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<概要>
 わが国では、使用済燃料再処理に伴って発生する高レベル廃棄物は、全量をガラス固化し、30年間から50年間の貯蔵の後、数百メートルより深い地層に処分することを基本方針としている。このような処理処分法とは別に、高レベル廃棄物中の元素や放射性核種半減期、元素の化学的性質、利用目的等に応じて分離し(群分離)、有用な元素や核種の利用を図る(高レベル廃棄物の資源化)とともに、長寿命の核種は、中性子照射などによって核反応を起こさせ、短寿命または非放射性の核種に変換させてしまう(核変換技術)という考え方がある。即ち、群分離技術及び核変換と合わせた分離変換技術は、処分に伴う放射性核種の環境への負荷の低減に結びつく、より高度でより進んだ高レベル廃棄物処理法として位置付けられ、日本及び世界主要国で研究開発が進められている。
<更新年月>
2002年01月   

<本文>
1.わが国における群分離研究の取り組み
 わが国における分離変換技術の研究開発は、日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))において1973年(昭和48年)頃開始された。その後、1988年(昭和63年)には原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会により「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」(通称オメガ計画。核変換技術について以前は消滅処理という用語が用いられた)が策定されて、原研(現日本原子力研究開発機構)、核燃料サイクル開発機構(サイクル機構(現日本原子力研究開発機構))、電力中央研究所(電中研)の3機関を中心に群分離プロセスの開発、核変換システムの研究が進められてきた。
 1999年度(平成11年度)には、原子力委員会原子力バックエンド対策専門部会によりオメガ計画に対するチェックアンドレビューが実施され、今後も引き続き研究開発を着実に進めることが適当であるとされた。群分離技術及びこれを含む分離変換技術は、将来の望ましい原子力システムの一翼を担う技術オプションであると考えられ、各機関で研究開発が継続されている。
2.群分離の対象元素と分離の意義
 使用済核燃料の再処理に伴って発生する高レベル放射性廃液には、ウランプルトニウムの様々な核反応によって生成した超ウラン元素核分裂生成物として長寿命の放射性核種が含まれている。 表1 に、再処理前の使用済燃料に含まれる主な元素とその特性を示す。使用済燃料を再処理することにより、元素は、表に示したような割合で高レベル放射性廃液或いは高レベル廃棄物(HLW)に移行する。このような高レベル廃液中の元素を半減期、元素の化学的性質、利用目的等に応じて群分離する場合の、分離対象元素とその分離の意義をまとめると以下のようになる。
(1)超ウラン元素(TRU
 高レベル廃棄物に含まれる超ウラン元素は、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウムの4元素であり、いずれも長寿命核種或いは長寿命核種の親核種である。 表2 に高レベル廃液に含まれるアクチノイドの組成を示す。放射能の強さはさほどではなく、量も極めてわずかであるが、ほとんどがアルファ放射性であり、これは高レベル廃棄物において長期間継続する放射能の主成分となる。これらの核種を、分離した後に、中性子等の照射により短寿命核種或いは安定核種に変換することができれば、長期に継続する放射能毒性を大幅に低減させることが可能となる。この分離変換技術適用の効果を 図1 に示す。高レベル廃棄物の毒性が、天然ウラン5トン(軽水炉燃料1トンの製造に必要な量)の毒性にまで低減するまでの期間の比較では、分離変換を行わない場合約3万年間要するのに対し、99%の分離変換効率が達成されれば約300年間と100分の1に短縮できる。
 一方、アクチノイドには、需要は多くないが、放射性核種として有用なものがあり、また現在実際に利用されているものがある( 表3 )。
(2)発熱性核種
 ストロンチウム90、セシウム137の2核種がこれに該当する。半減期がほぼ30年であり、それぞれの娘核種であるイットリウム90及びバリウム137mとともに、高レベル廃棄物の初期の高い放射能及び発熱量の主たる原因となっている。ストロンチウム及びセシウムを分離することができれば、残りの廃棄物の熱的負担を大幅に緩和でき、まず第一に廃棄物の減容が期待できる。 表4 に、原研(現日本原子力研究開発機構)で開発された4群群分離プロセスにより分離された各群の固化体の体積と、群分離しない場合のガラス固化体の体積との比較を示す。ここでは、群分離により高レベル廃棄物固化体の体積を約3分の1に減ずることができると評価された。高レベル廃棄物の減容は、処分費用の削減或いは一つの処分場において処分できる廃棄物量増大につながる可能性がある。ストロンチウム及びセシウムを分離した後の残りの廃棄物に対しては、中間貯蔵期間の短縮、さらには処分法合理化による処理処分に要する負担の軽減が期待できる。分離したストロンチウム及びセシウムについては、元素の性質に応じて、熱的にも化学的にもより安定で浸出率の低い固化体とすることができ、これも処分に要する負担の軽減につながる可能性がある。
