<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 再処理施設内で設定基準事象である火災や爆発が発生したと想定した場合でも、放射性物質の放出は閉じ込め系により抑制されること、閉じ込め系の健全性が確保できることを、再処理施設のセル換気系を模擬した大型試験装置を用いて実証している。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.用語の説明
1.1 実証試験
原研(現日本原子力研究開発機構)では、科学技術庁(現文部科学省)からの委託研究として再処理施設内で火災や爆発が発生したと想定した場合でも、放射性物質の閉じ込め系が所定の性能を保ち、その健全性が確保できることを実証する試験を実施している。
1.2 閉じ込め系
 閉じ込め系とは、平常運転時は勿論、事故時においても放射性物質を再処理施設内に閉じ込める機能をもつ施設を言う。 図1 に再処理施設における放射性物質の閉じ込め系の説明図を示す。放射性物質は塔槽類と呼ばれる容器や機器などに収納(第1バリア)されており、これらの塔槽類はセルと呼ばれる頑丈な障壁をもつ小部屋(第2バリア)に、さらにセルは建屋に収納(第3バリア)されている。一方、エアロゾルと呼ばれる放射性微粒子は、塔槽類換気系、セル換気系及び建屋換気系により閉じ込められている。これらの換気系は施設全体を常に負圧に保つとともに、放射性物質が異常に発生した場合でも高性能粒子エアーフィルタ(HEPA)と呼ばれる空気浄化系で放射性エアロゾルを捕集する機能を備えている。
2.実証試験の実施
 実証試験では、動燃(現日本原子力研究開発機構)再処理施設のセル換気系を1/4規模で模擬した大型試験装置を用いて,溶媒火災の状況、爆発時の圧力、温度、流量の過渡伝播、放射性物質の閉じ込め性能、フィルタの健全性や目詰まり効果、ブロアの過渡応答などの試験データを取得している。爆発の試験は、硝酸と溶媒のニトロ化反応による爆発やニトログリセリンとニトロセルロースの混合固体ロケット燃料の燃焼で実施している。
3.火災や爆発の進行と事象の終息
 再処理施設の換気系は空気流量が制限されているので、溶媒火災の進行は抑制されている。それは、初期には激しい燃焼が起こるが、次第にセル内の酸素が減少して不完全燃焼になるからである。したがって、濃い煤煙と未燃焼の溶媒ガスが発生するが、試験の結果は必ずしも閉じ込め効果を損なうことにはならない。なぜなら、気相に放出した放射性エアロゾルは多量の煤煙粒子に捕捉されて粒子径が大きくなり、粒子の沈降や熱泳動現象と呼ばれる煤煙沈着が促進し、さらにHEPAフィルタの捕集が容易になるからである。
 爆発を想定した場合には、放射性物質を含む液滴がセル内に飛散して放射性エアロゾルとなり、圧力波とともに換気系内を移動する。しかし、圧力波はセルやダクトを伝播する間に十分減衰することを試験により確認した。 図2 には、再処理施設セル換気系実証試験装置内の圧力波の伝播状況を示す。図の結果から、圧力波はセルとダクトの接続部(縮小)、ダクトの曲がり及び小口径と大口径のダクト接続部(拡大)などを通過する間に大きな減衰が起こることが分かる。再処理施設の換気系は拡大部や縮小部を持つセルやダクトが複雑に入り組んでいるので、圧力波は十分に減衰され、HEPAフィルタの健全性に影響を与えることにはならない。
4.放射性物質の閉じ込め機能
 放射性物質は溶媒に抽出されにくい性質をもち、さらに燃焼面で溶媒が蒸発する過程で精製されるので、溶媒火災時の放射性物質の気相放出は大きく抑制される。 図3 にストロンチウム(Sr)のセル気相移行の除染係数(DF)の時間的変化を示す。図中の最後の値は、水相が沸騰してSrが短時間に気相に放出したことを示している。しかしながら、水相が沸騰した場合でも、Srの気相放出率は 1/50000〜1/100000に抑制される。
 健全なHEPAフィルタであれば、1段で1000倍以上の捕集能力で放射性エアロゾルを除去する性能を持っている。したがって、火災や爆発を想定した場合でも、フィルタの熱損傷や圧力波の影響により健全性が損なわれないことを実証する必要がある。実証試験では、火災時の高温ガスがフィルタに到達するまでに、他のセルから合流する大量の空気により希釈され、耐熱温度まで上昇しないことを、爆発の条件下でも圧力波がセルやダクトを通過する間に十分に減衰することを実証した。さらに、溶媒火災試験では、煤煙の目詰まりによるフィルタの耐差圧健全性を評価した。再処理施設のHEPAフィルタは並列に多数設置されているので、一台当たりに捕集される煤煙の捕集量は小さく、フィルタの耐圧限界(約10kPa)を超える差圧上昇は起こらないことが確かめられている。
<図/表>
図1 再処理施設における放射性物質の閉じ込め系説明図
図1  再処理施設における放射性物質の閉じ込め系説明図
図2 再処理施設セル換気系実証試験装置内の圧力変化
図2  再処理施設セル換気系実証試験装置内の圧力変化
図3 ストロンチウムの気相移行除染係数の時間変化
図3  ストロンチウムの気相移行除染係数の時間変化

<関連タイトル>
再処理施設の給排気 (04-07-03-04)

<参考文献>
(1)西尾軍治:安全性を実証する試験研究、エネルギーレビュー、平成3年3月号、第11巻、第3号
(2)日本原子力研究所:原研における原子力安全性研究−第20回安全性研究報告会−、平成4年10月
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