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放射性廃棄物の処理・処分については、わが国の原子力政策に関する基本方針として尊重することが閣議決定された原子力政策大綱(原子力委員会;平成17年10月11日)において基本的な考え方として「原子力の便益を享受した我々の世代は、これに伴って発生した放射性廃棄物の安全な処理・処分への取組に全力を尽くす責任を、未来の世代に対して負っています。放射性廃棄物は、4つの原則(発生者責任の原則、放射性廃棄物最小化の原則、合理的な処理・処分の原則、国民との相互理解に基づく実施の原則)の下で、その影響が有意でない水準にまで減少するには超長期を要するものも含まれるという特徴を踏まえて適切に区分を行い、それぞれの区分毎に安全に処理・処分することが重要です。」と示されている。これらの考え方を下に、国は、
放射性廃棄物処分の具体的な施策を検討することとされている。
この放射性廃棄物とは、
放射線障害防止法には「放射性同位元素および放射性同位元素で汚染されたもので、廃棄しようとするもの」、また、原子炉等規制法関係規則には「
核燃料物質(
核原料物質)又は核燃料物質(核原料物質)によって汚染された物であって廃棄しようとするもの」と定義されている。つまり、「放射性廃棄物」とは、
放射性物質等を含む廃棄物の総称であり、「一定量以上の濃度の放射性核種を含み、使用の意図のないもの」と定義される。また、放射性廃棄物には、気体、液体、固体状のものがあり、法令上の枠組みの中で規制機関により放射性廃棄物として管理されたものを指す。
放射性廃棄物の処分とは、人間の生活環境に対する放射能の影響を未然に防止することを目的に処分するものであり、放射性廃棄物の特性に応じ処分に適した処理を施した後、放射能レベルの減衰を待ち、安全上問題のないレベル以下になるまでの間、隔離することが基本となっており、気体、液体状の放射性廃棄物は、適宜、活性炭フィルターやイオン交換処理、
蒸発処理、凝集沈殿処理などの処理を行い、法令に規定された濃度以下であることを確認した後、放射能の拡散希釈を期待して環境へ放出処分される。固体状の放射性廃棄物は、種類、性状、放射能レベル等の区分等にしたがい、適切な処理を施した後、人間環境への放射能の影響が十分小さくなるように人間の生活圏環境から隔離することを基本として処分される(「管理型」、「隔離型」等)。
この処分の形態としては、
放射性気体・液体廃棄物の環境中への放出処分(拡散放出型)、低レベル放射性固体廃棄物の陸地埋設処分(浅地中処分(ピット型処分(管理型)、簡易埋設処分(トレンチ型処分(管理型))、余裕深度処分(管理型))、高レベル放射性廃棄物の
地層処分(隔離型)があげられる。以下に各処分方式の概念を示す。
(1)拡散放出型:それ自体が十分安全に低い放射能レベルに処理された気体または液体状の放射性廃棄物を、さらに拡散希釈が起こり易い条件の下に環境中に放出処分する。(例:気体の大気中への放出、廃液の沿岸放流など。)
(2)管理型:後述の隔離型より空間的・物理的な隔離の度合が充分でない場所で、その分だけ隔離を補強するための行為規制(処分場への立入制限など)あるいはサイト周辺の監視等の制度的管理を合理的な期間(廃棄物の有害・危険性が十分低下するまで)継続することによって安全を確保するというもの。(例:
低レベル放射性廃棄物の陸地埋設処分など。)
(3)隔離型:放射性廃棄物を人間の生活環境から空間的・物理的に隔離できる性能を有する場所に定置して、人工および
天然バリアを組み合わせて必要期間封じ込めを行い、含有する放射性核種の人間生活環境圏への移行を許容放射能レベル以下まで下げることによって達成するというもの。(例:高レベル放射性廃棄物の地層処分など。)
(4)再利用型:極低レベル放射性廃棄物は放射能レベルが極めて低いために、性状等に応じて適切な管理型あるいは「再利用型処分」が考えられている。原子炉施設等におけるクリアランスレベルについては平成17年11月に法令が整備され、日本原子力発電株式会社において原子炉施設解体金属を対象に再利用型処分が進められている。また、日本原子力研究開発機構では原子炉施設解体コンクリートを対象にクリアランス申請が行われたところである。(
表1参照)
管理型処分のうち、浅地中処分に関しては、廃棄物を処分場に定置した後、放射性廃棄物に含まれる放射能が時間の経過に伴って減衰し放射能レベルが安全上支障のないレベル以下になるまでの間、放射能レベルに対応した「段階的管理」を行うことによって、人間の生活環境から隔離することが基本であり、以下の4つの段階が考えられている。「第1段階」は、廃棄物から漏出した放射性核種を
人工バリアにより防止し、所要の監視(一定期間の巡視・点検、放射線モニタリング等)を行い漏出のないことを確認する。また、必要に応じて適切な修復措置を施す。「第2段階」では、人工バリアおよび天然バリアにより放射性核種の人間の生活環境への影響を防止し、環境放射線モニタリング等を行い、安全を確認する。「第3段階」では主として天然バリアによる放射性核種の人間の生活環境への影響を防止し、立入制限、特定行為(廃棄物の掘り出しなどの行為)を禁止あるいは制限する。「第4段階」では処分された放射性廃棄物は放射性物質としての拘束が解除され、特定行為の禁止等の措置を必要としない無拘束段階となる。
高レベル放射性廃棄物の処分方法については、地層処分のほか、海洋底下処分、南極の氷床処分、ロケットによる宇宙処分、核変換による処理(
消滅処理)を行った後、処分するなどの方法が提唱されたが、氷床処分、宇宙処分は本格的研究に至らなかった。海洋底下処分は1993年の
ロンドン条約の改正により、一切の「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」の
海洋投棄が禁止となった(参考文献3および6参照)。現在、研究が進められているのは、長寿命核種を短半減期核種に変換する核変換処理技術等である。ただし、これらは技術的課題が多々あり、早急な実用化は難しい。
表2に放射性廃棄物の種類に応じた処分方法の一覧を示す。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
<関連タイトル>
放射性廃棄物 (05-01-01-01)
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターの概要 (05-01-03-04)
消滅処理 (05-01-04-02)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック−1994年版(1994年7月)、p.113−119
(2)日本原子力文化振興財団:人体と放射線・原子力と環境、改訂第3版、原子力の基礎講座6(1984年3月)
(3)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1995年12月)、p.70
(4)天沼、阪田(監修):放射性廃棄物処理処分に関する研究開発、産業技術出版−テクノ・プロジェクト(1983)
(5)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力−原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画−、大蔵省印刷局(1994年8月)
(6)日本原子力産業会議(編集発行):原子力ポケットブック1998/99年版(1999年2月)、p.224−225
(7)日本原子力産業会議(編集発行):放射性廃棄物管理−日本の技術開発と計画−(1997年7月)、p.7
(8)原子力委員会:原子力政策大綱(平成17年10月11日)、p.23
(9)資源エネルギー庁 放射性廃棄物のホームページ:放射性廃棄物の概要、処分の方法
(10)文部科学省原子力・放射線の安全確保ホームページ:2.放射性廃棄物の形態と区分について
(11)原子力安全・保安院ホームページ:原子力の安全、廃棄事業の安全規制、放射性廃棄物の種類とその処分方法
(12)日本原子力研究開発機構 原子力研修センター:原子力技術研修講座、No.5 放射性廃棄物処理処分応用講座、I.放射性廃棄物総論(平成19年11月7日)