<本文>
フランスでは、原子力開発利用の初期段階で黒鉛減速炭酸ガス冷却炉(GCR)が開発され、商業用発電炉として導入されたが、その後軽水炉(PWR)に全面的に切り替えられた。2014年末現在で、PWR型発電炉58基を保有し、それらの平均稼働率は約75%、発電量は総発電電力量の約77%を占めている。既存の発電炉は2020年以降順次寿命を迎える予定であるが、フランス政府は、出力90万kWe級の発電炉を中心に、2020年以降順次
欧州加圧水型炉(EPR)へ代替を進める方針である。現在フラマンビル3(EPR)が、2016年の運転開始に向けて建設されている。なお、2012年に成立したオランド政権は、原子力発電の比率を50%にまで下げる方針を打ち出している。2015年8月現在、閉鎖した発電炉等の数は、GCR9基、PWR1基、
重水減速炭酸ガス冷却型原子炉(HWGCR)1基及び高速増殖炉(
FBR)2基の合計13基である。
フランスにおける発電炉等の廃止措置概況を
表1に示す。
2001年1月に、フランス電力公社(EDF)は第一世代の発電炉8基(PWR(ショーA)、HWGCR(ブレンリス(モンダレーEL−4))、GCR(6基))及びFBR(スーパーフェニックス)の9基を当初計画よりも約25年早く、2025年までに完全解体することを決定した。この計画は、2013年に見直され、PWR(ショー A)の解体撤去は、2021年までに完了する予定となった。しかし、GCR6基の廃止措置計画は、超寿命中レベル放射性廃棄物(ILW)となる黒鉛ブロックを埋設する処分施設のサイト選定と建設の遅れ等から、ビュジェイ1を最初に解体し、最後にシノンA1の解体を2043年に完了するとしている。
第一世代の発電炉 8基及びスーパーフェニックスの廃止措置スケジュールを
図1に示す。
フランスの廃止措置方式は、IAEAの
デコミッショニングの分類とほぼ同様に、(a)密閉管理(レベル1)、(b)
原子炉本体のみ遮蔽隔離し、周辺の機器建屋を解体撤去して規制解除する状態(レベル2)及び(c)原子炉の解体撤去(レベル3)に区分している。2000年以前では、
放射能の高い炉心部のみ遮蔽隔離し、この状態で40から50年の間、放射能の減衰を待ち、最終的にすべてを解体撤去する方法が主に採用されていた。これは、いわゆる長期の遮蔽隔離方式をベースとする戦略である。フランスでは立地サイトに余裕があることから、残留放射能の減衰による解体作業時の被ばく量の大幅な低減と、放射性廃棄物発生量の軽減、解体技術の進歩による解体作業の経済性向上を優先した考え方であった。この戦略は2001年に、旧原子力施設安全局(DSIN)の要請により遮蔽隔離期間をできるだけ短縮する方向に変更された。長期間のサイト情報の喪失に対するリスク低減を考慮すべきというDSINの見解に基づいたものであった。
フランスにおける原子力施設の安全規制の基本となるのは、2006年6月に制定された「原子力の透明性と安全性に関する法律(TSN法)」である。これはフランスでの原子力活動の内容についての正確な情報が公表されるように、行政府から独立した機関を設けることを目的としており、これにより原子力安全機関(ANS)が設立された。原子炉の解体の各過程はASNの指針によって規制される。また、ANSは、2009年に廃止措置戦略に関する政策を公表し、技術的、財政的に将来の世代に対する負担を先送りすべきでないとの観点から、安全貯蔵や遮蔽隔離ではなく、即時解体の採用を事業者に勧告している。
2006年のTSN法制定以降の廃止措置に関連する法令等を
表2に、ANSの廃止措置に関する主な規制要件を
表3に示す(フランスの廃止措置規制のフローについては、ATOMICAデータ「海外主要国における廃止措置の考え方<05-02-01-10>」の
図1−2を参照)。
廃止措置の費用は、合計約30億ユーロ(約4,000億円)を要する。フランスでは廃止措置のための資金として投資コストの15%があらかじめ確保され、EDFはkWh当り0.14セントを廃止措置費用として積み立てており、廃止措置のコストを賄える見込みである。
以下、個々の発電炉の解体計画等について記述する。
1. 第一世代の発電炉の解体計画
第一世代の発電炉8基については、PWR(ショー A)、HWGCR(ブレンリス(モンダレーEL−4))、GCR(6基)のグループに区分し、廃止措置を進めることにしている。
