<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線源
<タイトル>
非破壊検査用の線源 (08-01-03-11)

<概要>
 非破壊検査に用いる放射線にはX線γ線中性子線などがある。X線装置およびγ線源が放射線透過試験(ラジオグラフィ)用として広く使用されている。X線源としては、通常のX線管のほか、高エネルギーX線発生源として電子加速器が用いられる。γ線源としては、放射性同位体イリジウム192および同コバルト60が多く用いられ、薄肉配管等の検査にはイッテルビウム169が使用されている。中性子線は水素含有物質や核燃料物質等の、X線、γ線では検査が難しい試験体の非破壊検査にも威力を発揮する。このような場合には原子炉、粒子加速器および放射性同位体(主としてカリホルニウム252線源)を中性子源とする中性子ラジオグラフィが利用されている。
<更新年月>
2005年04月   

<本文>
1.はじめに
 工業用非破壊検査の重要な方法の一つである放射線透過試験(ラジオグラフィ)において、広く用いられている放射線は、X線、γ線および中性子線である。X線、γ線はいずれも波長の短い電磁波で、金属体を透過し、その内部の欠陥・異常を検出する能力に優れているため、主として鋼板や鋼管の溶接部などの健全性検査、食品中の異物混入検査などに用いられる。波長が短いほど(すなわち高エネルギーになるほど)透過能力が大きくなるので、検査対象物の厚さに応じて、適当なエネルギーのX線またはγ線源が選ばれる。一方、中性子線は電荷を持たない粒子線で、水素含有物質や核燃料物質等、X線、γ線では検査が難しい対象物の非破壊検査に威力を発揮するため、種々の中性子源が用途に応じて使用されている。以下に各種線源とそれらを用いる装置の概要について述べる。
2.線源および装置
2.1 X線
2.1.1 X線源
 通常の工業用X線源は、X線管、高電圧発生器および制御器からなる。X線管の陰極フィラメントを加熱して熱電子を放出させ、陰極陽極間に高電圧を与えると、電子は陰極から陽極の方向に引き付けられ加速されるため、電圧に対応した大きな運動エネルギー(例えば、電圧100kVのとき100keV)を持って陽極のターゲットに衝突する。このときエネルギーの大部分は熱に変わるが、一部はX線となって照射口から放射される。電子が衝突する場所、すなわちX線が発生する場所を焦点という。X線管の構造例を図1に示す。同図内で下方に放射されるX線束の実効焦点(実効的な線源寸法)Bが小さいほど解像度のよい鮮明なX線透過像が得られる。放射X線は、上記の電子運動エネルギーを最大値とする連続的なエネルギー分布をしている。
 これら通常のX線および後述のγ線より透過力の大きい高エネルギーX線源が、圧力容器など大型構造物の溶接検査等に必要となり、もともとは原子核物理学の研究用に開発された粒子加速器が工業分野にも応用されるようになった。近年、非破壊検査用の高エネルギーX線装置として実用化・普及にもっとも成功したのは、電子線型加速器(ライナックまたはリニアックともいう)である。すなわち、高周波の電場の変化を巧みに利用して直線状の加速管内で電子を高エネルギーになるまで加速した後、金属ターゲットに衝突させ、X線を発生させるものである。
2.1.2 X線装置
 通常型X線装置には、X線管、高電圧発生器、制御器が分離されている据置式と、X線管、高電圧発生器が一体となり、一つの容器に収納されている携帯式とがある。据置式は冷却系が別途に設けられており、長時間安定したX線が得られるが、移動使用は難しい。他方、携帯式は現場での移動使用に適しているが、長時間連続照射には適していない。管電圧は携帯式でふつう70〜300kV(鉄の数mm〜60mm厚さの検査に適用可:比重の小さい物ではその比率で厚いものに対応)、全体的には10〜450kV(いずれも交流ピーク値)の装置が使用されている。
 電子線型加速器ライナックを用いた高エネルギーX線装置(ヘッド、電源キュービクル、制御盤からなる)のヘッド部の構造例を図2に示す。中央の加速管を左から右へ加速されながら走行した高速電子の線束が、Qマグネットで集束され、ターゲット内でX線に変換され、生じた高エネルギーX線は右方に放射される。電子エネルギーで4〜12MeVの装置が多く使われている。
2.2 γ線
2.2.1 γ線源
