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<概要>
 わが国における商業用発電炉の廃止措置では、廃止措置した後の敷地は、引き続き原子力発電所用地として有効に利用することとしている。一方、商業用発電炉以外の原子力施設の廃止措置は、個々に廃止措置後の敷地または残存施設の利用計画、放射性廃棄物の処理処分等を総合的に判断して進めている。
<更新年月>
2010年11月   

<本文>
1.はじめに
 わが国(日本)における商業用発電炉の廃止措置の基本方針は、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし、解体撤去後の敷地利用については、原子力発電所用地として引き続き有効に利用することとしている。一方、商業用発電炉以外の原子力施設の廃止措置は、個別に廃止措置後の敷地または残存施設の利用計画、放射性廃棄物処理処分等を総合的に判断し、解体撤去、遮へい隔離、密閉管理あるいはこれらの組合せ等により合理的に進めるものとしている。
 以下に、原子力施設を廃止措置した後の敷地などの利用方法について、わが国及びカナダ、アメリカなどの実施例を紹介する。
2.日本における原子力施設敷地などの利用方法
(1)旧JRR-3(Japan Research Reactor 3)
 旧JRR-3は、熱出力10MWのわが国初の国産重水減速・重水冷却型の研究炉で、1962年から1983年まで運転された。この炉は、その後中性子照射及び中性子ビ−ム実験についての高度な照射条件と良質なビ−ムの要望に応えるため、原子炉本体を一括撤去し、プ−ル型で熱出力が2倍の低濃縮ウラン・軽水減速冷却炉(JRR-3M)に改造された。JRR-3Mは、1990年12月に運転を開始し、熱中性子・冷中性子を用いたビーム実験、放射化分析等に利用されている。ここでは、原子炉建屋や付属建屋がそのまま再利用されており、原子炉施設を有効利用した良い例である。
(2)JPDR(Japan Power Demonstration Reactor)
 JPDR図1参照)は、電気出力12.5MWの沸騰水型軽水炉で、1963年から1976年まで運転された。同炉の廃止措置は、解体撤去方式で、炉内構造物原子炉圧力容器、生体遮へい体は遠隔解体装置を用いて撤去された。建屋内部の機器が撤去された後、汚染した建屋コンクリートを取り除き、放射能測定により建屋内部に放射能汚染が残っていないことが確認された。その後、事務建屋、ダンプコンデンサ(復水器)建屋を除いたすべての建屋が撤去され、撤去跡地には現在、芝が植えられている(図2参照)。
3.カナダにおける原子力施設敷地などの利用方法
(1)Gentilly-1
 Gentilly-1は、電気出力250MWの重水減速・軽水冷却型の商業用原形炉(図3参照)で、1971年に運転が開始されたが、施設管理費の削減、発電所の一部を他の目的に使用する等の理由により、1979年に運転が停止された。同炉の廃止措置は、1984年から1986年にかけて実施され、原子炉建屋は原子炉圧力容器、再循環ポンプ等の主要機器を残したまま密閉管理されている。一方、制御室、燃料プ−ル、機械室等を含むサ−ビス建屋では、建屋内のすべての機器が撤去され、建屋は表1に示す転用条件以下に除染された後、シミュレーション訓練設備等を備えた原子炉運転センターとして利用されている。
(2)Tunney's Pasture RI取扱い施設
 Tunney's Pasture RI取扱い施設は、ラジオアイソトープの研究及び生産を行うため1952年に使用を開始し1981年に閉鎖された。この施設は、広さ約32,000立方フィートの二階建の建屋で、オフィスビルや住宅に囲まれた市街地に位置している。この施設の廃止措置は、1990年から1993年にかけて実施された。建屋内の設備、機器はすべて撤去され、建屋は無制限に使用できるまで除染された。建屋は、貸しビルとして利用する計画である。
4.アメリカにおける原子力施設敷地などの利用方法
(1)シッピングポ−ト発電所
 シッピングポ−ト発電所(図4参照)は、エネルギー省(DOE)の実証炉として建設された電気出力72MWの加圧水型軽水炉で、1957年から1982年まで運転された。同発電所の廃止措置は、解体撤去方式で、原子炉圧力容器の切断は行わずに炉内構造物とともに一括で撤去された。同発電所は、汚染していないタ−ビン建屋と事務建屋を除き1985年から1989年にかけてすべて撤去された。撤去跡地は規制なしに使用できるまで除染され、現在は芝が植えられている(図5参照)。
