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<概要>
 原子力発電所における安全上重要な機器・構造物の信頼性を、実機に近い条件下での試験により実証するため、溶接部等熱影響部信頼性実証試験が行われている。この実証試験では、原子炉圧力容器加圧熱衝撃実証試験、原子炉格納容器信頼性実証試験、インターナルポンプ溶接部等信頼性実証試験、炭素鋼配管溶接部等熱影響部信頼性実証試験等が実施され、原子炉圧力容器は、厳しい加圧熱衝撃時においても損傷の恐れがないこと、インターナルポンプのノズル廻りや炉内構造物は十分な安全性・信頼性を有すること、炭素鋼配管は、実機運転条件下で破断前漏えい(配管破断が発生する前に漏えい検出等による破断を未然に防止できること)が成立すること等が実証された。さらに、格納容器信頼性実証試験として、シビアアクシデント時の格納容器の健全性に関する各種の試験が進捗している。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.溶接部等熱影響部信頼性実証試験の目的
 原子力発電施設における安全上重要な機器類について、実機に近い条件の下で試験を行い、機器類の信頼性を実証的に明示することにより、原子力発電施設の安全性、信頼性について国民の理解を得ることを目的に、通産省(現経済産業省)資源エネルギー庁からの委託による「原子力発電施設信頼性実証試験」が行なわれている。溶接部等熱影響部信頼性実証試験は、重要な機器・構造物の溶接部等を対象に、供用期間中における信頼性および健全性を実機に近い条件での試験により実証するため実施されている。
2.実証試験項目およびタイムスケジュール
 本実証試験は、通産省(現経済産業省)資源エネルギー庁からの委託により(独)原子力安全基盤機構および(財)発電設備技術検査協会が実施している。昭和52年に開始され、これまでに機器・構造物の信頼性と健全性に係わる13項目について試験が進められた。表1−1および表1−2に試験項目と経過を示す。主な項目は下記の通りである。
 ・BWR型発電設備応力腐食割れ等実証試験(昭和52年〜58年)
 ・供用期間中検査実証試験(昭和53年〜61年)
 ・原子炉圧力容器加圧熱衝撃実証試験(昭和58年〜平成3年)
 ・炭素鋼配管溶接部等信頼性実証試験(昭和60年〜63年)
 ・原子炉格納容器実証試験(昭和62年〜平成14年)
 ・インターナルポンプ溶接部等信頼性実証試験(昭和63年〜平成6年)
 ・原子力発電所水質等環境管理技術配管系信頼性実証試験(平成1年〜平成12年)
3.主な実証試験項目の内容と成果
 表1−1に示す各試験項目のうち主な項目として、「原子炉圧力容器加圧熱衝撃試験」、「炭素鋼配管溶接部等信頼性実証試験」、「原子炉格納容器実証試験」、「インターナルポンプ溶接部等信頼性実証試験」について、内容および成果を述べる。
3.1 原子炉圧力容器加圧熱衝撃実証試験
 加圧熱衝撃とは、何らかのトラブルが原因で非常用炉心冷却装置が作動し、加圧状態のまま原子炉圧力容器内壁が急冷される事象を言う。中性子照射により靭性が低下した圧力容器に、加圧熱衝撃により内壁が急冷され、大きな熱応力が発生し、さらに、内壁に欠陥が存在すると想定した場合には圧力容器が破損する恐れがある。
 この実証試験では、原子炉圧力容器の信頼性を実証するため、実機と同様に中性子照射した供試材等を用いた破壊力学試験や圧力容器のモデル試験が行われる。加圧熱衝撃実証試験の流れを図1に示す。モデル試験の概要を図2に示す。人口欠陥を付与した板厚約170mm、幅約1000mmの平板試験体を用いて、内圧応力と加圧熱衝撃による熱応力が同時に作用する条件で行われた。
 破壊力学試験に基づく解析から、わが国(日本)の原子炉圧力容器は現在想定し得る最も厳しい加圧熱衝撃事象に対して、破損する恐れがないことが示された。さらに、この解析条件に基づくモデル試験では、解析での予測通り試験体に脆性破壊が生じないことおよび高温予荷重効果により解析による予測より、さらに脆性破壊に対する余裕があることが実証された。
3.2 原子炉格納容器信頼性実証試験
