<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 原子炉施設の解体は多量の低レベル放射性廃棄物の発生を伴うため、それらを可能な限り再利用し、廃棄物処理処分費用の低減、資源の有効利用を図る必要がある。既に欧米諸国では再利用基準を制度化し、原子力分野への限定再利用を行っている国もある。わが国では、廃棄物の再利用を目的にした種々の研究開発が実施され、原子炉施設、核燃料施設についてのクリアランスレベルの検討が行われた。この検討を経て2005年5月に原子炉等規制法が改正されクリアランス制度が導入された。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
1.廃棄物再利用の意義
 原子炉施設の解体においては、多量の放射性廃棄物として扱う必要のない廃棄物(以下「非放射性廃棄物」という。)に加え、低レベル放射性廃棄物が発生するため、その合理的な処理処分が重要な課題となる。そこで、安全確保上問題がない場合には、これらの廃棄物をできるだけ再利用し、廃棄物の低減と資源の有効利用を図ることが検討課題となっている。再利用を行う利点は、放射性廃棄物の量の低減とその処理処分費(処理、保管、管理、処分)の低減が第一であるが、それとともに資源の有効利用という側面も重要である。金属廃棄物の大半は、ステンレス鋼、炭素鋼の鉄であり、その他に銅(電気ケーブル等)、ニッケル合金(インコネル等)、アルミニウム等があり、これらは付加価値のある再利用製品にすることが可能である。一方、コンクリート廃棄物の再利用については、現在のところ、再利用価値というよりも、非放射性廃棄物と区分けすることによって、低レベル廃棄物量の低減に寄与するという点で重要と考えられている。
2.再利用の対象廃棄物
 わが国の発電用原子炉1基の解体において発生する廃棄物は、110万kWe級軽水炉の場合で約50万トンである。このうちコンクリート廃棄物の大半と金属廃棄物の一部は放射性汚染物質を全く含まない非放射性廃棄物で、通常の建物などの解体物と同じく処分または再利用が可能である。一方、放射性廃棄物の発生量はBWR型で約37,000トン(うちクリアランス対象物は約28,000トン)、PWR型で約17,000トン(うちクリアランス対象物は約12,000トン)と見積もられている(ATOMICA「わが国の放射性廃棄物の種類と区分(05-01-01-04)」を参照)。
 放射性廃棄物の処理においては、廃棄物から放射性汚染物質を容易に取り去ること(除染)ができるものがあり、汚染部分をほぼ完全に取り除くことにより、非放射性廃棄物と同様の扱いが可能となる(クリアランス廃棄物)。また、「放射性の金属廃棄物を用いて放射性廃棄物を入れるための遮へい容器を作る」といった場合には、利用先が原子力施設に限定されるため、放射能レベルを管理することによって再利用が可能である。このように、原子炉施設の解体から発生する廃棄物の再利用については、放射性物質としての管理規制を受けない一般再利用と、原子力施設内に用途を限定して再利用する限定再利用とがある。現在実施されている原子力発電所からの固体、液体及び気体廃棄物の処理方法を図1に示す。
3.再利用のための処理技術
 再利用のための除染処理には、放射性物質で汚染した廃棄物から化学的に汚染物を取り除いたり、あるいは機械的に削り取ったりする除染技術や、電気炉で溶かす溶融処理技術が適用されている。とくに溶融処理技術は、137Cs、ウラン等の一部の放射性核種の除染効果や廃棄物の容積を減らす“除染・減容効果”が期待される。また解体廃棄物は一般に不定形で正確な放射線の測定が困難であるが、溶融により均一な単純形状の鋼塊にすることによって、放射能濃度の定量が簡単になるという利点がある。したがって、溶融処理技術は、放射性金属廃棄物を再利用する際の中心的な処理技術となっている(参考文献1)。放射性金属を溶かしてできた鋼塊中の放射能分布の例として、60Coの濃度分布を図2に、放射性核種の分布を表1に示す。この表では溶融処理により、特にα線放出核の大部分がスラグに移行し除染されることを示している。
3.1 再利用の実例
 金属廃棄物について、独、米国、スウェーデン、仏等の欧米の原子力先進国においては、現在までに放射性金属専用の溶融設備を設け、それぞれの施設で数千〜数万トン規模の溶融処理を行っている。
 ドイツでは、低中レベルの放射性廃棄物処理施設を集中的に処理する民間会社がある。GNS社は、固体廃棄物処理・保管業務を行い、またジンペルカンプ社では溶融処理を実施し、図3に示すように金属廃棄物のリサイクルシステムを確立している。放射性金属廃棄物の溶融処理による処分容器への再利用の事例を図4に示す。
 米国での放射性廃棄物の処理により製造したB型廃棄容器の例を図5に示す。オークリッジにある放射性廃棄物処理センターでは、20トン炉の高周波誘導炉が稼働している。2007年までに約5万トンの処理実績があり、遮蔽体を製造し販売している(図6参照)。
