<本文>
原子力船「むつ」の設計主要目値を
表1 に示す。
1.「むつ」の船体の設計要目
(1)船の主要目
「むつ」は、総トン数約8,240トン、全長約130m、型幅19m、型深13.2m、最大速力約32km/h、定員総数80名(うち乗組員58名)の原子動力実験船である。航続距離は当初計画では145,000海里(1海里=1.825km)であったが、原子炉運転時間が1/3になったのに伴い、50,000海里(91250km)となった。補助動力として、補助ボイラー蒸気で主機タービンの駆動ができ、10ノット(1ノット=1.825km/h)の速力で4,000海里(7,300km)航行できる。主機が1万馬力のタービン船である。また、衝突予防警報装置、GPS、インマルサットなど最新の航海設備が備わっている。
(2)船体構造
船体構造は「海上における人命安全国際条約」および「原子力船特殊規則」に従って、水密構造区画(10区画)からなる2区画可浸構造および防火区画になっている。また、座礁および他船による衝突から原子炉容器等を守るため、一般船舶より強固な耐座礁構造および耐衝突構造になっている。
(3)原子炉機器等の配置
原子炉機器等の配置を
図1 に示す。原子炉容器、
蒸気発生器、
加圧器など原子炉関連主要部を収納する原子炉室(
原子炉格納容器)は、船体動揺による影響ができるだけ少なくなるよう、船体のほぼ中央部に配置されている。原子炉室より船首側には、非常用発電機室、補機室非常制御盤、ホウ酸注入タンク、
格納容器スプレイポンプ、格納容器サンプポンプ、充填ポンプなどを収納する原子炉補機室、高圧注水ポンプ、消防ビルジポンプ、清水ポンプなどを収納するポンプ室が配置されている。原子炉室より船尾側には、原子炉の制御を行う原子炉制御盤、機関中央制御盤などを収納する制御室、配電盤室、主給水ポンプ、補助給水ポンプ、主発電機などを収納する機関室、補助発電機などを収納する補助ボイラー室などが配置されている。
2.「むつ」原子炉の設計要目
(1)原子炉格納容器
格納容器は内径約10.0m、高さ約10.6mの略球形に近い円柱型であるが(
図2 参照)、図示されているように、炉容器(高さ5.485m、内径1.752m、最大厚さ9.8cm)、蒸気発生器(高さ5.336m、内径1.364m)2基、加圧器(高さ3.27m、内径1.092m)、一次冷却材ポンプ2基、一次遮蔽体等がこの狭い格納容器にコンパクトに配置されている。
事故時には、特に
LOCA 時対策のため、格納容器内上部に格納容器スプレイ設備が設けられ、これにより内圧上昇を押さえている。このため12kg/cm
2の耐圧設計となっている。蒸気発生器は逆U字式縦型である。一次冷却水ポンプはキャンド・モータ縦置型である。また格納容器下部には、沈船時に外圧からの格納容器圧壊を防ぐため圧力平衡弁(2基)が設けられており、差圧2kg/cm
2で開閉する。
(2)原子炉容器および炉心
原子炉容器内には(
図3 参照)、
燃料集合体、十字型
制御棒、
中性子源(
252Cf、0.150
Ci×2)、熱電対等が配置されている(
図4 の右図参照)。原子炉容器上部にはラック・アンド・ピニオン方式の制御棒駆動装置(12基)が取り付けられている。原子炉スクラム時には電磁クラッチが開放され、制御棒はスプリングの力で炉心へ押込まれる。制御棒の
中性子吸収体は Ag-In-Cd合金である。「むつ」は舶用炉なので、船体沈没時において海水との置換による
反応度事故を防止するため、これらの制御棒のみで原子炉の反応度制御を行う(発電炉PWRのようにボロン水を用いるケミカル・シム反応度制御は用いてない)。
燃料は(
図4の左図参照)、濃縮度3.24%の12燃料集合体と4.44%の20燃料集合体とで構成され、炉心外側の方が濃縮度が高い。炉出力(中性子)検出器は炉心外の下部一次遮蔽タンク内に配置されている。それぞれの燃料集合体は112燃料棒と9バーナブル・ポイズン棒とからなり、11x11の配列である。炉心の等価直径は1.150m、実効高さは1.04mである。
(3)原子炉冷却設備
一次冷却設備では(
図5 参照)、2基の一次冷却水ループ(270℃、110kg/cm
2)により、炉心で発生した熱(36MWt)を取り出して、蒸気発生器を介して二次冷却水に熱を与える。ループには炉容器に一次冷却水をおくるための一次冷却水ポンプ(900t/h×2)、一次冷却水圧力を制御する加圧器のサ−ジ管、一次冷却水の保有量および水質を管理する体積制御系の配管、非常用炉心冷却設備の注入配管等が設備されている。
二次冷却(蒸気タービン)設備では(
図6 参照)、蒸気発生器二次側で発生した蒸気(250℃、40kg/cm
2)あるいは補助ボイラーで発生した蒸気を主機(推進用)タービン、主発電気タービン、主給水タービン等に配送し働いたのち、
復水器(主機タービン/主復水器、主発電機タービン/補助復水器)で液体に戻され、デアレーターを経て主給水ポンプで送水され、高圧給水加熱器で暖められて(150℃)蒸気発生器へ戻される。なお、原子炉蒸気が船内電源、船内暖房、厨房等に廻され、まだ主機タービンにまで廻らない程度の低負荷を特に基底負荷(約20%炉出力)と呼んでいる。
(4)原子炉遮蔽設備
原子炉遮蔽設備(
図7 参照)は、原子炉停止一日後には格納容器に入れるように設計された一次遮蔽、および平常運転時において二次遮蔽の外では通常の立ち入りができるように設計された二次遮蔽とから成っている。遮蔽改修では特に中性子遮蔽に重きをおいた設計がなされた。
なお、遮蔽設計においては、
管理区域内では下に示す設計基準線量当量率を、
管理区域の遮蔽設計基準線量当量率
区 分 基準線量当量率
第 I区分:週168時間以内立ち入り ≦ 5.7μSv/h
第II区分:週63時間以内立ち入り ≦13.7μSv/h
第III区分:通常は立ち入り不用のところ >13.7μSv/h
周辺監視区域内では1.7μSv/h以下の設計基準線量当量率を満足するよう設計されている。
<図/表>
<関連タイトル>
原子力船「むつ」開発の概要 (07-04-01-01)
原子力船「むつ」の安全性 (07-04-02-01)
原子力船「むつ」実験航海の成果 (07-04-02-02)
原子力船「むつ」の解役と後利用計画 (07-04-03-01)
原子力船の法体系 (11-02-02-04)
<参考文献>
(1) 日本原子力研究所原子力船部門(編):原子力船「むつ」の軌跡−研究開発の現状と今後の展開−、原子力工業、Vol.38,No.4(1992)
(2) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」開発のあゆみ、平成4年2月
(3) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」の成果、平成4年2月
(4) 日本原子力研究所:原子力船研究開発の現状1992、平成4年2月
(5) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」の解役の概要と安全性、平成4年3月
(6) 日本原子力研究所:原子力船研究開発の現状1993、平成5年3月
(7) 日本原子力研究所:原子力船「むつ」の成果<補遺>、平成5年3月