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<概要>
 蒸気発生器の信頼性実証試験には、1975年度から6か年にわたって行われた試験と1993年度から1999年度まで実施された試験がある。1975年度から行われた試験は、蒸気発生器の二次側水処理に使用されていたりん酸塩が、伝熱管の周辺部に局部的に濃縮して、伝熱管を腐食し、一次側水が二次側水へ漏洩するトラブルの発生があり、この対策に対する信頼性を実証するために行われた。1993年度からの試験は、美浜発電所2号機で発生した蒸気発生器伝熱管の損傷事象の原因とされた二次側の水/蒸気二相流による流動励起振動について、蒸気発生器の流動励起振動に対する裕度の確認および評価手法の高度化を図るために実施された。
<更新年月>
2007年01月   

<本文>
 蒸気発生器の信頼性実証試験には、1975年度から6年間行われた試験と1993年度から1999年度まで7年間行われた試験がある。後者には2000年から2004年まで関連事業が
実施された。
1.蒸気発生器信頼性試験(1975年度から6年間)
(1)試験の必要性
 PWR原子力発電所の蒸気発生器で二次側水の処理に使用されていたりん酸塩が、伝熱管周辺部に局部的に濃縮して、伝熱管を腐食し、一次側水が二次側水へ漏洩するトラブルが発生した。蒸気発生器二次側水を揮発性薬品(ヒドラジン等)処理する等の対策がとられた。対策後の蒸気発生器の信頼性を実証する必要があった。
(2)試験目的
 実証試験の主な目的は以下のとおりである。
・蒸気発生器の上部および下部で発生すると推定される腐食現象の定量的確認
・実機の各部で起こる腐食現象の定性的な確認
・腐食に及ぼす実機状態での蒸気発生器各部の熱流動特性の確認
・熱流動特性の可視化による確認
・伝熱管の仮想事故状態における安全性の確認
(3)試験計画
 1975年度から6年間、大型熱流動試験、部分腐食シミュレーション試験、総合腐食試験、伝熱管破断試験が行われた。
(4)試験結果
 試験結果から、蒸気発生器の信頼性を確認し、安全性を実証した。
2.蒸気発生器信頼性試験(蒸気発生器流動励起振動に関する実証試験)(1993年度から1999年度)
(1)試験の必要性
 1991年2月に美浜発電所2号機で蒸気発生器の伝熱管が損傷した事象の原因とされた二次側の水/蒸気二相流による流動励起振動について、蒸気発生器の流動励起振動に対する裕度の確認および評価手法の高度化を図ることが必要となっている。
(2)試験目的
 本実証試験は、実機に近い寸法および熱流動条件下で流動励起振動の試験を実施し、そこで得られた評価手法を用いて、現在運転中の蒸気発生器の信頼性を明らかにすることを最終目的としている。
(3)試験計画
 蒸気発生器伝熱管群の流動励起振動を試験評価するために必要な試験方法、範囲、条件、供試体仕様、試験工程、評価方法等を検討し、検討結果をもとに試験施設、供試体および計測装置等必要な設備を設計、製作する。試験は、製作された設備を用いてボイド率分布、流速分布等の熱流動データおよび流動励起振動発生限界、ランダム応答等の流動励起振動データを取得する。
・試験流体
 大規模な試験が可能であり、低温・低圧(約100℃、8MPa)で実機とほぼ等しい気液二相熱流動条件下での試験が実施できるフレオンR123を採用した。
・蒸気発生器の模凝範囲
 供試蒸気発生器は、図1に示すように、実機蒸気発生器の最外周U字伝熱管群までを模擬した。
(4)試験設備
 試験設備は、図3に示すように、既設の熱源となる10MW熱水発生装置、加圧器、循環ポンプ等で構成される試験装置を一部改造した一次ループと、新設の二次側フレオンループ側として、凝縮器、受液タンク、循環ポンプ、給液ポンプ等で構成した。この試験設備に図2に示す供試蒸気発生器を組込み、全体試験設備を構成した。
(5)試験結果
・熱流動試験
 蒸気発生器伝熱管周りの流速分布およびボイド率分布等を測定し、蒸気発生器2次側の流況を確認した。この熱流動試験結果は、伝熱管が有害な振動を起こすか否かの検討・評価のための基礎的なデータとした。測定結果の1例を図4に示す。この試験における熱流動測定は光ファイバー式センサーを用いて行った。(この方式はフランス原子力庁キャダラッシュ研究所でも採用されており、フレオン雰囲気中で使用でき、高精度で高速測定が可能である。)
・流動振動試験
