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<概要>
 原子炉圧力容器及び炉内構造物など原子炉施設内の鋼構造物は、高度に放射化しているものがある。これらの解体には、高放射線量下で、なおかつ水中での遠隔作業が必要となる。このため、対象鋼構造物の材質や形状、作業環境を考慮して、解体技術開発が進められてきた。解体技術は熱的技術、機械的技術、爆破技術などに分類される。ここでは、炉内構造物、原子炉圧力容器等の解体撤去に用いられる代表的な鋼構造物の解体技術について述べる。
<更新年月>
2013年10月   

<本文>
 原子炉圧力容器及び炉内構造物など原子炉施設内の鋼構造物には、原子炉の運転中に、燃料の核分裂反応により発生する中性子照射を受けて60Coなどの放射性元素が生成される(放射化)。また、運転に伴って冷却材中の腐食生成物等が放射化され、一次系の機器、配管等の表面に付着する。したがって、これらの鋼構造物を解体する場合には作業者の放射線安全を確保するため、遠隔操作による解体技術あるいは特別な解体機器等が必要になる。特に、原子炉本体を構成する圧力容器及び炉内構造物は、肉厚であること、あるいは複雑な形状をしていることなどの構造上の特徴を有しているため、解体が困難で煩雑な作業となる。また、使用済燃料を取り除いた後では、これらの構造物が原子炉施設内の残留放射能の約95%を占めており、高い放射線環境下での作業が要求される。このため、これらの構造物については遠隔解体をする必要があり、最も難しい作業となっている。
 解体に使用する機器は構造物の材質、形状及び厚み、作業環境や使用条件、解体に伴って発生する副次生成物(気中及び水中浮遊物、溶断くず等)の量などを考慮して選択しなければならない。すなわち、解体時の放射線被ばくを極力抑えるため、機器には切断性能の良いことはもちろん、高い信頼性や狭い作業空間あるいは視認性の悪い作業空間でも使用可能であるといった作業性の良いこと、耐放射線性や耐水性など、厳しい要求が課せられる。このため、対象構造物の材質や寸法、作業環境に応じた種々の技術開発が進められてきた。鋼構造物の解体技術は、高温の熱エネルギーを利用して対象物を溶断する熱的技術、刃物あるいは砥粒を利用した機械的技術、爆薬のエネルギーを利用した爆破技術に分類される。代表的な鋼構造物の解体技術とその特徴及び現状を表1に示す。
 最近の米国での大型原子炉の廃止措置事例によると原子炉圧力容器は、解体せず一括撤去・処分が主流となっていたが、一括撤去・処分ルートの確保が困難であるとの判断から原子炉圧力容器を熱的切断技術あるいは機械的技術で細かく解体する例もある。またドイツのグライフスバルト発電所では、5基とも原子炉圧力容器を一括撤去し、中間貯蔵施設に保管する方法が採用された。(ATOMICAデータ「原子炉解体技術に関する最近の動向 (05-02-02-09)」を参照)
 ここでは、旧原研(現日本原子力研究開発機構:JAEA)、諸外国での解体技術開発とJPDR実地解体試験、諸外国の原子炉解体実施例(細かく解体する事例)に基づき、以下に熱的切断技術、機械的切断技術等について述べる。
1.熱的切断技術
1.1 プラズマアーク切断
 この技術の特徴は、切断トーチ(被切断物との間にアークを発生させ、作動ガスをプラズマ化するためのペンシル形及びL形の道具)が小型で、限られた狭い作業スペースでも使用できる点にある。従来から一般産業では鋼構造物の切断に利用されてきたが、この特徴を活かし、切断トーチの遠隔操作技術と組み合わせ、高度に放射化して接近が困難な炉内構造物の水中切断作業用に開発された。JPDR炉内構造物の切断に用いた装置及び切断原理を図1に示す。この切断原理は、切断トーチの電極と被切断物の間に作動ガス(窒素、水素、アルゴン等)を流してアーク放電させ、発生するアークとプラズマガスの熱によって金属を溶断するものである。この技術では、水中での切断性能の低下を避けるために最適な供給ガスの種類、混合比、流量、切断電流、切断速度等の選択、また切断トーチの遠隔操作方法などが重要である。
1.2 接触式アーク金属切断(CAMC:Contact Arc Metal Cutting)
