積で強い中性子源となるかが分かる。
3.測定器較正用線源
 放射線利用の普及・進展に伴い、各種の放射線測定機器が多数用いられるようになり、それら測定機器の特性の点検・較正等のために、目的に応じた種々の較正用線源が作られ、使用されている。その多くは、法規制外の微弱放射能線源である。放射線測定器及び応用計測器の点検較正用線源として、医療診断用ガンマカメラの測定分解能及び感度分布試験用線源、放射線管理用サーベイメータの測定効率較正線源、ゲルマニウム半導体検出器における測定効率較正線源がある。表6に示す等級別試験に合格した線源が販売されている。
4.法規制外の線源利用
 放射線障害防止法の適用を受けず、したがって、許可・届出の必要がないため上記の利用統計には含まれていないが、相当数普及し利用されている線源があった。放射性日用品と呼ばれている煙感知器、蛍光灯、グローランプ類などがその代表的なものである。蛍光灯に用いられていた点灯管用特殊電極線は。1個あたりの放射能は37kBq(1マイクロキュリー)以下の63Niまたは147Pmと非常に僅かであるが、その国内生産量は20数年間に、30億本以上も製造されていた。
 このように、放射性同位元素等の使用形態の多様化など社会環境の変化は著しく、また国際的にも、国際原子力機関(IAEA)による国際基本安全基準(BSS:Basic Safety Standard)で規定されている免除レベルの勧告等が行われている。
 このような背景のもとに、平成16年に「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(法律第167号)が改訂され、平成17年6月1日から施行された。これにより、241Amの規制が従前の3,700kBqから10kBqに変更されたため、イオン化式感知器は、放射性同位元素装置機器に該当することになった。そのため国内の煙感知器は、放射線源(241Am)を使用するイオン化式感知器として、特定設計認証を受けることができる放射性同位元素装置機器とするか、あるいは放射線源を用いない他の方式(例えば、光電式感知器)のものに順次交換し、これまで設置していた感知器は、適正に廃棄しなければならないことになった。(社)日本災害報知機工業会は、平成18年6月付で「イオン化式感知器の回収促進について」と題する書面を公開し、感知器の回収・廃棄処理を推進した。これに伴い各感知器メーカーがホームページで回収・廃棄処理の手法について案内している。
 これまで、わが国では、密封線源の場合、数量については核種に関わりなく一律に3.7MBq(100マイクロキュリー)を超え、3.7GBq以下のものの使用については届出、3.7GBqを超えるものの使用については許可が必要であったが、前述のような法律の改訂に伴い、従来、法の規制対象外で使用されていた3.7MBqを超えない密封線源を使用した放射性同位元素装備機器が、核種によっては新たに規制の対象になる。
[捕捉説明]
 免除レベルの下限とは、核種ごとに、様々な被ばく経路を設定して、通常の使用方法において放射性物質を取扱う者の被ばく線量が、年間10μSv及び事故時1mSv以下となる放射能(Bq)、放射能濃度(Bq/g)の数値基準で、規制が免除される数量となっている。
5.RI利用の原理と2、3の例証
 ここでRIの利用原理を若干示すことにする。利用にあたっては、放射線の特性が最大限に活用されている。この特性は次の4点にまとめることが出来る。
1)透過特性:放射線が物質を透過すると、その経路で物質にそのエネルギーを与えて減弱する。この減弱挙動の解析から、対象物質の特性・構造を知る。
2)励起・蛍光特性:放射線の持っているエネルギーを透過物質に与え、その物質の原子や分子を興奮(励起)状態にする。この状態から冷却するときに放出される光や電子等を利用する。
3)電離特性:上記の興奮状態が強くなると、分子鎖の切断等が起こり反応活性点をもつ電離状態になる。この活性点を化学反応に利用する。
4)RIそのものの化学的特性:RIは元素の同位体であるから、その元素で構成される原子や分子とほぼ同じ挙動をする。そこでRIから放出される放射線を検出・追跡することにより、RIの移動・集散離合挙動の解析から対象物の探査、動態挙動を調査する。
 密封線源を計測や照射に用いる際は、1)〜3)に示した特性が利用される。192Ir線源による溶接部の欠陥検査、125I線源や241Am線源を用いた骨塩定量(骨密度)検査などは、放射線の透過性を利用したものである。これに対し、60Co線源によるじゃがいもの発芽防止、植物の品種改良、がんの照射治療、医療用具の滅菌などは、励起ならびに電離作用とそれらに付随した効果が利用されている。137Cs線源や192Ir線源によるRALS(Remote After Loading System)それに約200個の60Co線源を用いるガンマナイフも同様である。
