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<概要>
 放射化されている原子炉内構造物解体は、放射線被ばく防止の観点から、遠隔操作によって行われる。種々の複雑な遠隔操作作業を効率的に行うためには、高度な作業機能を備えた遠隔装置が必要である。このため、日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)は、ロボット的機能をもつ遠隔解体装置技術を開発し、動力試験炉(JPDR)解体実証試験において炉内構造物の遠隔解体に適用し、その有効性を実証した。また、海外でもドイツのKKN炉、英国のWAGR炉等の解体に用いられている。さらに原子力施設の危険区域で活動できる解体または調査ロボットが開発され、チェルノブイリ炉の石棺の中で使用する極限ロボットも開発されている。
<更新年月>
2006年04月   

<本文>
 長期間にわたって運転された原子炉では、核燃料が装荷される炉心部とその附近の構造物中に核分裂反応に伴って発生する中性子照射によって種々の放射性同位元素が生成し、蓄積されている。それらの中には半減期の長い放射性同位元素も含まれているため、原子炉内には運転停止後も放射性同位元素が長年にわたって残留する。放射化された原子炉構造物の解体は、作業者の放射線被ばくの防止の観点から遠隔操作で行うことが不可欠である。また再処理施設でも高線量領域の解体には、遠隔解体ロボット等が用いられている。このような環境下で使用する解体用遠隔ロボット装置には、通常の環境で使用される一般産業用のロボット装置と異なり、耐放射線性という技術的に厳しい要求が課せられる。
1.JPDR解体実証試験に用いた遠隔解体ロボット技術
 わが国ではJPDR解体実証試験に用いるため、原子炉解体技術の開発が1981年に開始された。遠隔解体ロボット技術としてマスト型とマニピュレータ型の遠隔解体操作システムが日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)において世界に先駆けて開発された。これらは、炉内構造物の解体の際の放射線に対する耐放射線性、放射性微粒子による放射能汚染に対する除染容易性、水中・気中での両用性、取扱重量対自重比の向上、多機能性、操作の容易性、高信頼性、安全性、保守容易性などが考慮された。
 マスト型遠隔操作システムによる炉内構造物のプラズマアーク切断の概念を図1に示す。この操作システムは、走行、横行、昇降および旋回の4動作を独立に行うことが可能であり、昇降軸の先端に切断用のプラズマトーチを把持させて切断作業が実施された。炉内から取出された粗切断物は、燃料プールの二次切断装置で細断し、水中で遮へい容器に収納された。
 また、マニピュレータ型遠隔操作システムによる炉内構造物のプラズマアーク切断試験が行われた。このシステムは、マスター・スレーブ制御方式で、マニピュレータは7自由度の関節を備えている。操作員は、原子炉格納容器から約50m離れた管理区域外の計測室内でマスター・アームを操作し、先端に切断用のプラズマトーチを把持したスレーブ・アーム(Slave arm)を動作させ切断作業を実施した(図2)。
2.ニーダライヒバッハ炉(KKN)に用いた回転マニピュレータ型遠隔解体装置
 KKN炉は、ドイツのカールスルーエ原子力研究所が所有していた100MWeの重水減速炭酸ガス冷却炉である。この炉の炉内構造物の解体撤去のために原子炉本体の上部に回転式マニピュレータ型遠隔解体装置が据え付けられた(図3参照)。このマニピュレータの性能は、水平移動距離:8.5m、吊り上げ高さ:14m、取扱重量3トンであり、炉内で40種類の工具の取扱いができる。マニピュレータの外観を図4に、また、KKN炉の炉内構造物の解体撤去ルートを図5に示す。圧力管の解体では、多数の圧力管に1本ごとにアクセスし、圧力管の上下を切断し、上方へ引き抜き、サービスフロア上でプレスカッタを用いて裁断し、圧縮減容してからコンテナに収容した。
3.改良型ガス冷却炉(WAGR)用のマニピュレータ型遠隔解体装置
 マニピュレータ型遠隔解体装置は、1986年から開発が始まり、設計、製作に8百万ポンドを要し、1996年に完成後、遠隔操作試験が行われた。英国のWAGRでは、2001年現在、マニピュレータ型遠隔解体装置を用いて原子炉上部から炉心下部へ向けて撤去作業が行われている。また圧力容器、断熱材の切断にもこの装置が使用される計画である。最初に開発した電気駆動式マニピュレータ(操作荷重35kg)の概念および本体を図6(A)(B)に示す。その後、操作荷重100kgの油圧式マニピュレータに交換された(図7参照)。
4.日本において開発中のマストアーム式解体装置