1.1 ショー A(CHOOZ−A(C.N.Aセナ):PWR、出力32.0万kWe、1991年に閉鎖)
2003年に原子炉本体等の解体撤去の認可を受け、2004年にレベル2を達成した。2010年から2012年の間にCORD法(Chemical Oxidation Reduction Decontamination)による系統
除染を行って一次冷却系の機器・配管を撤去し、蒸気発生器は解体せず極低レベル放射性廃棄物(VLLW)としてモリブルエ処分場に輸送(
図2参照)、埋設された。その後、原子炉本体は、2014年から解体を開始、2021年までに完了させる計画が進んでいる。炉内構造物、原子炉容器等の原子炉プール内での解体撤去概念を
図3に示す。
1.2 ブレンリス(モンダレーEL−4)(BRENNILIS(MONTSDARREEEL−4):HWGCR、出力7.7万kWe、1985年に閉鎖)
当初の廃止措置計画では、遮蔽隔離のため原子炉建屋を40年間安全隔離した後、解体撤去する方針とし、1994年までに解体計画の検討や放射能測定等が進められ、
使用済燃料の搬出、重水の抜出し、機器・配管の水抜きと乾燥、放射性廃棄物の梱包等の作業が行われた。使用済燃料の一部はマルクールの
再処理パイロット施設(APM)と再処理工場(
UP1)で再処理され、その他はカダラッシュで長期
乾式貯蔵されている。重水100トンは、グルノーブルのトリチウム除去プラントで処理後、カダラッシュに移送し保管された。1997年から原子炉本体及び1次冷却系の密閉隔離、原子炉建屋の密閉隔離などレベル2の作業が行われた。
しかし、2001年以降、遮蔽隔離達成後すぐに原子炉本体の解体撤去を開始する方針に転換した。EDF社が完全解体の申請を行い、2003年6月に認可された。2004年までに燃料建屋と放射性廃棄物処理建屋の浄化作業を完了した。2022年の敷地開放・再生を目指しているが、廃止措置法規自体の不手際から2007年6月にレベル3のデクレ(政令)が失効し、工程は遅延した。その後、2007年に改めて申請し、2010年に許可、2019年から原子炉本体の本格的な解体が開始される予定である。
1.3 GCR型ガス炉
ガス炉6基の原子炉本体の解体撤去は、炉心の黒鉛ブロック等の超寿命中レベル放射性廃棄物を埋設する処分施設のサイト選定の遅れ等を考慮して、2020年以降にビュジェイ1を先行して開始、その後、5基を順次に実施する計画である(
図4参照)。
ビュジェイ1とサンローランのA1及びA2は、遮蔽体に囲まれた炉心の下に蒸気発生器が設置された一体型の原子炉である。一方、シノンは、東海発電所と同様に原子炉本体の外側に蒸気発生器が設置されたタイプである。
(1)ビュジェイ1(BUGEY 1:GCR、出力55.5万kWe、1994年に閉鎖)
2012年末までにレベル2を達成、2015年現在、蒸気発生器を撤去中であり、原子炉本体の解体を2020年に開始して2033年までに完了する計画である。
(2)サンローランA1及びA2(SAINT LAURENT A1、A2:GCR、出力40.5万kWe(A1)、46.5万kWe(A2))
A1及びA2は1990年と1992年に閉鎖され、レベル1を2009年末に達成、2010年に解体撤去が許可され、解体完了を2041年までとする計画である。
(3)シノンA1、A2及びA3(CHINON A1、A2、A3:GCR、出力8.4万kWe(A1)、23.0万kWe(A2)、37.5万kWe(A3))
A1、A2及びA3は、1973年から1990年にかけて閉鎖、2010年に解体計画が許可された。
A1は、1982年にレベル1を達成、その後、
原子炉格納容器をモニュメントとして公開されている。A2は、レベル2を1991年に達成した。A1とA2の解体は、蒸気発生器の撤去を2018年から2021年の間に実施し、その後に原子炉本体の解体撤去を2040頃に完了する目標としている。A3は2015年現在、蒸気発生器を撤去中であり、原子炉本体の解体開始を2023年以降に予定している。
2. スーパーフェニックス(Creys−Malville Super−Phenix:FBR、出力124万kWe)の解体計画
