<本文>
1.はじめに
IAEA(International Atomic Energy Agency)では、IAEA憲章に基づき、
原子力施設、
放射線防護、
放射性廃棄物管理及び放射性物質の輸送等に係るIAEA安全基準文書(IAEA Safety Standards Series)を作成し、加盟国における国際的に調和の取れた安全基準類の導入を支援している。1975年には原子力施設の安全に関する重要事項について、加盟国全体の共通の基盤を提供するため、
原子力安全基準(Nuclear Safety Standards:
NUSS)文書の策定を開始した。その後、NUSS計画にならい、1991年からは放射性廃棄物安全基準(Radioactive Waste Safety Standard:RADWASS)文書の策定を開始している。
IAEAの国際基準の文書数は次第に増えて、それぞれの内容の充実も図られたが、同じIAEA文書でありながら分野間で整合性に欠ける点が指摘されるようになった。このためIAEA事務局では、1996年にIAEA内部の事務局体制を再編成し、IAEA文書として分野を超えても相互に調和がとれ、国際合意を得た文書シリーズとするために、安全基準文書構造の改革を行った。
2.IAEAにおける安全基準組織体系
IAEAは、安全基準文書を各分野に横断的なものと、原子力施設安全、放射線防護、放射性廃棄物管理及び輸送安全の各分野別に整備し、下記の4分野の委員会と、これらの委員会を統括する安全基準委員会(Commission for Safety Standard:CSS)を設置して、策定作業を進めている(
図1参照)。
・原子力安全基準委員会(NUSSC:Nuclear Safety Standard Committee)
・廃棄物安全基準委員会(WASSC:Waste Safety Standard Committee)
・放射線安全基準委員会(RASSC:Radiation Safety Standard Committee)
・輸送安全基準委員会(TRANSSC:Transport Safety Standard Committee)
我が国は、CSS及び上記4分野の委員会に常任委員が参加する一方、必要に応じ改訂作業等に専門家を派遣している。
3.安全基準文書の階層構造と安全基準文書の策定
安全基準文書は、安全原則(Safety Fundamentals)、安全要件(Safety Requirements)、安全指針(Safety Guide)の3段階の階層構造(
図2参照)を有する多数の文書(107報(2009年12月末時点))から構成されている。
安全基準文書は、加盟国を法的に拘束するものではなく、加盟国自身の活動の際、国内規制基準として加盟国の裁量で選択して使用することができる。また、安全基準文書とは別に、基準の技術基盤あるいは安全評価サービスの指針等となる技術文書(TECDOC、ガイドライン等)も作成されている。これらの安全基準文書はIAEAが開催する専門家会合等を経て起案、作成され、上記の4委員会の安全基準委員会で審査されるとともに、国際的なコンセンサスを得る観点から、加盟国からのコメントも踏まえ、最終的には上記の4委員会を束ねる役割を有するCSSが審査・承認をしている。最終的にCSSの承認を得た文書の中で、上位文書である安全原則と安全要件については、IAEA理事会の承認を、また安全指針はIAEA事務局長の承認を得て出版される(
図3参照)。
2006年に安全基準文書の最上位に位置づけられている「基本安全原則(Fundamental Safety Principles)」が新たに発行された。これは原子力施設の安全(Safety Series No.110)、放射性廃棄物管理の安全(Safety Series No.111-F)及び放射線防護と
放射線源の安全(Safety Series No.120)に関する「安全原則」文書を統合したものである。CSSでは、基本安全原則が発行されたこと等を受け、安全基準文書体系の見直しに着手している。現在、各委員会において見直しの方向性に関する検討が行われており、今後数年をかけて、現体系の運用を妨げないように配慮しつつ、徐々に新体系に移行していく見込みである。
4.廃棄物安全基準委員会
WASSCは、放射性廃棄物の安全管理に関する基準(原則、要件、指針)の提供を目的とする委員会で、放射性廃棄物に関する専門的識見を有する各国の上級政府職員で構成されている。インフラストラクチャー、環境放出、廃棄物処分前管理(貯蔵、廃止措置を含む)等、処分及び環境修復に係る安全基準文書を策定しており、1991年に開始されたRADWASS計画による安全基準文書の策定・改訂作業では主要な役割を果たすとともに、IAEA事務局に対して必要な助言をしている。
我が国では「規制免除」や「クリアランスレベル」の考え方、廃止措置に関するIAEAの安全基準を国内の規制システムに反映し、2006年には日本原子力発電(株)東海発電所の廃止措置計画に初めて適用している。また、放射性廃棄物の処理・処分についても、同様にIAEAの基準を参考にして国内基準を検討・整備(原子炉等規制法の改正、政省令等の改正)を行っている。
5.RADWASS安全基準文書体系と安全基準リスト
この安全基準文書体系は、
図4に示すように最上位に位置する「基本安全原則(Fundamental Safety Principles)」の下に要件、指針として整理されている。基本安全原則の主文を
表1に示す。
また、放射性廃棄物管理等に係る安全基準リストを検討中のドラフトを含め、
表2、
表3及び
表4に示す。なお、安全基準文書の番号体系を
図5に示す。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
放射性固体廃棄物の処分のあり方に係るIAEA勧告 (05-01-01-10)
廃止措置に関するIAEA国際協力 (05-02-01-09)
原子力発電および核燃料サイクルに関するIAEAの活動 (13-01-01-15)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
<参考文献>
(1)原子力安全委員会:平成21年版、原子力安全白書、第3編、第7章
(2)IAEA:“Fundamental Safety Principles”IAEA Safety Standards Series No.SF-1(15/11/2006)、
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/Pub1273_web.pdf
(3)(独)原子力安全基盤機構:IAEA安全基準 基本安全原則No.SF-1、日本語翻訳版、2008年12月
(4)Dominique Delattre:“RADWASS UPDATE Radioactive waste Safety Standards Programme”IAEA BULLETIN (42/3/2000),
(5)IAEA: IAEA Safety Standards,
,
,
,
(6)平野光將、佐藤秀治:IAEAの国際安全基準に関する活動、日本原子力学会誌、Vol.42、No.10(2000)
(7)高須亜紀:IAEAにおける安全基準に係わる検討状況について、日本原子力学会バックエンド部会主催第18回夏期セミナー(2002年8月)