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<概要>
 ベルギーは使用済燃料再処理をフランスに委託し、返還ガラス固化体については50年以上にわたる中間貯蔵の後に国内で地層処分する計画である。ベルギー放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)は2001年に地層処分の安全評価・実現可能性の第2次中間報告書(SAFIR2)を発表し、2020年に地層処分の安全性・実現可能性報告書をまとめる計画を公表した。建設許可申請は2020年以降の予定である。スイスは、使用済燃料を外国で再処理し、返還されるガラス固化体については約40年間の中間貯蔵の後、国内で地層処分する計画である。2005年に原子力令が発効し、2008年に地層処分場のサイト選定手続き等を定めた特別計画「地層処分場」が連邦議会により承認され、地層処分場のサイト選定が開始された。2018年を目途にサイト選定が進められている。カナダでは、使用済燃料を約50年貯蔵した後、再処理せずに全量をそのまま地層処分する方針である。2008年に核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は、2008〜2012年の5ヵ年計画を公表し国民からの意見募集を行った。また、2010年5月に9段階からなる処分場サイト選定計画を公表している。
<更新年月>
2011年02月   

<本文>
1.ベルギー
(1)概説
 ベルギー政府は2003年1月31日の法律により、新規原子力発電所の建設を禁止し既存の原子力発電所の操業期間を40年間に制限する方針を示した。その後、2009年10月にエネルギーの安定供給やCO2の排出抑制などを理由に、2015年閉鎖予定の3基の原子力発電所について運転期間を10年間延長することを決定した。使用済燃料は全量を再処理することとしており、フランス(COGEMA(現AREVA NC社))に再処理を委託し、抽出されたプルトニウムは自国内においてMOX燃料に加工することを基本としている。1993年に使用済燃料管理とプルトニウムリサイクルについて議会で審議が開始され、政府に対して新規の再処理契約を5年間差し止め、その間にバックエンド政策(特に使用済燃料の直接処分と再処理の比較)の評価を実施することが決められた。この評価作業は現在も完了しておらず、使用済燃料の再処理は事実上凍結されている。1995年から、チアンジェ(Tihange)2号及びドール(Doel)3号の原子力発電所においてはMOX燃料が装荷され操業されている。
(2)放射性廃棄物処分の進捗状況
 ベルギーの原子力施設の所在地を図1に示す。モル・デッセル地区には、原子力研究センター(SCK/CEN)の原子力研究施設の他、ユーロケミック社(現在、ベルゴプロセス社)の再処理モデルプラント施設、ガラス固化実証プラントPAMELA施設、返還中・高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設であるBuilding 136、ベルゴニュークリア社のMOX燃料加工などの核燃料サイクル施設がある。2000年4月から、フランスからの第1回目の返還ガラス固化体の受入れが開始され、現在Building 136に貯蔵されている(図2参照)。放射性廃棄物処理処分に関連する機関の組織体制を図3に示す。処理処分事業の主体は放射性廃棄物・核物質管理庁(ONDRAF/NIRAS)で、実際の運用はベルゴプロセス社(ONDRAFの100%子会社)が担当しており、研究開発は経済省傘下のSCK/CENが実施している。処理処分費用は発生者(電力等)負担である。
 放射性廃棄物は次のようにカテゴリーA、B、Cに分類されている。これはフランスの区分の考え方を基本としており、予想発生量は、ドールとチアンジュの2サイトの7基の加圧型原子炉(PWR)、合計設備容量約570万kWについて、2085年までの操業を基本に算定されている(原子炉寿命は40年)。
カテゴリーA:半減期30年未満のベータ、ガンマ核種(アルファ核種は極微量)の低レベル廃棄物。原子力関連施設の操業時及び解体時に発生する。予想発生量は10,500m3である。
カテゴリーB:半減期30年以上のベータ、ガンマ核種、アルファ核種含有の低中レベル廃棄物。再処理及び解体廃棄物で、地層処分の対象である。予想発生量は25,000m3である。
カテゴリーC:半減期30年以上のアルファ、ベータ、ガンマ核種を含む高レベル廃棄物。フランスからの返還ガラス固化体、ハル固化体、PAMELA(高レベル廃液ガラス固化デモプラント)施設からのガラス固化体である。予想発生量は5,000m3である。これらの放射性廃棄物の70%は、各種の原子力施設の廃止措置過程で発生する。