 わが国初の商業用原子力発電所の東海発電所(黒鉛減速型ガス冷却炉)は、2001年12月より廃止措置着手するため、原子炉等規制法に基づいて「原子炉解体届」が10月4日付で経済産業省に提出された。原子炉領域については、約10年の安全貯蔵の後、第3期工事として解体される。炉心部解体の遠隔装置検討例を図8に示す。工事を安全かつ効率的に行うため、マストアーム式解体装置の開発が行われている。この解体装置は、直径18mの球体の原子炉容器の解体および容器内の黒鉛ブロックの取り出しに用いるもので、アーム、マスト、把持機、制御システムおよび監視システムから構成される。図9に装置構成、動作原理図を示す。アームは、屈折3、先端部の旋回1、全体の昇降、旋回各1の全6自由度を有する。アームの操作は、制御・監視システムにより、マストを旋回して方位を決めてから、アームの屈折と昇降の連続動作により原子炉内全域の目標位置へ到達する。
5.再処理施設等で用いる遠隔解体ロボット技術
 高放射線下で使用でき、耐放射線性材料を用いたロボットEMSM2bおよびEMSM3(図10参照)が開発されている。これらのロボットは、部品交換までの照射量250kGyに耐える。すでにドイツのWAK再処理施設でEMSM3型ロボットが活用されている。
 ベルギーのユーロケミック再処理プラントでは、コンクリート構造物の切断および除染に適用できる、遠隔操作型の電動・油圧式パワー・ロボット(Brokk 80)が使用されている。このロボットには、小型搬出システム(76×215×1500cm)が取り付けられ、普通のドアを通ることができる。ロボット・アームには、解体したコンクリート、砂などを除去するシャベルを付けることができる。また、床や天井用の切削装置(スキャブラ:Scabbler)により、コンクリート表面を除染することができる。その除去性能は、4つのスキャブラと1つの回転クロス(ダイヤモンドチップ付き)で構成する改良型では、表面3から5mmの深さを15から20平方メートル/時である。
6.米国において開発された極限原子炉解体/調査ロボット
 米国では、核兵器製造、研究施設の解体および環境修復計画が1980年代にスタートし、危険区域での解体またはサンプル採取、状況調査用のロボットが開発されている。
 一方、原子力発電施設として最大の事故を起こしたチェルノブイリ炉では、事故直後に建設した石棺の改修および溶融物の除去計画が1997年G−7で承認され、調査/設計が進められている。この炉の石棺の中で使用する極限ロボットの設計、モジュール開発、遠隔調査システムについては、米国の開発機関とウクライナとの間で1997年に合意された。その作業調査項目は、石棺の損傷、クラック等の状況、高線量照射によるコンクリート劣化調査のためのサンプル採取、γ線および中性子束分布測定、燃料含有率およびその分布などである。期待される米国のロボットとして、研究用原子炉CP−5の解体で実証済みのDAWP(双腕作業プラットフォーム)、Rosie(モービル除染/解体作業システム)等がある。これらのロボットの性能、適用例など表1に示す。コンクリートの遠隔解体試験をしているRosieロボットを図11に示す。Houdiniロボットは、排除具やアーム(plow & arm)を備え、基礎寸法1m×1.5mであるが、地下貯蔵タンク等の約60cmの開口部から進入できるように折りたためる構造になっている(図12参照)。
7.パイプ等調査ロボット
 パイプ、ドレンタンク等の汚染状況等調査するパイプ探査ロボットがCP−5原子炉解体プロジェクトの際に開発され、ロージャン発電所解体等で活用された。図13に概念図を示す。また、米国DOEのサバンナリバーサイトで活用されているパイプクロラー(Pipe Crawler)を図14に示す。
<図/表>
表1 米国の原子力施設解体/調査ロボット
表1  米国の原子力施設解体/調査ロボット
図1 マスト型遠隔装置によるプラズマアーク切断システム(JPDR)
図1  マスト型遠隔装置によるプラズマアーク切断システム(JPDR)
図2 JPDRに用いたマニピュレータ型ロボット装置のスレーブ・アーム
図2  JPDRに用いたマニピュレータ型ロボット装置のスレーブ・アーム
図3 KKNの回転マニュプレータ型遠隔解体装置等設置図
図3  KKNの回転マニュプレータ型遠隔解体装置等設置図
図4 放射化している炉内構造物の撤去に用いた回転マニピュレータ型遠隔解体装置(KKN)
図4  放射化している炉内構造物の撤去に用いた回転マニピュレータ型遠隔解体装置(KKN)
図5 KKN炉の炉内構造物の解体撤去ルート
図5  KKN炉の炉内構造物の解体撤去ルート
図6 WAGR解体用マニピュレータ(A)概念図と(B)遠隔解体装置
図6  WAGR解体用マニピュレータ(A)概念図と(B)遠隔解体装置
図7 WAGR炉心部解体の第4段階で使用中のマニュプレータ
図7  WAGR炉心部解体の第4段階で使用中のマニュプレータ