 また、表3に示したようにストロンチウム及びセシウムの熱エネルギー源としての利用、セシウムのガンマ線源としての利用も考えられる。
(3)長寿命核分裂生成物
 高レベル廃棄物に含まれる長寿命核分裂生成物も分離変換の対象となる。特にテクネチウム99は、核分裂生成物による長期間継続する毒性の主要な部分を占めることから、最も重要な元素として分離変換の研究が行われている。一方、テクネチウムは、天然には存在しない元素であり、高レベル廃棄物からしか得ることのできない貴重な元素であると位置付けることもできる。その利用法として、耐食性鋼材、触媒等が提案されている(表3)。
 この他、再処理の段階で分離され高レベル廃棄物にはほとんど含まれないが、ヨウ素129も廃棄物処分の安全評価上重要な核種であり、分離変換の対象となっている。
(4)有用元素
 ルテニウム、ロジウム、パラジウムの白金族元素、テクネチウム、セレン、テルル等が高レベル廃棄物に含まれる有用元素と位置付けられる(表3)。白金族元素は、現在一般産業の様々な分野で利用されており、その需要は今後も益々増加すると予想されるが、数百年後には資源が枯渇するとの指摘もある。このことから、高レベル廃棄物から分離して備蓄し、将来に備えるべきではないかとの考えが成立しうる。
3.分離変換技術の研究開発
 原研(現日本原子力研究開発機構)における群分離研究では、高レベル放射性廃液中の元素を、超ウラン元素群、テクネチウム−白金族元素群、ストロンチウム−セシウム群及びその他の元素群に分離する湿式法による4群群分離プロセスが開発され、実際の高レベル廃液を用いた試験でこのプロセスの元素分離性能が確認された。核変換システムの開発では、通常の商用発電炉サイクルとは別の核変換サイクルを形成し(階層型)、ここで加速器駆動の未臨界炉による長寿命核種の核変換を行い、そこからの使用済燃料は乾式法により処理するという方法が研究されている。
 サイクル機構(現日本原子力研究開発機構)では、米国で開発されたTRUEX法の改良によるアクチノイド分離プロセスが群分離技術開発として研究され、実高レベル廃液による試験が実施された。また、電解採取法による高レベル放射性廃液からの稀少元素核分裂生成物(Ru,Rh,Pd,Tc,Te,Se)の分離について研究開発が進められている。核変換技術としては、商用発電炉としての高速炉を利用する方法(発電用高速炉利用型)が研究されている。
 電中研においても発電用高速炉利用型による核変換システムの研究開発が進められている。研究されているシステムでは、金属燃料を用いる点と、再処理、群分離ともに乾式法を適用する点が特徴的である。
4.おわりに
 現在、高レベル廃棄物処分の問題を解決することは、原子力開発における最重要課題である。高レベル廃棄物一括ガラス固化体の深地層処分が実施に向けて動き出しているが、社会はより進んだ技術を常に追い求めるものである。群分離技術さらには核変換処理を含む分離変換技術はこれに応える、より高度なシステムを提供するものであると考えられる。
 もちろん、群分離プロセスさらには核変換システムを実用プラントとして成立させるには、まだまだ数多くの課題が残されている。技術的成立性を実証することはもとより、群分離及び核変換システムから発生する放射性廃棄物の最も適した形での処分法の検討、システム全体のメリット・デメリットの定量的評価、経済性評価等が今後の重要な課題であろう。
<図/表>
表1 使用済燃料に含まれる主な元素及び特性
表1  使用済燃料に含まれる主な元素及び特性
表2 高レベル廃液中のアクチノイド核種の組成
表2  高レベル廃液中のアクチノイド核種の組成
表3 高レベル廃棄物に含まれる有用核種(元素)と主な利用法
表3  高レベル廃棄物に含まれる有用核種(元素)と主な利用法
表4 原研の群分離プロセスにおける群分離後の固化体の発生量とその後の処理
表4  原研の群分離プロセスにおける群分離後の固化体の発生量とその後の処理
図1 分離変換による高レベル廃棄物の毒性の減少
図1  分離変換による高レベル廃棄物の毒性の減少

<関連タイトル>
群分離 (05-01-04-01)
消滅処理 (05-01-04-02)
高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画(平成3年度〜平成7年度) (10-03-01-03)

<参考文献>
(1) 原子力委員会 放射性廃棄物対策専門部会:「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」、(1988年10月11日)
(2) 原子力委員会 原子力バックエンド対策専門部会:「長寿命核種の分離変換技術に関する研究開発の現状と今後の進め方」及び「参考資料」、(2000年3月31日)
(3) 向山武彦:「長寿命核種の核変換工学の現状」、原子核研究, 46(2), 47 (2001年)
(4) 久保田益充:「高レベル廃棄物の群分離の研究開発」、日本原子力学会誌, 29(9), 775 (1987年)
(5) 近藤康雄、久保田益充、阿部 忠、長渡甲太郎:「群分離法の開発:使用済燃料中に含まれる有用元素の回収及び利用(文献調査)」、JAERI−M 91−147 (1991年)
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