<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 高レベル放射性廃棄物に含まれるマイナーアクチノイド(MA)などは、アルファ線を放出し、放射性毒性が強い。これら長寿命の放射性核種を、非放射性あるいは短寿命の核種に変換することを核変換処理という。原子炉による核変換処理では、中性子による核分裂反応や捕獲反応を利用して核変換を起こさせる。専焼高速炉や酸化物燃料高速増殖炉金属燃料高速増殖炉を用いた核変換処理方法が、旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、旧核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)、電力中央研究所においてオメガ計画に基づいて進められていた。現在、高速炉を利用する核変換処理については、日本原子力研究開発機構が中心になって研究を行っている。
<更新年月>
2007年09月   

<本文>
 1.核変換処理の意義と原理
 使用済燃料再処理に伴って発生する高レベル放射性廃棄物には、アルファ線を放出し、放射性毒性が強く、寿命の長いマイナーアクチノイドまたはマイナーアクチニドと総称されるMA(英語Minor Actinide);237Np:半減期214万年、241Am:半減期433年、243Am:半減期7380年、245Cm:半減期8500年、246Cm:半減期4730年等やガンマ線を放出する長寿命の核分裂生成物129I、99Tc等)、発熱の大きい核分裂生成物(90Sr、137Cs)が含まれている。これらの核種をなんらかの方法を用いて、非放射性の核種あるいはより寿命の短い核種に変換することができれば、深地層に最終処分する高レベル廃棄物の量を減らすことができ、地層処分が必要とする超長期の隔離期間を著しく短縮することが可能になる。これら長寿命で有害な放射性核種を非放射性核種あるいは短寿命核種に変換することを核変換処理という。核変換処理に原子炉を用いる方法と加速器を用いる方法が研究対象となっている。
 原子炉による核変換処理では、炉心内の核分裂連鎖反応で大量に発生している中性子を利用する。原子炉内の中性子エネルギーは比較的低いため、(n,2n)などの核反応は利用できず、核変換処理に用いることのできる主な核反応は中性子捕獲および核分裂である。MAの消滅の場合には核分裂が利用でき、これは多量のエネルギーを発生するのでエネルギー利用の点から有利である。
 主なMA核種は、700keV以上の高速中性子によって直接核分裂する。一方、熱中性子に対しては、中性子捕獲とベータ壊変を何回か繰り返した後に核分裂する。この点から高速炉の方が熱中性子炉より効率的に核変換処理ができ、また、より高次の長寿命核種ができにくいという利点がある(表1参照)。表1において、専焼炉M-ABRとP-ABRはMAを主とする燃料であるため、MAの燃焼率は大きいが、まだ概念設計段階であり、発電炉利用に比べて開発課題は多い。長寿命核分裂生成物の129Iおよび99Tcは熱中性子捕獲断面積が比較的大きので捕獲反応によってそれぞれ安定なルテニウムおよびキセノンに変換することができる。高速炉や加速器炉で発生する余剰の高速中性子を減速材を用いて軟らかくした高中性子束領域を利用するのが有望である。熱中性子炉を用いる場合は、余剰中性子が少ないため変換量に制限がある。90Srおよび137Csは中性子捕獲断面積が小さいことなどから、中性子による核変換処理を効率的に行うには技術的課題が多い。
2.核変換処理の研究開発
 核変換処理の研究開発の歴史は古く、1960年代に遡ることができる。欧米諸国では、1970年代初めから10数年間にわたって精力的な研究開発が進められた。これらの成果をもとに、1980年代初めに群分離・核変換処理のコスト/ベネフィット評価が行われたが、結果は消極的なものとなり、ほとんどの研究開発は中止された。