 わが国の原子力発電所は、多重防護の思想に基づいて安全確保策が施され、重要な機能については独立した同じ設備を多重化したり、異なった動作原理の施設による多様化を行って安全確保が図られているので、原子炉の燃料が重大な損傷を受けるシビアアクシデントが現実に起こるとは考えられない。一方、チェルノブイリ事故では、不十分な安全設計や運転員の故意のルール達反により大規模な事故が発生し、また、十分な性能を有する格納容器がなかったために大規模な放射性物質による汚染が発生している。この事故を契機に、シビアアクシデント時に格納容器の健全性が維持できるかどうかに高い関心が寄せられるようになった。そこで、シビアアクシデント時の格納容器の健全性を実証することを目的に本実証試験が開始された。この試験では、シビアアクシデントを想定して下記の4項目の試験が平成14年度までの予定で進められている。4項目の試験計画を図3に示す。今後、各試験結果に基づき格納容器健全性に関する総合評価が行われる計画である。
(1)デブリ冷却試験
 シビアアクシデント時に炉心溶融物(デブリ)が圧力容器下部ヘッドに落下した場合を想定し、このような場合でも格納容器の健全性が維持されることを確認する。
(2)可燃性ガス混合・燃焼拳動試験
 シビアアクシデント時には炉心と水蒸気が反応し原子炉格納容器に水素が放出されることが考えられる。本試験では、格納容器内で水素燃焼が生じた場合でも格納容器の健全性が損なわれないことを確認するため、格納容器スプレイ、放出蒸気、窒素等による水素燃焼抑制効果を踏まえた水素ガスの燃焼挙動を把握する。図4に試験の概念図を示す。
(3)構造挙動試験
 シビアアクシデント時には、設計条件を超えて格納容器の温度と圧力が上昇することが考えられる。本試験では、鋼製およびコンクリート格納容器についてモデル試験により耐圧限界や漏えい量の確認が行われる。
(4)放射性物質捕集特性・除去効果試験
 シビアアクシデント時には、設計条件を超えて格納容器の温度と圧力が上昇すると考えられる。この時、格納容器の冷却および雰囲気中の放射性物質を除去するため格納容器スプレイによる注水がアクシデントマネジメントとして計画されている。この試験では、スプレイによる放射性物質の除去効果と格納容器貫通部等の漏えい経路における放射性物質の捕集効果について確認が行われる。図5に放射性物質捕集特性・除去効果試験の概念図を示す。
3.3 インターナルポンプ溶接部等信頼性実証試験
 改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)では、原子炉圧力容器内部にインターナルポンプを組み込んで冷却材を循環させる構造になっており、ポンプケーシングは圧力容器に直接溶接される。一方、ABWRでは、燃料の経済性向上の観点から、運転サイクル末期に炉心流量拡大運転を行う計画であるため、ケーシングの溶接部等は振動その他に対し十分な信頼性が求められる。このため、実機で想定される炉心流量拡大運転を模擬した試験を行い、インターナルポンプ溶接部等の信頼性を実証することが必要になる。
 本試験では、インターナルポンプおよび下部炉内構造物等を有する大型流動試験設備を用いて、以下に示す機器溶接部等の信頼性の実証試験が行われた。図6−1および図6−2にABWRの構造および試験設備の概要を示す。
(1)ポンプ溶接部信頼性試験
 インターナルポンプのインぺラ/シャフト等の回転体振動は、軸受を介してモータケースに伝わり、取付溶接部に外力として加わる。炉心流量拡大運転は、ポンプ回転数を増加させることにより行うため、回転体振動が増大し取付溶接部はその影響を受ける。試験結果から、実機の種々の運転条件におけるポンプ振動に対してもモータケース取付溶接部は強度的に高い信頼性を有することが実証された。
(2)ポンプ取付ノズル部信頼性試験
 ポンプ取付ノズル部は、インぺラにより循環される高温高圧水の通過部分となっており、ポンプ内部への炉水混入を防ぐため、外部より常温のパージ水を注入している。そのため、取付ノズル部近傍は複雑な流動状態となり、ポンプ運転状態に応じた熱応力等が発生する。
 本試験では、ポンプ回転数増加による炉心流量拡大運転を含めた種々の運転条件において、溶接部を含めたノズル部が強度的に高い信頼性を有することを実証した。