 蒸気発生器2次側の流動条件(流速、ボイド率等)を変えた条件での伝熱管の応答振動特性を測定した。振動特性測定結果の例を図5および図6に示す。前者は伝熱管に振れ止め金具(AVB)が適切に取り付けられている場合の結果で、振動振幅は比較的小さく、一方後者はAVBが緩く支持された場合(美浜発電所蒸気発生器の損傷伝熱管の不適切な支持条件を模擬)の例で、ある流速以上では急速な振動振幅の増大が観測された(これを流力弾性振動と呼ぶ)。振動測定はU字管部伝熱管の最上部管支持管板直上に取付けた歪計により行った。
(6)評価
 試験の結果、蒸気発生器伝熱管U字管部に振れ止め金具(AVB)が設計どおり、適切に取り付けられていれば、流力弾性振動は、発生しないことを確認した。また、実機運転条件を超えた流動条件での試験の結果、設計には十分な裕度のあることを確認した。
・流力弾性振動の発生有無判別のための評価手法の高度化
 本実証試験では実機相当規模の装置による試験データを多数取得できたことから、従来の評価手法でのデータばらつきなどの不確定因子について一層高精度での評価が可能になり、より合理的、かつ実証データに裏付けられた形での高度化した評価手法をまとめた。1例として流力振動発生判別のための基礎式であるConnors評価式におけるK値(流力弾性発生限界係数)を評価設定した。
・蒸気発生器伝熱管U字管部流力弾性振動防止指針の作成
 本実証試験により取得された各種試験データは内外をとおして、唯一の大規模実機大の供試体による試験成果であることから、学会レベルでの検討評価を行い所謂学会基準として制定することが、試験成果の公開および活用の観点から適切と考え、事業委託元と相談のうえ、日本機会学会へ試験成果および関係データを提供し、学会内に関係学識経験者、技術者等より構成する公正中立の作成委員会を設置していただき、慎重な調査、検討、審議のうえ、パブリックの意見をも聴取のうえ、正式学会基準として制定することができた。
→日本機械学会基準「蒸気発生器伝熱管U字管部流力弾性振動防止指針」JSME S 016、2002年3月制定、発行
3.流動励起振動評価手法実証事業
 蒸気発生器信頼性実証試験結果を、一層の拡張、発展を目的に、本事業が2000年〜2003年に実施された。事業での実施事項は、1)三角配列伝熱管群の流力弾性振動評価手法、2)ランダム振動評価手法 等であり、1)については、蒸気発生器の伝熱管配列は現在国内で運転中のものは正四角配列(蒸気発生器信頼性実証試験で対象の配列)であるが、今後蒸気発生器の大型化に伴いこの配列の採用が想定されることから、仏キャダラッシュ研究所からの入手データを活用評価活用するとともに理論検討を行い、適用可能な流力弾性振動評価手法をまとめた。2)については、今後原子力発電プラントの運転の長期化の観点から蒸気発生器伝熱管のランダム振動(微少振動)による健全性の評価を行うため、伝熱管に二相流により生じる流体力の評価、それによるランダム振動応答評価式を得、それをもとに健全性評価手法をまとめた。
(前回更新:1997年03月)
<図/表>
図1 実機蒸気発生器の模擬範囲
図1  実機蒸気発生器の模擬範囲
図2 供試蒸気発生器構造鳥瞰図
図2  供試蒸気発生器構造鳥瞰図
図3 10MWフレオン試験設備系統図
図3  10MWフレオン試験設備系統図
図4 2次側伝熱管周りの熱流動状況測定結果(例)
図4  2次側伝熱管周りの熱流動状況測定結果(例)
図5 AVBが適切に取り付けられている場合の振動応答(振幅は比較的小さい)
図5  AVBが適切に取り付けられている場合の振動応答(振幅は比較的小さい)
図6 AVBが緩く支持された場合の振動応答(流速の増加に伴い或る点から急激に振幅が増大する)
図6  AVBが緩く支持された場合の振動応答(流速の増加に伴い或る点から急激に振幅が増大する)

<関連タイトル>
燃料集合体信頼性実証試験 (06-01-01-07)
原子力発電用機器の工学試験(1)(機器・システムに関する信頼性実証試験・確証試験) (06-01-01-13)
溶接部等熱影響部信頼性実証試験 (06-01-01-26)
原子力発電施設のポンプ信頼性実証試験 (06-01-01-27)

<参考文献>
(1)(財)原子力発電技術機構:安全を求めて四半世紀−NUPECの軌跡(2003年9月)
(2)(財)原子力発電技術機構:蒸気発生器信頼性実証試験(2000年3月)
(3)(社)日本機械学会:日本機械学会基準 蒸気発生器伝熱管U字管部流力弾性振動防止指針、JSME S 016(2002年3月)
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