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<概要>
 法的規制値以下の量の放射性同位元素(放射性同位体ラジオアイソトープ、略称:RI)を含有し、それからの放射線の物理的作用として主として電離作用・励起作用と放射線のエネルギーを利用した製品として、静電除去器、避雷器、放電不整除去装置、煙探知器、真空計、保温装置、アイソトープ電池等について、その原理とこれまで開発された例を紹介する。中には日用品として身近な商品もある。
<更新年月>
2005年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 RIから放射されるα、β、γ線等の放射線と物質との相互作用を利用した機器、装置は多い。厚さ計、密度計、水位計、水分計等の工業用計測機器やガスクロマトグラフィや硫黄分析計等の分析計測機器に代表される放射線応用計測機器の他、放射線の化学的利用や農学・生物学・医学方面でも各種機器が開発され、利用されている。
 このような密封されたRI線源を用いた計測・検査機器以外も含めてRI装備機器(法規制上では、ガスクロマトグラフ用ECD検出器のみ)といっている。
 ここでは、放射線の工業利用機器の中で、上にあげた製品・機器以外の主として電離・励起作用と放射線のエネルギーを利用した製品をその原理を含めて紹介する。
 これらのうちには、我々の日常生活の中で使われている物品もあり、法規制外の日用品として身のまわりに存在するので安全性への考慮も必要である。
1.静電除去器
 紙、プラスチック、ゴム、合成繊維など電気的絶縁物を扱う工業では、これらの物質の接触や摩擦によって必ずというほど電荷が生じ、静電気が帯電する。これにより塵の付着やシートの絡み合い、放電による作業員への電気的ショックや場合によっては火災発生の原因にもなる。この静電気を除去するのに、放射線の電離作用で生成するイオンによって空気中で中和する方法がある。即ち放射線で帯電体の近傍の空気を電離して正、負のイオンを作ってやると、帯電体の静電気と反対の電荷を持つイオンが引きつけられ、帯電体の電荷が中和される。
 使用するRIは、電離能の大きいα線を放出する210Poが多いが、90Sr、204Tlからのβ線も用いられている。その量は1GBq(30mCi)程度である。RIの利用方法には、直接電離法とイオン吹き込み法がある。直接電離法は、接地した容器にRIを収め、帯電体に近接した電気導体との間の空間に、RIからの放射線を照射し空気等を電離させてイオンを発生させるものである。放射線の飛程から帯電体と線源の距離は、90Srで60〜70センチ、204Tlで30〜45センチ、α線で3〜6センチである。
 イオン吹き込み法は、放射線でイオン化した空気をブロアで帯電体面に吹きつける方法である。ブロアの中にRIが収納されている。効率は若干低いが、イオンの再結合の関係で有効距離は1〜2メートルである。
 20から30年前の秤量感度の高い自動精密天秤(英国製やメトラー社製等)には、静電気による誤差をなくするために50MBq程度の3Hや204Tlを内蔵したものがあった。
 図1は、静電除去器ではないが、241Amを用いた市販の非接触の静電気電位計で、携帯可能であるが生産工程で発生する静電気の電位監視装置にも使える。
2.避雷器
 避雷針は、本来雷雲が近づくと先端放電現象によって、その先端から地中電気を徐々に放電し、雷雲の電気を中和し落雷を予防するものである。しかし、雷雲中に強い電荷があるとかえって雷は避雷針に落ちやすい。
 そこで避雷針の先端の突針部の近くにRI密封線源を設置し、避雷針の近傍の空気をRIからの放射線で電離させておくことによって、雷電流を早めに接地して雷撃を弱める。使用するRIは、20MBq程度の241Am、226Raである。しかし、その効果が顕著でなく、また放射能汚染の問題もあり、1930年代世界で20万台以上使用されていたが、最近ではあまり使用されていないようである。また、雷撃時(直撃雷や誘導雷による)に電灯線や電話線に誘起する異常な高電圧による機器や装置を損傷から守ための避雷器(避雷管)にも、RIによる電離イオンでその火花間隙における放電特性を高める製品もあるが、最近の利用は若干減少傾向にある。
3.放電不整除去装置
 前項の避雷器と同様に、β線による放電管内の気体の電離を利用して、放電開始の不整を除くようにしたものである。
 グロー放電管(147Pm,2〜5kBqまたは85Kr,3kBq)、冷陰極・蛍光灯放電管、ガス放電灯、高圧保護管等に少量の85Krや3Hガスおよび63Ni、147Pm、60Co、226Raなどを内部に封入されたものがある。近年はRIを使用しない傾向にある。放電管の特性改善の例として図2のレーダー用切換放電管(241Am,74〜300kBq)がある。これは、マイクロウエーブのレーダーのように、1つのアンテナを送受信に共用する場合、送信時に受信機への過大な入力を防止するための自動安全機構で、放電の遅れや不整があってはならないものである。
 図3は、蛍光灯用グロースタータに147Pmを利用した例である。
4.煙探知器
 煙探知器は、放射線の電離作用を利用するイオン化式と光の吸収を利用する光電式等がある。図4のように、内部、外部イオン室の2つのチェンバが直列に接続されて直流電圧が印加されている。両チェンバには7〜37kBq程度の241Am箔状線源が取り付けられており、微弱な一定の電離電流が流れている。火災発生により煙が外部チェンバに侵入すると、煙の粒子によってイオン電荷の一部が持ち去られて電離電流が減少する。この変化をとらえ、受信機で煙通過を検知して、火災警報を出す。最近は図4右のように、1線源方式のものになり使用放射能が半減している。ホテル、劇場、学校その他多くのビルに取り付けられている。しかし、最近では国内はもとより外国でも放射線を利用しない方式に変わりつつある。