(3)炉内構造物溶接部等信頼性試験
 原子炉冷却材が、インターナルポンプにより下部炉内溝造物を通り炉心へ流れる際、下部炉内構造物には流動振動が発生し、流量拡大運転時には振動の大きさ増大する。試験結果から、炉心流量拡大運転時を含む運転条件に対して炉内構造物の発生応力を評価し、流動振動に対して炉内構造物と圧力容器の溶接部等は高い信頼性を有することが実証された。
3.4 炭素鋼配管溶接部等熱影響部信頼性実証試験
 原子力発電所の配管は、安全確保上重要な機器の一つである。配管材料として炭素鋼が多く使用されており、溶接部等で万一き裂が発生すると、瞬時に破断に至り大きな事故を招くおそれがあることが懸念された。一方、一般に、配管に瞬時破断が発生する前にき裂が安定的に成長し漏えいが生じるとされており、このことを破断前漏えいという。配管に破断前漏えいが成立し、漏えい検出により原子炉を安全に停止できれば、瞬時破断を防止できる。
 本試験では、以下に述べる材料特性試験、配管の破壊挙動試験、配管試験体を使用した実機模擬環境下での破断前漏えい確認試験等が行われた。図7に破断前漏えい成立の実証の流れを示す。試験結果を総合的に評価し、炭素鋼配管において十分な安全余裕を持って破断前漏えいが成立することが実証された。
(1)材料特性試験
 配管から採取した小型の試験体を使用し、材料の引張特性、破壌力学的特性等が調べられた。試験結果から材料の基本的破壊特性を把握するとともに、このデータは評価解析プログラムの整備に利用された。
(2)配管の破壊挙動試験
 内面に人工き裂を付与した配管試験体を使用し、内圧および曲げ荷重の下でのき裂進展挙動および破壊条件が調べられ、この結果は破壊解析プログラムの検証に利用された。図8に配管試験体の負荷方法と破壊挙動試験装置の外観図を示す。
(3)解析
 実機配管の荷重等の調査結果と疲労き裂進展則から、設計寿命期間中における疲労き裂の進展量が解析された。また、材料特性試験の結果を用いて配管の破壊挙動予測が行われ、配管の破壊挙動試験結果との比較により解析プログラムが検証された。
(4)破断前漏えい確認試験
 人工き裂を付与した実配管(直管、エルボ、ティー)試験体を使用し、実機模凝環境条件下で繰り返し荷重を負荷し、破断前漏えいが成立することが確認された。
<図/表>
表1−1 溶接部等熱影響部信頼性実証試験計画(1/2)
表1−1  溶接部等熱影響部信頼性実証試験計画(1/2)
表1−2 溶接部等熱影響部信頼性実証試験計画(2/2)
表1−2  溶接部等熱影響部信頼性実証試験計画(2/2)
図1 加圧熱衝撃実証試験の流れ
図1  加圧熱衝撃実証試験の流れ
図2 加圧熱衝撃モデル試験の概要
図2  加圧熱衝撃モデル試験の概要
図3 原子炉格納容器信頼性実証試験の試験計画
図3  原子炉格納容器信頼性実証試験の試験計画
図4 可燃性ガス濃度分布・混合挙動試験
図4  可燃性ガス濃度分布・混合挙動試験
図5 放射性物質捕集特性・除去効果
図5  放射性物質捕集特性・除去効果
図6−1 ABWR原子炉圧力容器の構造及び試験設備の概要(1/2)
図6−1  ABWR原子炉圧力容器の構造及び試験設備の概要(1/2)
図6−2 ABWR原子炉圧力容器の構造及び試験設備の概要(2/2)
図6−2  ABWR原子炉圧力容器の構造及び試験設備の概要(2/2)
図7 破断前漏洩成立の実証の流れ
図7  破断前漏洩成立の実証の流れ
図8 配管試験体の負荷方法と配管の破壊挙動試験装置
図8  配管試験体の負荷方法と配管の破壊挙動試験装置

<関連タイトル>
軽水炉冷却系配管の信頼性評価研究(WIND計画) (06-01-01-25)
原子力発電施設のポンプ信頼性実証試験 (06-01-01-27)

<参考文献>
(1)(財)原子力発電技術機構 広報企画室、(財)発電設備技術検査協会試験研究センター:原子力発電施設 信頼性実証試験について 平成7年版(1995年9月)
(2)(財)原子力発電技術機構 広報企画室:原子力発電施設信頼性実証試験の現状(平成7年11月)
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