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1.シビアアクシデント研究の必要性
原子力発電所では多数の事象を代表できるよう想定された
設計基準事象(Design Basis Event :DBE)にもとづいて安全防護対策がとられている。しかし、いくら安全防護対策が行われても、人間の誤った行為や事故に対する複数の起因事象が同時に発生するとか、ある起因事象に対してその機能が約束されている系統に設計で予想しない故障が発生するなどの可能性が存在し、DBE の範囲を超えて波及拡大する事故シーケンス、すなわちシビア・アクシデントに発展する確率は十分低いがゼロにはならない。
したがってシビア・アクシデントにおける事象推移、放出される
FP挙動、事故の影響緩和などの研究を行うことは、まず事故をDBE の範囲を超えないようにするためのものであり、仮にDBE の範囲を超えても事故が破局的になる前に収束させ、その影響を最小限にとどめるためのものである。
2.シビア・アクシデント研究の範囲
ATR におけるシビア・アクシデントに関する研究は、多くの事象について
軽水炉と似た事故シーケンスをたどるので、軽水炉を対象として行われている研究を取り込みながら、ATR に特有な炉心特性、システム、機器構成を考慮した解析評価が可能となるように進められている。
表1 に研究範囲を示す。研究は事象推移評価手法、ソースターム評価手法および影響緩和手法の3 分野に大別される。
3.ATRにおいて考えられるシビア・アクシデント
シビア・アクシデント(
炉心溶融)を惹起する初期事象として異常な過渡変化が引金となる場合もある。即ち、この際安全弁開固着を仮定すると
冷却材が喪失し、以後、一切の回復操作が不能と仮定すると炉心冷却が不可能となる。よってこの種のものは冷却材喪失事故(
LOCA) を起因とするシビア・アクシデントに含めて考えることができる。
またATR 特有の入口管に炉心流量を停滞させるようなサイズの破断が生じ、それが検出できない場合炉心1チャンネルが溶融する事象、また外部電源喪失やLOCA時に
原子炉停止系が作動しない場合に、ボイド
反応度係数が正であれば出力が上昇して炉心が多チャンネルにわたり溶融するなどの、反応度上昇事故にもとずく事象が考えられる。したがってATR の場合以下に示す3つの事象をシビア・アクシデントと考え解析できるようにしておけば、その他のものはすべてこれに包含されるものと考えられる。
ケース 1 : LOCA+ECCS 不作動
ケース 2 : 入口管スタグナント破断+ 検出系機能喪失
ケース 3 : 反応度上昇事故+ 炉停止系機能喪失
ケース 1では、冷却材が喪失しても重水冷却系で炉心の崩壊熱除去を行うことが期待できる。重水冷却系による限界熱除去量を実験で求め、炉心の大規模溶融は発生しないことを保障できるようにする。ケース2は、炉の入口管において炉心流量を停滞させるような破断が生じたとき、破断が検出できず、そのチャンネルの燃料体が損傷する。この後、
原子炉を停止することができ、全炉心損傷には至らない。ケース 3はFP 放出の観点からは最も厳しい事象となるが、出力上昇により
圧力管が破断し、軽水が重水中に噴出し大きな負の反応度が投入されるので原子炉は停止する。
4.シビアアクシデント時の重水系による熱除去解析例
重水冷却特性に関係する課題として、輻射伝熱、圧力管の膨れ、接触伝熱、
カランドリア管の
限界熱流束に関する実験を行い、それぞれの現象についての相関式を作成し、プラントの熱水力学的挙動の評価が行えるようにした。また高温の冷却材が重水中に噴出した場合、大量の気泡発生を生じ、これに伴う負の反応度投入量についても実験にもとづく評価モデルが作成されている。出力上昇により燃料が溶融した場合の圧力管バウンダリの耐久時間の評価を行うための研究も進められている。
以上の試験によって得られた相関式を解析コード群に適用することにより、異常な過渡変化もしくはLOCAを起因として崩壊熱が除去できない、DBE の範囲を超える事故時の炉心冷却特性について解析評価できるようにした。
ここでは異常な過渡変化を起因とする事象のすべてを包絡する事象として、外部電源喪失+安全弁固着+崩壊熱除去失敗の事象解析例を示す(
図1 )。この場合は安全弁が開状態のまま固着し、ECCSや補給水系が作動しないことを想定しているので、冷却材は原子炉から失われ、炉心が露出するに至る。このときのプラント挙動を
図1(a)に示す。水位が炉心下部まで降下するのは事故発生後約10,000秒であるが、
図1(b)に示すように約9,000 秒で圧力管が膨らんでカランドリア管に接触し、熱除去が良好な状態となり、被覆管最高温度はDBE より若干高くなる程度に過ぎない。
5.チェルノブイル事故評価解析
チェルノブイル原子力発電所の事故は原子炉の損傷状況、死傷者数、放出放射能量など、いずれをとっても原子力史上未曽有の大事故であった。
ATR の
核特性は黒鉛減速型と異なるが、圧力管型炉としての体系が類似しているので、ATR 用に開発してきた解析方法をチェルノブイル原子炉の核熱水力特性解析に適用し、その解析結果はソ連発表の特性と比較された。つぎに、解析で求めた炉心特性にもとづいて事故再現解析が行われ、ソ連が
IAEAに報告した事故時プラント挙動と比較された。事象解明および対策検討の手順を
図2 に示す。
以上の解析によりチェルノブイル原子力発電所の事故原因検討と、事故防止策の検討に必要な核熱水力特性およびプラント特性が得られた。ATR 用に開発した解析モデルおよび解析コードは汎用性が高く、チェルノブイル事故解析でも適用できることが明らかにされた。
<図/表>
<関連タイトル>
新型転換炉の工学的安全防護システム (03-02-03-02)
新型転換炉想定事故の安全評価 (03-02-03-03)
新型転換炉の安全研究の概要 (06-01-03-01)
新型転換炉の異常時および事故時の現象解明および評価 (06-01-03-03)
<参考文献>
(1)「原子力の安全を考える」 1988.3 電力新報社
(2)動燃技報 No.73 1990.3 動力炉・核燃料開発事業団
(3)動燃技報 No.79 1991.9 動力炉・核燃料開発事業団
(4)新型転換炉技術成果報告会予稿集 1991.12 動力炉・核燃料開発事業団