<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 アジア、オセアニア地域で日本以外に原子力発電を実施している国は、中国、韓国、台湾、インド、パキスタンである。これらの国々は積極的に原子力発電に係る技術開発を進めており、原子力施設から発生する放射性廃棄物対策は重要な課題とされている。中国は、近年意欲的に原子力発電の増強を図っており、発生する高レベル放射性廃棄物については地層処分する計画である。2006年には「高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究開発計画ガイド」を公表し、今世紀半ばまでに地層処分場を建設するとしている。インドは、早くから原子力開発に着手し、高レベル放射性廃棄物管理技術の開発も古くから進めてきているが、処分場の開発についての情報はほとんどない。いずれにしても、この地域における高レベル放射性廃棄物処分に関する取組みは、米国、フランスなどの原子力先進国と比較して10年以上遅れていると考えられる。
<更新年月>
2011年02月   

<本文>
1.中国
 民生用原子力発電所の建設計画は急ピッチで進み、2010年5月現在、稼働中の原子力発電所は11基あり、総設備容量は900万kWである。また、建設中の原子力発電所は23基である。これに伴い発生する使用済燃料は2010年までに1,000トン、2015年までに2,000トン、その後は各年1,000トンが発生することが予測されている。
 使用済燃料は再処理され、発生する高レベル放射性廃液はガラス固化して地層処分する計画であり、そのためのガラス固化技術の開発や地層処分の研究開発を実施している。ガラス固化技術に関しては、早くから西ドイツのカールスルーエ原子力研究所(当時)と技術協力を実施し、ガラス固化プラント(WVPM)がゴビ砂漠にある酒泉再処理工場に建設された。この装置は容量1.4m3のセラミック溶融炉で高レベル放射性廃液の処理能力は38.4kg/hrと言われている。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分については、中国核工業総公司(CNNC、現在の中国核工業集団公司)が実施機関である。地層処分プロジェクトを進めるにあたり、CNNCは1985年に、「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究発展計画(DGD計画)」を策定し、研究開発及びサイト調査を実施している。実際の研究開発を推進するため、北京ウラン地質研究院(BRIUG)、北京核工程設計院(BINE)、中国原子能科学研究院(CIAE)及び中国輻射防護研究院(CIRP)からの専門家よりなる高レベル放射性廃棄物地層処分グループが結成された。このグループは、研究開発、サイト選定、処分場設計、環境影響評価、安全評価の責任を有している。図1に中国の主要な原子力関連施設の所在地を示す。
 DGD計画は、1) 技術開発、2) 地質学的研究、3) 原位置試験、及び4) 処分場建設の4段階からなっており、花崗岩を母岩とするサイトに2040年頃に処分場を建設する計画であった。その後、計画の見直しがなされ、国防科学技術工業委員会(2008年、国防科学技術工業局に改組)、科学技術部及び国家環境保護総局(2008年、国家環境保護部に改組)が共同で作成した「高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究開発計画ガイド」を2006年2月に公表した。これには、高レベル放射性廃棄物地層処分に関する研究開発の全体構想、発展目標、計画綱要及び第11次5ヵ年計画における研究開発の課題と内容等が記載されている。
その概要は以下のとおりである。
1)2006〜2020年
・関連法規制、技術規準制定のための技術支援の実施
・地下研究所の設計及び処分場の概念設計
・地層中核種移行機構等の研究及び安全評価研究
・地質調査、各種データの取得
・処分サイトの選定
2)2021〜2040年
・地下研究所の建設
・地下研究所での試験、研究、施工技術の検証
・処分場のフィージビリティ評価
・処分システムの安全評価
3)2041〜今世紀半ば
・処分サイトの最終確認
・処分場総合機能試験
・処分場操業の申請と安全審査
2.韓国
 2007年3月末現在、20基(16基のPWR、4基のCANDU炉:設備容量1,772万kW)の原子力発電所が稼動中であり、発電電力量は1,429億kWh(総発電力量の約35.5%)で世界第6位の原子力発電国となっている。
 韓国原子力委員会(AEC)は、1998年9月に、放射性廃棄物管理に関する基本政策を以下のとおり策定した。
1)政府による直接管理
2)安全性の優先
3)廃棄物発生量の最小化
4)発生者負担の原則
5)サイト選定手続きの透明性の確保
 低中レベル放射性廃棄物については、原子力発電所サイトの既存の放射性廃棄物貯蔵施設又はRI貯蔵施設に貯蔵したのち、1又は2ヵ所の浅地中処分施設又は岩盤空洞型処分施設に処分する計画で、2008年までに操業を開始するとしていた。2000年前後からMOCIE(産業資源部)により、処分サイト選定、誘致活動などが積極的に進められたがサイト候補地の住民による反対運動が激化したため、選定の手続きなどで対処したがいずれも不調に終わった。国会は、その打開策として、2005年3月に住民投票の実施、特別支援金及び廃棄物搬入手数料等について定めた「低中レベル放射性廃棄物の処分施設の誘致地域支援に関する特別法」を策定した。MOCIEはサイト選定手続きを経て、同年11月に慶州市を処分サイト地に決定した。2008年7月に国より建設・操業許可が発給され、処分施設を建設中で2012年に竣工が予定されている。
 韓国では、使用済燃料の再処理は行っていないが、原子力発電所から発生する使用済燃料を重水炉でリサイクルする方法を検討している。現在、使用済燃料は原子力発電所の各サイトで貯蔵されているが、2015年の操業開始を目標に集中貯蔵施設を建設する予定である。
3.台湾
 台湾電力(TPC)は、2007年末現在、3原子力発電所サイトで、合計6基のユニットを操業中である。原子力発電所設備容量は合計514万4,000kWで、国内総発電設備容量の11.2%を占めている。1968年に公布された台湾原子力法が原子力活動の法的基盤となっていたが、1999年からすべての規制細則と指針の見直しが行われた。図2に放射性廃棄物管理の関係機関を示す。