スーパーフェニックスは、経済性、安全性の観点から政治問題化し、1998年12月に閉鎖され、廃止措置の第一段階の作業が進められた。1999年7月から18ヵ月かけて燃料を炉心から取出し、実験炉ラプソディの経験に基づき、2001年からナトリウム約5,500トンを抜き取っている。その後、2006年に解体許可が出され、2012年までに主要設備建屋以外のすべてを解体した(レベル2)。2009年〜2014年にナトリウムの除去・処理を行い、2015年〜2024年に遠隔解体操作技術により原子炉本体を解体、建屋の解体は2028年に完了する計画である。
3. マルクールG1、G2及びG3(MARCOULE G1、G2、G3:GCR、出力0.2万kWe(G1)、4万kWe(G2、G3)
フランス原子力庁(CEA)所有のプルトニウム生産兼発電炉G1(1968年に閉鎖)、G2(1980年に閉鎖)及びG3(1984年に閉鎖)は、1994年までに冷却系統の撤去、原子炉本体部分の遮へい隔離を完了し、レベル2の状態で管理されている。
4. 解体廃棄物の処分等について
スレ−ヌ(オーブ)低・中レベル放射性廃棄物処分センターが1992年から、モルヴィリエ極低レベル放射性廃棄物(VLLW)処分場が2003年10月から開設されている。GCR6基分の黒鉛約1.7万トンの中レベル放射性廃棄物(ILW)を埋設する処分施設は、2015年末までに建設する計画が進んでいる。
(前回更新:2014年8月)
<図/表>
<関連タイトル>
廃止方法 (05-02-01-03)
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
フランスG2/G3炉の遮へい隔離 (05-02-04-07)
<参考文献>
(1)European Commission:A Review of the Situation of Decommissioning of
Nuclear Installations in Europe,REPORT EUR−17622
(2)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック 2015年版(2015年12月)
(3)Jean−Jacques:“EDF Decommissioning Programme−A Global Commitment
to A Sustainable Development”ICEM03 4722(Sep.2003)
(4)経済産業省:海外の廃止措置規制制度について
(5)原子力安全基盤機構:廃止措置規制の継続的改善に関する考察、
JNES−RE−2013−2035、2014年2月
(6)Policy Department:Nuclear decommissioning:Management of costs and risks、
http://www.europarl.europa.eu/RegData/etudes/etudes/join/2013/490680/IPOL-JOIN_ET(2013)490680_EN.pdf
(7)海外電力調査会:フランス
(8)世界原子力協会:
http://www.world-nuclear.org/info/Country-Profiles/Countries-A-F/France/
(9)G.LAURENT:“EDF Nuclear plant under decommissioning Status of activities/
program” SCIENTIFIC CONFERENCE Uranium Graphite Reactors
Decommissioning,Lituania 14th /16th of July,2014.、
http://www.iae.lt/static/prezentacijos/status_of_activities_program_laurent_1_day_1part.pdf
(10)EDF:“ FIRST GENERATION DECOMMISSIONING PROGRAMME”2014.、
(11)原子力安全基盤機構:廃止措置規制の継続的改善に関する考察、JNES−
RE−2013−2034 (2/20014)
(12)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2015年版(2015年4月)