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<概要>
 米国では、商業用原子力発電所から発生した使用済燃料、エネルギー省(DOE)が保有する国防関連施設から発生した高レベル放射性ガラス固化体及び使用済燃料の3種類は地層処分される方針であった。しかし、オバマ政権によるユッカマウンテン計画の中止の方針を受け、バックエンド政策の再検討を行ったブルーリボン委員会は、「同意に基づくサイト選定プロセスが重要である」という勧告を出した。
 DOE関連施設から発生するTRU廃棄物については、ニューメキシコ州カールスバッドにある廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)において1999年から地層処分が開始されている。
<更新年月>
2014年09月   

<本文>
1.概説
 米国における高レベル放射性廃棄物には、民間の原子力発電所から発生する使用済燃料、ニューヨーク州ウエストバレーで過去に操業していた民間再処理によって発生した高レベル放射性廃棄物ガラス固化体、エネルギー省(DOE)の軍事関連施設で発生した使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物ガラス固化体がある。このうち、民間の原子力発電所で発生した使用済燃料は、再処理せずに直接処分する方針を採っている。また、核兵器削減に伴って余剰となったプルトニウムについては、混合酸化物(MOX)燃料として民間の原子力発電所でプルサーマル利用した後に使用済燃料として処分するか、またはプルトニウムを固型化して廃棄物として処分することが考えられている(図1及び図2)。
 高レベル放射性廃棄物の処分については、1982年の放射性廃棄物政策法(NWPA、Nuclear Waste Policy Act of 1982)の規定に基づいて、DOEがサイトを選定し、大統領へ推薦するなどの手続きを進めていたが、1987年の放射性廃棄物政策修正法(NWPAA)の成立に伴って、大統領が承認していたネバダ州ユッカマウンテン(凝灰岩)、ワシントン州ハンフォード(玄武岩)、テキサス州デフスミス(岩塩)の3か所の処分候補地から、2002年2月にユッカマウンテン(Yucca Mountain)を唯一の処分候補地に決定した。ユッカマウンテンについて地上での調査、地下に調査施設を建設して種々の調査・試験を行うサイト特性調査が行われた。
 ユッカマウンテンを処分地とする行政手続は、2001年5月7日の地域住民に対する通知から開始され、2002年7月23日の大統領による署名により法律が成立した。2008年6月に、実施主体であるDOEより原子力規制委員会(NRC:Nuclear Regulatory Commission)に建設認可申請書が提出され、受理後NRCによる審査が3年間実施された。
 その後、オバマ政権はユッカマウンテン計画を中止する方針を決定し、これを受けてブルーリボン委員会がバックエンド政策の在り方に関して検討・勧告を行った。この勧告に基づき、DOEと連邦議会は「同意に基づくサイト選定プロセス」についての法制化の検討を進めている。
 高レベル放射性廃棄物の処分の実施体制としては、(1)高レベル放射性廃棄物処分の実施主体であるエネルギー省(DOE)、(2)建設等の許認可を行う原子力規制委員会(NRC)、(3)環境放射線防護基準を策定する環境保護庁(EPA:Environment Protection Agency)がある。
 連邦政府の規制基準は、立地に関しては、DOEによる10 CFR Part 960「放射性廃棄物処分場のサイト推薦のための一般指針」、10 CFR Part 963「ユッカマウンテンサイト適合性指針」がある。また、安全規制に関する連邦規則としては、EPAによる40 CFR Part 191「使用済核燃料、高レベル及びTRU放射性廃棄物の管理と処分のための環境放射線防護基準」、NRCによる許認可要件の10 CFR Part 60「地層処分場における高レベル放射性廃棄物の処分」がある。一方、ユッカマウンテンのみに適用する安全基準としては、EPAが40 CFR Part 197「ネバダ・ユッカマウンテンに関する公衆の健康及び環境放射線防護基準」を、NRCが10 CFR Part 63「ネバダ・ユッカマウンテンにおける地層処分場への高レベル放射性廃棄物の処分」を策定している。
2.高レベル放射性廃棄物の法規制
(1)1982年放射性廃棄物政策法(Nuclear Waste Policy Act of 1982)
