<本文>
1.土木分野での密封線源装備機器の利用例
土木分野で利用されている密封線源装備機器の主なものを
表1に示す。
これらに使用されている
252Cfおよび
60Co線源は、いずれも密封線源で3.7MBq以下のものである。また開発された機器は、γ線密度計、
中性子水分計を基本としており、それらの特性を利用し自動化やトレーサを併用したものも考案されている。
2.開発・実用化された機器
開発された機器の詳細を以下に述べる。
2.1 γ線密度計,中性子水分計
密度計は、γ線(
60Co)を先端に封入した線源棒を地中に所定の深さまで挿入し、地面に置かれた検出器(
GM管)に入射する透過γ線の強度から物質の密度を求める。土やコンクリートの密度を測定する計器で、
表2(a)のように分類される。
一方、水分計は、中性子線源(
252Cf)と検出部(
3He管)との間にある土中を通過してきた中性子を検出し、
速中性子が
熱中性子になる割合(または逆に速中性子のままの割合)を見ると、物質中の水素
原子核の密度が推定できることから土中の水分量を測定することができる。土の含水量を測定する計器で、
表2(b)のように分類される。
このうち表面型の透過型計器は、密度と同時に含水量も測定できるように密度計と中性子水分計と組み合わせた一体型のものが多用されている。
透過型水分計・密度計併用タイプの概略構造を
図1に示す。
透過型水分計・密度計併用タイプ(以下「透過型水分・密度計」という)は、道路工事をはじめ、フィルダム、空港、宅地造成工事などの現場に数多く使用され、その実績はこの10年間、
図2に示すように1300台以上となっている。これらの計器は最近の傾向として、
252Cf線源が利用されていて
半減期が約2.5年と短いことから、工事終了後に他の現場への転用が難しいためレンタルが好まれ、機器を購入して使用する時代からレンタルで使用する時代に移って来たと言える。
また、使用目的の変化や計測の自動化のため、従来1点ごとに線源棒を貫入して計測を行っていたものを、表面散乱型の計器の利点を見直し、締固め機械等に取り付け、移動しながら連続的に測定する測定器が開発されるようになってきた。なかには、転圧機械に取り付け管理値をインプットしておくと、転圧の時点で転圧不良箇所が判るシステムもあり、管理値を満足するまで転圧をするため不良箇所が出にくいことや、面でのほぼ全数的な検査ができること、ソイルセメントしゃ水材など孔を開けられない測定にも活躍している。
2.2 原位置土撹拌杭工法の品質管理システム
原位置土撹拌工法は、オーガ(土中掘削機)で地盤を掘削しながら掘削土と固化材とを混合・撹拌し、ソイルモルタル杭や柱列壁を構築する技術である。ソイルモルタルは地中で作成されるため、掘削土との撹拌状況の管理が難しく、大深度や
水圧の大きい場所へ土留・止水壁としての工夫が必要で、このSMW(Soil Mixing Wall)工法をより確実なものとするための技術が望まれていた。
本品質管理システムは、
図3に示すように、施工機械の掘削用オーガ先端部に、地中でのソイルモルタル中のセメント量を測定できる中性子センサと、オーガ先端部の位置を3次元に検知し、壁体の傾斜を求め横方向の連続性を管理する変位置計測装置を内蔵するとともに、データ伝送装置と表示装置から構成されている。中性子センサにより、設定した管理値に満たない箇所が判るので、不良箇所に対する再撹拌の判断がその場で可能となった。なお、中性子センサは、削孔時の安全上約30mm厚さの鉄製のオーガシャフト内に収められているため、周囲のソイルモルタル中のセメント量を精度よくキャッチできるよう
252Cf(3.7MBq)線源1本に対して多数のHe計測管を用いて補っている。
本システムにおいては、セメント量の検知がさらに容易となるよう、使用するセメントミルク中にトレーサとして、ほう素化合物を混入する方式をとっていて、トレーサの有無やその含有量から混合状況を求めている。
2.3 コンクリート天端計測機の開発
地中連続壁などの水中でコンクリートを打設の際のコンクリート天端の計測管理は、従来検尺テープを降ろしその手応えから判断する方法しかなく、測定者の個人差によるデータのばらつきが避けられなかった。本コンクリート天端計測機は、中性子水分計の原理を応用したもので、すでに実際の施工に使用し良好な結果を得ている。コンクリートと安定液では、それらに含まれる水分量の差が熱中性子の数の差で表され、これを計測することによって、打設中のコンクリートと安定液の境界面を検出する。本コンクリート天端計測機は、現場での自動計測が可能なように中性子水分計とその測定値からコンクリート打設天端に追従して、中性子水分計が自動的に昇降する昇降機並びにスケーラ(目盛)からなっている。
なお、コンクリート壁体中では、プローブ(検出器部)がコンクリートに巻き込まれないよう、塩ビ管をガイドパイプとして使用している。
2.4 シールド機地中接合のための高精度相対位置検知システム
本システムは、
図4に示すように2台のシールド機を地中で高精度に直接地中接合できるように、水平ボーリングマシンと磁気・RIの2種類のセンサとを組み合わせたシステムである。東京湾横断道路工事のように港湾や河川下の滞水した砂質地盤中を長距離にわたりトンネルを構築するケースに対して用いられるようになった。