 一方、わが国では日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会)が「放射能クローズドシステムの構想」を1973年に提出し、長寿命核種の分離と核変換処理の研究開発の重要性を指摘した。この提言を受けて、わが国の原子力研究開発機関において基礎研究として群分離・核変換処理の研究が進められてきた。旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では1974年頃からMAを燃料とする専焼高速炉に関する概念の構築を行ってきた。1987年に、「原子力開発利用長期計画」に沿ってとりまとめられた「群分離・消滅処理研究開発長期計画」が原子力委員会で了承されて、新たにオメガ(OMEGA)計画[Options Making Extra Gains from Actinides and Fission Products]として群分離・核変換処理の研究が推進されることとなった。この計画では、群分離・核変換処理技術は高レベル放射性廃棄物の最終処分の負担の低減化、資源の有効利用のみならず現在の再処理プロセスや高レベル廃棄物の処理・貯蔵・処分システムを高度化し、積極的な安全性の向上に資するものと位置付けられており、また原子力技術開発に関連する創造的・革新的要素を含んでいることから、他分野への波及効果も期待されている。
 1990年から、わが国の提案によってOECD OECD/NEAのもとで群分離・核変換処理に関する国際情報交換計画が開始された。これを契機として、群分離・核変換処理に対する世界各国の関心が高まり、IAEAおよびCEC(ヨーロッパ共同体委員会)のもとにおいても国際協力が開始された。
 現在、ECではEUROTRANプロジェクトのもとに群分離・核変換処理の基礎研究が行われている。一方、米国では国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想を打ち上げている。これは、米、仏、英、露、中、日、(将来はインド)の6か国が国際的リーダシップのもとに、世界のエネルギー利用のクリーン化と核拡散リスク低減化を目指して、先進サイクル技術でより多くのエネルギー再生と処分廃棄物削減を達成しようとするものである。わが国も図1に示すような観点のもとに協力を進めている。
3.専焼高速炉による核変換処理
 核変換処理のための原子炉として、軽水炉や高速増殖炉などの発電炉も考えられるが、MAのリサイクルによる炉心特性の変化や燃料サイクルへの影響から十分に効率的な核変換処理を図ることは困難である。旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)は核変換処理を主目的とする専焼炉の概念を提案している。核変換処理専用のシステムを用いることによって、通常の核燃料サイクルと分離・核変換処理燃料サイクルを階層的に構成できるので、発電炉を含む通常の燃料サイクルに影響を与えることがなく、またMAを群分離・核変換処理燃料サイクル中に閉じ込めることができる(図2参照)。効率的な核変換処理を行うためには、MAを燃料の主成分とし、炉心の中性子の平均エネルギーが高く、出力密度が大きくなければならない。このような専焼高速炉として、ナトリウム冷却金属燃料専焼炉およびヘリウム冷却窒化物粒子燃料専焼炉(図3参照)の2つの概念が検討された。熱出力1000MWtの専焼高速炉1基で、電気出力1000MWeの軽水炉13基程度から発生するMAを核変換処理できる。
4.酸化物燃料高速増殖炉による核変換処理
 日本原子力研究開発機構では、「常陽」、「もんじゅ」の経験を生かし、ナトリウム冷却酸化物燃料高速増殖炉を用いてMA燃焼の基本特性、MA燃料の物性データ(融点、熱伝導度等)、MA燃料の装荷法(均質装荷、非均質装荷、ブランケット装荷、ハイブリット装荷等)、希土類核種混入の影響、MAサイクルの影響、MA燃焼高速炉の炉心概念の研究を進めている。ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料中に5%程度のMAを均一に装荷すると、炉心特性に大きな影響を与えずに核変換処理が可能であり、1000MWeの酸化物燃料高速炉で1000MWeの軽水炉6基程度から発生するMAを核変換処理できるとされている。この方式は、現在の原子炉技術および核燃料サイクル技術の延長線上にあるので、開発要素が少ないという利点がある。
5.金属燃料高速増殖炉による核変換処理
 電力中央研究所は、高温冶金再処理およびナトリウム冷却金属燃料高速炉を用いたMA核変換処理の研究を米国ロックウェル・インターナショナル社、アルゴンヌ国立研究所やCEC超ウラン元素研究所と協力して進めている(図4参照)。ウラン−プルトニウム−ジルコニウム合金燃料中に5%のMAを装荷すると、1000MWeの金属燃料高速炉で1000MWeの軽水炉6基程度から生じるMAを核変換できるとされている。金属燃料を用いることにより、燃料サイクルがコンパクトになるため、コストの低減が期待できるとともに、燃料サイクル施設と原子炉の併設(コロケーション)が可能になる。
