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<概要>
 原子力発電所の耐震安全上重要な設備の地震に対する安全性を実証することを目的に、それらの実物大ないし実物に近い大きさの試験体を用いた大型高性能振動台による耐震実証試験が行われている。本試験は、(財)原子力発電技術機構多度津工学試験所において昭和57年度から実施されている。平成10年度までに、PWR原子炉格納容器BWR再循環系配管、PWR炉内構造物、BWR炉内構造物、BWR原子炉格納容器、PWR一次冷却設備、PWR原子炉容器、BWR原子炉圧力容器、非常用ディーゼル発電機システム、電算機システム、原子炉停止時冷却系等、主蒸気系等、コンクリート製原子炉格納容器、制振サポート支持重機器、および配管系終局強度の研究試験を実施し耐震強度および機能の確認を行っている。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力発電所の耐震設計は、一般の構造物より厳しい静的解析および地域の特殊性を加味した動的解析を行って万全を期しているが、わが国(日本)は世界でも有数の地震国であり、原子力発電所の耐震性について国民から高い関心がもたれている。一方、耐震設計は複雑な計算を伴う高度な技術であり、その手法の妥当性について一般国民が理解するには相当な困難を伴うものであると同時に、耐震性そのものは実際に地震が発生したときにはじめて示される性質のものである。従って、原子力発電所の耐震性に関し国民の不安を解消していくためには、実機を模擬した大型模型(試験体)を用いて、大型高性能振動台により実際に耐震信頼性を実証することが必要である。
1.耐震信頼性実証試験の目的
 耐震実証試験の目的は、次の3つである。
(1)原子力発電所の安全上重要な設備について、実寸大またはそれに近い試験体を製作し、設計用地震動による加振実験、更にそれを上回る地震動による加振実験を行い、構造強度の健全性および余裕度を確認する。
(2)地震時に機能維持を必要とする安全上重要な機器・配管・構造物を模擬した試験体を上記の地震動で加振し、所要の機能が発揮できることを確認する。
(3)加振試験結果と数値解析モデルによる解析結果を照合することにより、耐震設計手法の妥当性を確認する。
2.耐震信頼性実証試験の手順と主な項目の概要
2.1 手順
 耐震実証試験の流れ図を図1に示す。まず、過去の地震、活断層、地震地帯構造等を考慮して、設計用最強地震(歴史的事実から将来現実に起こると想定される最大の地震:基準地震動S1)および設計用限界地震(地震学上設計用最強地震を上回る地震が起こりうると想定される地震:基準地震動S2)を設定し、これらによってもたらされる設計用基準地震動S1およびS2を作成する。次いで、S1およびS2地震動を用いて、原子炉建屋の地震応答解析を行い、試験の対象となる機器・配管系が設置されている床の地震応答波を求める。これらの波が、試験体の設計と試験体を搭載した加振台への入力波となる。そして、正弦波加振試験から試験体の振動特性を把握すると共に、床地震応答波を用いた地震応答波加振試験から機器・配管系の設計法の信頼性および設計の余裕度を確認する、更に機能試験から機能の健全性を確認する。
具体的作業項目としては、対象施設の設定、基本事項の検討(入力波の検討)、設計(基本、詳細)、試験体製作、試験(部分、要素)、解析・評価がある。
2.2 主な項目の概要
 具体的作業項目のうち、対象施設の設定および試験について述べる。
(1)対象施設の設定
原子力発電所においては、その設備の破損による周辺環境への放射線傷害の影響の観点から、原子力設備をAS、A、B、Cからなる重要度分類によって大別し、耐震設計が行われている。耐震安全上最も重要なAsの設備は、設計時において下記の項目を考慮している。
1)冷却材喪失事故を誘発することなく
2)原子炉を停止させ、かつ冷却して安全状態に維持できるとともに
3)原子炉格納容器の機能が維持されねばならない。
 このような観点から安全対策上重要な設備が試験対象として選ばれる。これら重要な大型機器の原子炉建屋内の配置を図2に示す。実証試験用試験体の種類と規模を表1に示す。
(2)試験
 正弦波加振試験、地震応答波加振試験および機能試験に用いる大型高性能振動台は、最大積載重量1000トン、テーブルの寸法15m×15m、最大加振力水平方向3000トン、垂直方向3300トンの能力を有し、水平加振機7台、垂直加振機12台によって水平、上下の2方向同時加振出来る世界最大級のものである。主要性能の仕様を表2に示す
3.試験計画
3.1 全体概要