 非密封RIの利用では、RIの化学的特性をトレーサーとして利用する。核医学の例を表7に示す。
 各種がんの診断に威力を増している単光子放出型コンピュータ断層撮影(SPECT:Single Photon Emission Tomography)や陽電子放出型コンピュータ断層撮影(PET:Positron Emission Tomography)では、RIから放出されるγ線を追跡し、その強度・方向などを画像解析することでがん細胞の位置を特定する診断に用いられている。SPECTでは、単光子放出核種201Tl、99mTc等を含む医薬品が、PETでは、病院内で合成された陽電子放出核種11C、18Fなどを含む医薬品が利用されている。動植物の代謝等の研究・試験・検査では、11C、13Nが、理工学関係では物質の移動経路の探査に32P、40Kがトレーサーとして多く利用されている。非密封RIの利用では、トレーサー利用ばかりでなく放射線照射も併用するものがある。その例は治療分野で利用されているミサイル療法99mTc、89Sr、131Iなどが用いられる。トレーサー利用の例として、アクチバブルトレーサー法がある。これはサケの回遊調査、散布した農薬の移動状況やダムの水漏れなどに利用された方法である。環境中には極めて微量しか存在しない希土類元素であるEuのような非放射性同位元素(安定同位体)を分析する時点で原子炉の中性子によって放射化して放射性同位元素(放射性核種)に変換し、そのγ線を検出・分析することにより対象物の動態挙動を知ることが出来る。さらに、分子生物学や遺伝子工学の研究分野におけるトレーサー利用が増えている(図4参照)。
6.まとめ
 放射線利用においては、RIは極めて重要な材料であり、利用目的に応じて密封・非密封状態で用いられる。その利用分野は、医学・理工学関係から農林・水産関係まで、基礎的な学問の研究からわれわれの生活に密着している分野まで非常に広い。上述の利用例はほんの一部であることを断っておきたい。また、このような利用分野の発展は、放射線の検出感度が非常に向上し、1個単位の測定もできるようになった検出・解析装置の発展によるところが大きい。さらに、これらの放射線検出装置の精度を確保・確認するためにも、標準となる放射線源の開発等基準作成が活発に行われている。
(前回更新:2005年2月)
<図/表>
表1 α線源核種の特性と製造方法
表2 β線源核種の特性と製造方法
表3 陽電子線源核種の特性と製造方法
表4 γ線源核種の特性と製造方法
表5 RI中性子源の特性比較
表6 密封線源の等級別試験条件(JIS Z4821-93)
表7 臨床核医学で用いられる放射性核種の特性と製造方法
図1 β線源の構造例
図2 代表的なγ線源の構造
図3 代表的な中性子源の構造
図4 分子生物学・遺伝子工学分野におけるRIトレーサー利用の推移(東京農業大学アイソトープセンター)

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
電離放射線 (08-01-01-01)
非破壊検査用の線源 (08-01-03-11)
RI小線源によるがん治療 (08-02-02-04)
RIの工業計測機器への応用原理 (08-04-03-02)
RIの分析計測機器への応用原理 (08-04-03-03)
RIの土木分野への応用原理 (08-04-03-04)
RIの物理的作用・効果を利用した製品 (08-04-03-05)
RIの化学的作用の応用原理 (08-04-03-06)

<参考文献>
(1)文部科学省科学技術・学術政策局(監修):放射線利用統計2013、日本アイソトープ協会(2013年12月)
(2)松沢 隆嗣:放射性日用品(煙感知器、自然放射性物質利用製品を含む)、第33回理工学における同位元素研究発表会要旨集、パネル討論2-1(1996年7月)
p.191-195
(3)石榑 顕吉ほか(編):放射線応用技術ハンドブック、朝倉書店、ラジオアイソトープ線源(1990年11月)、p.59-71
(4)日本火災報知機工業会:イオン化式感知器の回収促進について、平成18年6月
(5)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ手帳 10版
(6)(社)日本原子力産業会議(編):放射線利用における最近の進歩(2000年6月)
(7)藤林 靖久:医療用放射性同位元素の製造と利用展開、新しい視点からの放射性同位元素利用、日本原子力学会誌、Vol.53 (2011) No.3 p.202-205
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