6.実用化戦略調査研究
 高速増殖炉サイクル(またはFBRサイクル:高速増殖炉、再処理および燃料製造の整合性の取れたシステムを指す)を将来の主要なエネルギー供給源として確立する技術体系を整備することを目的として、旧核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が中心となってオールジャパン体制で1999年7月から調査研究を開始した。実用化候補概念の抽出評価にあたっては、プラント設計において技術的成立性および運転保守補修性ともに、安全性、経済性、資源有効利用性、環境負荷低減性、核拡散抵抗性の5つの目標を設定して検討が行われている(図5参照)。長寿命放射性核種の核変換処理は、環境負荷低減性の評価の下に研究されており、さらにもんじゅ炉心集合体を利用してMA照射試験概念(図6参照)が検討されている。また、上記4.5.のほか窒化物燃料高速炉についても検討が進められている。
(前回更新2001年11月)
<図/表>
表1 原子炉によるMA核変換処理性能
表1  原子炉によるMA核変換処理性能
図1 GNEP構想への日本の協力
図1  GNEP構想への日本の協力
図2 階層燃料サイクルの概念
図2  階層燃料サイクルの概念
図3 ヘリウム冷却専焼炉の粒子層燃料要素
図3  ヘリウム冷却専焼炉の粒子層燃料要素
図4 金属燃料専焼高速炉の概念図
図4  金属燃料専焼高速炉の概念図
図5 高速増殖炉サイクルの5つの開発目標
図5  高速増殖炉サイクルの5つの開発目標
図6 MA照射試験集合体の装荷パターン
図6  MA照射試験集合体の装荷パターン

<関連タイトル>
加速器によるTRU核変換処理 (07-02-01-03)
高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-03)

<参考文献>
(1)「分離変換工学」専門委員会:総説 分離変換工学 日本原子力学会(2004年2月)
(2)野田宏 他:高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズIIの2001年度成果、サイクル機構技報、No.16(2002年9月)
(3)尾上彰 他:高速増殖炉の要素技術開発(3)−FBR経済性向上のための検査技術及びMA燃焼技術の検討−、サイクル機構技報、No.24 別冊(2004年11月)
(4)日本原子力研究所(編集発行):たゆまざる探求の軌跡、研究活動と成果1995(1995年7月)、p.81
(5)向山武彦:アクチニド燃焼用高速炉、日本原子力学会誌、Vol.35、No.5、33(1993)
(6)若林利男:高速炉および加速器による核変換研究の現状、動燃技報、No.82(1992)
(7)向山武彦:長半減期放射性廃棄物の消滅処理、エネルギーレビュー、14(2)8(1994)
(8)井上 正:超ウラン元素の消滅処理への挑戦、エネルギー、26(1)、40(1992)
(9)八田 洋:長半減期核種の分離消滅処理、エネルギー、26(3)、76(1993)
(10)T.Mukaiyama et al.:”Minor Actinide Transmutation Using Minor Actinide Burner Reactors.”Proc.FR’91,Kyoto,28.Oct.-1.Nov.(1991)
(11)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力−原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画、大蔵省印刷局(1994年8月)
(12)文部科学省研究開発局:GNEPの概要及び文部科学省の協力について(平成19年1月29日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/seisaku/siryo/seisaku11/siryo32.pdf、5/10
(13)(独)日本原子力研究開発機構、日本原子力発電株式会社:高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究、フェーズII最終報告書の概要(2006年3月)、8/172
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