図8 東海発電所の遠隔解体装置検討例
図8  東海発電所の遠隔解体装置検討例
図9 マストアーム式解体装置の装置構成、動作原理図
図9  マストアーム式解体装置の装置構成、動作原理図
図10 EMSM2bとEMSM3
図10  EMSM2bとEMSM3
図11 Rosieコンクリート破砕ロボット
図11  Rosieコンクリート破砕ロボット
図12 DOEが開発したロボットの外観:Hudini
図12  DOEが開発したロボットの外観:Hudini
図13 パイプ探査
図13  パイプ探査
図14 パイプクロラー(Pipe Crawler)
図14  パイプクロラー(Pipe Crawler)

<関連タイトル>
鋼構造物の解体技術 (05-02-02-01)
英国WAGRの解体 (05-02-03-10)
ドイツKKN炉の解体 (05-02-03-11)
東海発電所(GCR)の廃止措置計画 (05-02-03-14)
JPDRの解体 (05-02-04-09)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)
ドイツWAK再処理施設の解体 (05-02-05-06)
ユーロケミック再処理施設の解体 (05-02-05-07)

<参考文献>
(1)The Co−Operative Programme on Decommissioning,The First Ten Years 1985−95 OECD/NEA,p.85−91
(2)宮坂靖彦ほか:JPDR解体実地試験の概要と成果、原子力学会誌、Vol.38、No.7、p.553−576(1996)
(3)冨塚千昭ほか:マスト式解体試験装置の開発、日本原子力学会「2001年秋の大会」予稿集、N70
(4)V. Rudinger et. al.: Report the First Steps of the Remote−Contolled Dismantling of the Pressure−tube HWGCR of KKN at Niederaichbach,2nd Seminar on large−scale operation for the dismantling of nuclear installations in the European Communities,Sellafield,Sep. 1991,p.49−79
(5)J. Varley : Windscale: getting down to the core,Nucl. Eng. International,Nov. 1997,p.26−27
(6)D. Kovan: Windscale−core decommissioning goes active,Nucl. Eng. International,Feb. 2000,p14−17
(7)藤井信一:廃止措置におけるロボット技術の動向、原子力eye,Vol.44 No.7 1998 p.24−28
(8)Tim Denmeade : A Pioneer’s journey into the Sarcophagus,Nucl. Eng. International,March 1998,p.18−21
(9)D.B.Black et al: Development of Remote Dismantlement System at CP−5 reactor P.364−370,DD&R,Sep.1997 Knoxville TN.
(10)Report on the First Steps of the Remote−Cntrolled Dismantling of the Pressure−tube HWGCR of KKN at Niederaichbach,2nd,Seminar,EC,(1991)
(11)Terry Benest,Taking up arms for decommissioning, Nuclear Engineering International、P14−16,Aug. 2004
(13)Wilhelm Bazlen,A hostile workplace,Nuclear Eng. Inter. Dec. 2004,p32?36
(14)Radioactive Waste Management,Status and Trend−Issue#4,Feb. 2005,IAEA/WMDB/ST/4 p62−65. 6.2.1 Topical Issue: Innovation Technologies for Characterization of Underground Piping in Decommissioning Projects.
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