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<概要>
 高レベル放射性廃棄物等の処分に係る安全研究については、原子力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会昭和60年8月に策定した「高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画」に基づき、昭和62年度から平成2年度まで推進されてきたところである。その後の研究開発の成果を踏まえ、本安全研究は引き続き長期的観点に立って計画的かつ総合的に推進する必要があることから、同専門部会は、各機関で実施されている安全研究の進展状況を調査し、「高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度)」を策定した。本文にその要約を示す。
 原子力安全委員会は、この年次計画について検討した結果、高レベル放射性廃棄物等安全研究は、今後この計画にそって積極的に進められることが適当であるとしている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1 年次報告策定の基本方針
1.1 安全研究の考え方
(1) 我が国では、高レベル放射性廃棄物の処分については、安定な形に固化、冷却した後数百mより深い安定な地層中に処分(地層処分)する事を基本方針としている。
 高レベル放射性廃棄物は、放射能の高い放射性核種の他に、放射能は低いが半減期が長い放射性核種も含んでおり、高いレベルの放射能と長期に残存する放射能のそれぞれに対する安全確保の方策が必要であるが、その安全確保に必要な基本的要件を「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の重点項目とその進め方」(平成元年12月原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会策定)では次の3点としている。
 (a)廃棄物と地下水との接触の可能性を十分低く制限しておくこと、(b)廃棄物が地下水と接触しても、廃棄物中の放射性核種が溶出しにくいように、かつ埋設場所から移動しにくいようにしておくこと、(c)放射性核種が埋設場所から移動したとしても、それが生活圏に到り有為な環境影響を及ぼさないことを確認しておくこと。
 これまでの内外の研究開発の結果、人工バリアオーバーパック、緩衝材等)と天然バリア(地層)を組み合わせた多重バリアシステムにより安全確保を図ることについて技術的な見通しがあり、我が国においても研究開発が鋭意進められているところである。
 従来より安全研究においては、基準及び指針の策定、整備のための客観的、合理的な資料の蓄積を図り、また、安全評価における裕度の定量的把握を目指して研究を推進しているところであるが、今後ともこれらの安全研究をより一層強力に推進していくとともに、安全評価シナリオの策定、評価手法の確立、安全基準の策定等に資するための研究を幅広く進めていくことが極めて重要である。
(2) 安全研究は、将来的には安全確保のための諸技術や処分施設の設計評価等に反映されるものであるが、本安全研究年次計画の策定に当たっては、現在の研究開発の進歩状況に鑑み、現段階で推進していくべき安全研究の内容等について検討した。
1.2 安全研究として取り組むべき内容
(1) 地層処分は、極めて長期にわたる放射能による影響を評価するという従来にない課題を有することから、この課題に関し、長期的な安全の確保方策、安全評価のあり方等の基本的な考え方について研究を進める。
(2) 地層処分の安全性の評価では、気候、地質環境、社会環境等の諸条件の長期的変化の予測が必要であることから、これらに対応して評価すべき事象の範囲及びその時間的な推移を考察し、安全性の評価の観点から想定すべきシナリオについて研究するとともに、長期予測に伴う不確実性を評価する研究を進める。また、地層処分の安全性評価の信憑性を高め、信頼性を確保することを目的として、評価に用いられるモデル及びデータの科学的妥当性を示すための研究を進める。
(3) 多重バリアシステムの個別の諸機能を定量的に明らかにするため人工バリア、天然バリア、地質環境等に関する研究をそれぞれ進める。

2.安全研究年次計画
2.1 研究の重点項目
(1) 安全評価の考え方、評価基準に係るものについては、諸外国及び国際機関において検討が進められている長期的な安全確保の方策、安全評価の考え方等について現状を把握するための調査研究を行ってきたが、今後は、これらの調査研究及び我が国の諸条件に関する基本的考え方についての研究を進めるとともに、安全評価のシナリオ、安全評価に含まれる不確実性、安全評価の信頼性向上等に関する研究を進める必要がある。
 人工バリアに係るものについては、人工バリアを構成する各要素に関する研究を行い、各要素の性能把握に必要な知見が集積されつつあり、天然バリアに係るものについては、地層を構成する岩石と地下水の相互作用、核種の吸着特性等の研究を行い、地層の核種移行遅延機能の評価に必要な知見が集積されつつある。今後は、具体的な研究対象について研究を継続するとともに、人工バリア及び天然バリアから構成される多重バリアシステムの安全評価に関する総合的な研究を推進する必要がある。
 総合安全評価に係るものについては、処分システムを構成する各要素における放射性核種の挙動を評価する部分的な評価モデルの研究で成果が得られたが、今後は、部分的な評価モデルを総合化し、処分システム全体の安全性を評価するための総合安全評価手法の研究を進める必要がある。
 TRU廃棄物に係るものについては、我が国でのTRU廃棄物発生予測及び処分方策策定の課題が抽出されつつあり、今後はTRU廃棄物の区分に応じた処分システムについて、安全確保方策に関する基本的研究、安全評価手法等に関する研究を進める必要がある。
