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1.放射能ソースタームの評価
”放射能ソースターム”とは
原子力施設からの放出される放射能発生源のことであり、
被ばく線量を評価する際に必要となる値であり、いろいろな使い方がされる。一般には環境中の移行経路の始点における入力値として、施設から放出される
放射性核種の種類その量を意味する。再処理施設の場合、平常時及び事故時において排気筒または廃液放出口から放出される放射性核種が対象となり得る。一方、放射能ソースタームの用語は、原子炉施設との横並びから、事故時における被ばく線量評価の入力値としてより大きな関心が払われる。再処理施設では排気筒より放出される気体または浮遊性の放射性核種が重要となる。
このような放射能ソースタームは、設計規準事象や立地評価事故のような事象評価の目的に応じて想定される評価シナリオと密接に関連している。すなわち、事象の種類、事象の発生場所における核種存在量、施設内での核種移行経路、事象による放出エネルギーが及ぼすHEPAフィルター等の影響緩和システムへの効果、及びその際に期待できる閉じ込め機能(HEPAフィルターの
除染係数等)を考慮して定められる。再処理施設では、施設の設計内容を吟味しつつケースバイケースの判断を下しながら決定するという手順が取られる。この点は
安全設計の考え方がある程度標準化されている軽水炉施設と異なる特徴の一つである。これは、施設設計内容の多様性、
放射線源の広範囲な分布と事故事象の多様性等に見られる再処理施設の安全の特質を反映したものである。
したがって、再処理施設におけるソースタームの決定は、どのような工程でどのような事象を想定するかという事象の選定と事象シナリオの検討が先ず必要となる。評価の目的にもよるが、再処理施設では、
臨界、火災、爆発、
放射性物質の漏えい、
使用済燃料集合体の取り扱い失敗等が重要視され、これらは、主として、使用済燃料の受け入れ・貯蔵工程、せん断、溶解等の
前処理工程、分離・精製工程、廃棄物処理工程等の高濃度、または大量の放射性物質を取り扱う工程において想定される場合が一般的である。これらの検討において考慮すべき基本的事項は、軽水炉使用済燃料再処理施設に対して原子力安全委員会が定めた「
再処理施設安全審査指針」に示されているが、上に述べたように、施設の設計内容を考慮しつつケースバイケースの検討が必要である。
選定された事象に対するソースターム設定の一般的な流れを
図1 に示す。想定事象の内容に応じた放射能インベントリーの評価、移行経路の想定に対応した換気系への移行量、および換気系閉じ込め機能(除染係数)の評価が基本的な手順である。前述したように、放出経路として排気筒及び廃液放出口があるが、再処理施設の構造、運転様式等から後者の放出経路にかかわる事故的事象の発生の可能性は小さく、あまり重要ではない。
”放射能インベントリー”としては、機器の内蔵放射能量や期待し得る機器の閉じ込め機能を保守的に評価することにより、安全側の代表核種や数値が設定される。臨界事象では全核分裂数が、また、火災、爆発、漏えい等の事象では機器外へ漏出する放射能量(Bq)が一般に用いられる。
一方、後述する閉じ込め系への影響評価の観点から、水素等の爆発性物質の量、溶媒等の可燃物質の量等の存在量も重要であり、これらはソースターム評価にかかわりのあるエネルギーインベントリーと考えることができる。
”換気系への移行率”とは、上記のインベントリーのうち換気系に移行する放射性物質の割合を意味する。この想定は、気体、微粒子化した液体または粉体等(
エアロゾル)の放射性物質の化学形や物性をもとに、保守的な評価モデルを設定して想定される。最も代表的なモデルは浮遊率モデルであり、事象が発生した場所の空気中に含まれるエアロゾルの重量分率を想定し、換気系へ移行する空気量を乗じることにより移行量が定められる。空気中エアロゾルの重量濃度は、事象の種類や評価の対象となる物質の種類によって異なり、0.1〜100mg/m
3以上に及ぶ広範囲の値が用いられている。
再処理施設において最も重要な”影響緩和機能”は、換気系におけるHEPAフィルターによるエアロゾル等の除去機能である。換気系ではないが、事象によってはセル、
グローブボックスまたは部屋等による放射性物質の閉じ込め機能が考慮される場合がある。事故時において期待できるこれら換気系等の影響緩和機能の大きさについては、事象の種類、前述したエネルギーインベントリー、関連する放射性物質の性状をもとに、保守的な評価を行って安全側の数値が想定される。HEPAフィルターの場合、平均粒径0.3μmの微粒子に対する通常使用条件での捕集効率はフィルター1段当たり99.97%とされているが、事象の内容に応じ3〜300倍程度の安全裕度が見込まれる。
以上のように、再処理施設のソースタームは、施設の設計内容を吟味しつつ、ケースバイケースの判断により、保守的なモデルや安全側のデータをもとに定められている。これらの過程で蓄積する安全裕度をより合理的な範囲に納めるためには、再処理施設の特質を考慮したソースタームの研究開発が必要である。主要なものとして、各種の条件におけるプルトニウム等のエアロゾルや微粉末の気相移行率の測定、事故・異常運転時におけるHEPAフィルター機能の実証、
アルファ線による溶液、溶媒等の放射線分解特性の詳細化、劣化溶媒錯化合物の特性把握等が例示される。
2.評価解析コードの開発整備
日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)で開発整備を実施している再処理施設の事故時ソースタームの評価解析コードシステムを
図2 に示す。SOURCE-ACEコードは、火災・事故・溶液沸騰事故時にエアロゾル状放射性物質の質量流量と粒度分布を算出する。 AEROSOL-ACEコードは、事故時に発生してからセル・換気系配管など施設内部を移行するエアロゾル粒子の凝縮・凝集・沈着・沈降およびフィルター捕集などを解析、施設内移行量、環境放出量を算出する。TRANS-ACEコードは火災と爆発事故を対象として施設内放射性物質の熱流動、圧力、温度伝播などを解析し、HEPAフィルターの捕集効率および環境へ放射性物質放出量を算出する。
<図/表>
<関連タイトル>
再処理施設の安全性研究の概要 (06-01-05-01)
事故時における放射性物質の閉じ込め安全性に関する研究 (06-01-05-04)
再処理施設からの放射線(能) (09-01-02-06)
<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局安全調査室(監修):改訂7版原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版(1993)
(2)日本原子力研究所:原子力安全性研究の現状 平成3年、平成3年10月