 昭和50年度から平成10年度までの試験の実施計画を図3に示す。試験は、昭和50年度から(財)原子力発電技術機構(2007年3月解散)多度津工学試験所に大型高性能振動台設備の製作に着手し、昭和54年度以降、PWR原子炉格納容器の製作・試験に始まり、各種試験体の試験が進められてきている。昭和57年度から平成7年度までの試験の概要および成果は参考文献に譲るとしてここでは省略する。
3.2 平成8年度から10年度までの概要
 平成8年度から10年度での試験は次の4項目であり、試験の詳細な実施計画を図4に示す。
1)主蒸気系等の耐震試験:主蒸気系等
2)コンクリート製原子炉格納容器耐震試験:PWR型および改良BWR型(ABWR)原子力発電所用原子炉格納容器(PCCVおよびRCCV)
3)制振サポート支持重機器耐震試験:制振サポート支持重機器
4)配管系終局強度耐震実証試験:配管系
4.平成8年度から10年度までの試験の目的と結果
 上記4項目のうち1)は8年度で終了し、4)は10年度から開始された。そこで、8年度から10年度の期間で重点的に実施された2)および3)について述べる。
4.1 コンクリート製原子炉格納容器耐震試験
(1)試験目的および項目
 PWR型および改良BWR型(ABWR)原子力発電所用プレストレストコンクリート製原子炉格納容器(PCCV)および鉄筋コンクリート製原子炉格納容器(RCCV)の試験体を製作し、大型振動台により加振して、大地震下でのコンクリート製原子炉格納容器の構造強度の健全性および漏洩防止機能が維持されることを実証する。PCCVおよびRCCVの構造概要を図5図6に示す。試験は次の4項目からなる。
1)構造健全性実証試験:設計地震動S1、S2に相当する地震力で加振して、地震により構造強度の健全性が失われないことを実証する。
2)漏えい防止機能実証試験:S1、S2に相当する地震力で加振して、地震により放射性物質の漏えい防止機能が失われないことを実証する。
3)安全裕度確認試験:設計地震動を上回る入力で加振し、放射性物質の漏えい防止機能および構造健全性の裕度を確認する。
4)耐震裕度把握試験:試験体を破壊または破壊に近い状態まで加振し、鋼鉄ライナが内面に設置されているコンクリート構造体の耐震裕度を把握する。
(2)試験内容および結果
1) PCCV(Prestressed Concrete Containment Vessel)の場合
 詳細設計として、耐圧・気密試験の実施要領・計画や加振試験の実施要領について検討し要領書をまとめた。壁体せん断試験を模擬したFEM(有限要素法)解析の結果、ライナ部とコンクリート部は、終局状態に至るまで一体として挙動することが確認された。
 構造健全性および漏えい防止機能実証試験として、事故時圧力と組合わせたS1加振試験、S2加振試験と加振試験前後での気密試験を行い、構造強度および漏えい防止機能の健全性を検証した。試験体のせん断応力度は、許容値以下で、加振前後の漏えい率は変わらず、漏えい防止機能が維持されていることが分かった。安全裕度確認試験として、S2の2倍まで加振した結果、試験体に顕著な損傷はなく、ライナの漏えい防止機能も健全であることが確認された。耐震裕度把握試験として、最大加速度がS2の約7倍の入力地震波を用いて破壊に至るまで加振し、試験体の最大耐力や構造的挙動を把握した。図7にPCCV試験体の破壊試験後の状態を示す。また、局部漏えい試験を行い、コンクリート部の破壊時にもライナに損傷がなく漏えい防止機能が健全であることを確認した。
 試験結果の分析、解析評価を行い、漏えい防止機能を担っているライナがコンクリート部分と一体で動くことが確認された。破壊試験による終局せん断力は、約5.4倍のS2入力の応答に相当することが分かった。実機格納容器について解析評価を行い、コンクリート部およびライナ部の設計方法の妥当性を確かめた。コンクリート部については、実機設計用解析モデルによる応答と試験応答が同等であることを確認した。ライナ部のひずみは、設計許容値以下であることを確認した。実機の耐震裕度については、コンクリート部においてS2の約5倍の耐力があることが分かった。また、破壊試験の結果、ライナはコンクリートの終局状態までコンクリートの一体性が保たれており、ライナの損傷が認められなかった。このことからライナの漏えい防止機能の耐震裕度はコンクリート部と同等以上であることが分かった。
2) RCCV(Reinforced Concrete Containment Vessel)の場合
 詳細設計として、試験体の鉄筋の継手方法や継手位置および付加質量の取付け方法について検討すると共に、試験実施計画や耐圧・漏えい・気密試験計画について検討し、要領書をまとめた。また、耐圧試験およびLOCA+S1加振試験を3次元FEMの静的解析で模擬し、鉄筋およびライナのひずみ・変形並びにコンクリートのひび割れ等の予想を行った。
