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<概要>
 「オメガ計画」は、高レベル放射性廃棄物処分の効率化と積極的な安全性の向上ならびにその資源化という新たな可能性を目指して進められているわが国の長期的、先導的な研究開発計画である。高レベル放射性廃棄物にはNp、Am、Cmなどのマイナーアクチナイド、99Tc、129Iなどの長寿命核分裂生成物、発熱性の90Sr、137CsやRh、Pdなどの有用な白金族元素が含まれている。「オメガ計画」では、これらの元素を特性に応じて分離(群分離)し、半減期の長いマイナーアクチナイド及び核分裂生成物については加速器駆動核変換システム(ADS)による短寿命または非放射性の核種に変換(消滅処理)する技術の研究開発を進めている。
<更新年月>
2004年02月   

<本文>
 原子力委員会が1987年に制定した「原子力開発利用長期計画」に基づいて、翌1988年に「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」がとりまとめられた。この計画は「Options Making Extra Gains from Actinides and Fission Products」から「オメガ(OMEGA)計画」と呼ばれている。オメガ計画の全体像を図1に示す。
 使用済燃料の再処理工程から高レベル放射性廃棄物(HLW)が排出されるが、わが国では、これを安定な形態に固化した後、冷却のため数10年間貯蔵し、その後、地下数100mより深い地層に埋設(地層処分)することを基本的な方針としている。これは、HLWに含まれる半減期の極めて長い放射性核種を人間環境から長期間にわたって確実に隔離しておくためである。オメガ計画は、このようなHLW処分の効率化と積極的な安全性の向上ならびにその資源化という新たな可能性を目指した長期的、先導的な研究開発計画である。
 HLWにはNp、Am、Cmなどのマイナーアクチナイド(MA)、99Tc、129Iなどの長寿命の核分裂生成物(FP)、発熱性の90Sr、137CsやRh、Pdなどの有用な白金族元素が含まれている。これらの元素を特性に応じて分離(「群分離」という)し、半減期の長いMA及びFP核種については核反応を利用して短寿命または非放射性の核種に変換(消滅処理)するとともに、有用元素については有効利用を行えば、HLW最終処分の負担の軽減化と資源の有効利用ができ、処理処分の高度化、積極的安全性の向上に役立つ。
 オメガ計画は、基礎・要素技術研究の第1期(〜1996年)と工学的研究の第2期(1997〜2000年)からなり、2000年以降は技術の実用化を目指す。この計画のもとで、日本原子力研究所(JAERI(現日本原子力研究開発機構))、動力炉・核燃料開発事業団(現 日本原子力研究開発機構)および電力中央研究所(CRIEPI)において、群分離・消滅処理(P-T)の研究開発が次に述べる内容のもと計画が進められた。
 群分離に関する技術開発計画は、1)HLWの群分離、2)再処理不溶解残渣中の有用物質の回収、3)分離物質の有効利用、の3分野に大別される。HLWの群分離では、超ウラン元素TRU)群、Sr−Cs群、Tc−白金族元素群、その他の4群に分離する技術の開発および群分離をPUREXプロセスに組み入れて高度化を図る統合再処理−群分離システムの開発を行う。また、これらの湿式法に加えて、溶融塩等による乾式群分離法の適用性についても検討する。不溶解残渣中有用物質の回収では、Rh、Pd等の回収、分離元素の純化等の技術の開発を行う。分離物質の有効利用では、単離・精製、加工等の技術の開発が必要であるとしている。
 消滅処理に関する技術開発計画は、1)原子炉による消滅処理、2)加速器による消滅処理、に大別される。原子炉による消滅処理では、TRU核種の多くが高速中性子で核分裂することから、現在開発中のNa冷却高速増殖炉をTRU消滅処理に利用する研究を進め、消滅処理技術の早期確立の可能性を追求する。また、長期的にはより効率的な消滅処理のできる専焼高速炉の開発を行う。さらに、Pu燃料熱中性子炉の利用についても検討する。加速器による消滅処理では、陽子加速器と電子線加速器が考えられている。陽子加速器については、高エネルギー陽子による核破砕反応とその2次中性子による核反応を利用してTRU及び長寿命FPを消滅する技術を開発する。このため、大強度陽子加速器を開発する。一方、電子線加速器については、光核反応を利用してSr、Cs及びTRUを消滅する技術を開発する。また、加速器と未臨界炉を組み合わせてエネルギーバランスを改善するための研究開発もあわせて行う。
 オメガ計画を契機として、欧米諸国やロシアなどでP-Tに対する関心が高まってきている。特に、フランスでは1991年に制定された「放射性廃棄物管理法」に基づいて大規模なP-T研究開発計画(SPINプログラム)が開始された。また、1990年からOECD原子力機関の「P-Tに関する国際情報交換プログラム」が始まるなど、国際協力も活発になってきた。

 1998年度から1年以上にわたって、原子力委員会によるオメガ計画のチェック・アンド・レビューが行われた。審議の結果、日本原子力研究所では加速器駆動システム(ADS)を利用した長寿命核種の分離変換技術(P-T)の開発研究を継続して実施することが了承された。
 日本原子力研究所では、ADSによる分離変換技術開発の分野でオメガ計画を推進するとともに、スイス・ポールシェラー研究所で行う1MWの鉛ビスマス核破砕ターゲットの実証を目指すMEGAPIE国際共同実験に参加、また、フランス原子力庁との研究協力については、2007年9月までの実施取り決めの延長に合意した。
 2002年度、「加速器による分離変換技術の新たな展開」についてのワークショップを開催し、地層処分の観点から見た分離変換技術の意義などについて議論した。また「加速器駆動核変換システムとアジアADSネットワークの設立」について国際シンポジウムを開催し、海外のADS開発の主導者との協力を深めた。
<図/表>
図1 オメガ計画における群分離・消滅処理技術研究開発
図1  オメガ計画における群分離・消滅処理技術研究開発

<関連タイトル>
高レベル廃棄物の群分離と資源化 (07-02-01-01)
原子炉によるTRU核変換処理 (07-02-01-02)
加速器によるTRU核変換処理 (07-02-01-03)

<参考文献>
(1)原子力委員会、放射性廃棄物対策専門部会:「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」(1988年10月)
(2)日本原子力学会 「消滅処理」研究専門委員会:「消滅処理研究の現状−新しい原子力技術の可能性を求めて−」、(1994年8月)
(3)高レベル事業推進準備会:地層処分−長寿命放射性核種の消滅処理、高レベル放射性廃棄物ポケットブック平成7年、(1995年)
(4)日本原子力研究所:日本原子力研究所年報 平成12年度, p.57;平成13年度, p.137;平成14年度, p.138
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