<大項目> バックエンド対策
<中項目> 放射性廃棄物の処理、処分
<小項目> 放射性廃棄物処理、処分の技術開発
<タイトル>
消滅処理 (05-01-04-02)

<概要>
 消滅処理とは、毒性が強いあるいは毒性が長期にわたる放射性核種に中性子等を照射し、核変換を行い、安定あるいは、半減期の短い核種に変えてしまうことで、核変換処理ともいう。以下の方法が研究開発の対象になっている。
(1)高速増殖炉またはアクチノイド専焼炉における中性子照射によるアクチノイドの消滅処理
(2)加速器陽子照射によるアクチノイドの核破砕処理および未臨界炉との組み合わせによる加速器駆動炉(ADS)による消滅処理
(3)加速器のガンマ線照射によるセシウム、ストロンチウム元素などの消滅処理
<更新年月>
2006年12月   

<本文>
1)消滅処理の意義ならびに原理
 使用済核燃料再処理に伴って発生する高レベル廃棄物に含まれる有害な長寿命核種を何らかの方法で安定核種あるいは短寿命核種に変換すること、すなわち消滅処理が可能になれば、高レベル廃棄物の管理に新しい対処の余地を与えることになり、重要な意義を持つことになる。
 放射性核種の半減期は環境変化の影響を極めて受け難い物理量であると考えられていたが、高圧、電磁場あるいは化学構造などの影響により極端な状態においては、1%程度の半減期の変化が期待できるとの報告がなされている。
 核反応によって放射性核種を安定核種または短寿命核種に変換する方法は、反応断面積が小さく、大量の衝撃粒子を要すること、副次的にさらに多量の放射性核種のできる恐れもある。照射粒子としては陽子、中性子が有効である。原理を図1に示す。
 実際面からみても、放射性廃棄物中の熱源の大部分を占めるストロンチウム−90 、セシウム−137、長半減期核種のヨウ素−129とテクネチウム−99およびマイナーアクチノイドの超ウラン元素(TRU)を除く核種は10年程度放置すれば、ほとんど自然に消滅するので消滅処理の対象にはならない。
(2)消滅処理の研究開発
 わが国では、1974年頃から日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)において消滅処理の研究に着手し、TRU核種混合物を燃料とする高速増殖炉タイプの専焼炉に関する概念の確立を図ってきた。また、1979年頃からは高エネルギー陽子による核破砕反応を利用した消滅処理の検討を開始し、大型加速器を強力核破砕中性子源に用いてTRU核種の消滅と核燃料を増殖する複合システム概念の構築を実施してきた。昭和62年度から、国の機関による群分離・消滅処理の研究は「フェニックスプロジェクト」として科学技術庁(現文部科学省)が総括することになり、新たに動力炉・核燃料事業団(現日本原子力研究開発機構)が参加し、原研、動燃(現日本原子力研究開発機構)が中心となって産学官協力の形で進められ、昭和63年度からはオメガ計画として展開されることになった。
 オメガ計画は、高レベル廃棄物中の長寿命核種の消滅処理と、この消滅処理を効率よく行うための長寿命核種の群分離処理の研究開発を目的としている。消滅対象核種は、ネプツニウム、アメリシウムなどマイナーアクチノイドの超ウラン元素(TRU)および熱源として主要なストロンチウム−90、セシウム−137と長寿命核分裂生成物のヨウ素−129とテクネチウム−99である。消滅方法として原子炉および加速器を利用する方法が現在検討されている。さらに前者は高速炉にリサイクルする場合および消滅処理専用の専焼高速炉とする場合がある。後者では高エネルギー陽子ビームおよび電子ビーム発生によるガンマ線を利用する方法がある。
(A)原子炉による核種変換
 最初に消滅処理が考えだされたのが原子炉による方法である。1972年米国オークリッジ国立研究所におけるPWR(加圧型軽水炉)によるTRU消滅の提案である。その後、高速増殖炉も含めて原子炉による消滅方法は数多く研究され、現在では原子炉によるTRUの消滅処理の可能性は理論的に確立されており、現在の技術で充分実現可能なために最も有望視されている。
 大部分のTRUは数100keV辺に中性子核分裂しきい値を持っているので、高速増殖炉の方が軽水炉よりも一般に消滅処理に有利である。しかし表2に示すように、軽水炉でも、TRUは中性子吸収反応により核分裂性核種に変換されるので、消滅処理の可能性がある。
