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<概要>
 原子炉解体では、解体の前後に機器・配管等に付着した放射性物質を除去する作業が行われる。これを除染と呼ぶ。除染の方法には、主に化学的方法、電気化学的方法及び物理的方法がある。除染は、解体作業に従事する作業員の被ばく低減を目的とした解体前除染と、解体によって発生した放射性廃棄物の汚染レベルを低減させ、その後の処理処分を容易にすると同時に一部の廃棄物を再利用可能にして、全放射性廃棄物量の低減を図ることを目的とした解体後除染がある。
<更新年月>
2015年02月   

<本文>
 原子炉の解体を進めるに当たり、解体対象の機器・配管等に付着している放射性物質を解体の前後において除去する作業が行われる。解体前に行われるものは解体前除染と呼ばれ、解体作業現場の空間線量を下げ、解体作業員の被ばく線量を低減することが主たる目的である。これに対して、解体後に行われるものは解体後除染と呼ばれ、放射性廃棄物の汚染レベルを低減させることにより、その処理処分を容易にすると同時に一部の廃棄物の再利用を可能にして、全放射性廃棄物量の低減を図ることを目的としている。
 解体前除染はその現場に除染装置を持込み、あるいは既設の設備を使って機器・配管を除染するのに対し、解体後除染は機器・配管を運搬可能な大きさに切断・解体後、除染装置のある場所まで運搬し、そこで除染を行うのが通常である。
 除染の方法には、化学的除染法、電気化学的除染法、物理的除染法、その他に溶融除染法等があり、また、これらを組合わせた方法もある。各種除染方法の要点を表1に、また、原子力発電所廃止措置で適用される典型的な除染技術表2に示す。
1.解体前除染
 解体前除染は、化学的除染法が一般的である。除染する機器、配管内に化学溶液を循環させ、内表面の放射能による汚染物を溶出させる方法である。系統全体を除染対象としていることから、解体前系統除染ともいう。供用中原子炉施設の除染の延長線上に位置づけられるが、供用中除染のように材料の健全性に対する厳しい制約がない。即ち除染対象物は、除染後解体撤去されることが決まっているので安全が保証される範囲内であれば、汚染機器の母材までも侵食するような除染法も許容できる。
 解体前除染で重要なことは、除染効果の向上の他に、除染に付随して発生する2次廃棄物(廃水、廃イオン交換樹脂等)量の低減及びその処理の容易さである。また、除染の効果は、除染することによって汚染が除染前の何分の1になったかを示す除染係数(Decontamination Factor)で表される。最近の解体前除染例では、この除染係数は平均して20〜100程度である。また2次廃棄物の発生量を少なくする方法として、除染剤の再生利用及び使用済除染剤の分解処理等が考えられている。
 具体的な除染技術として、還元剤を中心とした薬剤で汚染物を溶出する方法及び酸化還元反応を利用する方法がある。前者はシュウ酸、クエン酸等の還元反応で除染対象物のFe系表面酸化被膜を溶解除去する方法である。後者は主としてステンレス鋼等Crを含む材料に適用される。ステンレス鋼ではCr系酸化物が存在し、これは上記の還元反応では溶解しないため、過マンガン酸及び過マンガン酸カリ等による酸化反応で溶解する必要がある。最近はこの酸化及び還元反応を組合わせて高い除染係数を得る除染方法が使われている。表3に酸化反応を利用する方法で従来から供用中の除染に使われてきたCITROX法、LOMI法及び最近開発された酸化還元反応を利用するDFD法、CORD法の例を示す。
 DFD法では、フッ化ホウ素酸を使用して、酸化被膜及び母材を効率良く溶解し、除染効果を上げる工夫がされている。米国のメインヤンキー発電所の系統化学除染時の系統図を図1に示す。メーンヤンキー、ビッグロックポイント、トロージャンの各原子炉におけるDFD法適用と発生した2次廃棄物量等を表4に示す。
 CORD法では、過酸化水素及び紫外線照射により添加したシュウ酸を炭酸ガスと水に分解し、2次廃棄物の発生を少なくする工夫がされている。CORD法にはCORD UV法とCORD D UV法があり、双方の除染の考え方を図2に、また、ドイツのビルガッセン(KWW)発電所の再循環系にCORD D UV法等で除染した時の時間経過に伴う放射能及び金属除去量を図3に示す。
 また、「ふげん」発電所では、供用期間中に実施した除染方法と同じ酸化還元除染法であるHOP法で原子炉冷却系の除染が行われた。このHOP法では、酸化剤に過マンガン酸カリウム、還元剤にシュウ酸を用いている。系統化学除染時の系統構成を図4に、除染時の線量率の変化を図5に示す。この結果は、廃止措置準備期間及び解体作業等による被ばく線量は除染しない場合の約1/5に低減できると評価されている。また、廃棄物処理処分費用も低減できる。
2.解体後除染