 スウェーデンでは、RadWast社で放射性廃棄物の処理・再利用業務を実施している。溶融処理は2011年までに1万トンに達し、ドイツ、イギリス等のEU内の廃棄物の処理も含めて実施している。ドイツのリングハルス(Ringhals)原子力発電所の3基の蒸気発生器(SG)を切断・溶融処理したときの概念を図7に示す。また、特記すべきは、イギリスのバークレー発電炉(GC(ガス冷却炉))から300トンのボイラー(15基)を運び込んで処理し、リサイクル率96%を記録した。
3.2 わが国における研究開発と実用化例
 将来、日本で放射性廃棄物の再利用を行うためには、廃棄物を加工処理する各段階における安全評価の基礎になるデータの蓄積が不可欠である。このような観点から、複数の研究機関等において、廃棄物再利用のための総合的な研究開発が行われてきた。
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構、以下同じ。)では、動力試験炉(JPDR)の解体から発生した金属廃棄物等を用いた溶融・造塊試験が行われ、溶融処理工程での放射性物質の移行挙動に関するデータが収集された(参考文献3)。放射性核種の移行挙動に関する試験結果の一例を図8に示す。溶融により主要核種の一つである137Cs(半減期30年)が金属相から除かれるので再利用が容易になる。また、放射性金属廃棄物を再利用するための技術開発として、廃棄物収納容器を鋳造する試験が行われている(参考文献4)。さらに、日本原子力研究所では、放射性金属廃棄物を溶融し、遠心鋳造法によって、ガラス等の不燃性溶融物を収納する容器に造り替える施設を整備した。その概要を図9に示す。(財)原子力発電技術機構((独)原子力安全基盤機構を経て2014年3月1日に解散、原子力規制庁と統合)では、廃炉設備確証試験の一環として、放射化金属中の主要放射性核種である60Co及び63Niを分離除去する溶融分離技術、解体コンクリートから骨材(砂利など)を回収・再生して原子力施設の建築材料とする技術の開発など、軽水炉の廃止措置に適用できる実用性を重視した技術の開発を行っている(参考文献6)。
(財)原子力研究バックエンド推進センター(現(公財)原子力バックエンド推進センター(RANDEC))では、コールドクルーシブル溶融法の技術開発を行っている(参考文献6)。この溶融法は、溶融金属を坩堝(るつぼ:クルーシブル)と非接触で保持できることから坩堝の寿命が長く、不純物の少ない金属が得られるのが特徴である。(財)原子力環境整備促進・資金管理センター(現(公財)原子力環境整備・資金管理センター)では、放射性金属廃棄物をドラム缶内張材として再利用するシステムの確証試験を実施し、技術的な問題点を解決している。日本原子力発電(株)東海発電所では廃止措置の一環としてクリアランス廃棄物の再利用を進めている。これはわが国での本格的な再利用の実用化といえる。2006年に法手続きを開始して2007年10月に再利用製品を初めて納入した(図10)。
4.再利用に係る制度整備
4.1 クリアランス制度
 我が国では、放射性廃棄物の低減及び資源再利用の観点から2005年5月に原子炉等規制法を改正し、クリアランス制度が導入された。この制度の整備に当たっては、再利用の方法・用途等の検討を踏まえつつ、国際原子力機関(IAEA)が示したクリアランスの考え方を参考にしている。
 東海発電所の廃止措置から発生する金属廃棄物のクリアランス検認及びそれらの金属の溶融再利用が進められている。また、JRR-3改造炉の建設に伴い発生したコンクリート廃棄物のクリアランス検認により再利用が進められている(ATOMICA 「日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)」を参照)。
4.2 海外の動向
 原子炉施設の解体物等が国境を越えて流通する可能性があることから、クリアランスに関する国際的な統一基準(IAEAの指針RS-G-1.8)が設けられた。また、EU諸国では統一基準のRP89(金属のリサイクル)、RP133(コンクリート解体物)及びRP112-I(一般基準)に、それぞれクリアランスレベルが定められ、各国は、この基準の国内法への取り込み、準用を図っている(ATOMICA「各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)」を参照)。
4.3 クリアランス制度導入の波及効果
 放射性廃棄物のクリアランスレベルが制度化されたため、原子炉施設の解体により発生する放射性廃棄物の大部分が放射性廃棄物として取り扱う必要のないもので、廃棄物の再利用による資源としての有効利用が可能となった。軽水炉の解体では放射性廃棄物の96%(BWR型)、98%(PWR型)がクリアランス対象物である。廃棄物の処理費用及び処分量が軽減されることから、廃止措置の経済性向上及び環境負荷の低減に大きく貢献するものと期待される。
(前回更新:2009年4月)
<図/表>
表1 溶融処理鋼塊中の放射性核種分布
表1  溶融処理鋼塊中の放射性核種分布
図1 原子力発電所の廃棄物処理方法
図1  原子力発電所の廃棄物処理方法
図2 溶融鋼塊における60Coの濃度分布
図2  溶融鋼塊における60Coの濃度分布