 この技術は、図2に示すように電極を切断対象物に接触させ、小さな接触面に大電流(約4000A)を流し急膨張させて、切断物を蒸発・イオン化し、アークによりさらに金属を溶断する。溶けた金属は、水ジェットで吹き飛ばされる。この技術は、ドイツのグンドレミンゲン炉の気水分離器や炉心シュラウドの切断に用いられた(図3参照)。
1.3 アークソー切断
 この技術は、回転円盤電極(ブレード)と被切断物の間にアークを発生させ、アーク熱により被切断物を溶融し、溶融金属をブレードの回転力で除去して切断を行う。この技術は、図4のようにJPDRの原子炉圧力容器の解体に用いられた。(原子炉圧力容器は、非常に厚く、低合金鋼(最大約420mm:フランジ部)の内面にステンレス鋼(厚さ約10mm)が内張りされている。)
1.4 ガス切断
 酸素バーナーを用いる切断技術で、厚肉の原子炉圧力容器等の切断に用いられている。米国のザオン発電所の2基において、ドイツのMZFR炉及びスターデ発電所の経験(図5参照)に基づき原子炉圧力容器の解体にプロパンガス切断を用いて実施する予定(2015年)である。
1.5 アークガウジング・ガス切断
 原子炉圧力容器を内側からガスを用いてステンレス鋼を切断すると、酸化反応でクロム酸化物(Cr2O3)が生じ、この酸化物の融点は2200℃と高温で、切断が困難になる。そこでアークガウジング・ガス切断技術(G&G法)が開発された。図6に示すようにアーク放電によりステンレス鋼を溶融し、水ジェットにより排除して低合金鋼を露出させる。次に、ガストーチで局所的に空洞を確保し、プロパンガスと酸素の混合ガス炎で母材を加熱溶融により切断する。この技術は、評価は高いがまだ実施例はない。
2.機械的切断技術
2.1 回転ソー及びバンドソー等の切断
 この技術は、切断速度が遅い反面、切断時に発生する2次廃棄物の量が少なく、処理も容易であり、この利点を生かして、高放射化構造物等への適用技術が開発、実用化されている。ベルギーのBR-3炉では、原子炉圧力容器の解体に回転ソー及びバンドソーが用いられた。また、ドイツのMZFR炉では、原子炉圧力容器のリング状にガス切断したものをさらに細断するのにバンドソーを用いている(ATOMICAデータ「原子炉解体技術に関する最近の動向 (05-02-02-09)」を参照)。同じくドイツのグンドレミンゲンでは、炉心シュラウド、グリッドプレート等にプラズマ法と併用してハックソーが用いられ、グライフスバルト発電所の1号機及び2号機の炉内構造物の解体にプラズマ法等と併用してバンドソーが用いられている。フランスのショウーA炉では、バンドソー、ディスクソー及びせん断装置を用いて炉内構造物の解体撤去を行う計画が進められている(図7図8参照)。原子力バックエンド推進センター(RANDEC)では、工具にサイドカッター及びエンドミルを用いて原子炉圧力容器の切断技術を開発している。これらの工具はチタン等を刃先に被覆したものであり、乾式で切断でき、切り粉である2次廃棄物の回収が容易であるという特長を持っている。
2.2 研磨剤入り水ジェット切断(Abrasive Water Jet Cutting)
 この技術には、AWIJ(Abrasive Water Injection)法及びAWSJ(Abrasive Water Suspension)法があり、切断ヘッドが小さく遠隔操作性も良く、切断性能に優れている。この技術の原理図を図9に示す。この技術採用には、2次廃棄物として発生する研磨剤を含む廃液処理の考慮が必要である。ドイツでは、AWSJ法による動力試験研究炉VAKの炉内シュラウドを切断した実績がある(図10参照)。AWSJ法は、AWIJ法が水、研磨材及び空気の3相であるのに対し、水と研磨材の2相で、0.5mm直径のノズルから1400バールと超高圧で切断するため、切断深さ、切断速度が2倍以上にできる。米国のランチョ・セコの原子炉圧力容器の解体撤去でも採用された。
2.3 ディスクカッタ
 生体遮へい体を貫通し圧力容器に接続している配管は、圧力容器と生体遮へい体との隙間がわずかなため、配管の外部から近づくことが困難な状態にある。このような場所にある配管は、配管の内部から遠隔で切断する必要がある。ディスクカッタは、この接近困難な配管の切断を目的に、配管内部に設置する回転ヘッドの小型化の遠隔装着装置の開発などを主眼に開発された。これらによる解体方法は図11に示すとおりである。ディスクカッタの切断の原理は、円盤状のカッタを配管内部において回転させながら対象物に押し付け、対象物を塑性変形させて切り離すことにある。この技術は切り屑を出さずに切断できるため、廃棄物の発生を抑えることができる。