 1975年にフォード大統領は、再処理を見送ってワンススルーによる核燃料利用を優先させるとの決定を行っており、また、1977年にカーター大統領も、地球規模の核拡散を憂慮して、再処理を無期限に延期するとの決定を行っている。このような考え方を受け、また、使用済燃料の貯蔵能力の不足や最終処分方策の不備が懸念されるに至り、議会は、1982年放射性廃棄物政策法を成立させ、連邦政府の責任で使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物の管理に関する政策、規制、責任体制、計画などを明確にした。
 その主な骨子は、
a.放射性廃棄物の発生者はそれを政府に引き渡すまでの責任を負い、引き取り後の責任は政府(DOE)が負う。
b.政府は最終処分施設及び監視付回収可能貯蔵施設(MRS:Monitored Retrievable Storage)を設置運営する。
c.費用は発生者負担とする。原子力発電会社は放射性廃棄物基金(NWF)に1ミル(0.001ドル)/kWhを、サイト調査、選定及び将来の施設建設・操業等のための資金として拠出している。
d.監督の責任はNRC、環境基準に関してはEPAが、規制の責任はNRCが負う。
e.DOEはサイトの選定、サイト特性調査、施設の建設を行い、操業開始の日程を定める。
(2)1987年放射性廃棄物政策修正法(Nuclear Waste Policy Amendment Act of 1987)
 1987年には、議会で費用面での計画見直しの動きがあり、3サイトでのサイト特性調査の必要性が再検討された。その結果、放射性廃棄物政策修正法が成立し、第一処分場の処分候補地はユッカマウンテンのみとされ、第二処分場について、DOE長官は、大統領と議会に対し、2007年1月1日以降、遅くとも2010年1月1日までに、その必要性について報告することとされた。
(3)1992年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 1992)
 ユッカマウンテンでの高レベル放射性廃棄物処分の規制について、EPAは全米科学アカデミー(NAS)による勧告を受けて環境保護基準を策定し、それを受けて、NRCが建設、操業等の規制のための基準を修正することが規定された。これに基づきEPAは40 CFR Part 197「ネバダ・ユッカマウンテンに関する公衆の健康及び環境放射線防護基準」(2001年6月13日連邦官報掲載)を策定している。NRCは10 CFR Part 63「ネバダ・ユッカマウンテンにおける地層処分場への高レベル放射性廃棄物の処分」(2001年11月2日連邦官報掲載)を策定している。
(4)国家環境政策法
 環境影響評価の手続きを定めた法律であり、人間環境に影響のある法案、その他連邦政府の行為に関するすべての勧告ないし報告の中には環境影響評価書を含めることが規定されている。
(5)1954年プライス・アンダーソン法(88年修正)
 1982年放射性廃棄物政策法(87年修正)による処分事業にかかる原子力損害賠償金は、放射性廃棄物基金から支払うことが規定されている。
3.民間で発生した高レベル放射性廃棄物の管理計画
 1982年放射性廃棄物政策法では、DOE長官は遅くとも1998年1月31日以降、高レベル放射性廃棄物又は使用済燃料の処分を行うとされていた。1987年放射性廃棄物政策修正法でユッカマウンテンのみが処分候補地となった以降、サイト特性調査が本格化し、1992年には地下調査を行うための探査調査施設(ESF)の掘削が開始された。サイト特性調査終了後の手続きは、1982年放射性廃棄物政策法に規定されている。
 放射性廃棄物政策法では、1998年に使用済燃料の受け入れを開始するとされており、法廷が定める損害補償は約20億ドルになる見込みであり、2020年までに200億ドル、2020年以降、毎年5億ドルになると推算されている。
 調査終了後、公聴会を経て、2002年2月14日にDOE長官は大統領にユッカマウンテンを推薦した。推薦に当たっては、「最終環境影響評価書」「ユッカマウンテン科学・工学報告書」「サイト適合性評価報告書」などのサイト特性調査の結果に基づいた処分場の設計・性能評価が実施されている(図3)。これを受け、2002年2月15日に大統領が議会にサイトを推薦したが、2002年4月8日にはネバダ州知事が不承認通知を議会に提出したことから、連邦議会の上下院での立地承認決議が行われ、2002年7月23日に大統領によるサインにより立地合同決議が法律となった。
 2013年8月、合衆国控訴裁判所は、NRCは入手可能な資金を用いてDOEの申請についての安全性評価を再開するよう命じている。
4.軍事用高レベル放射性廃棄物管理と軍事用TRU廃棄物の管理状況
