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シッピングポート原子力発電所(SAPS)は、
PWRの技術開発を目的として米国ペンシルバニア州ピッツバーグの近くに建設された出力100MWeの加圧水型の
原子炉で1957年に運転を開始し、シッピングポートII(52MWe、軽水冷却増殖炉)への改造を経て1982年まで運転された。
デコミッショニングは、(1)サイトを制限なしに使用出来る状態に戻すこと、(2)商業用原子力発電所を安全かつ適切なコストで解体すること、(3)今後の
原子力施設の廃止措置計画に有益なデータを提供することなどを目的として1985年に開始し1989年に終了した。
デコミッショニングは解体撤去方式で行われ、汚染していないタービン建家と管理建家を除く原子力施設部分はすべて撤去された。
図1 に原子炉建家の断面図を示す。
解体作業は、まず作業エリアを
除染し、次にアスベストを除去し、引き続いて汚染している機器・配管類を撤去し、その後非汚染機器・配管類を撤去するという手順で行われた。
タンク配管等の断熱材として使用されていたアスベストの撤去作業は、グリ−ンハウスの中で行われ、作業員は使い捨ての防護服や全面マスクを身につけて作業を行った。
原子炉圧力容器の撤去では、切断し撤去する方法よりも一括で撤去する方がコスト低減、工期短縮、作業従事者の被ばく低減等につながりメリットが多いとして一括撤去されることになった。原子炉圧力容器は、外側の中性子遮へいタンクや
炉内構造物と一緒に一括(
図2 および
図3 参照)で撤去され、トレーラによる陸地輸送と運搬船による水上輸送により米国政府所有のワシントン州ハンフォードの
放射性廃棄物埋設処分場へ長距離輸送し埋設処分された。
原子炉建家の解体では、最初に燃料プール、燃料移送キャナル、原子炉室等のコンクリート構造物の表面除染をスキャブリングマシン(コンクリート表面を機械的に砕き剥離する方法)を使用し実施した。この作業ではかなりの粉塵が発生するので、2次汚染を防止するためシートで養生を行い、大型
高性能フィルターで粉塵を除去した。コンクリート構造物の表面除染終了後、上部鉄骨構造物を解体し、残りのコンクリート構造物を地表面下1mまで撤去した後、
埋め戻し作業が行われた。
図4 にシッピングポート発電用原子炉サイトを示す。
解体で発生した放射性廃棄物は、コンクリート、金属、アスベスト等に分類され収納容器に詰められて、ハンフォードへトラックで運ばれ埋設処分された。ただし、放射性廃棄物の内、
加圧器やタンク類の大型機は細断しないで一体で撤去し開口部をシールして必要な除染を行った後、鉄道でハンフォードに輸送した。汚染されていないコンクリートや除染されたコンクリートは、解体後サイトの埋め戻しに使用された。また、非放射性物質として確認された鉄筋等の金属類はスクラップとして一般業者に売却された。シッピングポート原子力発電所の放射能量を
表1 に示す。
解体作業従事者の総被ばく線量当量は、プロジェクトの開始前の見積もりでは10man・Svと評価されていたが、工事方法の見直しや配管の撤去作業時に局所シールド箱や鉛入り
ブランケットを使用するなどの改善がなされ、プロジェクト終了時の総被ばく線量当量は1.52man・Sv であった。
解体費用は、当初98.3百万ドルと見積もられたが予定よりも7百万ドル少ない91.3百万ドルで終了した。
本プロジェクトで採用した一括撤去工法によるデコミッショニングは、コスト、工期、作業員被ばくにおいて非常に有利であると評価された。また、このプロジェクトの完了により、特別な技術開発を行わないで既存技術を用いて原子力発電所を解体できることが実証された。
<図/表>
<関連タイトル>
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
米国における発電炉廃炉計画 (05-02-03-06)
エルクリバー(米国)の解体撤去 (05-02-03-07)
<参考文献>
(1) Final Project Report, Shippingport Station Decommissioning Project
(2) 米国シッピングポート原子力発電所デコミッショニング・プロジェク出張報告書
(3) 原子力施設の廃止措置 科学技術庁(1995年)
(4) 日本原子力研究所 東海研究所 バックエンド技術部:OECD/NEA廃止措置協力に関する活動状況と参加プロジェクトの現状、JAERI−Review 2000−013(2000年9月)