 構造物健全性および漏えい防止機能実証試験として、S1加振試験、S2加振試験および事故時圧力と組合わせたS1加振試験を行うと共に、加振前後に気密試験を行い、構造強度および漏えい防止機能の健全性を検証した。各試験での試験体のコンクリート部のせん断応力度は、許容値以下であり、漏えい率は加振前後で変化が認められず、漏えい防止機能が維持されていることが確認された。安全裕度試験では、S2の2倍の大きさの地震動で加振した結果、試験体に顕著な損傷はなく、健全性が確認された。
 解析・評価として、FEMモデルを用いた静的解析と質点系モデルを用いた動的解析を行い、加振試験結果と比較した結果、両者は一致することが確認された。
4.2 制振サポート支持重機器耐震試験
(1)試験目的および項目
 大容量の制振サポートを用いて、重機器を支持する技術の実用化を図るため、PWR蒸気発生器(SG)と大容量鉛ダンパを組み合わせたモデルを対象とし、振動試験を実施して耐震信頼性および制振サポートの有効性を実証すると共に、BWRを含めた他機器への適用性の検討を行う。試験は次の2項目からなる。
1)大型振動台での振動試験:実機設備を模擬した試験体の振動試験、制振サポートで支持された重機器および周辺機器を含めたシステムの耐震信頼性の確認、新しい耐震設計手法の妥当性の評価
2)他機器への適用性検討:BWR/PWR他機器について、大容量制振サポートの適用性と効果についての解析的検討
(2)試験内容および結果
 基本設計として、鉛ダンパの特性を把握するための要素試験内容を検討した。詳細設計として、PWR蒸気発生器に大容量制振サポート(鉛ダンパ)を取り付けた図8に示す実証試験用試験体の設計を行った。試験体の応答予測解析を行った結果、配管の一部が許容応用を超え、鉛ダンパがストッパに衝突する裕度試験が実施できる見通しが得られた。
 要素試験(その1)では、実機用鉛ダンパ(120t、180t容量)の特性を把握した。要素試験(その2)では、実証試験試験体用鉛ダンパ(60t容量)の要素特性試験を行うと共に、鉛の塑性流動と熱伝達を考慮したシミュレーション解析を行い、両者を比較した結果、鉛ダンパの履歴特性および加振回数の増加に伴う温度上昇と効力低下について分かった。部分試験では、質量を制振サポートで水平2方向に支持した試験体を用いて振動試験を行い、制振サポートで水平2方向を支持された機器の挙動を把握した。
<図/表>
表1 実証試験用試験体の種類と規模の一覧
表1  実証試験用試験体の種類と規模の一覧
表2 大型高性能振動台の主要性能仕様
表2  大型高性能振動台の主要性能仕様
図1 耐震実証試験の流れ図
図1  耐震実証試験の流れ図
図2 安全対策上重要な大型機器の原子炉建屋内の配置
図2  安全対策上重要な大型機器の原子炉建屋内の配置
図3 昭和50年度から平成10年度までの実証試験の実施計画
図3  昭和50年度から平成10年度までの実証試験の実施計画
図4 平成8年度から10年度での詳細な実施計画
図4  平成8年度から10年度での詳細な実施計画
図5 実機PCCVの構造概要
図5  実機PCCVの構造概要
図6 実機RCCVの構造概要
図6  実機RCCVの構造概要
図7 PCCV試験体の破壊試験後の状態
図7  PCCV試験体の破壊試験後の状態
図8 PWR蒸気発生器に大容量制振サポート(鉛ダンパー)を取り付けた実証試験用試験体
図8  PWR蒸気発生器に大容量制振サポート(鉛ダンパー)を取り付けた実証試験用試験体

<関連タイトル>
原子力発電所の耐震設計 (02-02-05-05)
高速炉における耐震設計研究 (06-01-02-09)
原子力施設の耐震安全研究(平成3年度〜平成7年度):国の安全研究として (10-03-01-05)
原子力施設等安全研究年次計画(平成8年度〜平成12年度)原子力施設の耐震等の安全性に関する研究 (10-03-01-09)

<参考文献>
(1)(財)原子力発電技術機構・(財)発電設備技術検査協会:原子力発電施設信頼性実証試験について−平成8年度版 (1996年9月)
(2)(財)原子力発電技術機構:年報1997 Nupec.(1998年7月)
(3)(財)原子力発電技術機構:年報1998 Nupec.
(4)(財)原子力発電技術機構:年報1999 Nupec.
(5)(財)原子力発電技術機構・耐震技術センター:多度津工学試験所(パンフレット),(1995年8月)
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