 核兵器開発関係の研究及び核物質製造から発生した放射性廃棄物は、マンハッタン計画以来約50年の間貯蔵されてきた。その後、1975年に民間の再処理は中止され、軍事関係施設でのみ再処理が行われた。排出された高レベル放射性廃液はガラス固化等の処理が行われ、それぞれのサイト内で貯蔵されている。また、米国海軍で発生した使用済燃料や高レベル放射性廃棄物も今後決定される処分場に地層処分されることになっている。
 軍事関連施設から発生したTRU廃棄物は、サバンナリバー研究所等で浅地中に埋設されていたが、ニューメキシコ州のカールスバッドに完成した廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP:Waste Isolation Pilot Plant)(図4)において1999年3月26日から処分が開始された。その後、有害廃棄物の処分についても、1999年11月に州の許可が下りて、WIPPにおいて順調な操業が続けられている。
(前回更新:2009年1月)
<図/表>
図1 米国における高レベル放射性廃棄物の貯蔵場所
図1  米国における高レベル放射性廃棄物の貯蔵場所
図2 米国での高レベル放射性廃棄物の種類
図2  米国での高レベル放射性廃棄物の種類
図3 ユッカマウンテン処分場の定置概念
図3  ユッカマウンテン処分場の定置概念
図4 廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)
図4  廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)

<関連タイトル>
アメリカの再処理施設 (04-07-03-11)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(1)−仏、英編− (05-01-03-07)
米国における放射性廃棄物処理・処分の現状 (05-01-03-27)
ユッカマウンテン処分場の調査状況(2003年) (14-04-01-14)
低レベル放射性廃棄物対策の現状(州間協定に基づく処分場開発の状況) (14-04-01-15)
高レベル放射性廃棄物対策の現状(MRSの立地可能性調査状況) (14-04-01-18)
アメリカの使用済燃料の中間貯蔵 (14-04-01-27)

<参考文献>
(1)Public Law 97-425,”Nuclear Waste Policy Act of 1982”.
(2)Public Law 100-203,”Nuclear Waste Policy Amendment Act of 1987”.
(3)Public Law 102-486,“Energy Policy Act of 1992”.
(4)U.S. Department of Energy,Office of Civilian Radioactive Waste Management,“Civilian Radioactive Waste Management,Program Plan,Revision 3”,DOE/RW-0520(2000年2月).
(5)U.S. Department of Energy,Office of Civilian Radioactive Waste Management,“Yucca Mountain Science and Engineering Report,Technical Information Supporting Site Recommendation Consideration,Revision 1”,DOE/RW-0539-1(2002年2月).
(6)U.S. Department of Energyホームページ:http://www.energy.gov/sites/prod/files/2013/12/f6/Coalition%20on%20WV%20Nuclear%20Wastes_0.pdfhttp://www.wipp.energy.gov/fctshts/factsheet.htmなど
(7)The U.S. Department of Energy Carlsbad Area Office,”TRU Progress Volume 5 Issue 1 Fall 1999”
(8)Nuclear Energy Instituteホームページ:

(9)長谷川 信他:北米地域のウラン廃棄物処分に関する調査、JAEA-Review 2013-043(2013年12月)p.22-29
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