 解体した機器・配管等のうち放射性物質で汚染されているものは、その後の処理処分を容易にすること及び放射性廃棄物量の減量を目的として除染を行う。これが解体後除染であり、主として解体後の機器を対象とするので解体後機器除染ともいう。原子力施設の解体では、多量の解体廃棄物(110万kW級の商用発電炉で約50万トン)が発生するが、このうち約5%が汚染金属廃棄物である。
 解体後除染を完了した解体廃棄物は残存した放射能の量に応じて処理処分されるが、残存放射能レベルが極めて低くなったものは原子力施設などの限られた場所での再利用が可能となる。さらに、残存汚染がほとんど認められない状態(クリアランスレベル)まで除染された廃棄物は、スクラップ処分が可能になる。また、再利用が可能なレベルあるいはスクラップ化が可能なレベルまで除染ができなくても、廃棄物の放射能レベルを下げることによりその後の廃棄物の管理や処理処分を容易にできる。したがって、解体後除染をどのように行うかは、解体から廃棄物の処理処分に至るプロセスに大きな影響を及ぼす重要な問題である。解体後除染では、以上のような目的を満たすため、高い除染係数が要求される。解体後の除染方法には物理的除染法、化学的除染法、電気化学的除染法、溶融除染法等がある。
・物理的除染法は、電気的、機械的あるいは熱的衝撃力や振動、破砕、剥離、溶融等の物理現象を応用するもので、超音波洗浄や高圧水洗浄、研磨材などを吹き付けるブラスト法などがある。研磨剤にはハード・メディアとして砂、金属小球、アルミ酸化物、シリコンカーバイドなどが、ソフト・メディアとしてプラスチック小球、重曹、氷、ドライアイスなどがある。ブラスト法は、大面積の除染対象物に対して作業効率が高く、ドイツのヴュルガッセン発電所で実施した例がある。ただし、一般に物理的除染では使用した水や研磨材などの二次廃棄物が多くなる傾向があり、最近は研磨材を再利用する方法が使われている。表5に機械的除染技術の特徴等を比較して示す。また、除染用の研磨剤の特性を比較したものを表6に、水ジェット除染法の基本システムを図6に示す。
・化学的除染法は、除染溶液を使用して除染対象物の表面に付着した汚染物を酸溶解、還元溶解、酸化溶解反応で除去する方法で、除染溶液に酸、アルカリ、キレート剤等を使う。酸化剤を加え溶解力を高めた硫酸セリウム除染法などの技術も開発されている。通常、化学薬剤中に除染対象物を浸すタイプが多いが、なかには除染剤を泡あるいはゲル状にして除染対象物に付着させるタイプもある。化学的除染は、複雑な形状の除染対象物に対しても除染液が接すれば除染効果が期待できるので大きなメリットがあるが、反面、放射性の化学廃液が発生することや除染時間が比較的長くなるところに問題がある。
・電気化学的除染法は、一般の産業界で金属表面研磨技術として用いられてきた電解研磨技術を用いた方法で、比較的短時間に高い除染効果が得られるのが大きな特徴である。しかし電解研磨技術も化学的除染技術と同様に、電解液に化学薬剤を用いるため放射性の化学廃液が発生する問題がある。また複雑な形状の除染対象物に対しては除染効果がそれほど上がらない場合もある。これに対しては、複雑形状物の除染も可能となるように、電解研磨除染技術にブラッシングのような物理的な作用を組合わせた技術も開発されている。
・溶融除染法は、解体物を溶融することにより、多くの放射性核種を均一にインゴット中に封じ込め、かつスラグ中に濃縮させてこのスラグを除去すること、また、溶融過程で発生する粉塵等をフィルタで捕集することにより除染を行う方法である。溶融は、複雑な解体機器の形状を単純な形状に変換し、形状の単純化によってクリアランス測定を容易にする。揮発性で半減期30年の137Csは、スラグ及び換気フィルタにより捕獲除去される。また、ウラン等で汚染された解体物からは、約99%除染できるので効果的である(表7参照)。
 ドイツのグンドレミンゲン発電所(KRB-A炉)の廃止措置では、解体金属(鋼材)を対象に、図7に示すようにリン酸・電解研磨除染法が採用された。このリン酸は、リサイクルすることで1トンの解体廃棄物の除染に対し、処分廃棄物15kgとする実績を残した。KRB-A炉では、除染等により金属全体で約60%の無制限解放(スクラップ)、約30%の制限付き再利用を実現している。
 以上述べたように、解体後機器除染のために多くの技術が研究開発されてきている。しかし、解体後機器除染の場合、それぞれの技術が長所短所を合わせ持っており、解体から生じる多種多様の廃棄物を1つの技術でカバーすることは難しい。むしろ、何種類かのものを用いてそれぞれの短所を互いにカバーする方法が望ましい。
 除染技術の実証試験は、フロリダ国際大学環境技術センター(HCET)や連邦エネルギー技術センター(FETC)などで実施され、様々な技術評価情報が提供されている(図8参照)。日本では、JPDRにおいて電解研磨除染法、硫酸セリウム除染法の実証試験が行われた。
