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高レベル放射性廃棄物とは、原子力発電に伴って発生する使用済燃料を再処理した際に発生する高レベル放射性廃液を固化(現状はガラス固化)したもの(以下、「ガラス固化体」という)及び使用済燃料をそのまま処分する場合(以下、「直接処分」という)は使用済燃料自体をいう。再処理を行うか直接処分をするかは国ごとの原子力政策によって異なっている。 再処理を行いガラス固化体の処分を実施する方針の国としてはフランス、イギリスがあり、直接処分のみを行う方針の国としてはカナダ、スウェーデン、フィンランド等がある。また、ガラス固化体の処分と使用済燃料の直接処分の双方を行う国としては米国、ドイツ、スイス等がある。米国のガラス固化体は軍事用の再処理工場から発生した高レベル放射性廃液を固化処理したものであり、民間電力会社の原子力発電所から発生する使用済燃料は直接処分する計画である。フランス、スイスは再処理のほか、使用済燃料直接処分のオプションも採用している。なお、日本は使用済燃料を再処理し、ガラス固化体を処分する方針である。
高レベル放射性廃棄物の処分方法として宇宙処分、海洋底下処分、氷床処分、地層処分等が検討されてきた。また、高レベル放射性廃液から長寿命の放射性核種を分離し、核変換により短寿命あるいは無害の核種にする処理技術(以下、「核種分離(群分離)・消滅処理」という)も開発中である。現在の技術では地層処分が環境と倫理の両面から最も適当な方法であると判断されている。
欧米各国は、2020年から2040年頃までの間に高レベル放射性廃棄物の処分を開始することを目標として研究開発や立地選定作業を進めている(表1参照)。
1.NEAにおける放射性廃棄物処理処分に関する活動
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)では、放射性廃棄物処理処分をその重要な活動項目の一つとして位置づけ、1975年から常設委員会として放射性廃棄物管理委員会(RWMC:Radioactive Waste Management Committee)を設置し活発な活動を実施してきた。RWMCは各国の放射性廃棄物管理機関をはじめ、規制機関、研究開発機関の代表で構成された国際委員会である。NEA活動の主目的は、加盟国の情報の交換と意見集約を行うことより、放射性廃棄物に関する技術的及び政策的な面での情報を国際間で共有するとともに放射性廃棄物処理処分の実施を推進するための加盟国の政策を支援すること、及び加盟各国の研究活動や実証試験等における省力化、効率化をはかることである。2010年3月現在の正式加盟国は、以下に挙げる30ヶ国である。
オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、韓国、ルクセンブルグ、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国
2.RWMCの活動内容
RWMCの最近の活動は概略以下のワーキンググループのテーマに集約することが出来る。(図1参照)
1) セーフティケース統合グループ[The Integration Group for the Safety Case (IGSC)]
地層処分のセーフティケースの概念について議論が進められた。現在はその基盤強化と加盟各国へ普及のための方策が検討されている。個別に設けられたプロジェクトの成果を統合するために各種のシンポジウムなどが開催され、NEAの活動の可視性の向上が図られている。
2) ステークホルダー(利害関係者)の信頼獲得に関するフォーラム[The Forum on Stakeholder Confidence (FSC)]
地層処分について公衆の理解を促進し、ステークホルダーによる地層処分に対する信頼の得る目的で、特に社会的側面を中心に検討している。IGSCや廃止措置・解体作業部会の活動においてもステークホルダーの信頼の獲得の観点は重要課題であり、RWMCの規制者フォーラムの活動に関連する活動である。
3) 廃止措置・解体作業部会[The RWMC Working Party on Management of Materials from Decommissioning and Dismantling (WPDD)]
廃止措置実施者、規制当局、政策決定者等から構成される作業部会により「安全、効果的且つ費用対効果の高い廃止措置」や「廃止措置にかかる資金」などについて検討を進めている。また廃止措置に係る協力計画として、加盟国の有する廃止措置に関連する科学技術情報の交換を進めている。
4) 規制者フォーラム[Regulators’ Forum (RWMC-RF)]
各国の規制者による放射性廃棄物管理の安全に関する情報交換、安全規制に関する最新情報の提供、高レベル放射性廃棄物処分に対する長期の放射線防護基準の検討等の活動を進めている。
RWMCはその活動を円滑に進めるため、NEAの他の委員会、すなわち、放射線防護公共保健委員会(CRPPH:Committee on Radiation Protection and Public Health)、原子力開発委員会(NDC:Committee on Nuclear Energy Development and the Fuel Cycle)などと緊密な協調を図っている。図2に我が国の原子力発電環境整備機構(NUMO)がNEA加盟国と進めている国際協力について示す。
3.その他の活動
RWMCの重要な活動として、NEA加盟国からの要請に基づき、環境影響評価文書、地層処分実現可能性研究報告書等についてのピアレビューを実施している。
これまで、1993年に実施されたオランダの計画書に続いて、カナダの環境影響評価書(EIS)、米国の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)計画、スウェーデンの核燃料・廃棄物管理会社(SKB)及び英国原子力産業放射性廃棄物管理会社(NIREX)の地層処分計画書等のレビューが行われた。1999年10月には、わが国(JNC:核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))の2000年レポートのレビューが実施された。最近では、「長寿命、高・中レベル放射性廃棄物の地層処分に関するフランスの研究(ANDRA Dossier 2005)」についてのピアレビューが実施された。
4.主な成果文書
これまでに発刊されたNEAの主要な文書として以下のものがあげられる。
(1)Objectives, Concepts and Strategies for the Management of Radioactive Waste arising from Nuclear Power Programme(1977)
原子力発電によって発生する放射性廃棄物管理の目的、概念及び戦略
(2)Long-Term Management of High-Level Radioactive Waste : The Meaning of Demonstration(1983)
高レベル放射性廃棄物の長期管理:実証の意味
(3)Technical Appraisal of the Current Situation in the Field of Radioactive Waste Management(1985)
放射性廃棄物管理分野における現状の技術評価
(4)Can long-term safety be evaluated ?(1991)
長期安全の評価は可能か?
(5)The Environmental and Ethical Basis of the Geological Disposal of Long-lived Radioactive Wastes(1995)
長寿命放射性廃棄物の地層処分の環境的及び倫理的基礎
(6)Post-closure Safety Case for Geological Repositories : Nature and Purpose(2004)
地層処分場のための閉鎖後のセーフティケース:性質と目的
(7)Regulating the Long-term Safety of Geological Disposal Towards a Common Understanding of the Main Objectives and Bases of Safety Criteria(2007)
安全規準の主目的と基礎についての共通理解に向けた地層処分の長期安全の規制
(8)International Experiences in Safety Cases for Geological Repositories (INTESC)(2009)
地層処分場のためのセーフティケースの国際的な経験
この他に、各国の放射性廃棄物関連の事業、活動等についての現状レポートとしてCountry Profile(国別報告書)が刊行されている。<図/表>