 使用済燃料については、台湾電力が各発電所サイトの貯蔵プールにおいて中間貯蔵されている。各サイトでは、1987〜1999年にかけて、使用済燃料貯蔵プールのリラッキングが行われたが、第1(金山)原子力発電所と第2(国聖)原子力発電所の貯蔵プールは、それぞれ2008年及び2007年で満杯になった。そのため、使用済燃料貯蔵計画として、コンクリート製キャスクを中間貯蔵コンテナとして使用するサイト内乾式貯蔵施設が建設され、2008年6月現在、3原子力発電所サイトで合計2,888トンUの使用済燃料が貯蔵されている。最終的には使用済燃料は地層処分することとしており、台湾電力は1986年5月から2年間のフェーズ1計画の中で、国内の地質調査を実施し花崗岩や頁岩を含むホストロックの候補地が、複数地点の適度な深度に存在することを明らかにした。1999〜2007年までのフェーズ2では、ホストロック地質調査と長期研究開発計画策定が実施された。それによると、地層処分実施は3段階で進める。すなわち、第1段階(2008〜2018年)においてサイト候補地の詳細調査を実施し、サイトを選定する。第2段階(2019〜2023年)において詳細設計と政府の許可申請、そして第3段階(2024〜2032年)において処分場の建設及び試験を実施し、2032年から操業を開始する計画となっている。
 低レベル放射性廃棄物は、台湾本島の南東にある蘭嶼(らんゆ)島の放射性廃棄物中間貯蔵施設において、1982年から約9万7千本のドラム缶が搬入され、貯蔵が行われていたが、地元住民による反対運動が強くなったため1996年から搬入が中止された。台湾電力では、あらためて貯蔵施設の候補地選定作業を進め、2004年1月までに4ヵ所を選定し、その中から2011年までにサイトを決め、2016年に操業を開始することが決定されている。
 放射性廃棄物の管理費用は1987年に設立されたバックエンド管理基金により賄われ、経済部の委員会が資金管理を行っている。
4.インド
 早くから原子力開発に着手した国の一つであり、ウランを燃料とした軽水炉及び重水炉の開発と、国内の豊富なトリウムを利用した独自の燃料サイクルの確立を目指している。1956年に、バーバ原子力センター(BARC)においてアジアで最初の原子炉であるアプサラ原子炉(Apsara:軽水減速冷却炉、1MW)の運転を開始した。現在3つの再処理工場が稼働しており、そこから排出される高レベル放射性廃棄物はガラス固化され貯蔵されている。高レベル放射性廃棄物の処分事業については研究開発段階であり、2005年の原子力省(DAE)の議会答弁によれば、1999〜2000年前後に複数のサイト調査を実施し、処分の実現に向けた活動に取り組んでいるとしているが、具体的なサイト選定計画などは明らかにされていない。
5.パキスタン
 1955年に原子力委員会(PEAC)を設立して、原子力開発に着手した。2010年現在、稼働中の原子力発電所は2基あり、電気出力は50万kWであり、現在3号機を建設中である。燃料サイクルについての詳細については不明である。
6.その他
 その他のアジア、オセアニア諸国で原子力発電所を操業している国はない。オーストラリア、バングラデシュ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、北朝鮮には、研究用原子炉があり、ほとんどの国において使用済燃料が原子炉サイトに貯蔵されているとの情報はあるが国によってはその詳細は明らかにされていない。
<図/表>
図1 中国の原子力関係施設所在地
図1  中国の原子力関係施設所在地
図2 台湾の放射性廃棄物管理関係機関
図2  台湾の放射性廃棄物管理関係機関

<関連タイトル>
中国の再処理施設 (04-07-03-12)
韓国の核燃料サイクル (14-02-01-05)
中国の核燃料サイクル (14-02-03-04)
インドの原子力開発と原子力施設 (14-02-11-02)
パキスタンの原子力開発と原子力施設 (14-02-12-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 2000/2001年版(2000年10月)
(2)Donghui SUN: The Progress on Radioactive Waste Management in China, presented at The 3rd Seminar on Radioactive Waste Management in Asia, Beijin, P. R. China, Nov. 10-14(1997).
(3)Jo WANG and Guoqing XU: Deep Geological Disposal of Radioactive Waste in China, ibid.
(4)Won-Jae PARK: Regulatory Consideration for Ensuring Safety of LILW Repository in Korea, presented at The 4th Seminar on Radioactive Waste Management in Asia. Bangkok, Thailand, Oct 12-16(1998).
(5)第15回日台原子力安全セミナー(2000年12月13日)
(6)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 1998/1999年版、(1998年12月)
(7)(社)海外電力調査会:海外電力誌「中国の原子力開発と原子燃料サイクル」、(1999年12月)
(8)(社)日本原子力産業会議:OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理計画、OECD/NEA(1999年1月)
(9)(公)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物ハンドブック[平成22年度版](平成22年6月)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