5.真空計
 放射線(226Raや241Amのα線または90Srなどからのβ線)による気体の電離の程度が気体の圧力によって変わるので、微小な気圧即ち真空度の測定に応用できる。
 気体の電離で生成したイオン量を測って気体分子密度や圧力を求める。ただこの場合、電離電流が気圧に比例するよう電離箱の大きさを加減し、また測定する気体の電離能によって計器の感度が異なるので、気体の種類ごとに校正をする。測定圧力範囲は広く1気圧から水銀柱10ミクロンまでのものが作られている。特に化学反応性の強い気体の圧力や他の真空計の校正用にも使用できる。
 同じような原理で風力計が開発され、微弱な風速を測定できる。(図5参照)
6.保温装置(アイソトープ熱源)
 放射線が線源自身やその周囲の物体(吸収体)の中で吸収されると、そのエネルギーは最終的には熱エネルギーとなる。例えば数百TBqの60Coの貯蔵用の鉛容器は3トンにもなるが、ガンマ線の吸収によって発生する熱は手でさわって分かる程である。
 放射能がA(TBq)のRIからエネルギーE(MeV)のα線が1個放出されるとき、全部熱になるとした場合、熱出力P(W)は、近似的に次式で見積もれる。
    P=1.6 A・E
もし、放射線がβ線ならばエネルギーEを3分の1に、γ線ならば2分の1にして概算できる。
 この発熱を利用したものに、月面に設置された観測装置の保温装置として、238Puによる15Wヒーターが開発され使用された。人工衛星で使う汚水浄化装置では、このRI熱源で汚水を蒸発乾固して浄水を作り、また147Pmによる潜水服の保温用温水循環器なども考案されている。
7.アイソトープ電池(原子力電池、アイソトープ発電器)
 RIからの放射線のエネルギーを電気エネルギーとして利用するシステムである。変換の方法には、前記の発熱から熱電変換素子で発電する方式、熱電子を放出し易い物質(エミッタ)を熱して起電力を引き出す方法のほか、次に述べる太陽電池のように半導体にRIからのβ線を照射して電力を得る等の直接発電方式もある。
 (1)直接充電式
 α、β線などの荷電粒子を直接集電極に集め両電極間に電圧を発生させる。図6(a)の例は、線源からのα線や、β線が接触線端の金属球に集められ、高い正電位に帯電するのを利用している。
 (2)半導体式
 ケイ素やゲルマニウムのp-n接合に放射線を照射して生じた電子が伝導帯に上がり、正孔は充満帯(価電子帯)に残る。これが移動してp側に正孔、n側に電子が集まることを利用したものである。(図6(b))電流増幅度が大きく、効率は2%程度まで向上しているが、放射線損傷による効率低下が問題である。
 (3)2次電子式
 β線を2次電子を出しやすい物質に当て、発生した多数の2次電子を集電極に集める方式で、出力電圧は低いが電流は大きくとれる。図7(a)の装置で約200ボルトの出力電圧を得られている。
 (4)ガス増幅方式
 β線によって電離した気体に電場をかけると電流が流れ、さらに電流増幅が行われる。図7(b)は、この電場を異種金属間(二酸化鉛とマグネシウム)の接触電位差によって与えるように工夫した電池である。
 他に物理的作用・効果を利用した計測・分析機器として、次のようなものがある。
 (1)非接触厚さ計:プラスチックシート、紙(ティッシュペーパーも含む)、布、金属箔などの厚さ測定 (2)浮遊粒子状物質自動測定装置:大気汚染測定器に組み込まれてβ線吸収法による測定 (3)携帯型液化ガス液面レベル計:船舶、ガレージ、変電所、ビルなどに設置されている消火装置内の液化炭酸ガスの検量用として開発・実用化 (4)配管密度計:既設プラント配管中の流体の密度が外部から測定 (5)γ線密度計:地盤内密度分布の測定、トンネルの掘削時の密度測定 (6)RI水分・密度計:土木工事(道路)の締め固め管理方法として日本道路公団が指定、などがある。
<図/表>
図1 集電式電位計の検出センサ(
図1  集電式電位計の検出センサ(
図2 セル型切換管の構成
図2  セル型切換管の構成
図3 蛍光灯用グロースタータの構成
図3  蛍光灯用グロースタータの構成
図4 煙探知器の構成
図4  煙探知器の構成
図5 α線風速計の構成
図5  α線風速計の構成
図6 アイソトープ電池の構成(1):直接充電式絶縁物型原子電池および半導体接合型原子電池
図6  アイソトープ電池の構成(1):直接充電式絶縁物型原子電池および半導体接合型原子電池
図7 アイソトープ電池の構成(2):2次電子型原子電池およびガス増幅式原子電池
図7  アイソトープ電池の構成(2):2次電子型原子電池およびガス増幅式原子電池

<関連タイトル>
夜光時計、蛍光灯点灯管、煙感知器など日用品への放射性同位元素の利用 (08-04-02-07)
原子力電池(アイソトープ電池) (08-04-02-08)

<参考文献>
(1)石榑顕吉ほか:放射線応用技術ハンドブック、朝倉書店(1990年)
(2)小林昌敏:放射線の工業利用、幸書房(1977年)
(3)三宅泰雄ほか:放射化学ハンドブック、朝倉書店(1966年)
(4)日本放射性同位元素協会(編):アイソトープ便覧、丸善(1962年)
(5)文部科学省科学技術・学術政策局(監):放射線利用統計2004年、日本アイソトープ協会(2004年12月)
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