シールドトンネル工事における立杭構築は、用地取得が困難となり既設構造物を避ける大深度化や海底トンネルなど途中に立杭を構築することができないケースも増え、これらを解消するために、宇宙船ドッキングのようにしてシールド機を直接接合するメカニカルドッキング工法の開発が進められてきた。
この地中接合工法では接合時に相互のシールド機の中心線を±10mmの精度で一致させる必要があり、従って高精度であり非破壊の検知が必要となる。
ボーリングロッド先端中央に取り付ける線源
60Coは、物質を透過する性能が高く検知しやすいγ線を用いている。線源位置の計測は、線源部背面に取り付けたターゲット(発光ダイオード)を先着シールド機内側から、相手側の後着シールド側では、γ線源の位置を70mm厚さの鉄製バルクヘッドを介してシンチレーションカウンターで±2mmの精度で探る。
この技術は、東京湾横断道路工事などで利用され±1m/mの施工精度が達成された。
2.5 石油タンク底板下間隙測定器
本装置は、石油タンクの安全性に大きく関与する基礎の不同沈下量を、石油タンクの底板上から中性子を用い非破壊的に、かつ簡単に調査するものである。
中性子を利用した間隙測定の模式図を
図5に示す。本装置は中性子源から放出されたスピードの速い速中性子が、物質層(鉄板、基礎)に入射すると、媒質中の原子(原子核)と弾性衝突して散乱を繰り返す。このうち散乱回数の少ない、つまり底板を通過し基礎表面付近で散乱して戻って来た、まだスピードの速い速中性子を測定することにより、間隙を非破壊的に求めるものである。又、同時に熱中性子を測定することにより、基礎の雨水の浸透範囲やオイルの漏洩箇所も探知できる。
某石油タンクでの定期的に行った測定事例を
図6に示す。この結果は5ヶ年前後の基礎形状と間隙分布を示すが、5年前後の基礎コンターを比較すると、5年後右半部のシェル部付近で不同沈下が進んでいることが認められる。このように、定期的に点検することにより、タンクに有害な不同沈下を起こす可能性の有無やその予測もでき、安全管理上有効な情報を入手できる。
2.6 地下水流向・流速計
地下水流向流速計は、
図7に示すように、トレーサとして熱中性子吸収断面積の大きいほう素(ほう素化合物を溶解した水溶液)を観測井内に注入し、地下水流動に伴う方位ごとのほう素の希釈状況を指向性を持たせた中性子水分計で測定することにより、地下水の流向および流速を求める装置である。
本装置の測定原理は以下のとおりである。
指向性中性子水分計で得られる計数率は、ほう素水溶液注入前ではある一定の値を示すが、注入後はほう素量に見合った量だけ計数率が低下する。このほう素水溶液は地下水の流れに伴って希釈されるため、希釈に伴って計数率が元の値に回復することになる。このとき流速が大きければ回復速度も大きく、逆に小さければ回復速度も小さくなるので、あらかじめ流速と回復速度との関係を校正しておくことにより流速が求まる。
また、観測井からの流出側では、計数率の回復速度が小さくなるので、これらの回復速度の差あるいは任意時点の計数率の平面分布より流向が求められる。
これらの原理を利用し、本装置はφ80mmの観測井1孔で、地下水の流速で1.0E
-2から1.0E
-6cm/sまでの地下水流向・流速の測定が可能であり、被圧水帯水した地盤でも測定ができる特徴や、人為的ミスがないよう計測を自動化するとともに、得られた測定データをICカードに収録し、パソコンで処理する機能も有している。ほう素は公害要因のない非放射性核種であるため、時間や場所の制約を受けることなく使用できること、また、一般の地盤には
バックグラウンドとなる含有量も少ないことなど、トレーサとして優れた性質を持っている。ほう素トレーサ法を適用することにより、従来測定困難であった地下水の流向、流速を単一井でしかも深度別の値を、原位置で簡単に、正確に求められる。
<図/表>
<関連タイトル>
ラジオアイソトープ(RI)中性子源 (08-01-03-16)
夜光時計、蛍光灯点灯管、煙感知器など日用品への放射性同位元素の利用 (08-04-02-07)
RIの工業計測機器への応用原理 (08-04-03-02)
RIの分析計測機器への応用原理 (08-04-03-03)
<参考文献>
(1)山本毅史ほか:2.土木分野での利用、 RADIOISOTOPES, Vol.34,No.1,54-58(1985.1)
(2)土弘道夫ほか:原位置撹拌杭工法の品質管理システム、基礎工、28-33(1990.2)
(3)宮本幸治ほか:シールド機地中接合のための高精度相対位置検知システムの開発、土木学会論文集、No.462/6-18,161-170(1993.3)
(4)山本毅史ほか:石油タンク底板下基礎表面形状の非破壊調査、土と基礎、33-42(1985.12)
(5)山本毅史ほか:ほう素トレーサ法を利用した単一井による地下水流動調査、土質工学会論文報告集、Vol.25,No.3,187-196(Sept.,1985)
(6)土弘道夫:単孔式地下水流向・流速計、基礎工、55-59(1996.2)
(7)今野孝昭:RI・放射線の産業利用、産業各分野におけるRI等利用例、土木・建築分野、RADIOISOTOPES,Vol.46(1997),No.8,p557-566