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原子力委員会が1987年に制定した「原子力開発利用長期計画」に基づいて、翌1988年に「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」がとりまとめられた。この計画は「Options Making Extra Gains from Actinides and Fission Products」から「オメガ(OMEGA)計画」と呼ばれている。オメガ計画の全体像を図1に示す。 使用済燃料の再処理工程から高レベル放射性廃棄物(HLW)が排出されるが、わが国では、これを安定な形態に固化した後、冷却のため数10年間貯蔵し、その後、地下数100mより深い地層に埋設(地層処分)することを基本的な方針としている。これは、HLWに含まれる半減期の極めて長い放射性核種を人間環境から長期間にわたって確実に隔離しておくためである。オメガ計画は、このようなHLW処分の効率化と積極的な安全性の向上ならびにその資源化という新たな可能性を目指した長期的、先導的な研究開発計画である。
HLWにはNp、Am、Cmなどのマイナーアクチナイド(MA)、99Tc、129Iなどの長寿命の核分裂生成物(FP)、発熱性の90Sr、137CsやRh、Pdなどの有用な白金族元素が含まれている。これらの元素を特性に応じて分離(「群分離」という)し、半減期の長いMA及びFP核種については核反応を利用して短寿命または非放射性の核種に変換(消滅処理)するとともに、有用元素については有効利用を行えば、HLW最終処分の負担の軽減化と資源の有効利用ができ、処理処分の高度化、積極的安全性の向上に役立つ。
オメガ計画は、基礎・要素技術研究の第1期(〜1996年)と工学的研究の第2期(1997〜2000年)からなり、2000年以降は技術の実用化を目指す。この計画のもとで、日本原子力研究所(JAERI(現日本原子力研究開発機構))、動力炉・核燃料開発事業団(現 日本原子力研究開発機構)および電力中央研究所(CRIEPI)において、群分離・消滅処理(P-T)の研究開発が次に述べる内容のもと計画が進められた。
群分離に関する技術開発計画は、1)HLWの群分離、2)再処理不溶解残渣中の有用物質の回収、3)分離物質の有効利用、の3分野に大別される。HLWの群分離では、超ウラン元素(TRU)群、Sr−Cs群、Tc−白金族元素群、その他の4群に分離する技術の開発および群分離をPUREXプロセスに組み入れて高度化を図る統合再処理−群分離システムの開発を行う。また、これらの湿式法に加えて、溶融塩等による乾式群分離法の適用性についても検討する。不溶解残渣中有用物質の回収では、Rh、Pd等の回収、分離元素の純化等の技術の開発を行う。分離物質の有効利用では、単離・精製、加工等の技術の開発が必要であるとしている。
消滅処理に関する技術開発計画は、1)原子炉による消滅処理、2)加速器による消滅処理、に大別される。原子炉による消滅処理では、TRU核種の多くが高速中性子で核分裂することから、現在開発中のNa冷却高速増殖炉をTRU消滅処理に利用する研究を進め、消滅処理技術の早期確立の可能性を追求する。また、長期的にはより効率的な消滅処理のできる専焼高速炉の開発を行う。さらに、Pu燃料熱中性子炉の利用についても検討する。加速器による消滅処理では、陽子加速器と電子線加速器が考えられている。陽子加速器については、高エネルギー陽子による核破砕反応とその2次中性子による核反応を利用してTRU及び長寿命FPを消滅する技術を開発する。このため、大強度陽子加速器を開発する。一方、電子線加速器については、光核反応を利用してSr、Cs及びTRUを消滅する技術を開発する。また、加速器と未臨界炉を組み合わせてエネルギーバランスを改善するための研究開発もあわせて行う。
オメガ計画を契機として、欧米諸国やロシアなどでP-Tに対する関心が高まってきている。特に、フランスでは1991年に制定された「放射性廃棄物管理法」に基づいて大規模なP-T研究開発計画(SPINプログラム)が開始された。また、1990年からOECD原子力機関の「P-Tに関する国際情報交換プログラム」が始まるなど、国際協力も活発になってきた。