(2)EBWR(Experimental Boiling Water Reactor)
 EBWRは、熱出力100MWの沸騰水型原子炉で、1956年から1967年まで運転された。同炉の廃止措置は、解体撤去方式で1986年から1995年にかけて実施された。ここでは、炉内構造物、原子炉圧力容器等が切断撤去され、施設内部が除染された後、管理区域が解除された。現在、施設には電気、水、空気系統、通話器とクレーンが残されており、今後TRUTRU廃棄物の一時保管庫として再利用される計画である。
(3)商業用発電所のサイト解放事例
 アメリカではすでに10基以上の商業用発電所でサイト解放までの廃止措置が実施されている。表2に米国における最近の原子力発電所サイト解放による跡地利用計画を示す。メインヤンキー等では跡地を緑地化して自然に戻している。またトロージャンでは、サイトの一部を工業用地へ活用することが検討されている。
5.まとめ
 以上のように、各国の実情に応じて、原子力施設を廃止措置した後の残存施設や敷地の利用方法は様々であるが、これらをまとめてみると次のように分類できる。
(1)JPDRやシッピングポート発電所のように施設を解体撤去し、敷地を有効利用するもの
(2)Gentilly-1のように残存施設の一部を有効利用するもの
(3)旧JRR-3のように原子炉建屋を有効利用し、新研究炉を建設するもの
(4)サイト解放後に自然に戻すもの、あるいは工業用地へ活用するもの
(5)サイトを原子力発電施設等へ再利用するもの。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
表1 Gentilly-1発電所サービス建屋の原子炉運転訓練施設への転用条件
表1  Gentilly-1発電所サービス建屋の原子炉運転訓練施設への転用条件
表2 米国における最近の原子力発電所サイト解放による跡地利用計画
表2  米国における最近の原子力発電所サイト解放による跡地利用計画
図1 解体前のJPDR施設
図1  解体前のJPDR施設
図2 解体後のJPDR施設
図2  解体後のJPDR施設
図3 Gentilly-1施設の概要
図3  Gentilly-1施設の概要
図4 解体前のシッピングポート発電用原子炉サイト
図4  解体前のシッピングポート発電用原子炉サイト
図5 解体後のシッピングポート発電用原子炉サイト
図5  解体後のシッピングポート発電用原子炉サイト

<関連タイトル>
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
シッピングポート(米国)の解体撤去 (05-02-03-08)
Gentilly-1(カナダ)の密閉管理 (05-02-03-09)
研究炉の廃止措置 (05-02-04-01)
米国EBWRの解体 (05-02-04-06)
旧JRR-3(日本)の一括撤去 (05-02-04-08)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力−原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画−、大蔵省印刷局(1994年8月)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成10年版、大蔵省印刷局、p.240-250(1998年8月)
(3)大西信秋ほか:JRR-3原子炉一括撤去、デコミッショニング技報、No.1、p.46-55(1989)
(4)宮坂靖彦ほか:JPDR解体実地試験の概要と成果、原子力誌、38(7)、p.553-576(1996)
(5)石川広範、三保紀生:シッピングポート原子力発電所の解体、デコミッショニング技報、No.4(1991)
(6)C. R. Fellhauer, L. E. Boing and J. Aldana: Decontamination and Decommissioning of the Experimental Boiling Water Reactor(EBWR): Project Final Report, Argonne National Laboratory, ANL/D&D/TM-96/4, March, 1997
(7)科学技術庁:原子力施設の廃止措置、原子力施設デコミッショニング研究協会
(8)榎戸裕二、宮坂靖彦、石川広範:原子力施設の廃止措置におけるサイト解放の安全基準等の調査、デコミッショニング技報、第37号、(2008年3月)
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