 カテゴリーA廃棄物は焼却処理後に固化処理され、発生施設内で貯蔵保管されている。短寿命低レベル廃棄物の長期管理オプション(長期貯蔵、浅地中処分、地層処分)の安全性と経済性に関する報告書が1997年4月に国に提出された連邦議会は1998年1月に浅地中処分を選択することを決め、ONDRAF/NIRASがサイト選定調査を進めている。
 使用済燃料の再処理によって発生した高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)及び使用済MOX燃料は地層処分される。直接処分オプションが採用される場合には、使用済軽水炉燃料が地層処分の対象になる。このほかに長寿命中低レベル放射性廃棄物等も同じサイトに処分される予定である。使用済燃料全量の再処理または直接処分の両オプションについて、粘土層への地層処分が検討されている。再処理オプションが採用された場合には、ガラス固化体と長寿命中低レベル放射性廃棄物の併置処分が検討されている。
 2001年12月にONDRAF/NIRASが公開した「安全性評価・実現可能性調査第2次中間報告書(SAFIR2)」によれば、原子炉の40年操業期間を想定した2つのオプションにおける処分量を下記のとおり見積もっている。(いずれも重金属換算4,934t)
・全量再処理オプション:ガラス固化体=3,915本、MOX使用済燃料=67tHM
・直接処分オプション:ガラス固化体=420本、使用済燃料=4,230tHM、MOX使用済燃料=67tHM
 現在は処分場のサイト選定作業は開始されていないため、モル・デッセル原子力研究所サイトの地下230mの粘土層にヘイデス地下実験施設(HADES : High Activity Disposal Experimental Site)を設置し、研究開発が進められている(図4)。処分サイトの候補地層としては、標準ケースでブーム粘土、代替ケースとしてイプレシアン粘土層が検討されており、それぞれの参照サイトとしてモル・デッセル地域、ドール地域が挙げられている。
 SAFIR2では、安全確保のため高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)は、オーバーパック、埋戻し材及び地層からなる多重バリアにより長期にわたって隔離することとされている。全量再処理と直接処分の両オプションについての処分場の概念図を図5に示す。
2.スイス
(1)概説
 原子力利用に関して新たに原子力法及び原子力令が2005年2月に施行された。その要点は以下のとおりである。現在、ミューレベルグ原子力発電所の操業許可期限が2009年12月に撤廃され、スイスで稼働中の5基のすべての原子炉に無期限の操業許可が付与されている。
1) 原子力オプションは維持する。
2) 使用済燃料の再処理については、2006年7月からさらに10年間モラトリアムを延長する。
3) 放射性廃棄物対策では、廃棄物は地層処分場に定置され、モニタリング段階と施設の閉鎖のための財政手段が利用可能な場合、または廃棄物が海外の処分施設に搬出された場合に履行されたものとする。
4) 処分施設の廃止措置までの財政計画を含む廃棄物管理計画の作成を義務づける。
5) 廃止措置及び廃棄物管理に対する財政関連条項を整備する。
(2)放射性廃棄物管理政策
 放射性廃棄物の処分については、連邦環境運輸通信エネルギー省(UVEK)のエネルギー局(BEW)が規制の権限を持っている。実質的な審査は、その下部組織である原子力安全検査局(HSK)が行う。また、連邦原子力施設安全委員会(KSA)が安全性に関して助言する。廃棄物管理に要する費用については、発生者負担とされており、一元化された研究開発及び処分サイト選定までを行う機関として、電力及び連邦政府によって、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が作られている。また、全てのカテゴリーの放射性廃棄物の中間貯蔵を行うビューレンリンゲン(Wuerenlingen)中間貯蔵施設会社(ZWILAG社)が、電力会社により設立されている。図6に放射性廃棄物の関連機関の組織図を示す。スイスでは処分サイトの岩種として結晶質岩と堆積岩が有望とされてきた。このうち、結晶質岩については、1978年の原子力法に関する連邦決議に基づき、NAGRAは保証プロジェクト・ゲヴェール(Projekt Gewachr)を実施し、1985年に放射性廃棄物の対策と処分概念の安全性について政府に対して答申した。さらに、1994年には結晶質岩の特性調査結果に基づいてクリスタリン(Kristallin)-Iをまとめた。