(前回更新:2006年4月)
<図/表>
表1 各種除染方法の要点
表1  各種除染方法の要点
表2 原子力発電所の廃止措置で適用される典型的な除染技術
表2  原子力発電所の廃止措置で適用される典型的な除染技術
表3 化学的除染法による解体前除染の例
表3  化学的除染法による解体前除染の例
表4 メーンヤンキー、ビッグロックポイント、トロージャンでのDFD法適用と発生した2次廃棄物
表4  メーンヤンキー、ビッグロックポイント、トロージャンでのDFD法適用と発生した2次廃棄物
表5 機械的除染技術の比較
表5  機械的除染技術の比較
表6 除染用研磨剤の特性比較
表6  除染用研磨剤の特性比較
表7 溶融処理による放射性核種の移行割合
表7  溶融処理による放射性核種の移行割合
図1 メーンヤンキー発電所の除染系統図
図1  メーンヤンキー発電所の除染系統図
図2 CORD UV法およびCORD D UV法の除染の考え方
図2  CORD UV法およびCORD D UV法の除染の考え方
図3 KWW発電所原子炉再循環系(ループ1)除染中の放射能および金属除去の挙動
図3  KWW発電所原子炉再循環系(ループ1)除染中の放射能および金属除去の挙動
図4 ふげん系統化学除染時の系統構成「酸化還元除染法(HOP法)」
図4  ふげん系統化学除染時の系統構成「酸化還元除染法(HOP法)」
図5 ふげん系統化学除染時の線量率変化(Aループ)
図5  ふげん系統化学除染時の線量率変化(Aループ)
図6 水ジェット除染法の基本システム
図6  水ジェット除染法の基本システム
図7 KRB-Aのリン酸・電解研磨除染法
図7  KRB-Aのリン酸・電解研磨除染法
図8 コンクリートの表面除去速度と表面除去深さの比較
図8  コンクリートの表面除去速度と表面除去深さの比較

<関連タイトル>
原子炉解体技術に関する最近の動向 (05-02-02-09)
日本原子力発電(株)東海発電所の廃止措置について (05-02-03-13)

<参考文献>
(1)宮坂靖彦:原子炉の廃止措置に用いられる系統除染及び解体後の機器除染技術、デコミッショニング技報、第40号(2008年10月).
(2)立川圓造,安中秀雄:原子力工業,32[6],65(1986)
(3)諏訪 武ほか:日本原子力学会誌,30[11],60,(1988)
(4)E.Tachikawa,H.Yasunaka,et al.:”Research and Development on LWR System Decontamination. Mechanochemical - and Redox - Decontamination Method”,1988 JAIF Int. Conf.on Water Chem.in Nuclear Power Plants,Proceedings Vol.2,p.443-448,Tokyo
(5)石榑顕吉(監修):”原子力施設における除染技術”,テクノプロジェクト,(1984)
(6)E.Metcalf:“ Main Coolant System Decontamination at the Yankee Nuclear Power Station”,DD&R‘96,(1996)
(7)Rick Reid,Stanly Kupka,Braian Clark,DfD Experience Including Big Rock Point, Maine Yankee and Trojan Nuclear Stations,EPRI/NEI Decommissioning Workshop(Dec.1998)
(8)H.O.Bertholdt,S.L,Watson,HP/CORD D UV ,A New Decontamination Process for Decommissioning of Nuclear Stations,SPECTRUM’98(1998).
(8)森田 聡、原子炉冷却系化学除染、ふげんデコミニュース第3号(2004年4月)
(9)(株)アイ・イー・エー・ジャパン:米国原子力情報サービス 00-05(2000年5月)、p.29-44
(10)NEA:廃止措置における除染技術、(財)原子力バックエンド推進センター(訳)(2001年1月)
(11)連邦エネルギー技術センターホームページ
(12)フロリダ国際大学環境技術センター(http://www.fiu.edu/
(13)Norbert Eickelpasch,et.al. Lessons Learned by Dismantling,Two German BWRs,p17−36,Radwaste magazine(Jan.1997)
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