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<概要>
 通産省(現経済産業省)を中心に、電源三法に基づく原子力発電安全対策の一環として1975年度から原子力発電施設信頼性実証試験が実施されてきた。1996年度以降は、実証試験テーマを再編成するとともに、別途他に実施されていた各種確証試験、技術調査・試験等を糾合し、原子力発電用機器、配管、燃料集合体等について安全性・信頼性の確認試験を実施するとした「工学試験」が耐震、燃料、機器・システム、シビアアクシデント、新技術、廃止措置、ヒューマンファクターの分野において計画・実施され、当初の目的に沿った成果が達成された。
 本稿は、そのうちのシビアアクシデント、新技術、廃止措置、ヒューマンファクターに関する事項を取り上げ纏めたものである。機器・システムに関する事項については、「原子力発電用機器の工学試験(1)(機器・システムに関する信頼性実証試験・確証試験)<06-01-01-13>」に、また、耐震信頼性については「原子力発電施設の耐震信頼性実証試験 <06-01-01-14>」に、燃料集合体の信頼性については「燃料集合体信頼性実証試験 <06-01-01-07>」に取り纏めている。
<更新年月>
2007年01月   

<本文>
 通産省(現経済産業省)を中心に、電源三法(電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法、発電用施設周辺地域整備法(1974年6月制定))に基づく原子力発電安全対策の一環として1975年度から原子力発電施設信頼性実証試験が実施されてきた。1995年度までに、蒸気発生器信頼性実証試験、電気計装機器信頼性実証試験、バルブ信頼性実証試験およびポンプ信頼性実証試験については所期の目標を達成し終了している。耐震信頼性実証試験、燃料集合体信頼性実証試験、蒸気発生器信頼性実証試験(蒸気発生器流動励起振動に関する試験)、安全裕度利用事故拡大防止機能信頼性実証試験、運転管理信頼性実証試験などは引き続き実施された。1996年度以降は、溶接部等熱影響部信頼性実証試験等の実証試験(現在使用されている機器・技術等についての安全性・信頼性を実証する試験)のテーマを再編成するとともに、別途他に実施されていた確証試験(新たに改良・改善された技術や、今後必要となる技術について安全性・信頼性を確認する試験)および今後開発が期待される技術の調査・試験等を糾合し、原子力発電用機器、配管、燃料集合体等について安全性・信頼性の確認試験を実施するとした「工学試験」が計画・実施された。これら工学試験の実績について図1-1図1-2および図1-3に示す。
 本稿では、実施された工学試験のうち、シビアアクシデント、新技術、廃止措置、ヒューマンファクターに関する事項について述べる。
1.シビアアクシデント
(1)原子炉格納容器信頼性実証試験
 シビアアクシデント(SA)時における原子炉格納容器の挙動を把握し、事故時に原子炉格納容器内に放射性物質を閉じ込めておく機能が確保されることを事故時の主要事象の進展モードに対応した試験を行い実証した。1)SA時炉内の高温ジルコニウム・水反応により発生する水素の大規模燃焼における格納容器健全性を確認するための可燃性ガス燃焼挙動試験、2)アクシデントマネジメント実施に際しての放射性物質捕集特性試験、3)SA時における格納容器の所謂「多重防護」としての最後の防護壁機能を評価するための格納容器構造挙動試験、4)SA時の炉心溶融物の格納容器内での挙動特性と冷却性を評価するためのデブリ冷却試験、5)BWRのSA時における格納容器からの各種代替除熱手段の効果を確認するための格納容器除熱試験などを行い、格納容器に課せられる安全機能を実証した。
(2)安全裕度利用事故拡大防止機能信頼性実証試験
 軽水炉発電プラントの安全性を計算機シミュレーションによって実証することを目標として、そのためのソフトウエアは並列計算機を利用して新たに整備することとし、そのソフトウエアはIMPACT(Integrated Modular Plant Analysis and Computing Technology)と名付けられた。IMPACTは、1)気体又は液体単相流、或いは気液二相流を対象として、三次元の詳細流動挙動を解析する流動挙動解析コードPLASHY、2)燃料集合体の限界出力を解析する沸騰遷移挙動解析コードCAPE、3)単相流中の構造物の流れの微少変動による振動を解析する流体・構造連成解析コードFLAVOR、4)シビアアクシデント時の想定物理化学現象を、複数モジュールに分割、かつ連携作動させプラントの全体的挙動を解析するシビアアクシデント解析コードSAMPSON、より構成され、OECD主催のベンチマーク課題の解析その他の解析をとおして適用性が確認された。また国内プラントの配管破断事故を対象に解析を行い実機への適用性が確認され、計算機シミュレーションによりプラントの安全性実証が可能となった。
2.新技術
(1)将来型軽水炉システム技術調査
 軽水炉が日本の原子力発電の主流を担う期間が相当期間続くと見込まれることから、長期的観点に立って軽水炉技術の高度化を図ることが重要だとの考えから、2010年頃より先に導入される将来型軽水炉について、安全性・信頼性の向上、人的負担・環境負荷の軽減を念頭に置いた場合の設計目標、それに基づいたプラント概念等を調査した。その調査結果につき今後の主要課題として評価選定の結果、IVR-MA(炉心溶融物の圧力容器内保持に係るアクシデントマネジメント)が有力な技術評価対象として選定され試験実施へと展開がはかられた。
(2)プルトニウム有効利用炉心技術調査