 消滅処理のための原子炉としては、軽水炉、高速増殖炉などの発電炉も考えられるが、発電炉にTRUをリサイクル(燃料として再利用)する場合には、その炉の運転特性にあまり影響を与えてはならないので、必ずしも消滅処理に適した条件での照射とはならない。これに対してTRU専焼炉では、高エネルギー中性子の割合を大きくでき、核分裂生成物(FP)蓄積の炉特性に与える影響を比較的小さくできるので、高燃焼度を達成でき消滅効率を高めことができる。
 原研(現日本原子力研究開発機構)では群分離プラントと消滅処理システムとしての専焼炉を1つのサイクルとする階層核燃料サイクル概念を提案している。これによると、第一階層サイクルは通常核燃料サイクルであり、熱出力 300万kWの軽水炉1基あたり毎年約30kgのTRUを含む再処理廃液を生成する。第二階層サイクルにおいてこの廃液を群分離し、TRUを燃料とする専焼炉でTRUを消滅処理する。熱出力 100万kWの専焼炉が1基あると、熱出力 300万kWの軽水炉10基程度から発生するTRUを消滅処理できる。軽水炉、高速増殖炉およびTRU専焼炉によるTRU核種の半減期の短縮効果の比較を表1に、軽水炉と高速増殖炉における消滅割合の比較を表2に示す。
 また、TRUの生成・消滅解析に必要な核データは TRU試料の入手および取扱いが困難なため、測定例が少なく不確定さが大きい。このため TRU核種の精度良い中性子断面積データを得る目的で、高速臨界実験装置(FCA)を用いて積分測定実験を1979年度から実施している。測定対象核種は、群分離によって得られるTRUの中で量の多い、ネプツニウム−237、プルトニウム−238、プルトニウム−240、アメリシウム−241、アメリシウム−243などであり、積分データとしては核分裂率と試料反応度価値の測定を行っている。
(B)陽子加速器による消滅法
 大出力加速器からの高エネルギー陽子で原子核を叩くと核破砕反応で原子核が壊される。この反応を利用してTRUを消滅処理する技術の検討が、原研(現日本原子力研究開発機構)では1979年頃から開始され、オメガ計画の一環として、高エネルギー陽子による破砕反応生成物が詳細に検討されている。高エネルギー陽子を用いる場合、反応生成物が多岐にわたることが照射後の生成物分離の面で問題となる。破砕反応生成物のデータは、これまでトリウム、ウランなどごく限られたアクチノイドで測定されている。大出力陽子加速器と未臨界専焼炉を組み合わせた加速器駆動未臨界炉(ADS)によるTRU消滅処理の研究が世界中で活発に行われている。原子炉を未臨界にして安全性を高めるとともにTRUの消滅効率も高める概念である。
(C)電子加速器による消滅法
 電子ビームによって発生する高エネルギーガンマ線を利用した消滅法が提案されている。この場合、(γ、n)反応または(γ、核分裂)反応の巨大共鳴を利用する。これらの反応断面積は比較的小さいが、大電流の電子ビームにより高ガンマ線量率が得られる利点がある。電子加速エネルギーも100MeV程度で充分であるために加速器開発の要求度も陽子ビームに比べて小さい。ガンマ線利用の場合、セシウム−137、ストロンチウムなどに核反応を起こさせて短半減期の核種に変換するものである。
(3)消滅処理の研究の新たな展開
 科学技術庁(現文部科学省)では、1987年より日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)および動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)における群分離・消滅処理分野の研究をまとめて、フェニックスプロジェクトとした。さらに、同年6月に決定された「原子力開発利用長期計画」に沿って、これらの研究は高レベル廃棄物の最終処分の軽減化のみならず、原子力技術開発に関連する創造的・革新的要素を含んでおり、他の分野への波及効果も期待でき、資源の効果的利用を図ることにもなると位置づけられた。そして日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)および電力中央研究所における群分離・消滅処理の研究開発は、1988年よりオメガ(OMEGA)計画[Option Making Extra Gains of Actinides]として科学技術庁(現文部科学省)にとりまとめられて推進されることになるとともにOECD/NEAの下での科学技術情報の交換を行うことになった。さらに、1994年6月に改定された「原子力開発利用長期計画」では、核種分離・消滅処理技術に係る研究開発については、当面、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)等が協力して基礎的な研究開発を計画的に推進することとしている。