 一方、堆積岩については、スイス北部のオパリナス(Opalinus)粘土層が有望とされ、調査の結果、チューリッヒ郡ベンケンが選定され、1998年9月から調査を行った。ボーリング調査等の結果に基づき、処分の実現可能性を示す「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書がNAGRAから連邦評議会に提出され、国際機関によるレビューなどを経て承認された。図7にオパリナス粘土層における処分場の概念図を示す。また、原子力令に基づき連邦政府によりサイト選定手続き等を定めた特別計画「地層処分場」が策定された。NAGRAは2008年10月にチュルヒャー・ヴァインラント、北部レゲレン及びベツベルグの3候補地域を提案し、サイト選定を開始した(図8)。今後、詳細調査を経て2018年を目途に処分サイトを確定し、2050年頃の操業開始の予定となっている。また、NAGRAは2008年10月に原子力法及び原子力令で義務づけられている「放射性廃棄物管理プログラム」を作成した。
 そのほか、放射性廃棄物はアルファ放射体を含むものと含まないものに分けて、高レベル廃棄物と一部のTRU廃棄物はC型処分場に、低中レベル廃棄物はB型処分場にそれぞれ処分することとしている。また、使用済燃料については、従来は海外委託再処理を行うこととしていたが、最近では再処理をしない直接処分のオプションも検討されている。また、国際処分場もオプションに入れて検討することとしている。
3.カナダ
(1)概説
 カナダは河川等の豊富な水資源に恵まれているため、水力発電が総発電量の大半を占めている。2006年の総発電量は約6,125億kWhであり、そのうち原子力発電量は約980億kWh(16%)となっている。
 カナダは世界でも屈指のウラン生産・輸出国であり、ウラン生産量は世界の約3分の1を占めている。また、2010年現在、18基のカナダ型重水炉(CANDU)が稼動している。オンタリオ・ハイドロ社は稼動中の発電炉12基を抱える国内最大の原子力発電会社である。このほか、ニューブランズウィック・パワー社がポイントルプロー原子力発電所を、またハイドロ・ケベック社がジェントリー原子力発電所を操業している。この3社全体で毎年数百m3の使用済燃料が発生している。これまでに発生した使用済燃料の累積貯蔵量は5000m3である。
 カナダのバックエンド政策は、「発生者負担の原則」に基づいており、連邦政府が効率的かつ効果的な放射性廃棄物処分の枠組みを構築する義務を負っている。放射性廃棄物の貯蔵・処分及び原子力施設のデコミッショニングには、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の許認可が必要である。また、放射性廃棄物管理・処分の研究開発計画もCNSCが策定している。なお、ウラン鉱山や製錬施設からの鉱滓などの処分は州政府の管轄下にある。図9にカナダの高レベル放射性廃棄物処分の実施体制図を示す。
(2)放射性廃棄物管理政策
 カナダは豊富なウラン資源を有し、当面は使用済燃料の再処理による回収プルトニウムの利用を必要とせず、再処理関係の基礎研究は行っているが、現在まで一貫してワンススルー燃料サイクル(使用済燃料の直接処分)の路線を歩んできた。原子力発電所から発生した使用済燃料は、現在各サイトで、湿式の専用プールか乾式のコンクリート・キャニスターのいずれかで貯蔵されている。各発電所サイトでの貯蔵は少なくとも2000年初頭までは確保できる見通しである。しかし、こうした使用済燃料のサイト内貯蔵はあくまで一時的な方策と考えられており、最終的には高レベル廃棄物として地層処分することを基本政策としている。
 連邦政府とオンタリオ州政府は、カナダ楯状地の地下500〜1000mの深成岩中に地層処分するという考えに基づき、カナダ原子力公社(AECL)が研究開発を行い、廃棄物の貯蔵、輸送、安定化処理及び深成岩中への処分の技術開発と実証、処分サイト選定に必要な手法や技術の開発と実証、及び処分概念についての環境、安全面からの評価などを目的とした核燃料廃棄物管理計画を、1978年に策定した。また、放射性廃棄物の処分概念が社会に与える影響なども調査している。研究開発はAECLホワイトシェル研究所の地下研究所を主体として進められた(1980〜2001年)。
 1994年10月にAECLは、処分の安全性を示す環境影響評価書(EIS)を環境評価パネル(Environmental Assessment Panel)に提出した。1996年3月から1997年3月までの公開ヒアリングの後、環境評価パネルは、処分概念の技術的安全性の容認と一般民衆の処分に対する受容への努力及び専門の原子燃料廃棄物管理機関の設置を政府に提言した。
 連邦政府は1995年の「放射性廃棄物処分の政策的枠組み策定に関する協議用文書」及び1996年の「放射性廃棄物処分の制度的・財政的措置に関する協議用文書」に基づいて、2001年4月に実施主体の設立、地層処分以外のオプションを含めた研究開発の推進等を狙いとした「核燃料廃棄物の長期管理に関する法律(案)」を連邦議会下院に提出した。2002年11月に核燃料廃棄物法が発効し、同時期に監督官庁の「核燃料廃棄物局(NFWB)」が天然資源省に創設され、処分実施主体となる「核燃料廃棄物管理機関(NWMO)」が設立された。