3.成型爆薬による切断技術
 成型爆薬は、接近困難な配管の切断を目的に、配管内部に成型爆薬の遠隔装着装置の開発などを主眼に開発された。成型爆薬よる切断の原理は、図11の右上の図のように爆薬を銅などのケーシングで包み成型したもので、これを所定の位置に設置、爆発させ、爆発によって生じた高速の金属ジェット粒子により瞬時に切断を行うものである。この技術は、爆風圧の問題はあるものの、配管口径の小さなものから大きなものまで、配管サイズに合わせて遠隔でかつ迅速にできるのが特徴である。
4.各種切断工具の性能評価例
 ドイツのグライフスバルト発電所では原子炉の解体を前提に、建設して運転実績のない6号機(PWR型、VVER型ともいう)をモデル解体し、各種切断工具の性能試験を行った。その結果に基づく評価例を表2に示す。この成果は、1号機及び2号機の炉内構造物の解体に採用された。
(前回更新:2006年4月)
<図/表>
表1 鋼構造物の代表的切断技術
表1  鋼構造物の代表的切断技術
表2 各種切断工具の性能試験結果と評価
表2  各種切断工具の性能試験結果と評価
図1 マスト型プラズマアーク切断装置と切断原理
図1  マスト型プラズマアーク切断装置と切断原理
図2 接触式アーク金属切断(CAMC)技術概念図
図2  接触式アーク金属切断(CAMC)技術概念図
図3 CAMCによる炉内構造物の解体撤去(KRB-A)
図3  CAMCによる炉内構造物の解体撤去(KRB-A)
図4 アークソー切断装置と切断原理
図4  アークソー切断装置と切断原理
図5 ドイツのシュターデ炉でのRPVガス切断の様子
図5  ドイツのシュターデ炉でのRPVガス切断の様子
図6 アークガウジング・ガス切断技術(G&G法)
図6  アークガウジング・ガス切断技術(G&G法)
図7 バンドソー、ディスクソー及びせん断装置
図7  バンドソー、ディスクソー及びせん断装置
図8 上部炉心グリッドプレートのバンドソー装置による解体イメージ
図8  上部炉心グリッドプレートのバンドソー装置による解体イメージ
図9 研磨材入り超高圧水ジェトによる切断原理図(AWIJとAWSJの比較)
図9  研磨材入り超高圧水ジェトによる切断原理図(AWIJとAWSJの比較)
図10 研磨材入り超高圧水ジェト(AWSJ)によるドイツのVAK炉の炉心シュラウド解体への適用
図10  研磨材入り超高圧水ジェト(AWSJ)によるドイツのVAK炉の炉心シュラウド解体への適用
図11 原子炉圧力容器接続配管の解体技術と切断原理
図11  原子炉圧力容器接続配管の解体技術と切断原理

<関連タイトル>
ロボットによる遠隔解体技術 (05-02-02-03)
原子炉解体技術に関する最近の動向 (05-02-02-09)
米国における発電炉廃炉計画 (05-02-03-06)
英国WAGRの解体 (05-02-03-10)
ドイツKKN炉の解体 (05-02-03-11)
東海発電所(GCR)の廃止措置計画 (05-02-03-14)
JPDRの解体 (05-02-04-09)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)

<参考文献>
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(3)(財)原子力安全研究協会:「原子力発電所の廃止措置のあらまし」(1989年8月)
(4)火力原子力発電技術協会:「原子力発電所の廃止措置」、火力原子力発電、Vol.41、No.1(1990)、p.85-103
(5)横田光男:「JPDRの解体技術」、エネルギーレビュー(1987.6)、p.7-11
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http://www.iaea.org/.
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