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1.はじめに
EBWR(Experimental Boiling Water Reactor)は、沸騰水型原子炉の実用性を試験する目的で、シカゴ市の南西約35kmにあるアルゴンヌ国立研究所に建設され、1956年に運転を開始した。当初は熱出力20MW、電気出力5MWであったが、1962年に熱出力を100MWにする改造がなされた。その後、米国原子力委員会(
AEC )のプルトニウム・リサイクルプログラムに利用され、1967年に所期の目的を達成し永久停止された。
EBWRのデコミッショニングは、施設内の全ての
放射性物質 を除去し、建家及び敷地を制限なしに使用できる状態に戻す、いわゆる解体撤去方式を採用し、1986年から解体作業が開始された。
デコミッショニング・プロジェクトの計画は、(1)解体前準備、(2)タービン及び補助機器類の解体、(3)原子
炉内構造物 、
原子炉圧力容器 及び生体遮蔽体の解体、(4)プロジェクトの終了の4段階に分かれており、
表1 にEBWR D&D(Experimental Boilling Water Reactor Decontamination and Decommissioning:EBWRの
除染 およびデコミッショニング)プロジェクトのスケジュールを示す。第一及び第二段階で解体撤去された主な機器は、タービン発電機、主復水器、主蒸気系配管、ポンプ及び燃料貯蔵用架台等である。これら機器等の解体撤去には、ガス切断、プラズマ・アーク切断及びメカニカル・ソー等既存の工法が適用された。このうち汚染密度の高かった燃料貯蔵用架台は、局所換気装置を設けたグリーンハウス内でプラズマ・アーク切断機で切断し撤去された。
とくに、第三段階の解体作業の中から、放射化構造物である原子炉内構造物、原子炉圧力容器及び生体遮蔽コンクリートの解体について、以下にやや詳しく述べる。
図1 にEBWRの炉内構造物及び圧力容器を示す。
2.炉内構造物の解体
炉心支持板、制御棒ガイド・チューブ、炉心シュラウド等で構成されている炉内構造物は、重量が約34トンで、放射線昭射
線量率 は高い所で約200R/hであった。この炉内構造物の解体は、長尺レンチを使用し、ボルトを緩め、一括でクレーンで吊上げ、燃料プールに移送し、プラズマ・トーチを用い水中で裁断した。
残された炉内構造物の一部は、クレーンで吊った鉄製のゴンドラにエアライン・マスクを着用した作業員が乗り、プラズマ・トーチを用い切断撤去した。撤去した炉内構造物のうち、線量率の高いものは、燃料プール内でプラズマ・トーチを用い水中で裁断し、線量率の低いものは、グリーンハウス内で気中切断した。しかし、燃料プール内でのプラズマ・トーチによる水中切断では、電導率が上昇し切断を継続させることができなくなったため、プラズマ・ガスをアルゴンと水素ガスの混合ガスに変え、この問題を解決した。
裁断した炉内構造物は、遠隔操作でドラム缶に収納した後、貯蔵キャスクに収納し、放射性廃棄物置場に移送した。ドラム缶への収納作業やドラム缶の貯蔵キャスクへの収納作業には、移送用遮蔽体(鉛遮蔽付の円筒型のもの)が使用された。高放射化廃棄物として13個のドラム缶が遠隔操作で搬出された。これらドラム缶の表面線量率は1R/hから9/Rhであった。
3.原子炉圧力容器の解体
原子炉圧力容器の解体は、すべての炉内構造物が撤去された後実施された。ウォーター・ジェットを使用して切断する予定であったが、2次発生廃棄物の処理、切断速度、コスト等を考慮した結果、Frame cutting machine(機械的切断工法)が採用された。この工法は通常、配管の外側にリング状のレールをセットし、その上をBit(刃)を回転させ配管を切削する方法である。
図2 に切断装置の概念を示す。原子炉圧力容器の切断では、外側に切断装置をセットできないため、内側にレールをセットし、遠隔操作で切断を行った。原子炉圧力容器の切断個所を