(2) 本安全研究年次計画においては、これまでの研究成果を踏まえ、高レベル放射性廃棄物等の処分の安全性を評価する観点から、安全評価に関する考え方、評価基準等の策定に向けた研究に重点をおくこととし、これらの研究に必要な科学的知見を集積するため多重バリア、総合安全評価手法等に関する研究を実施するものとする。
2.2 研究の概要
 本安全研究年次計画では、以下の4分野に区分して研究項目を分類した( 表1-1 および 表1-2 参照)。
(a)地層処分の安全性に関する基本的な研究
(b)多重バリアシステムの安全評価に関する研究
(c)総合安全評価手法の研究
(d)TRU廃棄物に関する研究
 各分野別の研究の概要等は、次の通りである。
(1) 地層処分の安全性に関する基本的な研究
 高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全性に関する基本的な研究では、地層処分の安全性に係る評価基準、評価期間、評価手法等の基本的考え方、判断基準等を確立するための研究を行う。また、地層処分は長期にわたって残留する放射能に対する安全を確保する必要があることから、将来世代への影響と負担、管理のあり方等について調査研究を行い、安全確保方策に係る基本的考え方を取りまとめる。
 安全評価のあり方についても、長期的な安全を確保するための、評価シナリオ、評価モデル等について研究をする必要がある。
 また、長期的な自然環境、社会環境等の諸条件の変化に伴う不確実性を考慮してこれらの点について調査・解析を行い、評価基準の設定手法として取りまとめ、さらに、安全評価の科学的妥当性を示し信頼性を向上させるため、評価に用いる手法及びデータの品質保障に関する研究を行う。
(2) 多重バリアシステムの安全評価に関する研究
 多重バリアシステムは、人工バリア及び天然バリアの有する種々の機能を有機的に組み合わせて地層処分の安全性を確保しようとするものである。本研究では、処分システムに具備された技術的安全確保方策の評価及びシステムの安全評価に必要な知見を集積することを目的に、人工バリア及び天然バリアの特性並びにその経時変化、各バリア要素の有する放射性核種の閉じこめ機能、移行遅延機能等に関するデータを取得するとともに、それらの機能の解明を進める。
 人工バリアについては、処分場で想定される環境条件下で、ガラス固化体、オーバーパック、緩衝材等の各構成要素について放射性核種の閉じこめ機能に関する試験研究を行うとともに、人工バリアシステムでの試験を行い、人工バリアからの核種漏洩量の評価に必要な知見を集積する。また、人工バリア材料について、ナチュラルアナログ研究を行い、それらの長期的な挙動を明らかにする。
 天然バリアについては、原位置試験或いは処分場の環境条件を模擬した室内実験により、結晶質岩及び堆積岩の地層を対象に、地下水の水理特性、地下水の地球化学特性、放射性核種の移行特性等に関する研究を行うとともに、ナチュラルアナログ研究を行い、地層中での放射性核種の移行挙動及び移行に関する影響因子を解明し、地層の放射性核種移行遅延機能の評価に必要な知見を集積する。
 また岩盤の安定性、地層処分施設の耐震挙動等の岩盤力学的研究を行うと共に、地殻変動や低確率天然現象に関する調査研究を行い、地層環境の長期的安全性の評価に資する。
 原位置試験の実験上の制約を克服するため、環境条件を模擬した室内実験で原位置試験の結果をどの程度再現できるかについて定量的な検討を行う。
(3) 総合安全評価手法の研究
 総合安全評価手法の研究では、高レベル放射性廃棄物の地層処分に伴う被曝線量を総合的に評価する手法(計算コードシステムとデータベース)を開発し、安全確保方策及び評価基準の設定のための定量的解析を試みるとともに、処分システムの安全性及び技術的安全確保方策の評価に資する。
 決定論的な総合安全評価手法については、廃棄物から人間環境に至る放射性核種の移行経路に介在する可能性のある種々の要素について、個々に放射性核種の移行を評価するモデルを作成し、これらを安全評価で対象とするシナリオに即して連結し、計算コードシステムとして総合化する。さらに、安全評価に必要なモデルパラメータ値を収集・解析し、データベースとしてまとめる。
 確率論的安全評価手法については、評価モデル及びパラメータ値に起因する不確かさ及び評価シナリオに伴う不確かさを定量的に評価するための手法と、評価モデルを連結した計算コードシステムを開発する。
(4) TRU廃棄物に関する研究
 TRU廃棄物に関する研究では、TRU廃棄物の特性及び特性に応じた安全確保方策に関する基本的研究、また、TRU廃棄物の処分に係る指針・基準の策定及び安全評価手法に資するための研究を行う。
2.3 具体的な安全研究の課題(省略,表1-1および表1-2参照)
<図/表>
表1-1 高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画線表(その1)
表1-1  高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画線表(その1)
表1-2 高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画線表(その2)
表1-2  高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画線表(その2)

<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
原子力施設等安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-01)
低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画(平成6年度〜平成10年度) (10-03-01-02)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会:原子力安全委員会月報 Vol.13,No.10 1990(通巻第145号)
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