 群分離・消滅処理技術は、この長期計画に基づき、チェック・アンド・レビューを行いつつ、計画的で着実な研究開発が進められる。また、この研究開発を効率的に進めて行くためには、これまでに多くの研究開発を積み重ねてきている欧米各国との国際協力が必要である。
 文部科学省では経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)などを通じ、分離・核変換技術の研究開発を積極的に推進している。
(4)消滅処理から核変換処理への用語変更の経緯
 群分離・消滅処理が高レベル廃棄物に係る技術として広く議論されている。原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会における「核種分離・消滅処理技術に関する研究開発の現状と今後の進め方に関する調査審議」において、略称として「消滅処理」に代えて「核変換技術」、「群分離・消滅処理」に代えて「分離変換技術」を用いることとし、原子力委員会、文部科学省等行政に係る分野においてはこの用語を用いることとされた。その理由は、以下の二つの理由から日本原子力学会が判断した。「消滅」という言葉のイメージから「消滅処理」により放射性物質自体がなくなってしまうと誤解される。一般の人々にも誤解を生じない、分かりやすい用語を用いることが今後の研究開発にとっては大事であること、学術研究の場と行政の場において異なる用語を用いることによる混乱を避けなければならない。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 消滅処理によるTRU核種の半減期の短縮
表2 1000日照射時のアクチノイドの消滅(%)
図1 核反応による消滅処理の原理

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<関連タイトル>
群分離 (05-01-04-01)
高レベル廃棄物の群分離と資源化 (07-02-01-01)
オメガ計画 (07-02-01-07)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:核分裂生成物等総合対策懇談会報告書−放射能クローズド・システムの構想−(1973年5月)
(2)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック1988年版、(1988年10月)pp94
(3)朝岡 卓見:「特集;高レベル放射性廃棄物の新展開−日本原子力研究所における研究開発」原子力工業、35 (5),31(1989)
(4)笹尾 信之:「特集;高レベル放射性廃棄物の新展開−動力炉・核燃料開発事業団における研究開発」原子力工業、35(5),37(1989)
(5)松本 高明:「特集;放射性廃棄物の処理処分の現状−放射性廃棄物の消滅処理と再利用」放射線と産業、No.43,16(1989)
(6)梅沢 弘一:「OMEGA 計画の概要−新たな可能性を目指す群分離・消滅処理の研究開発−」原子力学会誌、31(12),9(1989)
(7)原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会:「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」(昭和63年10月)
(8)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力−原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画−、大蔵省印刷局(平成6年8月)
(9)日本原子力学会:
(10)高野 秀機:放射性廃棄物処分としての分離・核変換処理技術の現状、季報 エネルギー総合工学 Vol25, No.3(2002.10)
(11) OECD/NEA Partitioning and Transmutation Activities, OECD Nuclear Energy Agency (2000)、http://www.nea.fr/html/pt/docs/iem/jeju02/general/GS-09.pdf
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