 放射線透過試験用のγ線源としては、表1のような放射性同位元素(放射性同位体、ラジオアイソトープ、RI)がある。γ線のエネルギーが対象とする試験体に適し、かつ、できるだけ小さい実効線源寸法で、大きい放射線出力の得られる(比放射能が高い)ものが望まれ、RIとしてイリジウム192およびコバルト60が多く用いられてきた。表1のRIは、セシウム137(ウラン核分裂生成物)以外は、すべて、それぞれ同じ元素の単体金属または酸化物を原料として、原子炉内で熱中性子照射し、放射化反応によって生成されたものである。生成されたRIは金属カプセルに封入し密封線源として利用される。これらのγ線源は、一般に、前述のX線源に比し外形寸法が著しく小さく、細い管内や狭い隙間に線源を挿入できること、駆動電力が不要で移動性に富んでいることなどの特徴を有している。
 (1)イリジウム192(表1参照)
 半減期は比較的短い(73.8日)が、多数の異なるエネルギーのγ線を放出し、その実効エネルギーが400keVと適当であるため、広範囲に使用され、最も代表的な非破壊検査用γ線源として民間企業では647台(2004年3月)の検査装置に使用されている。
 (2)コバルト60(表1参照)
 γ線の実効エネルギーがイリジウム192より約3倍高いので、比較的厚物の鋼材・構造物などの検査に民間企業では143台(2004年3月)が用いられている。
 (3)イッテルビウム169(表1参照)
 近年、薄肉小口径配管溶接部等の現場、とくにX線装置が使用できない場所での検査に最適の低エネルギーγ線として開発され、その利用・普及が進んでいる。英国の再処理工場建設時に開発・使用された線源である。細管の溶接箇所が数多くある六ヶ所村の再処理工場建設現場で非破壊検査線源として採用された実績がある。
 (4)セレン75(表1参照)
 半減期がイッテルビウム169やイリジウム192に比べて長く(120日)、実効エネルギーがイッテルビウムとイリジウムの中間にあるため、欧州ではイッテルビウムよりも普及している。他のものと比べて比放射能の高い線源を製造し難いのが欠点である。
2.2.2 γ線装置
 γ線装置では、RI線源の特徴を活かし、線源を容器からフレキシブルワイヤなどで容器外の所定の照射位置まで繰り出し、全方向パノラマ照射をできるようにしたものが多い。比較的高線量の線源を用いた線源固定式の装置では、シャッターの開閉により、単一方向あるいは2π方向照射ができるようになっている。
 γ線装置の線源容器は、貯蔵容器および輸送容器を兼ねているので、遮へい能力の十分な厚さの鉛でつくられている。携帯式のものでは比重の高いタングステン合金を使用して小型・軽量化されているものが多い。その例を図3に示す。3〜5mのフレキシブルなパイプ(伝送管)を左側、5〜10mのワイヤレリーズ誘導管(操作管)を右側の各接続口に取り付け、遠隔操作により線源を照射位置まで送り出すことができる。
2.3 中性子線
2.3.1 中性子線源
 ラジオグラフィに用いる中性子源としては、原子炉、加速器およびRIがある。原子炉は最も強い中性子源であり、良質の熱中性子ビーム(冷中性子、高速中性子の場合もある)が得られるが、試験体の施設内への持ち込み、ラジオグラフ撮影後の持ち出しに制限があることが多い。加速器の場合は、陽子または重陽子ビームをベリリウムあるいはトリチウムのターゲットに衝突させ、核反応で生じた高速中性子を、通常熱中性子まで減速して使用する。中性子源としては原子炉に次いで強く、小型の装置では移動可能なものもある。RI中性子源は中性子線強度が低いが、移動性に富み、操作も簡単であるという特徴を有する。RIでは、カリホルニウム(Cf)252線源が最も強い中性子源で、中性子に随伴するγ線があまり強くない利点もあり、とくに海外において比較的多く用いられている。
2.3.2 中性子発生装置
 わが国に設置されている中性子ラジオグラフィ設備を表2に、また、図4図5に原子炉、加速器を用いた装置の代表的な例を示す。
 原子炉の場合は、いずれも研究用原子炉が利用されており、炉心部から実験孔を通して方向の揃った熱中性子ビームを引き出し使用する。解像度の良い透過像を得るには、できる限り、炉心側の孔径Dを小さくし、被写体までの距離Lを長くとる(L/Dを大きくする)ことが望ましい。また、熱中性子の全中性子に対する比率を高めるには、図4に見られるように、炉心から直接、ビーム(radial beam)を引き出さずに、その中間に重水タンクを設置しておく方法(tangential beam)が汎用される。
 加速器の場合は、強い中性子出力の得やすいサイクロトロン、ライナックなどが望ましい。わが国で業務用として実用に供されているのは、小型サイクロトロンである(表2)。図5の小型サイクロトロンは宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)のロケット部品(火工品)の検査に1983年以来、日常的に使われている。また、2006年(平成18年)度には大強度陽子加速器のビーム試験が始まる。実用的ではないが得られる強力なパルス中性子線による新たな技術開発が期待されている。