図3 ドイツにおける金属廃棄物の溶融処理によるリサイクル(無条件解放及び限定再利用)の流れ
図3  ドイツにおける金属廃棄物の溶融処理によるリサイクル(無条件解放及び限定再利用)の流れ
図4 ドイツGNS社における金属廃棄物の処分容器への再利用例
図4  ドイツGNS社における金属廃棄物の処分容器への再利用例
図5 米国のManufacturing Sciences社が製作したB型廃棄物容器
図5  米国のManufacturing Sciences社が製作したB型廃棄物容器
図6 (米国)Energy Solutions(Oak Ridge,TN)社の金属溶融処理施設、遮蔽ブロック
図6  (米国)Energy Solutions(Oak Ridge,TN)社の金属溶融処理施設、遮蔽ブロック
図7 RadWast社の蒸気発生器(SG)の切断・溶融処理概念
図7  RadWast社の蒸気発生器(SG)の切断・溶融処理概念
図8 JPDR解体鋼材を溶融処理した際の放射性核種の挙動(代表例)
図8  JPDR解体鋼材を溶融処理した際の放射性核種の挙動(代表例)
図9 原研が整備を進めている遠心鋳造機による廃棄物収納容器の製作方法
図9  原研が整備を進めている遠心鋳造機による廃棄物収納容器の製作方法
図10 東海発電所でのクリアランス再利用製品の例
図10  東海発電所でのクリアランス再利用製品の例

<関連タイトル>
わが国の放射性廃棄物の種類と区分 (05-01-01-04)
低レベル放射性固体廃棄物の減容技術に関する現状 (05-01-02-09)
解体に伴う廃棄物の処理・処分の方法 (05-02-01-07)
解体関連除染技術 (05-02-02-04)
放射性廃棄物としての規制免除についての考え方 (11-03-04-04)
各国における放射性廃棄物規制除外(クリアランス)の動向 (11-03-04-05)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)

<参考文献>
(1)K.Pflugrad et al.(ed):Decommissioning of Nuclear Installations,Elsevier Applied Science,p.473-528(1990)
(2)M.Sappok:Proc. of the Technical Seminar on Melting and Recycling of Metallic Waste Materials from Decommissioning of Nuclear Installations,p.67-87(1993)
(3)日本原子力研究所(編集発行):たゆまざる探求の軌跡、日本原子力研究所、p.35(1996年8月)
(4)中村寿ほか:第6回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論文集、日本機械学会、p.343-347、p.371-376(1998年)
(5)鈴木正啓ほか:コールド・クルーシブルによる解体金属の溶融技術について、デコミッショニング技法、No.16、p.58-67(1997年)
(6)梅村昭男:放射性金属廃棄物の溶融・有効利用技術の開発、デコミッショニング技報、No.11、p.12-23(1994年)
(7)日本原子力発電(株)ホームページ:http://www.japc.co.jp/
(8)宮坂靖彦:スウェーデン及びドイツにおけるウラン廃棄物の処理処分の現状、デコミッショニング技報 第37号(2008年3月)
(9)電気事業連合会:「原子力・エネルギー」図面集2008年版(2008年4月)、p.179
(10)M.Sappok:Re-Use of Chemically Contaminated Steel Scrap by Melting as a Development Coming from Radioactive Steel Scrap Recycling, Proceedings of the International Topical Meeting on Nuclear and Hazardous Waste Management. Spectrum 94. Atlanta. GA,August 14-18, ANS
(11)J.Lorenzu, G.Krause, New Possibilities for Free-Release of in Studsvik treatedLLW-Material,4th International Symposium,E-2, March 2006,TUV NORD.
(12)David Saul & Gavin Davidson, “Berkeley Boilers Project”, Studsvik Symosium April 2014、http://www.oecd-nea.org/rwm/wpdd/studsvik2014/documents/F-3__Berkely_boilers__B-Amcoff.pdf
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