図3 に示す。輪切りに5分割された原子炉圧力容器は、グリーンハウス内で自動ガス切断機でさらに8分割にし、放射性廃棄物収納容器に収納した。このFrame cutting machineの短所としては、大型の切断対象物に対しては装置を特注する必要があること、装置の据え付けを手作業で行う必要があること、装置の取扱いに熟練を要すること等があげられる。
4.生体遮蔽体の解体
生体遮蔽体内側部の鋼製ライナー(厚さ3/4インチ)の切断では、原子炉圧力容器の切断に使用したFrame cutting machineを用いて、鋼製ライナーを円周方向に約5フィート間隔で切断し、4分割した。この輪切りにした鋼製ライナーを垂直に機械的切断を行なって半円筒型に8分割し、クレーンで吊上げた。上部の鋼製ライナーで非放射性廃棄物と評価されたものは再利用される。上部以外の鋼製ライナーは、グリーンハウス内で自動ガス切断機で裁断し、放射性廃棄物収納容器に収納した。
鋼製ライナーの撤去に引き続き、鋼製ライナーと生体遮蔽コンクリート間の鉛ブロックを撤去した。これら鉛ブロックの80%は放射能測定後、無拘束解放された。この鉛ブロックは溶融し、遮蔽ブロックとしてアルゴンヌ研究所内の施設で再利用される。鉛ブロックを撤去した後の生体遮蔽コンクリートは、ケーブル付きコントローラを備えたBROKK machine(先端に取り付けた刃(Bit)を油圧で振動させ、コンクリートを破砕する重機)を使用し解体した。解体は、キャビティ・ルームの下部に架台を設置し、その上にBROKK machineを乗せ、主作業フロアから遠隔操作で行った。このBROKK machineは、先端の刃をシャベルに交換してコンクリート廃棄物の収納作業にも使用された。
図4 にBROKK machineの概念図を示す。
5.作業従事者の被ばく線量等
デコミッショニング中の作業従事者の総被ばく線量は、0.4man-Svと見積られている。また、解体工事の総費用は、約1430万ドルと見込まれており、その内訳は、解体前準備約20万ドル、解体工事約400万ドル、放射線管理約450万ドル、プロジェクトの終了約90万ドル、廃棄物処理約190万ドル及びANLの管理費に約280万ドルとなっている。
EBWRの解体撤去の期間は、約93ヶ月と見積られ1994年に終了する予定であったが、1995年まで延長した。
6.むすび
このデコミッショニング・プロジェクトは1,865万ドルの予算で行われ、1996年2月に完了した(文献(3))。解体機器の選定に当たっての詳細な検討、廃棄物の有効利用、効率的な廃棄物収納容器の製作等、解体費用削滅のため細心の注意が払われた。また、解体終了後のEBWR施設を
超ウラン元素 の廃棄物貯蔵施設として再使用すること、炉内構造物のモックアップ装置を今後の解体のための作業訓練及び遠隔技術の開発に利用することなどが計画されている。この解体プロジェクトをとおして得られた知見は、今後の
原子力施設 の効率的な解体や解体費用の低減化等に大いに貢献することが期待されている。
<図/表>
表1 EBWRデコミッショニングのスケジュール
図1 EBWRの炉内構造物の概要
図2 Frame cutting machineの概念図
図3 原子炉圧力容器の切断位置
図4 BROKK machineの概念図
<関連タイトル>
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
エルクリバー(米国)の解体撤去 (05-02-03-07)
シッピングポート(米国)の解体撤去 (05-02-03-08)
<参考文献>
(1) EBWR D&Dプロジェクトの計画(OECD/NEA「原子力施設デコミッショニング・プロジェクトに関する科学技術情報交換協力計画」に基づく入手資料)
(2) 石川 広範:EBWR放射化構造体の解体、RANDECニュース、No.27、原子力施設デコミッショニング協会(1995年10月)、p.6-7
(3) C.Fellhauer et al,:The D & D of the Experimental Boiling Water Reactor(EBWR),ANL-TD-CP-89321(1996)