 軽水炉技術高度化の一環として、再処理して得られるプルトニウムを燃料とするMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物)を炉心に全数装荷し、装荷したプルトニウムをより多く消費し、より多くのエネルギーを取り出す炉心技術の調査を行った。改良型軽水炉(ABWR,APWR)の炉心を基本としてMOX燃料を炉心に全数装荷し、かつ、減速材割合を増加し、プルトニウム消費割合を高めた新炉心概念(高減速MOX炉心)を調査検討した。
 また、この炉心を対象とした炉物理試験をフランス原子力庁と共同で実施し、基礎的な炉物理パラメータを測定して、MOX炉心解析手法の向上に資することとした。
(3)全炉心混合酸化物燃料信頼性実証
 軽水炉でのMOX燃料の利用は当面全炉心の1/3程度の装荷率の予定であるが、MOX燃料利用の柔軟性を拡げるため、ABWRの全炉心に装荷する計画が進められており、今後のプルサーマルの本格化への動向を踏まえて、臨界試験装置によるMOX燃料炉物理試験の実施と解析、この燃料の燃焼後の調査・分析による結果をもとに炉心核解析手法の信頼性を実証した。
3.廃止措置
(1)実用発電用原子炉廃炉設備確証試験
 商業用原子力発電所の廃止措置については、日本原子力発電(株)の東海発電所が1998年3月に運転を終了し、引き続き廃止措置の段階に移行することとなり、商業炉の廃止措置が現実のものとなった。この廃止措置を安全確実に遂行し、人的負担を一層軽減するための被ばく低減技術、作業の効率化や合理化のためのシステム化技術、環境負荷低減のための廃棄物量の低減技術、廃棄物の再資源化技術の開発に必要な試験を実施した。具体的には、必要とされる確証技術を区分した、以下の各確証試験を行った。
1)原子炉圧力容器切断技術確証試験
 実炉を模擬した原子炉圧力容器試験体を用い「アークガウジング+ガス切断」工法による水中切断試験を行い、実機への適用性を確証した。
2)生体遮へい壁表層はく離技術確証試験
 PWR遮へい壁を模擬した試験体を用い「デイスクカッタ+機械的くさび」工法によるはく離試験を行い、実機への適用性を確証した。
3)炉内構造物切断技術確証試験
 実炉を模擬した炉内構造物を用い大出力COレーザによる切断試験を行い、実機への適用性を確証した。
4)解体前放射能低減技術確証試験
 解体作業における作業者の被ばく線量の低減と作業の効率化を目的として、対象機器・配管類の原位置での内面付着した放射性クラッドの除染技術、放射性クラッドを含む廃液の処理技術、除染による放射能低減効果の定量測定技術について、信頼性及び実機への適用性を確証した。
5)原子炉遠隔解体システム技術確証試験
 原子力発電施設の廃止措置における放射能汚染または放射化された機器・設備などの解体を効率的かつ放射線・放射能安全を確保し、確実な作業を行うための解体技術、二次生成物回収技術について、実機条件を想定した確証試験を行った。
6)建屋残存放射能等評価技術確証試験
 原子力発電施設の廃止措置における標準的解体手順である機器・構造物の撤去後の建家の除染により管理区域解除が的確に行うための各種放射能測定技術の実用性を確証した。
7)解体廃棄物処理システム技術確証試験
 原子力発電施設の廃止措置により大量に発生する廃棄物の適切な処理による放射性廃棄物量の低減と有効な再利用を目的とした、金属・コンクリートの再利用技術、解体廃棄物の除染・測定技術、黒鉛廃棄物の処理技術につき確証試験を行い、技術の適用性を確証した。
(2)発電用原子炉廃止措置工事環境影響評価技術調査
 発電用原子炉の廃止措置段階においては、解体工事に伴い発生する粒状放射性物質に着目し、解体工事の工法等を考慮して、放射性に関する安全評価が必要で、そのためのデータ整備を目的に、1)コンクリート解体試験による発生粒状物質の発生量、粒径分布及びフィルター回収性能データの取得、2)原子炉構造物模擬金属試験体の気中熱的切断工法による切断時粒子状物質に発生量、粒径分布データの取得等を行い基礎データの整備を行った。
4.ヒューマンファクター
 ヒューマンファクター関連技術開発で、既存の人間信頼性評価手法の開発、高度人間信頼性評価手法(数学モデル)の開発等の机上検討による枠組みを完成させたが、評価ツールとしての実証を目的として、1)マンマシンインターフェイスの高度化、2)ヒューマンエラー低減対策の開発、3)緊急時対応能力の向上、4)ソフト面の評価ツール・判断基準作成整備、5)ユーマンファクター事例分析とデータベースの整備活用、6)人的特性実験による人間行動特性の研究、7)ヒューマンファクター知識ベースの整備等を実施し、原子力分野における人的因子の影響評価を的確に行うための基礎固めを行った。
(前回更新:2000年3月)
<図/表>
図1-1 工学試験の実績(1/3)
図1-1  工学試験の実績(1/3)
図1-2 工学試験の実績(2/3)
図1-2  工学試験の実績(2/3)
図1-3 工学試験の実績(3/3)
図1-3  工学試験の実績(3/3)

<関連タイトル>
燃料集合体信頼性実証試験 (06-01-01-07)
蒸気発生器信頼性実証試験 (06-01-01-08)
原子力発電用機器の工学試験(1)(機器・システムに関する信頼性実証試験・確証試験) (06-01-01-13)
原子力発電施設の耐震信頼性実証試験(平成8年度〜平成10年度) (06-01-01-14)
溶接部等熱影響部信頼性実証試験 (06-01-01-26)
原子力発電施設のポンプ信頼性実証試験 (06-01-01-27)

<参考文献>
(1)(財)原子力発電技術機構:安全を求めて四半世紀−NUPECの軌跡−(2003年9月)
(2)(財)原子力発電技術機構:年報 1999 NUPEC(1999年)、p.96−97
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