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<概要>
 我が国の再処理施設において事故が起きた場合の安全設計の妥当性の確認のためには、[再処理施設安全審査指針]に述べられているように、設計基準事象を選定し評価しなければならないことになっている。このため決定論的手法および確率論的手法の開発を行い、火災・爆発・臨界・漏えい・機器故障などに関する代表事象を評価している。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.事故時安全評価の基本的考え方
 再処理施設では、非密封の放射性物質が多くの工程において機器・塔槽類及び配管内部に分布して存在しており、これらの工程でウランプルトニウムのような核分裂性物質を多種多様な形態で取り扱うため臨界事故の起きる可能性があるほか、崩壊熱により自己発熱性を有する高レベル廃液の冷却能喪失事故、あるいは有機溶媒を扱うため火災・爆発事故の発生する可能性が考えられる。従って、再処理施設の設計に当たっては「多重防護」の基本思想に基づいて安全設計が施されており、これらの事故に結びつく異常の発生を防止するため余裕のある設計及び安全対策が取られている。例えば、安全上重要と思われる系統には、多重システムの採用により機能の信頼性向上を図り、あるいは監視装置の装備により異常発生を即座に検出して安全を確保するための措置が取られるようにしたり、施設の設計・建設・運転の各段階において充分な品質管理のもとにおくようにしている。
この結果、再処理施設においては事故の発生する可能性は非常に小さいと考えられるが、これらの事故の発生を皆無にすることは設計上困難であるばかりでなく、採算を度外視した非現実的な設計となるので、現実的なレベルでできるだけ事故発生の確率が小さくなるように設計する事が肝要である。
 我が国の[再処理施設安全審査指針・指針3.安全評価]においては、再処理施設の設計の基本方針に「多重防護」の考え方が適切に採用されていることを確認するために、「設計基準事象」を選定し評価することが要求されている。ここで、「多重防護」の考え方とは、異常の発生が防止されること、仮に異常が発生したとしてもその波及、拡大が抑制されること、さらに異常が拡大するとしてもその影響が緩和されることをいう。「設計基準事象」としては、放射性物質が存在する再処理施設の各工程ごとに、「運転時の異常な過渡変化」及び「運転時の異常な過渡変化を超える事象」を想定し、それらの発生の可能性と影響の関連において各種安全設計の妥当性を確認するという観点から設計基準事象を選定し評価するとしている。判断の基準は、公衆に対して著しい被ばくリスクを与えないこととしている。評価すべき事例として、「運転時の異常な過渡変化」以外では、火災・爆発・臨界・漏えいなどの事象が挙げられている( 表1 参照)。これらの事象は、放射性物質を外部に放出する可能性があり、しかも比較的に発生頻度が高いと考えられる。
2.事故評価手法に関する研究
 原研(現日本原子力研究開発機構)では、以上述べた設計基準事象選定の妥当性、すなわち発生の可能性及び影響の大きさを定量的に評価し、また国が行う安全審査に資するため、事故時のソースターム解析から公衆の被ばく評価まで一貫して行える安全解析コードシステムを作成し、用いられる基礎データとともに整備している。解析手法としては、事故が起きたときの影響の大きさのみに着目する決定論的手法と、事故発生の可能性も考慮する確率論的手法の開発が行われている。これらの手法の開発は、次に示す安全評価の手順を考慮して行われる。
(1)異常・故障事象の同定
  対象とする施設においてその生起が考えられるシステム内の危険な条件や潜在的な異 常・故障事象を探し出し、定性的に評価する。これには同種の施設の運転経験を調べたり、FMEA(故障モード影響解析)または原因結果関連図などによりシステムのぜい弱性を解析する。この目的は、システム内に存在し事故に結びつくと考えられる全ての危険因子を抽出することである。これにより設計基準事象の候補を洗い出し、その事故シナリオを確かめることができる。
(2)事象の発生の可能性の考察
 前述した安全審査指針の指針3.安全評価の解説においては、「運転時の異常な過渡変化事象]とは、再処理施設の寿命期間中に予想される,機器の単一故障などが引き金となって起こりうる外乱などである。「運転時の異常な過渡変化を超える事象」とは、発生の可能性はさらに小さいが、発生した場合にはその影響が比較的大きいと判断されるものと説明されている。これらは、事故防止対策の程度、事象進展の速さをもとに経験的に判断される。原研(現日本原子力研究開発機構)では、この経験的手法を補足するものとして、機器故障率および人的過誤の頻度に関するデータをもとにフォールトツリー解析により事故の発生確率を定量的に評価する手法の開発研究を行っている。
(3)影響の評価