 放射性同位体では、252Cf線源利用装置が、その移動容易性を活かして、米国等で軍用航空機の機体検査などに用いられている。図6は日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)(大洗)で研究用に製作、使用されていたもので、1mg(20GBq)の252Cf線源が装備可能な、移動型熱中性子ラジオグラフィ照射装置である。アンチモン(124Sb)/ベリリウム中性子源は、強いγ線を伴い、かつ、半減期が短いため、一般には利用し難いが、イザール1原子力発電所(独)の核燃料貯蔵ポンドにおける制御棒の検査(37TBqの124Sb使用)のように、実用に供された例もある。
3.RI線源、放射線発生装置等の取扱いについて
 上記RI線源および放射線発生装置(1MeV未満のX線装置は除く)を使用するには、法令(放射線障害防止法)に基ずき、施設要件等を満たし許可を受けるとともに、安全管理の監督を行う放射線取扱主任者(RI線源の合計放射能が370GBq以下では第2種でもよいが、それを超えたときと放射線発生装置の場合は第1種免状が必要)を置かなければならない。1MeV未満のX線装置の取扱いには、別の法令(労働安全衛生法、電離放射線障害防止規則)の適用を受け、エックス線作業主任者の選任が必要とされている。
<図/表>
表1 非破壊検査に用いるγ線源
表2 わが国の中性子ラジオグラフィ設備一覧
図1 X線管の構造
図2 ライナックのヘッドの例
図3 γ線透過検査装置の例
図4 原子炉JRR−3M中性子ラジオグラフィ装置−熱中性子ラジオグラフィ装置
図5 小型サイクロトロン中性子ラジオグラフィ装置鳥瞰図
図6 252Cf熱中性子ラジオグラフィ照射装置

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<関連タイトル>
ラジオアイソトープ(RI)中性子源 (08-01-03-16)
中性子ラジオグラフィの原理と応用 (08-04-01-01)
工業用ラジオグラフィ(放射線透過試験) (08-04-02-03)
海外における中性子ラジオグラフィの利用 (08-04-02-10)

<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ便覧(改定3版)、丸善(1984)、p.597-601
(2)日本非破壊検査協会(編):非破壊検査便覧(新版)、日刊工業新聞社(1978)、p.251-269
(3)山林尚道:イッテルビウム-169線源:製造技術と利用の開発、Radioisotopes、Vol.43,No.5,296-308(1994)
(4)日本非破壊検査協会(編集、発行):放射線透過試験I, p.9(1989)
(5)藤根成勲:X.中性子ラジオグラフィ、1.中性子ラジオグラフィの概要、 Radio-isotopes,Vol.46,No.7,480-487(1997)
(6)日本原子力研究所東海研究所研究炉部(編集、発行):研究炉利用ハンドブック,p.270(1995年2月)
(7)松永浩史、戸田陽二郎、山添 智:5.小型サイクロトロンによる中性子ラジオグラフィー国産ロケットの火工品−, Radioisotopes, Vol.46,No.8,573-578(1997)
(8)和田延夫:1mg252Cf中性子源による熱中性子ラジオグラフィ、日本原子力学会誌、Vol.30,No.7,610-616(1988)
(9)L.Greim,F.Borchers,M.Greim,G.W.Schumacher: Neutron Radiography Facility in a Storage Pond of a Nuclear Power Station Equipped with Antimony-Beryllium Neutron Source,”Neutron Radiography”(World Conference on Neutron Radiography,1986,Paris),D.Reidel Publishing Co.,p.367-374(1987)
(10)日本アイソトープ協会(編):中性子による計測と利用、丸善(1999.5)、p.167
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