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<概要>
 原子力発電所において使用される機器は故障を生ずることなく、長時間の連続運転に耐えることが要求される。特に原子炉冷却材ポンプとして使用されるBWR再循環ポンプおよびPWR一次冷却材ポンプは重要であり、高い信頼性が要求される。
 実証試験は、供試体ポンプを含む密閉循環ループを運転し、試験ループの圧力、温度は実機とほぼ同等の状態で試験を行う。試験結果、いずれのポンプも高温・高圧の長時間運転に対してポンプ性能、ポンプ機能およびシール性能は維持され、構造部材が健全であることが確認され、その信頼性が実証された。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.必要性
 原子力発電所は、その社会的要請により高度の信頼性が要求され、またいったん稼動に入った場合には、放射線環境下にあるため補修に困難を伴う場合が多いので、使用される機器は故障を生ずることなく、長時間の連続運転に耐えることが要求される。加えて発電所の高性能化に伴い、機器に対する信頼性の向上要求はさらに厳しくなってきている。
 原子力発電所に使用されるポンプについてもこの要求の一環として信頼性が要求されるが、特に原子炉冷却材ポンプ(BWR用再循環ポンプ、PWR用一次冷却材ポンプ)は重要であり、これを円滑に運転させ発電所全体の運転に支障を与えないようにしなければならない。原子炉冷却材ポンプの位置を 図1 に、再循環ポンプの構造を 図2 に、一次冷却材ポンプの構造を 図3 に示す。
 このためポンプの信頼性に関する試験設備を設置し、実機と同等な供試ポンプを使用して、実機での運転を可能な限り模擬した起動停止等を含む長時間連続運転を行い、ポンプの信頼性を実証する必要がある。供試ポンプの主要仕様を 表1 に示す。
2.試験計画
 実証試験は、供試体ポンプを含む密閉循環ループを運転し、高温高圧水を循環させて行う。なお、試験ループの圧力、温度は実機とほぼ同等の状態で試験を行う。BWR再循環ポンプ試験ループを 図4 に、PWR一次冷却材ポンプ試験ループを 図5 に示す。
2.1 再循環ポンプ試験(BWR)
 本実証試験では、1977年から1981年度にわたって、試験方案の技術的検討、供試体等の設計・製作を行い、1982年度から1983年度にわたって通常運転試験および特別運転試験を実施し、再循環ポンプの信頼性を実証した。
2.2 一次冷却材ポンプ試験(PWR)
 本実証試験では、1977年から1984年度前半にわたって、試験方案の技術的検討、供試体等の設計・製作を行い、1984年度後半から1986年度にわたって通常運転試験および特別運転試験を実施し、一次冷却材ポンプの信頼性を実証した。
3.試験内容
3.1 再循環ポンプ試験(BWR)
A.通常運転試験
(1) 性能試験:通常運転の開始時と終了時に性能の確認を行った。
(2) 連続運転試験:実機相当の運転圧力、温度、流量にて長時間の連続運転を行い、ポンプに異常が生じないことを確認した。
(3) 起動停止試験:起動・停止の際に、軸シール部、振動等の確認を行った。
(4) 分解点検:通常運転終了後、ポンプを分解点検し、各部品に異常がないことを確認した。
B.特別運転試験
(1) メカニカルシールパージ水停止試験およびポンプ冷却水停止試験:高温、高圧運転状態においてポンプ補助系統を停止した時に、ポンプ、軸シール等に異常が生じないことを確認した。
(2) 電源喪失試験:高温、高圧運転状態において主モータ電源を停止すると同時にメカニカルシールパージ水および冷却水の供給を停止し、一定時間後復帰させた時に、ポンプに異常が生じないことを確認した。
(3) ホットスタンドバイ試験:高温状態においてポンプを停止した時に、シール機能に異常が生じないことを確認した。
(4) 圧力過度状態模擬試験:原子炉運転時の異常な圧力過度変化をできるだけ模擬してループ圧力を変化させた時に、ポンプに異常が生じないことを確認した。
(5) シール損傷状態模擬試験:上部メカニカルシールが機能喪失した状態を模擬し、他のシールで短時間の運転が可能なことを確認した。
3.2 一次冷却材ポンプ試験(PWR)
A.通常運転試験
(1) 性能試験:通常運転の開始時と終了時に性能の確認を行った。
(2) 連続運転試験:実機相当の運転圧力、温度、流量にて長時間の連続運転を行い、ポンプに異常が生じないことを確認した。
(3) 起動停止試験:起動・停止の際に、軸シール部、振動等の確認を行った。
(4) 分解点検:通常運転終了後、ポンプを分解点検し、各部品に異常がないことを確認した。
B.特別運転試験
(1) シール注入水停止試験および熱遮蔽装置冷却水停止試験:高温、高圧運転状態においてポンプ補助系統を停止した時に、ポンプ、軸シール等に異常が生じないことを確認した。
(2) 電源喪失試験:高温、高圧運転状態において主モータ電源を停止すると同時にシール注入水および冷却水の供給を停止し、一定時間後復帰させた時に、ポンプに異常が生じないことを確認した。
(3) シール特性試験:シール注入水の圧力、温度を変化させて運転し、シールの圧力および温度特性を確認した。
(4) 圧力過度状態模擬試験:原子炉運転時の異常な圧力過度変化をできるだけ模擬してループ圧力を変化させた時に、ポンプに異常が生じないことを確認した。
(5) シール損傷状態模擬試験:多段のうち1段のシールが機能喪失した状態を模擬し、他のシールで短時間の運転が可能なことを確認した。
(6) シールの50Hz回転速度運転試験:シールを1,500rpm(50Hz)で運転し、結果を1,200rpm(60Hz)と比較し、有意な差がないことを確認した。
4.試験結果
 通常運転試験から、BWR用再循環ポンプおよびPWR用一次冷却材ポンプは、高温・高圧の長時間運転に対してポンプ性能、ポンプ機能、シール性能および構造部材が健全であり信頼性があることが実証された。また、低温、高温での起動、停止に対しても円滑に起動、停止することができ、問題ないことが実証された。
 特別運転試験から電源喪失などの実機において想定される各種の過酷な特別状態下においても、ポンプ機能が維持され、健全性を保つことが実証された。
 これらの試験の結果を総合的に評価すると、現在、原子力発電所で使用されている再循環ポンプ(BWR)および一次冷却材ポンプ(PWR)は発電所の起動・停止を含む通常の運転中においても、想定される特別な運転状態においても、十分な信頼性を有しているものといえる。
<図/表>
表1 供試ポンプ主要仕様
表1  供試ポンプ主要仕様
図1 原子炉冷却材ポンプの位置
図1  原子炉冷却材ポンプの位置
図2 再循環ポンプの構造(BWR)
図2  再循環ポンプの構造(BWR)
図3 一次冷却材ポンプの構造(PWR)
図3  一次冷却材ポンプの構造(PWR)
図4 再循環ポンプ試験ループ(BWR)
図4  再循環ポンプ試験ループ(BWR)
図5 一次冷却材ポンプ試験ループ(PWR)
図5  一次冷却材ポンプ試験ループ(PWR)

<関連タイトル>
軽水炉冷却系配管の信頼性評価研究(WIND計画) (06-01-01-25)
溶接部等熱影響部信頼性実証試験 (06-01-01-26)

<参考文献>
(1)(財)原子力発電技術機構広報企画室:原子力発電施設 信頼性実証試験について 平成7年度版(1995年9月)
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