 NWMOは2005年11月に、最終的に地層処分に至る過程で、60年間サイトで集中貯蔵を実施するという概念「適応性のある段階的管理(APM)」構想を天然資源大臣に提案し、2007年6月に国の最終的な方針として決定された。2009年5月に地層処分場のサイト選定計画案に関する協議文書が公表された。パブリックコメント、対話などを経てサイト選定計画案を策定し、2010年5月に9段階からなる処分場サイト選定プロセスが公表された。 図10に適応性のある段階的管理による長期管理アプローチの考え方を、最終段階としての地層処分の概念図を図11に示す。
(前回更新:2001年3月)
<図/表>
図1 ベルギーの原子力施設所在地
図1  ベルギーの原子力施設所在地
図2 ガラス固化体が貯蔵されているBuilding136
図2  ガラス固化体が貯蔵されているBuilding136
図3 ベルギーの放射性廃棄物関連機関の組織図
図3  ベルギーの放射性廃棄物関連機関の組織図
図4 HADES地下実験施設(ベルギー)
図4  HADES地下実験施設(ベルギー)
図5 処分場概念図(ベルギー)
図5  処分場概念図(ベルギー)
図6 スイスの放射性廃棄物関連機関の組織図
図6  スイスの放射性廃棄物関連機関の組織図
図7 処分場概念図(スイス)
図7  処分場概念図(スイス)
図8 候補サイト地域(スイス)
図8  候補サイト地域(スイス)
図9 カナダの高レベル放射性廃棄物処分の実施体制
図9   カナダの高レベル放射性廃棄物処分の実施体制
図10 適応性ある段階的管理による長期管理アプローチの考え方
図10  適応性ある段階的管理による長期管理アプローチの考え方
図11 地層処分概念図(カナダ)
図11  地層処分概念図(カナダ)

<関連タイトル>
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
TRU(超ウラン元素)含有廃棄物の発生源と安全対策 (05-01-01-09)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(1)−仏、英編− (05-01-03-07)
カナダの核燃料サイクル (14-04-02-05)
スイスの核燃料サイクル (14-05-09-04)
ベルギーの核燃料サイクル (14-05-10-04)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック1994年版(1994年7月)
(2)(社)日本原子力産業会議:原子力年鑑 平成10年版(1998年12月)
(3)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック1997年版、(社)日本原子力産業会議(1997年5月)
(4)原子力委員会(編):原子力白書平成10年版、大蔵省印刷局(1998年8月)
(5)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 1993年(1993年12月)
(6)IAEA,”Bulletin Update on Waste Management Policies and Programmes”, No.13(1998年12月)
(7)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)
(8) HSK(スイス),”Annual report 1998”(1998年5月)
(9) EKRA(スイス),”Disposal Concepts for Radioactive Waste, Final Report”(2000年1月)
(10)Nuclear Fuel Waste Management and Disposal Concept Environmental Assessment Panel, Canadian Environmental Assessment Agency(CEAA)(カナダ). ”Nuclear Fuel Waste Management and Disposal Concept, Executive Summary”, February 1998
(11)Atomic Energy of Canada Ltd.(AECL, カナダ), Environmental Impact Statement on the Concept for Disposal of Canada's Nuclear Fuel Waste, September 1994
(12)OECD/NEA:OECD/NEA加盟国の放射性廃棄物管理計画、(社)日本原子力産業会議(1999年1月)
(13)経済産業省資源エネルギー庁:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2010年2月)
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