 再処理施設全体の代表事象として、「運転時の異常な過渡変化を超える事象」を選定し、設計基準事象としてその公衆に対する被ばく影響を評価する。原研(現日本原子力研究開発機構)では、信頼性のあるデータをもとに技術的に承認される解析モデルを用いて、これを評価する手法の開発研究を行っている。事故時に考えられるすべての影響を評価するため、事象の進展に伴う放射性物質の移行挙動なども評価する必要がある。例えば、火災事象を評価する場合に、程内のすべての放射性物質が煙の流れに運ばれて環境に放出されるなどという非現実的仮定に基づいて解析する必要はないが、どの程度の割合のものが施設内に移行し、あるいは環境に放出されるかという定量的なデータを抑えておく必要があり、このためデータ取得に必要なセル換気系実証試験なども行っている。
 事象の進展が緩慢なため、重大な事態になる前に有効な回復措置が取られる例もある。この典型的な例として、高レベル廃液貯蔵タンクの冷却能喪失事故が挙げられる。原研(現日本原子力研究開発機構)では、平成2年度から高レベル廃液貯蔵タンクの冷却能喪失事故に関する確率論的評価手法の事例解析研究を実施している。この結果の一部として、タンクの冷却系統に故障が生じて除熱不可能となった場合でも、崩壊熱が比較的小さいため、放射性物質の放出が盛んとなる沸騰状態に至るまで一般に10数時間以上かかるので、それまでに故障回復のための措置が可能であることが判明した。再処理施設のプルトニウム蒸発缶におけるレッドオイル爆発の発生頻度を、典型的なモデルプラントについてFTLコ−ドによるフォ−ルトツリ−解析し、殆ど起こり得ない程度であることを示した。プルトニウム蒸発缶PPF4でのレッドオイル爆発のフォ−ルトツリ−を 図1 に示す。
 環境へ放出されてからの放射性物質の生物圏内での移行、人口地帯への分散、その放射線影響を評価するための解析手法も開発している。
(4)安全性評価コ−ドシステムの開発
 再処理施設の事故時安全評価手法として、 図2 に示すようなREPRO-ACEコ−ドシステムの開発を1986年から行なっている。このコ−ドシステムは、放射性エアロゾルの発生量を算出するソ−スタ−ム解析コ−ド(SOURCE-ACE,REACTR),換気系等施設内部を移行する間に沈着等により除去される割合を求める事象解析コ−ド(TRANSE-ACE,AEROSOL-ACE),再処理各工程での異常な過渡変化を解析するプロセス特性解析コ−ド(EXTRA,PNST,HLST),エアロゾル放出率、移行率、フィルタ−補集等のデ−タを用いて被曝量を算出する安全評価コ−ド(ACCIEDITOR),プラントシステムの信頼性を評価し、環境に放出された放射性物質による公衆の総合的リスク評価を行なう確率論的安全評価コ−ド(STAR,CARARA,FTL)から構成されている。
<図/表>
表1 再処理施設における設計基準事象の例
表1  再処理施設における設計基準事象の例
図1 FTL解析コ−ドによるプルトニウム蒸発缶PPF4でのレッドオイル爆発のフォ−ルトツリ−
図1  FTL解析コ−ドによるプルトニウム蒸発缶PPF4でのレッドオイル爆発のフォ−ルトツリ−
図2 再処理施設の事故時安全評価コ−ドシステムREPRO-ACEの構成
図2  再処理施設の事故時安全評価コ−ドシステムREPRO-ACEの構成

<関連タイトル>
再処理施設の安全設計 (04-07-03-01)
再処理施設の安全性研究の概要 (06-01-05-01)
事故時における放射性物質の閉じ込め安全性に関する研究 (06-01-05-04)
抽出工程の安全性に関する研究 (06-01-05-06)
放射能ソースタームの評価に関する研究 (06-01-05-07)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局安全調査室(監修):改訂7版原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版(1993)
(2)Y.Nomura: Fault Tree Analysis of Loss of Cooling to a HALW Storage Tank,J.Nucl.Sci.Technol.,29(8),1992
(3)Y.Nomura et al.: Fault Tree Analysis of System Anomaly Leading to Redoil Explosion in a Plutonium Evaporator,J.Nucl.Sci.Technol.,31(8),1994
(4)日本原子力研究所:原研における原子力安全性研究−第20回安全性研究成果報告会記念−、平成4年10月
(5)日本原子力研究所:原子力安全性研究の現状 平成5年、平成5年10月
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